表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/106

つき、刺す世界

The Sky of Parts[22]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


『その通りです。

 あなたは、もう必要のない人間です。

 しかし、感謝はしています。私に、確固たる権力を与えてくれた!

 心配はいりません。

 築きあげて頂いたものは、これからの世でも、長きに渡り続いていきます。

 ――あなたの戦略思想コピー『sagacity』と、この竹内イチロウの新しいあるじ、ルイーナ様に成り代わる形でっ!

 あはははははっ。

 『sagacity』の占い!

 大当たりだったんじゃないですか!

 ふふ。

 あなたを倒すのは、天王寺アリスとあなた――つまり、御子おこであるルイーナ様だったって事ッ!

 本当に、ありがとう。

 ルイーナ様という存在を、世界に具現ぐげんさせてくれて!

 軍を盛り立てて、正当な権力を持つ地位におさまって頂くつもりだから……安心して、舞台から退場してくれ!

 どうせ、いらない存在なんだ――っ。

 ははっ。

 黙り込んでいても、わずかに口元を動かしたのが見えましたよっ!

 あははっ。

 アンタに許可なく、拳銃をもう一丁いっちょう持ち込んでおいて良かった!

 ――本当は、あの場で。

 まあ、思いもしない出来事が起こったが、おかげで、アンタを『排除した』理由を作る必要がなくなったんだ。

 神に感謝しなければな。

 ああ。

 新世界の神は、ルイーナ様だ。

 では、やはり、アンタは消えるしかないじゃないか。

 旧時代の神が排除されるのが、神話というものなんだ。

 さて。

 こんな至近距離で、弾を発射されたら、いくらアンタといえど逃げられないだろ!

 消えろっ。

 消えてしまえ! エリオット・ジールゲン!』



* * * * *



「ああ……ああ……真っ白……ルイと一緒に……寝ちゃったのか……」


「ど、どうしよう……オレも……真っ白。

 エルリーンが、気晴らしに、一発遊ぼうって言うから――これじゃ、見せられないよっ!

 た、たしかにオレも、面白くなって……どんどんさしちゃったよ!

 だけど、誘ったのはエルリーンじゃないかっ!」


「ルイ!

 あたしに責任なすりつけるなよ!

 卑怯だぞっ!

 十二歳になっても、あたしよりも女みたいって言われて、可愛らしいとかってちやほやされてる顔でさ、頬をぷくっと膨らませて、抗議するなって!

 男なら男らしく、自分にだって罪があるって、素直に認められないもんかねっ!

 だってさ!

 ルイも、だんだん熱中してきて、もう一回やろうとか言って乗り気だったじゃないかっ!

 ……あれ?

 外に出てるけど、最後にぶっ飛ぶところおぼえてる?」


「本当だ。外に出てるね。

 さしてたのは、おぼえているけど、最終的にどうなったかおぼえていないや」


「結局、どっちが……というか、まずい!

 真っ白じゃないか!

 夢の中で、その……あれだ。

 あれ。

 将来像って、いうやつ……夢で見ちゃったけど。

 あれは、不採用だよな……はは」


「え?

 何? あれ?

 エルリーン……顔がだんだん赤くなっていく……あー。

 ははーん。

 その夢ってさ。

 まさか、オレのお嫁さんになってる――とか、だったりして!」


「うう……ううーん。

 そんな!

 まさか!

 ははん……うん。

 ごめん。

 そういう夢見ましたっ!

 はい……。

 ってか、これじゃ、ダメかな?

 ……却下されるかな。

 もう、面倒くさいから、これでいいんじゃないかっ。

 先生から見ても、公認カップルだよって事で……」


「よくよく考えると、採用されない方がおかしいよね。

 一つの形として。

 オレも、それにしたいな。

 エルリーンのお婿さん!

 炊事洗濯、雑巾がけ、自転車にも乗れるし、食用キノコだって頑張って集められるよ!

 畑だって耕せるようになったし。

 十二歳にして、田舎引退暮らしで余生を送ってもいいと思うんだ!

 魚釣りは、エルリーンの方が得意だけど、こうなったら、二人で力をあわせて、スローライフ志向で、生きていくって結論で!」


「真面目に考えるか~。

 ダノンから、あたしもルイも、学校に通いたいなら、普通に真面目にやりなさいって言われてるし。

 ……ビンに、槍を刺してくおもちゃとかで遊んでて、進路票が真っ白ですとか、学校辞めさせられる危機に繋がるかもしれない」


「そうだね。

 一発遊んでないで、オレも、ちゃんと真面目に考えよう。

 でも、最後の回、どっちがこの白髭のおじいさんの絵の描かれたコルクを、外にぶっ飛ばしたんだろう?

 まあ、いいか」



* * * * *



「エルリーンとルイは、今日も学校に行ったみたいだな。

 街への通学を希望された時は、どうなるかなって思っていたけど、楽しそうに通ってるね。

 毎日、ルイが、二人分のお弁当を詰め込んで、エルリーンに持たせてる姿が、微笑ましい。

 すっかり、普通の子供たちって姿に見える」


「ああ、ダノン。

 おれも、エルリーンのやつを、学校に通わせてやれるとは思ってもいなかったよ。

 エルリーンの実の父親である兄貴と、おれが、反乱組織に籍があるせいで、街にすら自由に行かせてやれなかったからな。

 ルイのやつもな。

 昨日も、学校から帰ってきたら、自主的に裏庭の草取りなどしてくれていたんだが……まあ、ルイがな。

 基地にいる他の子供たちと、なんら変わりない生活をしているが、やはり、たまにふと、いろいろ考えてしまう事はある」


「ジーンさん。

 それは、俺も同じだ。

 一年前、タワー『スカイ・オブ・パーツ』から救出して、この基地に戻って来た時は、ルイは軍服姿で、エルリーンは赤いドレス姿。

 二人の中身は、連れ去られた時と変わらないし、この基地も、何も変わっていないはずなのに、不釣り合いというか、なぜか、ちぐはぐな感じがした。

 身なりが変わっているというだけではなかったと思うんだ。

 ――おそらくあの時に、俺が感じたのは、もしも、不吉な未来に到達していたとしたら、助け出した時の二人の姿が、そのまま現実として定着していたという、おののきに近いものだったんじゃないかな。

 あんなに幼いのに、必死に戦ってくれたんだ。

 エルリーンとルイが、最後まで希望を捨てずに、めげずに、くじけなかったから、エリオット・ジールゲンの圧制政権が安定して、抵抗勢力がすべて排除されるという、最悪の事態を回避できた。

 そして、あの子たちは、元の時間に戻って来た」


「元の時間ね……はぁ。

 ダノン。

 元の時間なのかね?」


「服装は、どこにでもいる子供たちだと思わないか?

 ジーンさん。

 今朝のエルリーンは、片方のそでが折れ曲がったままのピンクのシャツに、赤いスカート姿だったよ。

 そして、ルイ。

 手入れが雑だったのか、少しシワが入っている水色のパーカーを、Tシャツの上に羽織って、普通の半ズボンをはいていたじゃないか。

 二人のどちらを見ても、安心できる。

 朝起きるのが遅かったのか、エルリーンが寝ぐせを直しながら、ルイに手を引っ張られて、遅刻ぎりぎりだと言いながら、自転車に二人乗りして学校に行くんだ。

 エルリーンもルイも、どちらも、ぴたりと締まっていない」


「まあ、そうだな……ルイのやつも、男のくせに髪が長いせいで、派手な寝ぐせがついていて、食堂で出会った瞬間に、思わず笑ってしまった事だってある。

 ダノン。

 分かってる。

 おれだって、分かってる。

 ルイは、すっかり、どこにでもいる子供だよ」


「そんな、あの子たちが、年相応としそうおうの楽しみを得る事を諦めさせられ、大勢の人々をひざまずかせ、号令を下す立場にされなくて良かった。

 ジーンさんも、そう思わないか?」


「はぁ……。

 ダノン、悪いが、やっぱり無理だ。

 エルリーンの親代わりの叔父のおれとしては、いまだに複雑な気分だよ。

 まあ、やっぱり、お前のお袋さん――ミューリーさんが言っていた通り、『生きていれば、いつか辿たどり着きたい場所に到達できる』だったのは間違いない。

 エルリーンが連れ去られた時に、絶望して、本気のやけを起こして、自暴自棄にならなくて良かったと、今は思っているよ。

 今朝だって、昨日の晩だって、その前の日だって、食堂で、エルリーンのやつと一緒にメシが食べられているんだから」


「昨晩は、ルイが、集めてきたキノコのおかずを分けてもらった。

 自分の好物なはずなのに、俺の皿にものせてくれたよ。

 ふと、ルイの爪を見たら、真っ黒なんだ。必死に、地面の土と戦ってきたんだろうな」


「何度も言うようだが、おれだって分かってる。

 ダノン。

 ルイは、正直よくやってくれてると思うよ。

 どう考えても、いい奴にしか見えない。

 おれは、本当の親じゃないが、娘の恋人が現れたら、世間の誰もが求めるぐらい偉大な人物相手でも、嫌悪けんおして、不愉快にはなるんだろう。

 それにしてもな。

 ルイの場合は、世界中から……まあ、分かりやすく言うと、教祖みたいな感じの注目集めちまってる。

 ……はあ。

 なんでかね。

 エルリーンのやつには、いつかは嫁に行ってもらって、あっちにいる兄貴にも安心してもらいたかったよ。

 あの件は――エルリーンが良いって言うんだから、れちゃいかんとは思うが、ルイの素性すじょうっていうか……将来ルイと結婚するって事は……そのなんだ、どうにも血縁上の問題で、兄貴はなんて思うんだろうなって」


「エリオット・ジールゲン。

 ルイの――ルイーナの実父。

 軍の本拠地、タワー『スカイ・オブ・パーツ』への奇襲に成功した時には、追い詰めたと思ったが、逃亡後、音沙汰おとさたなし。

 いまだに、行方不明だ。

 連れ去られたルイの母、天王寺アリスさん――軍師殿の行方も分かっていない。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』の上層階の一部を破壊するには至ったが、結局は、『sagacity』の防衛および指令システムが回復して、軍を壊滅には追い込めなかった。

 あるじがいなくなっても、『エリオット・ジールゲンという象徴』を信仰してやまない一部の者たちが、奴が残した『sagacity』の指示に従って、『スカイ・オブ・パーツ』を守っている。

 戦力は半減以下になっているが、カリスマ指導者がいないだけに、より厄介になったところがある」


「ダノン。

 たしかにな。

 あいつは、戻ってきたんだが……。

 エリオット・ジールゲンの元側近中の側近、竹内イチロウ。

 名目上は軍医だが、ルイとは、隠し育てられていた頃からの付き合いだって話だし、それなりに前線に出てくるのも目撃されていた。

 『sagacity』の立てる戦略に補助させる形で、エリオット・ジールゲンから指揮官を任命される事もしばしばあったみたいだ。

 奥医師おくいしっていうか、侍医じいっていうか、そんな感じの裏方活動が多くて目立ちにくい存在だが、しっかり立派な階級だってもっていやがる。

 もともと実権がそれなりにあった奴が、軍に戻ってきた事で、本当に面倒だ」


『いずれ、エリオット・ジールゲン閣下が、戻ってみえる。

 しかるべき後進こうしんであると推挙すいきょされ、そして、世界の指導者となるべき素質を秘めたルイーナ様をお迎えする準備をすすめていく事が、きたるべき日に向けての我々の目標である!

 閣下より、全権限の委譲いじょうたまわった、この竹内イチロウについて来てもらいたい』


「いろいろと勘違いしていると、俺としては、言ってやりたい。

 だが、今、軍に残っている連中は、エリオット・ジールゲンの築いた権威を、子であるルイーナに引き継がせたいと思っている奴らばかりだ。

 この竹内イチロウ。

 俺らの『スカイ・オブ・パーツ』への襲撃以前に、水面下で、ルイーナの擁立ようりつ画策かくさくしていたらしい。

 今、こいつについてきているのは、同じように、エリオット・ジールゲンのネームバリューだけは欲しくて、ただ、顔としてはルイーナを据えたい連中。

 元がそれなりの地位の奴が、トップとして、すっぽり入り込めた訳だ」


「はあ……。

 ダノン。

 本当に、頭が痛いね。

 そんな風に、軍からも、とうとばれる地位に置きたいとか言われてる奴が、うちのエルリーンの彼氏なんてな。

 ……はあ。

 今のところ荒っぽいやり方で、ルイを連れて行こうという奴はいないが……というか、不思議なぐらい皆が、のルイをあがめたがっている。

 神の歌い手として、まあようは、カリスマ性を認められた――教祖様なだけに、恐れ多くて、無礼な真似をする奴がこんなにもいないとはな。

 戻ってきた直後は、また誘拐でもされるんじゃないかって、ルイには申し訳なかったが、部屋からの外出もかなり控えてもらったのにな。

 結局は、何もなかった。

 声をかけてくる奴は、今でもいっぱいいるのにな」


「エルリーンが、俺に定期的に報告してくれるんだが、今週に入ってからだけで、三回も声をかけられているみたいだ。

 軍、うち以外の反乱組織、民間人の集まりの一回ずつ。

 あと、エルリーンが直接聞いた訳じゃないらしいが、男子トイレでルイが一人の時に、空耳かもしれないが――『ジールゲン』と声をかけられた気がするとの事だ」


「学校では、というか世間様用に用意した書類では、タワー『スカイ・オブ・パーツ』襲撃の作戦で、一翼いちよくになった女性の姓を使ったって事で、『天王寺ルイーナ』なんだけどな。

 戦災を理由に、今さら書類を作った事になっているんで、両親の欄は空白。

 軍でアイドル活動していた頃の『Luna』と同じ設定にできた。

 だけどな……世界全員ぐらいの勢いで、あいつの息子であるとは知られている。

 万が一、ルイとエルリーンがだぞ。

 本当に本当に、結婚した場合、書類上は、天国の兄貴とは繋がらない。

 そして、エルリーンの叔父のおれとも繋がらない。

 だがな。

 いつか、子供ができた場合は、エリオット・ジールゲンの実の孫って事になるんだろ……。

 駄目だ。

 はあ……。

 ダノン。

 おれは、何度考えても頭が痛い。

 エルリーンとルイが、自然と離れる事になってほしいと、ついつい祈ってしまうんだ!

 幸せそうなエルリーンの顔を見てると、いかんいかんと思うんだがな」


「諸事情を除いて考えれば、ジーンさん。

 あんたの兄さんに、今のエルリーンを見せてやりたいと思うぐらいに、あの二人は幸せそうにしているな」


「はあ……。

 ああ。

 二人か。

 そういえば。

 ダノンは、どう思っている?

 ルイの両親。

 軍師殿――天王寺アリスさん、そして、エリオット・ジールゲンは、どこへ行ってしまったんだろうか?」


「唯一、行方を知っていそうな――俺らの奇襲の際に、共に、一旦はタワー『スカイ・オブ・パーツ』からヘリを使い脱出した、竹内イチロウは、あの二人の行方を公言していないそうだ。

 ここにルイがいるので、竹内イチロウが直接、俺の方に『平和的交渉まがい』の連絡をしてくる事はある。

 ルイーナ――軍属ぐんぞくのLunaを返せのほぼ一点張り。

 エリオット・ジールゲンの行方をたずねると、のらりくらりと言い逃れされる」


「ダノン。

 おれの勝手な想像かもしれんが、ルイ自身は、母親の行方を捜したいとは、かなり思っていそうだがな」


「それは、俺も感じているよ。

 だが、父親の方は、行方が分かったところで、世間では、すでに存在を許されていない。

 軍の連中ですら、知名度利用としては価値があるが、実は、本人に戻って来られては困ると考えている。

 反乱組織の人間や民間人からしたら、罰したい対象だ。

 ジーンさんも、いろいろな意味で同じ事を考えていると思うが、このまま、ずっと行方が分からない方が、ルイの為にもなるんだろうな――」


 日常生活で『抵抗勢力』という言葉を普通に使っていたのですが、コレ、小泉純一郎元首相が「聖域なき構造改革」の時に、反対勢力を表現したものだったんですね。

 Wikipediaに『抵抗勢力』の項目があるとは思いませんでした。

 今や、ニュース記事などでも当たり前のように使われていますし、国語辞書にも登録されているようなので、本作品でも使わせて頂きましたが。


 執筆で辞書を使う機会が多いのですが、思わぬ発見ができて知識が深まると嬉しくなります。


 ゲーム・アニメなどで一般的になっている、『錯乱さくらん(Confusion)』は医学用語でもありますし、『コードネーム(Code Name)』や『座学ざがく』は軍事用語でもあります。

 『RPG=ファンタジー』というのは、俗識から意味を連想してしまう言葉の代表例なのかもしれません(まったく違う意味なんですけどね)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ