つき、刺す世界
The Sky of Parts[22]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
『その通りです。
あなたは、もう必要のない人間です。
しかし、感謝はしています。私に、確固たる権力を与えてくれた!
心配はいりません。
築きあげて頂いたものは、これからの世でも、長きに渡り続いていきます。
――あなたの戦略思想コピー『sagacity』と、この竹内イチロウの新しい主、ルイーナ様に成り代わる形でっ!
あはははははっ。
『sagacity』の占い!
大当たりだったんじゃないですか!
ふふ。
あなたを倒すのは、天王寺アリスとあなた――つまり、御子であるルイーナ様だったって事ッ!
本当に、ありがとう。
ルイーナ様という存在を、世界に具現させてくれて!
軍を盛り立てて、正当な権力を持つ地位におさまって頂くつもりだから……安心して、舞台から退場してくれ!
どうせ、いらない存在なんだ――っ。
ははっ。
黙り込んでいても、僅かに口元を動かしたのが見えましたよっ!
あははっ。
アンタに許可なく、拳銃をもう一丁持ち込んでおいて良かった!
――本当は、あの場で。
まあ、思いもしない出来事が起こったが、おかげで、アンタを『排除した』理由を作る必要がなくなったんだ。
神に感謝しなければな。
ああ。
新世界の神は、ルイーナ様だ。
では、やはり、アンタは消えるしかないじゃないか。
旧時代の神が排除されるのが、神話というものなんだ。
さて。
こんな至近距離で、弾を発射されたら、いくらアンタといえど逃げられないだろ!
消えろっ。
消えてしまえ! エリオット・ジールゲン!』
* * * * *
「ああ……ああ……真っ白……ルイと一緒に……寝ちゃったのか……」
「ど、どうしよう……オレも……真っ白。
エルリーンが、気晴らしに、一発遊ぼうって言うから――これじゃ、見せられないよっ!
た、たしかにオレも、面白くなって……どんどんさしちゃったよ!
だけど、誘ったのはエルリーンじゃないかっ!」
「ルイ!
あたしに責任なすりつけるなよ!
卑怯だぞっ!
十二歳になっても、あたしよりも女みたいって言われて、可愛らしいとかってちやほやされてる顔でさ、頬をぷくっと膨らませて、抗議するなって!
男なら男らしく、自分にだって罪があるって、素直に認められないもんかねっ!
だってさ!
ルイも、だんだん熱中してきて、もう一回やろうとか言って乗り気だったじゃないかっ!
……あれ?
外に出てるけど、最後にぶっ飛ぶところおぼえてる?」
「本当だ。外に出てるね。
さしてたのは、おぼえているけど、最終的にどうなったかおぼえていないや」
「結局、どっちが……というか、まずい!
真っ白じゃないか!
夢の中で、その……あれだ。
あれ。
将来像って、いうやつ……夢で見ちゃったけど。
あれは、不採用だよな……はは」
「え?
何? あれ?
エルリーン……顔がだんだん赤くなっていく……あー。
ははーん。
その夢ってさ。
まさか、オレのお嫁さんになってる――とか、だったりして!」
「うう……ううーん。
そんな!
まさか!
ははん……うん。
ごめん。
そういう夢見ましたっ!
はい……。
ってか、これじゃ、ダメかな?
……却下されるかな。
もう、面倒くさいから、これでいいんじゃないかっ。
先生から見ても、公認カップルだよって事で……」
「よくよく考えると、採用されない方がおかしいよね。
一つの形として。
オレも、それにしたいな。
エルリーンのお婿さん!
炊事洗濯、雑巾がけ、自転車にも乗れるし、食用キノコだって頑張って集められるよ!
畑だって耕せるようになったし。
十二歳にして、田舎引退暮らしで余生を送ってもいいと思うんだ!
魚釣りは、エルリーンの方が得意だけど、こうなったら、二人で力をあわせて、スローライフ志向で、生きていくって結論で!」
「真面目に考えるか~。
ダノンから、あたしもルイも、学校に通いたいなら、普通に真面目にやりなさいって言われてるし。
……ビンに、槍を刺してくおもちゃとかで遊んでて、進路票が真っ白ですとか、学校辞めさせられる危機に繋がるかもしれない」
「そうだね。
一発遊んでないで、オレも、ちゃんと真面目に考えよう。
でも、最後の回、どっちがこの白髭のおじいさんの絵の描かれたコルクを、外にぶっ飛ばしたんだろう?
まあ、いいか」
* * * * *
「エルリーンとルイは、今日も学校に行ったみたいだな。
街への通学を希望された時は、どうなるかなって思っていたけど、楽しそうに通ってるね。
毎日、ルイが、二人分のお弁当を詰め込んで、エルリーンに持たせてる姿が、微笑ましい。
すっかり、普通の子供たちって姿に見える」
「ああ、ダノン。
おれも、エルリーンのやつを、学校に通わせてやれるとは思ってもいなかったよ。
エルリーンの実の父親である兄貴と、おれが、反乱組織に籍があるせいで、街にすら自由に行かせてやれなかったからな。
ルイのやつもな。
昨日も、学校から帰ってきたら、自主的に裏庭の草取りなどしてくれていたんだが……まあ、ルイがな。
基地にいる他の子供たちと、なんら変わりない生活をしているが、やはり、たまにふと、いろいろ考えてしまう事はある」
「ジーンさん。
それは、俺も同じだ。
一年前、タワー『スカイ・オブ・パーツ』から救出して、この基地に戻って来た時は、ルイは軍服姿で、エルリーンは赤いドレス姿。
二人の中身は、連れ去られた時と変わらないし、この基地も、何も変わっていないはずなのに、不釣り合いというか、なぜか、ちぐはぐな感じがした。
身なりが変わっているというだけではなかったと思うんだ。
――おそらくあの時に、俺が感じたのは、もしも、不吉な未来に到達していたとしたら、助け出した時の二人の姿が、そのまま現実として定着していたという、おののきに近いものだったんじゃないかな。
あんなに幼いのに、必死に戦ってくれたんだ。
エルリーンとルイが、最後まで希望を捨てずに、めげずに、挫けなかったから、エリオット・ジールゲンの圧制政権が安定して、抵抗勢力がすべて排除されるという、最悪の事態を回避できた。
そして、あの子たちは、元の時間に戻って来た」
「元の時間ね……はぁ。
ダノン。
元の時間なのかね?」
「服装は、どこにでもいる子供たちだと思わないか?
ジーンさん。
今朝のエルリーンは、片方の袖が折れ曲がったままのピンクのシャツに、赤いスカート姿だったよ。
そして、ルイ。
手入れが雑だったのか、少しシワが入っている水色のパーカーを、Tシャツの上に羽織って、普通の半ズボンをはいていたじゃないか。
二人のどちらを見ても、安心できる。
朝起きるのが遅かったのか、エルリーンが寝ぐせを直しながら、ルイに手を引っ張られて、遅刻ぎりぎりだと言いながら、自転車に二人乗りして学校に行くんだ。
エルリーンもルイも、どちらも、ぴたりと締まっていない」
「まあ、そうだな……ルイのやつも、男のくせに髪が長いせいで、派手な寝ぐせがついていて、食堂で出会った瞬間に、思わず笑ってしまった事だってある。
ダノン。
分かってる。
おれだって、分かってる。
ルイは、すっかり、どこにでもいる子供だよ」
「そんな、あの子たちが、年相応の楽しみを得る事を諦めさせられ、大勢の人々を跪かせ、号令を下す立場にされなくて良かった。
ジーンさんも、そう思わないか?」
「はぁ……。
ダノン、悪いが、やっぱり無理だ。
エルリーンの親代わりの叔父のおれとしては、いまだに複雑な気分だよ。
まあ、やっぱり、お前のお袋さん――ミューリーさんが言っていた通り、『生きていれば、いつか辿り着きたい場所に到達できる』だったのは間違いない。
エルリーンが連れ去られた時に、絶望して、本気のやけを起こして、自暴自棄にならなくて良かったと、今は思っているよ。
今朝だって、昨日の晩だって、その前の日だって、食堂で、エルリーンのやつと一緒に飯が食べられているんだから」
「昨晩は、ルイが、集めてきたキノコのおかずを分けてもらった。
自分の好物なはずなのに、俺の皿にものせてくれたよ。
ふと、ルイの爪を見たら、真っ黒なんだ。必死に、地面の土と戦ってきたんだろうな」
「何度も言うようだが、おれだって分かってる。
ダノン。
ルイは、正直よくやってくれてると思うよ。
どう考えても、いい奴にしか見えない。
おれは、本当の親じゃないが、娘の恋人が現れたら、世間の誰もが求めるぐらい偉大な人物相手でも、嫌悪して、不愉快にはなるんだろう。
それにしてもな。
ルイの場合は、世界中から……まあ、分かりやすく言うと、教祖みたいな感じの注目集めちまってる。
……はあ。
なんでかね。
エルリーンのやつには、いつかは嫁に行ってもらって、あっちにいる兄貴にも安心してもらいたかったよ。
あの件は――エルリーンが良いって言うんだから、触れちゃいかんとは思うが、ルイの素性っていうか……将来ルイと結婚するって事は……そのなんだ、どうにも血縁上の問題で、兄貴はなんて思うんだろうなって」
「エリオット・ジールゲン。
ルイの――ルイーナの実父。
軍の本拠地、タワー『スカイ・オブ・パーツ』への奇襲に成功した時には、追い詰めたと思ったが、逃亡後、音沙汰なし。
いまだに、行方不明だ。
連れ去られたルイの母、天王寺アリスさん――軍師殿の行方も分かっていない。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』の上層階の一部を破壊するには至ったが、結局は、『sagacity』の防衛および指令システムが回復して、軍を壊滅には追い込めなかった。
主がいなくなっても、『エリオット・ジールゲンという象徴』を信仰してやまない一部の者たちが、奴が残した『sagacity』の指示に従って、『スカイ・オブ・パーツ』を守っている。
戦力は半減以下になっているが、カリスマ指導者がいないだけに、より厄介になったところがある」
「ダノン。
たしかにな。
あいつは、戻ってきたんだが……。
エリオット・ジールゲンの元側近中の側近、竹内イチロウ。
名目上は軍医だが、ルイとは、隠し育てられていた頃からの付き合いだって話だし、それなりに前線に出てくるのも目撃されていた。
『sagacity』の立てる戦略に補助させる形で、エリオット・ジールゲンから指揮官を任命される事もしばしばあったみたいだ。
奥医師っていうか、侍医っていうか、そんな感じの裏方活動が多くて目立ちにくい存在だが、しっかり立派な階級だってもっていやがる。
もともと実権がそれなりにあった奴が、軍に戻ってきた事で、本当に面倒だ」
『いずれ、エリオット・ジールゲン閣下が、戻ってみえる。
然るべき後進であると推挙され、そして、世界の指導者となるべき素質を秘めたルイーナ様をお迎えする準備をすすめていく事が、来るべき日に向けての我々の目標である!
閣下より、全権限の委譲を賜った、この竹内イチロウについて来てもらいたい』
「いろいろと勘違いしていると、俺としては、言ってやりたい。
だが、今、軍に残っている連中は、エリオット・ジールゲンの築いた権威を、子であるルイーナに引き継がせたいと思っている奴らばかりだ。
この竹内イチロウ。
俺らの『スカイ・オブ・パーツ』への襲撃以前に、水面下で、ルイーナの擁立を画策していたらしい。
今、こいつについてきているのは、同じように、エリオット・ジールゲンのネームバリューだけは欲しくて、ただ、顔としてはルイーナを据えたい連中。
元がそれなりの地位の奴が、トップとして、すっぽり入り込めた訳だ」
「はあ……。
ダノン。
本当に、頭が痛いね。
そんな風に、軍からも、尊ばれる地位に置きたいとか言われてる奴が、うちのエルリーンの彼氏なんてな。
……はあ。
今のところ荒っぽいやり方で、ルイを連れて行こうという奴はいないが……というか、不思議なぐらい皆が、素のルイを崇めたがっている。
神の歌い手として、まあようは、カリスマ性を認められた――教祖様なだけに、恐れ多くて、無礼な真似をする奴がこんなにもいないとはな。
戻ってきた直後は、また誘拐でもされるんじゃないかって、ルイには申し訳なかったが、部屋からの外出もかなり控えてもらったのにな。
結局は、何もなかった。
声をかけてくる奴は、今でもいっぱいいるのにな」
「エルリーンが、俺に定期的に報告してくれるんだが、今週に入ってからだけで、三回も声をかけられているみたいだ。
軍、うち以外の反乱組織、民間人の集まりの一回ずつ。
あと、エルリーンが直接聞いた訳じゃないらしいが、男子トイレでルイが一人の時に、空耳かもしれないが――『ジールゲン』と声をかけられた気がするとの事だ」
「学校では、というか世間様用に用意した書類では、タワー『スカイ・オブ・パーツ』襲撃の作戦で、一翼を担った女性の姓を使ったって事で、『天王寺ルイーナ』なんだけどな。
戦災を理由に、今さら書類を作った事になっているんで、両親の欄は空白。
軍でアイドル活動していた頃の『Luna』と同じ設定にできた。
だけどな……世界全員ぐらいの勢いで、あいつの息子であるとは知られている。
万が一、ルイとエルリーンがだぞ。
本当に本当に、結婚した場合、書類上は、天国の兄貴とは繋がらない。
そして、エルリーンの叔父のおれとも繋がらない。
だがな。
いつか、子供ができた場合は、エリオット・ジールゲンの実の孫って事になるんだろ……。
駄目だ。
はあ……。
ダノン。
おれは、何度考えても頭が痛い。
エルリーンとルイが、自然と離れる事になってほしいと、ついつい祈ってしまうんだ!
幸せそうなエルリーンの顔を見てると、いかんいかんと思うんだがな」
「諸事情を除いて考えれば、ジーンさん。
あんたの兄さんに、今のエルリーンを見せてやりたいと思うぐらいに、あの二人は幸せそうにしているな」
「はあ……。
ああ。
二人か。
そういえば。
ダノンは、どう思っている?
ルイの両親。
軍師殿――天王寺アリスさん、そして、エリオット・ジールゲンは、どこへ行ってしまったんだろうか?」
「唯一、行方を知っていそうな――俺らの奇襲の際に、共に、一旦はタワー『スカイ・オブ・パーツ』からヘリを使い脱出した、竹内イチロウは、あの二人の行方を公言していないそうだ。
ここにルイがいるので、竹内イチロウが直接、俺の方に『平和的交渉まがい』の連絡をしてくる事はある。
ルイーナ――軍属のLunaを返せのほぼ一点張り。
エリオット・ジールゲンの行方をたずねると、のらりくらりと言い逃れされる」
「ダノン。
おれの勝手な想像かもしれんが、ルイ自身は、母親の行方を捜したいとは、かなり思っていそうだがな」
「それは、俺も感じているよ。
だが、父親の方は、行方が分かったところで、世間では、すでに存在を許されていない。
軍の連中ですら、知名度利用としては価値があるが、実は、本人に戻って来られては困ると考えている。
反乱組織の人間や民間人からしたら、罰したい対象だ。
ジーンさんも、いろいろな意味で同じ事を考えていると思うが、このまま、ずっと行方が分からない方が、ルイの為にもなるんだろうな――」
日常生活で『抵抗勢力』という言葉を普通に使っていたのですが、コレ、小泉純一郎元首相が「聖域なき構造改革」の時に、反対勢力を表現したものだったんですね。
Wikipediaに『抵抗勢力』の項目があるとは思いませんでした。
今や、ニュース記事などでも当たり前のように使われていますし、国語辞書にも登録されているようなので、本作品でも使わせて頂きましたが。
執筆で辞書を使う機会が多いのですが、思わぬ発見ができて知識が深まると嬉しくなります。
ゲーム・アニメなどで一般的になっている、『錯乱(Confusion)』は医学用語でもありますし、『コードネーム(Code Name)』や『座学』は軍事用語でもあります。
『RPG=ファンタジー』というのは、俗識から意味を連想してしまう言葉の代表例なのかもしれません(まったく違う意味なんですけどね)。




