足跡ぺたぺた
The Sky of Parts[23]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「報告、ご苦労。
下がれ。後は、竹内イチロウの名で処理しておく。
……はあ。
今月に入って、八回目か。
週に二回のペースって事だ。
今までに破壊された数は……あー。
報告書を見直さないと思い出せないほどの数だ。
まったく。
反乱分子め。
『sagacity』の劣化バックアップを、なんの証拠も残さずに、物理的に破壊するなど。
器である筐体を保管している軍が管理する施設に、誰かが侵入した形跡すら見当たらない……元気だね。
相変わらず。
お便りどうも。
プレゼントもどうも。
落ちてたよ。
未使用ダイナマイト。はがせよ。値札貼ったままだったぞ。偽装のな。
購入先が完全に不明だったり、指紋がないものは、証拠にもならない。
正直、こっちが白旗だ。
はあ……私は、忙しいんだ。
取り仕切る事は、山ほどあるし、小僧を連れ戻す件も、まったく進展がない。
最近は、前髪の分け目も冴えない。
どいつもこいつも、この竹内イチロウの身は一つしかないと思って、振る舞ってもらいたいものだ。
ああ。
前髪の分け目の件は、新しい整髪料がイマイチなせいか。
長年愛用していたものが、販売中止とか、勘弁してほしい。
誰に聞いても、前と髪型変わっていないと言われるが、どうも、気に障る。
このクソ忙しい時に、整髪料さがしまでしなければならんとは。
というか。
小娘は、私の整髪料のにおいなんて、よくおぼえていたな……まあ、それは、どうでもいい。
さて、次はどうするか。
さしあたり、小僧を、軍のものにしてしまうか。
あの『力』をお借りできるのなら、こちらもいろいろと楽ができるからな」
* * * * *
『あははははははっははっ。
そうよ、ルイーナ。
あの柱に、そのボールを思いっきりぶつけて、倒してしまいなさいっ!
はい、また一本吹き飛んだ……ははははっ。
母さんの目には、その柱の一本一本が――天王寺アリスの目には、その柱は、あの悪魔に見えるわ!
さあ、もう一本。
ルイーナ。
次も手加減なく、ボールを投げなさい!
おや?
プロデューサーATとLunaに――女子供の稼ぎに負けて、『仕事』を辞めさせられた、どこぞの世間でも、家庭でも、リサイクルすら不可能な不用品が、こちらを恨めしそうに見ている気がする。
その大蛇とでも、白兵戦できると豪語する鍛えあげられた肉体は、私とルイーナの食事の用意や洗濯の為に使うがいいわっ。
あ。
体力あり余っているのなら廊下の掃除でもしたらどうかしら?
筋肉を衰えさせるのは、老後の為にもよくないから、おススメしておいてあげる!
激怒して一矢を報いようとした女の手首をつかんで、いい気になるなんて事は、今後、控えた方がいいのではないかしら――。
ね?
あはははっ。
ルイーナ、もう一本、もう一本倒そう!
倒して倒して倒して倒しまくるのよ!
残りの余生は、ひたすらジャガイモの皮むきでも致しますと、言わせてやるその時まで――倒して倒して倒しまくって倒すのよ!
あははっはっ』
* * * * *
「ルイのバカっ!
はぁはぁ……あー。
スカッとする……この『カッとなったらやってみよう』っていうの。
さすがは、軍師殿が考えた遊び。
あれ?
というか、ボウリングって遊びを教えてくれたのは、そもそも軍師殿だった。
なんだっけ……じっちゅうぎ? ってなんだよ……軍師殿は、雑学王過ぎて、たまに妙な言葉づかいしてくる。
しかし、ルイのやつ。
なんだよ!
あんなのないだろ!
……気づけよっ。
直前に言ってただろ……あたしだって……あたしも女の子なんだから……キスを初めてするとかは……やっぱり、ロマンチックがほしいよ……うん。
あんな風に、無理やり奪おうとするとか――ひどい。
ルイ……帰ってきたら、ゴチンだから……。
本当にひどいよ。
あたしの手首をつかんで……何、あの表情。
しっかり、ちゃっかり独裁者さま気取りだったじゃないっ。
父親の跡は継がないって、いつも言ってるくせに……ひどいよ!
帰ってきたら、必ずゴチンだから……副班長」
* * * * *
『ほら、ルイーナ。お食事、おいしいか?
よしよし。
今日もちゃんと、父上おいしいですが言えたな。
偉いぞ。
ルイーナ、僕の愛し子。
これからも、ずっと、この父が作るもので満たされるといい。
褒美に、父上が残りをスプーンで食べさせてやろう。幼い頃のように、嬉しそうに、口を開けて待っていてくれるお前が、とても愛おしい。
ルイーナは、僕の宝だ。
うんうん。
そうだ、ルイーナ。
お前は、この父に、すべてを与えられて、これからも生きていくんだ。食べるものも、着るものも、考え方すらも――この世に存在するという事は、父上に、すべて許可を得る必要があると考えてもらいたい。
可愛らしい顔をして、首を傾げているな。
意味は、すぐに分かるようになる。
ルイーナ。
お前は、このエリオット・ジールゲンがいなければ、生まれてもいない命なのだから。
僕のそばから離れるなどという事があったとしたら、それは、そうする事を差し許しているだけだ。
時が来れば、この父の手の中に、結局はおさまっているのだから――』
* * * * *
「え……どういう事?
……ルイが帰って来てないのは気づいていたけど……いなくなったって……。
行方不明……。
ちょ、ちょっと待って……ダノン!
どういう事!
ルイが、誘拐されたって! どういう事っ!」
「エルリーン、落ち着け!
ダノンだって、順を追って説明する準備をしてくれているんだっ」
「じゃあ、ジーン叔父さんは黙っていてよっ!
どういう事!
ねえ、ダノン! どういう事さ! ルイが……誘拐って……っ」
「エルリーン。
いつも一緒なのに、今日は、ルイとは別行動だったんだな。
ルイに手出しする者もいない様子が続いたし、ボディーガードは、君がやるからという事で――二人きりの時間がほしいという、君とルイの考えを飲む事を、渋々承知したんだが」
「ダノンっ! あたし……」
「エルリーン、すまない。
言い方と、言うタイミングが悪かった……気まずい顔のまま固まらないでくれ。
冷静に話を聞いてもらえなくなる」
「わ、分かったよ……ダノン。
とにかく、何があったの? ルイは、どこへ?」
「エルリーン。
ルイの帰りが遅かったから、俺とジーンさんも気になった。
夕方になっても、理由もなく、帰って来ないなんて初めてだったから。
陽が落ちるのがそれなりに早い時期だが、今は、すっかり夜と言ってもいい。
……事があってから、それほど時間は経っていない。
うちの基地の連中総出ぐらいの勢いで、ルイの行方を追っている。
防衛用の街の監視カメラのアラートが鳴ったと、うちの基地にもすぐに連絡が来た。学生と思われる男の子が、誘拐されたようだってね」
「えっ。
じゃあ、映像とかあるの!
誰が、ルイを誘拐したんだよ!
軍の奴らか?
整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎の手下かっ?
だったら、あたしが『スカイ・オブ・パーツ』に乗り込んで――」
「いや。
軍の仕業の疑いは濃厚だが、断定できない状況だ。
自転車は回収したんだが、前カゴに、コレが入っていた。
ジーンさん、映像をエルリーンに見せてもいいかな?
良さそうだったら、俺のコンピュータのソフトの再生ボタンを押してほしい」
「絶対に見せてよね!
ジーン叔父さん!
っていうか、コレはなんだい?
お子様ランチの飾りつけの旗じゃないか。
安っぽい爪楊枝に、紙の旗をつけたやつ……なんで、無地?
白旗なんだ?
まあ、いいや。
……あ。
映像……これ、公園?
あたしとルイが、学校帰りによく行くトコだ」
「そうか、それでルイはここにいたんだな。
俺とジーンさんだけでは、それは分からなかったので」
「うん、ダノン。
この映ってるブランコのところで横並びになって、お喋りしてるんだ。
遊具の設置や立地がイマイチなのか、いつ行っても、ほとんど人がいない。
も、もちろん他にブランコで遊びたい人がいれば、すぐに譲ってるよっ。
でも、あたしもルイも貧乏学生だから、お金パァッて使う遊びはできないからさ……なにこれ?
棒つき飴?
こいつ、なんで、棒つき飴なんて持って近づいてきてるんだ!
一人でウロウロしてる時に、明らかに人為的に着ぶくれて、体型かわってる上に、トレンチコート羽織ってるとか。
さらに、マスクに黒グラサンに深くかぶれる帽子でいろいろ隠してる……そんな、怪しさ満点なヤツが、近づいてきてるのに……ルイは、なんで、急いで逃げなかったんだよ!
飴か!
飴が、そんなにほしかったのかっ。
というか……このカーキ色のトレンチコート、サイズが小さすぎるだろ!
着れてないっ。
羽織ってるっていうか、背中にのせてるだけ!
……百四十八センチのルイとの差を考えると……こいつ身長が、百八十センチ以上余裕であるんじゃないか?
なんだよ!
あたしとの思い出が詰まってるとかで、自転車置いて逃げたくなかったのかよっ!
こんな怪しい奴にからまれたら、そんな事いいからとっとと逃げろってっ!
どうして!」
「エルリーン。
映像で見ている通りだが、さすがに取り押さえられそうになって、ルイも必死に暴れているよ。
だが、何かを話しかけられた後に、一瞬、完全に動きを止めてしまった。
その時に、飴を模しているのかな?
これを口に含まされた。
直後に、ぐったりしてしまっている。おそらく、即効性のある睡眠薬か何かだと、俺は思っている」
「睡眠薬!
やっぱり、整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎の手下だっ。
あいつ、変な薬ばかり作っていて、それで軍師殿もおかしくされていたり……ダノン! あたしが直接『スカイ・オブ・パーツ』に行ってくる!
今度こそ、あたしの蹴りでぶっ倒してやる!
で、必ずルイを連れて帰って来るっ」
「いや。
俺とジーンさんで話し合った結果なんだが、連れ去られた場所が、タワー『スカイ・オブ・パーツ』とは、限らない。
有力候補はないが、他の場所である可能性の方が高い。
……もう一つ、映像がある。
ジーンさん、再生ボタン押すのを少し待ってくれ。
先に説明する。
エルリーン。
これは、君らの学校もある――ルイが誘拐された公園のある街に設置されている、とある商店が、独自に用意していた防犯カメラの映像なんだ。
店先前の違法駐車が多い事に店主が怒り、設置していたそうだ。
だから、何か、重要な人物などが映っていても、防衛システムのアラートが鳴る事がない。
そういったカメラで撮影された映像だと思ってほしい。
犯人の特徴を聞いた店主が、自ら提供してくれたものだ」
「えっと……どういう事?
ダノンが言ってる事が、いま一つ理解できてない。
ん?
ルイをさらった奴は、指名手配犯とかって事?」
「さっきの公園の映像、ルイが暴れている時に、犯人がつけていたマスクを外していただろう?
おそらく、わざとだ。
この映像を見る者に、口の動きを読ませる為に――見せつける為に。
知ってるだろ。
俺は、唇の動きから、何を言っているかは判断できる。
それぐらいは、この反乱組織のリーダーを名乗っているからできるさ。
もちろん、読んでみた。
『おいしいもの食べさせてやるから、抵抗せずについて来い』。
カメラのマイクで拾えないぐらいの小声で言っている。
その直後にルイは、大人しくなってしまって、飴を模したものを口に押し込まれている」
「ちょっと、待ってよ!
ダノン。
っていうか、ルイのやつ! あたしには、飴とか、食べ物で誘拐されるなとか言っておいて。
……あたしに、いろいろ言われて……自暴自棄にでもなっていたっていうのかい……?
だからって、知らないヤツに、あっさり誘拐されるなよっ!
誰でも、良かったのかよ!
ルイのバカっ。
大バカやろうっ」
「……ジーンさん。
商店の防犯カメラの映像を再生してやってくれるか――。
エルリーン。
ここに映っている、黒っぽい色のセダンカー。
どういうカラクリか知らんが、この商店のカメラ以外の街中のカメラに、まったく映っていない。
ご丁寧に、この商店の前に駐車した直後に、眠っているルイの顔を、窓に寄せている。
映像として残るように。
ちょうど車両横を、ご婦人が通りすがっているが、気にかけてもいない様子だ。
この段階で、完全に陽が落ちてしまっているので、子供のルイが車内でぐったりしていても、遊び疲れたんだろうと、誰も違和感など感じない。
堂々としたものだ。
ちなみに、ここ小さな酒屋。
店内にも独自に設置された、防犯カメラしかない。
店主とのやりとりも無言だったらしく、犯人の声は入手できていない。
ルイを誘拐したと思われる人物は、後部座席から車を降り、店内に向かおうとしている。
トレンチコートだけは脱いだようだ。
マスクとサングラスと帽子はそのまま。
店に入る直前に、このカメラの方を向いて、見せつけるように、一瞬だけ、マスクとサングラスを外した」
「え! ダノン。
え……え……だって、これ……っ!
こいつ!
ええええっ! ダノンっ! こいつって!」
「そう、あらためて言うまでもないかもしれないが、エリオット・ジールゲン。
間違いなく、本人だ」




