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濁る水

The Sky of Parts[23]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「あー。

 やっぱり、外の空気を思いっきり吸い込みながら、土手でゴロゴロして、空を眺めるのは、最高だなー。

 草のにおいがするのがいい。

 世界一の特権だって言われても、あんな窓の外にしか見えない空じゃ、絵と一緒だから。

 な、ルイ!」


「うん。エルリーン。

 あれが――タワー『スカイ・オブ・パーツ』の中から見えるものが、オレの世界のすべてじゃなくて良かった。

 そして、世界のすべてが、あいつじゃなくて良かった。

 今は、基地のみんなも、学校のみんなも、街で出会う人々も、そしてエルリーンもいてくれる。

 この青空みたいに、すべてが広くて、抑えられる事なく、何もかもが解き放たれているんだ」


「この青空、ルイの青い瞳みたいに、きれいだな……なんて言ったら、また気にするか?

 うじうじして、立てた両膝りょうひざを抱えて座り込むか?」


「ううん、エルリーン。

 オレ、今、ちゃんと足を投げ出して座ってるよ。

 体育座りしてない。

 後ろ向きな考えにもなっていない。

 この前、エルリーンが、オレの青い瞳は、オレの物だって言ってくれたから考えてみた。

 たしかに、母上も、オレの青い瞳は、好きだって言ってくれていたしね。

 何度も、オレはオレだって思い込もうとして、でも、たまにくじけてしまいそうにはなる。

 髪、伸ばしてる理由。

 エルリーンの言う通りの意味もある。

 違うと主張したくて。

 顔立ちだって母上の方に似ていると、自分でも思うんだけど、一つでも似ていないと思い込むところを作りたくて――だけどね、ほんの少し別の意味もあって、髪を切りたくないんだ。

 それなら、許してくれる?」


「うーん。

 ルイが、男らしいところを、一つでも増やすんだったら、許してもいいかな。

 冗談含むだけど、前から言ってるだろ。

 『彼氏の方が女の子らしいですね』とか、言われて……うん。

 あたしもな、最近思うんだ。

 男みたいな振る舞いしてても、結局は強がっているだけで、やっぱり自分は『女の子』なんだなって。

 物心ついた時から、反乱組織に籍があった。

 実際に戦闘に参加した事はないけど、いつでもそうなれるように、女の子らしくはやめておこうって、どこか思っていたところがある」


「エルリーン。ごめ……」


「おっと! ルイっ。

 戦争があったのは、自分のせいもあるとか、そういう謝り方は、班長として禁止しておく。

 むしろ、ルイのおかげじゃないか!

 ここ一年ぐらいは、小競り合いこそあるけど、戦争は小康状態しょうこうじょうたいだって、ダノンが言ってた。

 終戦じゃないけど、たしかに長い間、戦争が止まってるんじゃないかな。

 ほら。

 あたしだって、中身は女の子かも~とか、考える心の余裕ができてきたんだからさ」


「そう言ってもらえると……でも、エルリーン」


「ルイ副班長には、少し辛い話をするぞ。

 ちょっと覚悟しろ。

 だけどな。

 これは、ルイに元気になってほしいから言おうと思う。

 いくぞぉ。

 あいつ――エリオット・ジールゲンの行方が分からなくなって、軍の戦力は、大幅に減っているじゃないか。

 本当は、軍を完全に壊滅させるチャンスなんだけど、誰もやり切らないのは、やっぱり、ルイという新しい存在があるからなんじゃないかな」


「えっと……エルリーン班長。

 オレは、やっぱり、支配者になるべきですか?」


「いや。

 そんな事は言ってないだろ。

 ルイ、最後まで聞けって。

 軍が、タワー『スカイ・オブ・パーツ』を守ってる状態だから、なんとなく、軍には、手を出しにくいのかもって考えた事はある。

 あそこで、ルイが、世界の人々の心に響くようなを歌ったから」


「……聖地的になっちゃってるって事? タワー『スカイ・オブ・パーツ』が」


「なのかなって、思っただけ。

 実際にルイが歌った――あれだ、ようはお前の家があった高層階は、あたしたちを助け出す時の空爆で、だいぶ傷ついた状態なんだけど。

 あたしも、ずっとあの塔は、倒れるべきだって思って生きてきたけど、なまで、あの歌声を聴いたせいかな?

 変な感覚が少しだけある。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』があると、このまま、戦争がんだままなんじゃないかって。

 終わる訳じゃないんだけど」


「は?

 えっと……なんで?

 軍が壊滅して、タワー『スカイ・オブ・パーツ』が、なくなるべきって、みんな思っていたよね!

 最初に、オレが助け出された時、基地のみんなもエルリーンも、そう言っていたよね。

 ……みんな、どうしちゃったの?」


「へ?

 あれ?

 あたし、何かおかしいこと言ってるかな?

 まあ、あたしの場合は――牢屋の中とはいえ、ルイと過ごしたと思うと、あの塔に、アホな感じの名残惜なごりおしさがあるのかもしれないけどな。

 いちおう、ルイの実家だった場所だし」


「オレ、実際に、戦争を見た事がないからかな……だから、何も分かっていないのかな。

 戦争が止まった状態なら、軍やタワー『スカイ・オブ・パーツ』がそのままでもいい……?

 やっぱり、よく分からない……」


「う~ん。

 軍は、なくなってほしいかな。

 なんだろう。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』から、あいつがいなくなったせいなのかな?

 でも、一つだけ言える事がある。

 ――暴力的な事で、タワー『スカイ・オブ・パーツ』が破壊されるような出来事があれば、世界に戦争が戻ってきてしまいそうな、あたしは、そんな気がするんだ。

 軍の奴ら相手にだって、はじき飛ばすようなやり方を仕掛ければ、戦争を見る事になるだろうし」


「軍やタワー『スカイ・オブ・パーツ』が、なくなってはほしいけど、それをお構いなしな手段でやってほしくないからって事だと理解すればいいのかな。

 ……オレは、少しすっきりしないところがあるけど」


「ルイは、どうにも、何か引っ掛かりを感じるんだ。

 まあ、一つ言えるのは、みんな戦争に疲れていたって事かな」


「戦争。

 とても無責任なんだけど、戦争に一番近い存在なのに……オレ、知らないんだよな」


「幼かったあたしが、女の子である意味がないって思うぐらいに、激しかったよ。

 戦争ってやつは。

 正直、女の子なんてやってるよりも、生き残る事を考えなきゃって。

 バカバカしくて、女の子になるのをやめよって。

 誰かに護ってもらうなんて、その相手が必要な時に、一緒にいるとは限らない。

 自分で、自分の身を護れないといけないって」


「だから……オレの母上みたいな女性に憧れたの?」


「そう。

 だって、軍師殿は、たった独りでも、世界を制圧するような『敵対』相手に向かっていくような、すごい人だから。

 ――ルイ。

 辛い顔するかと思ったけど、真剣な顔になってる。

 こういう話は、誰かとしてみたかったり、聞いてみたかったのか?」


「うん、エルリーン。

 戦争を、正しく知りたいなって、強く思っていた。

 自分から、積極的に誰かに聞けないなんて、本当に責任放棄もいいところだとさえ考えていたよ。

 だけど、結局、しり込みする臆病者だった……ごめん」


「謝らなくてもいいって。

 ルイは、違う意味で被害を受けて、戦争を知らされずに生きてきてしまっただけだろ。

 世界で唯一のそういう人間だったのかもしれないけど。

 だからかな。

 ルイの歌って、なんだか、不思議な力がある」


「オレの歌、人の心をかき乱したりはできてしまうみたいだけど、それの事?」


「いやいや、ルイ。

 違う、違う!

 軍でアイドルやってた頃も、戦争なんて、何も知らなかったんだろ?

 その頃の歌、あたしも、いちおう聴いた事はあるんだけど、たしかに、世の中に戦争なんてものが存在しないんじゃないかって思わされる、妙なものだった。

 リリンなんて、ルイ――Lunaの歌声で、戦争が終わるんじゃないかって、あの頃から本気で言っていたぐらいだよ。

 それにしても……あの時の歌って、いったい何だったんだ?

 ほら、世界がルイを認め過ぎてしまったやつ。

 作文とかに書き連ねる必要はないけど、テーマ性とか、込めた想いとかは、あったりしたのか?」


「え……。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』から響かせたやつだよね。

 あれ……あれさ。

 いや。

 あのさ、エルリーン。

 聞いても、笑わない?

 ――寝転がったまま、激しく首を縦に振ってくれたね。

 腹筋鍛えてるみたいだったけど。

 それは、どうでもいいや……。

 『あのの内容に、かなり興味があるので、聞かせてほしいな』っていう込めた想いが、エルリーンの表情から激しく伝わってくる。

 いや……とても下らないと思うよ。

 まあ。

 ようは、反抗期……みたいな」


「は?」


「タワー『スカイ・オブ・パーツ』で、本当にやばい事になって、歌い始める前にも言った気がするんだけど……怒れてきたんだっ。

 あいつに。

 オレを、これ以上苦しめるなって言ってやりたかった!

 何を言っても、話を真っ向から否定されまくり。

 ふざけるなって気分になって、こっちもあんな奴……親でも何でもない……って考えて当然なのに、そんなオレまで、消してやるとか。

 もう恨み満載して爆発しても、図に乗ってるとか言われる筋あいないし、おごり高ぶった末とかでもないじゃないか!

 ちくしょー。

 この野郎っ!

 そういう感じ!」


「ルイ。

 分かりやすいけど、分かりにくい」


「え?

 えっとね。

 じゃあ、まずはこの話をしよう。

 昔、母上から抑えきれなくなった感情をぶつける為の『カッとなったらやってみよう』っていう、遊びを提案された。

 エルリーン。

 十柱戯じっちゅうぎって知ってるよね」


「……は?」


「あれ?

 エルリーン、寝転がったままなのに、土手の草に頬がれる事など気にせずに、めちゃくちゃ首を横に振ってる!

 知らない。

 知らないです!

 知りませんって感じの表情になって、きょとんとした顔つきにさえなっている……。

 ありゃりゃ。

 一般的な遊びだって、母上から聞いたんだけど。

 えっと、なんだったかな……。

 他にも呼び方があったような……ケーゲルン? だったかな。

 九柱戯きゅうちゅうぎでも良かった気がする。

 ……えっと……。

 ああ!

 もう、エルリーンが理解不能で、寝転がったままお空の方ばかり見てる……。

 そうそう!

 ボールを投げつけて、倒す時に、ストライクって叫ぶと、なんとなく頭がスッキリする遊びなんだけど!」


「え?

 えっと……十柱戯じっちゅうぎ

 柱が十本?

 ボールを投げて倒すで……ストライク?

 あれ。

 それって、もしかしてボウリング……じゃないか?

 それなら、拾ってきた木とかで、柱っていうか、ピン作って遊んだ事ある。

 ボールも、木で手作り。

 同時に、十本全部倒すと、ストライクって叫ぶんだろ?」


「あ。

 そうなんだ……。

 じゃあ『カッとなったらやってみよう』は、ちょっと違うな。

 一本ずつ……ピン? っていうのを立てて、嫌な事を思い浮かべながら、ボールを投げつけて、思いっきり倒すんだ!

 ……くっ。

 思い出したら、また、怒れてきた!

 柱にふん縛られていたし、数え上げろとか言われたせいなんだろうけど……そして、もちろん、あの時もカッとなっていた!

 で、心の中で、あの悪魔に言ってやりたい事を、一、二、三、四って――順番に思い浮かべて、力いっぱい倒していった!

 それが、あの歌だよっ」


「あんな状況だったもんな。

 あの悪魔に言ってやりたい事は、あたしにもいっぱいあった」


「だろっ!

 歌詞やメロディからは、想像できなかったと思うけど、テーマ性とか、込めた想いって、そんな感じ。

 エルリーン。

 前にも言ったような気がするけど、作者の気持ちってこんなもん。

 ほら、しかも、夕飯食べるよりも前だったじゃないか。

 空腹も重なって、よりカッとなりやすくなっていて……うん。

 完全に、あいつへの文句タラタラだったんだけど。

 う~ん。

 なぜに、世界中のみなさんの心に、そこまで響いてしまったのか、作者のオレにも分かりません」


「聴いていて、怖いんだけど、すごくきれいだった。

 ルイのあの歌。

 いや、ドスがきいてる感じはした。

 ――気味の悪いすごみ。

 窓の外が、月明かりのない夜空だったせいか、黒い空間に引き込まれるんじゃないかって、恐ろしく感じたぐらい。

 だけど、ルイの想いに共感したいって、なぜか考えていた。

 なんていうか、清さみたいなものを感じるぐらいに、汚れていなくて、吸い寄せられていくような。

 ……なんだったんだろう?

 あっと!

 今さら考えてみるとって話だし、あってるか分からないけど……ひょっとしたら、あいつの――エリオット・ジールゲンの圧政にたえられないという気持ち。

 あたしや世界中の人々。

 そして、軍の連中にも、どこかそう思っている人たちが多くいて、みんなの心に同調した?

 固まった絵の具のついた筆を水に入れた時みたいに、自由がきかないって、誰もが思い込んで諦めていたものが、ルイが流した透明で澄んだものの中に、サッと馴染んで、ほどけた?

 ……悪い、あたしの言葉じゃ、うまい表現できないや!」


「……オレ、そんなに澄んだ心なんて持ってないよ……。

 心の中は、とても汚い。

 きっと、あいつと変わらない。

 ――母上を、思い通りにしたがっていたあいつと同じで、オレだって、本心をさぐると、エルリーンをそうしたいって、思う事はあるよ。

 どこかに閉じ込めて、ずっと、オレだけのものにしておきたいってね」


「は……?

 あ、えっと……ルイ?」


「そんな風に、横になって、気恥ずかしそうに視線をそらしたりして――エルリーン。

 なのに、たまに座ってるオレの顔を見上げてこられたりすると……。

 スカート大丈夫? 乱れたりしてない?」


「え! あっ!」


「嘘だよ。

 驚いて、立ち上がったりして……どうしたの?

 エルリーン。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』での出来事の時も、まったく考えていなかった訳じゃない。

 でも、最近、エルリーンが、オレの話を理解してくれたり、心の底からの笑顔を向けてくれたり、夜、自分の部屋に帰る時に少し寂しそうな表情をしてくれたり……エルリーンを護りたい気持ちが強まる反面、自分だけのものにしたくなってしまう。

 ……冗談じゃなくて、本気で。

 たしかに、大切な人を、鳥カゴに入れておけたら、とてもいいのかも」


「ルイ……?

 何を……言ってる……?」


「母上が、そうさせられていたみたいに、エルリーンが、ただオレだけを見つめている。

 自分を主張する事を忘れてしまった、まるでお人形みたいなエルリーンになってくれたら――オレ、嬉しく思うのかな?

 ……これが、本当の思いなのか、言ってるオレ自身も、頭がぼやけてきて、よく分からない。

 そうだね。

 絵の具筆を洗った時みたいに、オレの考えがサッと馴染んで、筆洗い桶の透明な水を、どんどん汚していく――そういう事かもね。

 エルリーン。

 オレ、今、自分がどんな顔しながら、この話をしているか分からないけど、エルリーンの表情がかたくなっているのは、分かるよ。

 立ち上がったまま、腕をだらんとして――動けなくなっているみたい。

 どうして、そんなに緊張しているの?」


「……え……あの……あははっ。

 ルイったら、たまにはふざけて、あたしに意地悪してやろうとか!

 け、今朝、おかずの卵焼き。

 よそ見してる間に、端っこちょっとだけもらったの……気づいていて、復讐してやろうと思ったんだな!

 うん!

 ご、ごめんなさい!

 ……緊張してるように、見えたとしたら、今、言った事がバレたと思ったからだ!

 別に、怖がったりしてないぞ。

 班長のあたしの方が、腕っぷしが強い訳だし、ルイなんかが、本気になったって……けりを……」


「――エルリーン。

 足もとに、ヘビがいるよ」


「え!

 ぎゃああぁああああああああ……ちょ……ルイ……っ」


「嘘だよ。

 ほら、汚い手を使えば、オレだってエルリーンを押し倒す事ぐらいできるんだ。

 オレの心なんて――絶対に、澄んで清いわけがない」


「や……やめ……っ」


「あれ?

 エルリーンが、急に弱くなっちゃったのかな?

 オレ、絶対に殴られると思ったのに、エルリーンの手首をつかめちゃった……。

 あの……あのさ。

 ちょっと、興味があって……くち――エルリーンの唇……もらっても、いいかな……?」


「え……その……あの……ルイ……あの……」


「嫌だって、言ってくれないんだ。

 じゃあ、もらうね――」


「……っ!

 だぁああああああああああああぁ!

 はぁ、はぁ……。

 ルイっ!

 のたうち回るぐらいに痛いかっ!

 あ、あたしに、その部分を言わせるなって場所を蹴られて!

 ふざけるなっ!

 ルイは、本当に大ウソつきだ!

 汚い事ばかりして!

 なんだよっ。

 反抗期じゃなかったら、素直にあいつの言いなりになれてたら……あたしを……その方が良かったって言いたいのかよ!

 あの時に助からない方が良かったのかっ。

 そうしたら、自分のせいじゃないって思いながら、あたしを鳥カゴにでも入れて、眺められていたって……バカっ!

 ルイのバカぁあああっ!

 もう、知らないっ!

 お望み通りに、あいつがお前を捕まえに来て……整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎の薬で、本当はなりたかった自分になれて……独裁者さまに……なっちゃえばいいじゃないか!

 ……そうなれば……良かったんでしょ……っ。

 ルイの……バカ……もう、知らない……」


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