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The Sky of Parts[21]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
※ほぼ同時アップロードですが、21章(話)前半は長文なので、中途半端なところで2つに分割します。
「聴かせて……ルイーナ。
私と、エリオットに……あなたの歌を……」
「あははは。
それにしても……。
憎しみのすべてをぶつけてくれるな、ルイーナぁ!
僕によって、誕生させられたところから、お前は、この父を敵だとみなしていたという事か?
胎内にいるうちから、母親のアリスを、僕の下に繋ぎとめる為の鎹として利用され――その母の温もりからも、僕の手によって引き離された!
ルイーナ。
お前は、ずっと僕の便利な道具。
このタワー『スカイ・オブ・パーツ』に連れて来られたアリスが、容易に逃げ出せなくなるように、心を絡めとっておく役を演じさせられた!
そして、この先も――父が築いた権勢を維持する為に使役される。
はは。
愛おしく思うエルリーン・インヴァリッドに繋がった、見た目だけは上等で、真実は狡くえげつない操り糸を、取り回して生きていくんだっ!
さあ!
アリスっ!
諾了しろっ。
僕と君の考えが、一致すると――賛同するんだっ!」
「……YES、エリオット。
我が子は、世界のすべてを照らす、絶対的で輝かしい存在となる。
今から始まるの。
――もうすぐよ。
のちに言い伝えになる、その最初の一文字を書き込むのは、今。
我が子は、歌い続けるしかない。
エルリーンを護る為に、止め処なく歌声が響き続ける――神話を紡ぐまで、止まない。
それは、歴史に名を残す英雄の物語。
戦を終わらせる為の戦――戦争を終わらせた一つの伝承。
……見せて。
私は、それが見たい……それをするのは、あなたたち二人――そして、この天王寺アリス。
さあ、始めましょう!
……ルイーナっ!
絶対に、歌い続けろっ!
歌え、歌え、歌え、歌えっ! 歌うんだ!
私を護る騎士は、歌う!
絶やす事なく、神の詩を編み続ける!
神の御伽噺が――天王寺アリスの祈祷が、現世に降り立つのを信じろっ!
エルリーンっ!
私の与えた勇気を!
自分を信じて、使えっ!」
「……アリス?
まさか……くっ!
な、なんだと……。
馬鹿なっ。
ど、どういう事だっ!
建造物関連に異常があった場合のアラートが発令されている?
端末への通知――『sagacity』からの警告は、何も……。
ふふ。
……あはは……『sagacity』の一部機能が停止中?
検閲を止めているのに……ルイーナの歌声に反応しているっ。
いいや!
違うっ!
バックアップ経路からのプログラムの逆流だと!
アリスっ!
君かぁあああああ!
これをいつ!」
「エリオット。
私は、ぬいぐるみに囲まれて、お絵かきしていたら――触れる事ができただけ。
キリンさんとロバさんのぬいぐるみは、特にお気に入りよ」
「あははは……。
しかし、それにしてもおかしいではないかっ。
どういう事だ?
バックアップ経路こそ使っているが、それを実行しているのは、『sagacity』本体だ。
本体が、バックアップ経路の向こうに仕込まれたプログラムを吸い上げているんだ!
傀儡に仕立てている時、作業させる為に与えた権限では、アタッチ不可能なはずだろっ。
――僕が言いたい事、分かっているな?
なあ、た……ぐっ……ま、窓ガラスが……な、なんだとッ!」
「空からの爆撃だと思われますっ!
ひ、火花のようなものが!
暗い夜空で、はっきりとは、目撃できませんでしたが……複数の飛行物体が、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』に、攻撃を仕掛けていると思われます!
――このような状況ですが、どうなさいますか?
閣下」
「――この件は、後にする。
マニュアル操作に切りかえたが、反乱分子の連中かっ!
『sagacity』の指揮命令系統がマヒさせられている!
防衛関連も機能していないっ。
対空ノイズが消滅しているじゃないかっ!
混乱に乗じて、足もと……地上でも、反乱分子との戦闘になっている!
『スカイ・オブ・パーツ』内部にも、すでに侵入を許しているようだ。
……あはは。
アリス……。
このタワー『スカイ・オブ・パーツ』に連れて来られる前に……四年も前に、今日という、今という時間に狙いを定めて……罠を仕掛けたのかい?
胎内で繋がっていた、あの頃に気づいていたとでもいうのかね?
ルイーナの神通力にっ!
アリスっ!
答えろぉおおおっ! アリス!」
「今の私は、伝えるだけの役――」
「アリス……っ。
それが、これなのか?
ははははっはっ。
こんな伝言を世界に向けて、用意していたのかね。
本当に、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』への攻撃を決行できるかどうかも分からないのに……っ!」
『――私は、天王寺アリスと言います。
エリオット・ジールゲンと、その軍を掃討する為の作戦が開始されます。
戦闘とかかわりのない民間人の方、そして武力を放棄する者は、できる限り、都から離れ……避難を開始して下さい。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』への攻撃を決行します。
……繰り返します――。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』への攻撃を決行します。
――小鳥が……塔の上に、青い瞳の小鳥が囚われているはずです。
エリオット・ジールゲンの圧政に、苛まれている皆さん。
もしも小鳥が、あなたたちにとって、必要な存在になっていれば――助け出してあげて下さい――。
小鳥は、必要と思う、皆さんのものです。
羽ばたく姿を、仰ぐ事が、皆さんの希望の未来に繋がるのなら――小鳥を地上に、舞い降りさせてあげて下さい。
……繰り返します――。
――私は、天王寺アリスと言います……』
「今の君ではない……この塔に閉じ込められる前の君からの……旧時からの便りだ。
そうか。
四年前、決行される事のなかった君の作戦の為に用意されたものか。
反乱分子どもが、世界中に向けて配信しているっ。
『sagacity』は黙らされ、君に作らせた、にわか仕込みの検閲に引っ掛かる事もなく、拡散され続けている!
そして、ルイーナの怨念の歌もっ!」
「……歌声がっ!
このルイーナ様の歌声が……外に……そんなこ……と……うわぁあっ!」
「動くなっ!
誰も動くなよっ!
……あたしの……いや、あたしとルイと軍師殿の仲間が助けに来たって事だろっ。
エリオット・ジールゲン。
観念して、ルイと軍師殿を解放しろ」
「……小娘っ……!
どうして……拳銃なんて……っ」
「お嬢さん、見事な蹴りだっ!
大きな声にしてまで自慢する訳だ――。
静かに時機をうかがい、見事に竹内イチロウから拳銃を奪い取った。
なあ。
答えてくれ。
君の手には――両手には、それぞれ拳銃が握られている。
一つは自分の頭に向け、もう一つはルイーナの方に向けてな。
……教えてくれないか?
なぜ、お嬢さんが、それを持っているっ!
今、竹内イチロウから奪い取った拳銃ではない!
どうして、エルリーン・インヴァリッドの手に、以前、アリスに持たせていた拳銃が握られているっ!」
「ふふーん。
花嫁道具だって、もらったんだ!
いくら鳥カゴに閉じ込めてる子供だからって、あたしを『職務質問』した方が良かったんじゃないか。
――素直に同意させて、ポケットの中身を全部出させて、持ち物検査っ。
この赤いドレスだって、軍師殿が選んでくれたって。
ふんわりした服って、今まで興味なかったけど、いいもんだよっ。
ポケットに拳銃を忍ばせてるのを、あんたたちに気づかれなかったなんて!」
「……なるほど、あの日か。
あの時、花嫁衣裳ではなく、それを――拳銃を君に手渡すのが、アリスの本当の目的になっていた訳だ。
ところで、いいのかい?
お嬢さん。
僕や竹内イチロウが、ルイーナに近づいても……。
解放すると見せかけて、薬の効果が即時に出るように器具を操作するかもしれない。
どうなると思う?
くくっ。
そうしたら、せっかく、僕らを討ち果たしたとしても、ルイーナは、僕の『息子』になってしまう。
反乱分子の連中は、エリオット・ジールゲンの『息子』に何をしでかすか分からんぞ?
はは。
ルイーナを通して、アリスの正体も伝わる事になる。
あんな動画を流して、英雄気取りのアリスも、所詮はエリオット・ジールゲンの伽相手だと知られれば、どんな扱いを受けると思う?
あははははっ。
お嬢さんっ!
君こそ、動かない方が良いのではないのかね!」
「くっ。
ル、ルイに何かしてみろ……あたしは……引き金を同時に引くっ!
いいかっ!
ルイが、敵になるような事があれば、ルイの望み通りに、あたしはルイを倒す……そして、自分も――」
「うんうん。
お嬢さん。
僕は、君を馬鹿にしたり、軽んじている訳ではないんだ。
本気なのは、理解しているよ。
だから、僕も、タケも、君の命令を受けて、軽々しい行動はしていないじゃないか。
ああ。
誤解しないでくれ。
天王寺アリスは、自ら、僕の方に倒れ込んできたんだ。
こうして優しく受け止めてやっただけさ。
僕の腕の中にいるのは、アリスにとっては、安らぎを感じるに等しいと考えてもらいたい」
「……変な真似したら……撃つからな……あたしは、狙ったら絶対に外さない!」
「撃つチャンスは、たった一度きりだ。
お嬢さん。
僕が、おすすめしておいてやろう。
その切り札を使うならば、アリスの為ではなく、彼氏の身に危険を感じた時にしたまえ!」
「ルイ……頑張れ。
絶対に、歌い続けて。
もうすぐ、ダノンたちが助けに来てくれる……それまで辛抱して……お願いだから」
「はは。
互いに動く訳にはいかんなぁ。
お嬢さんが、己の立場を正しく理解したり、向後の目算が瞬時にできる女性で良かったよ。
この場にいる全員の血が流れ、徒爾に終わるなんて、君だって嫌だろ?
うんうん。
好きなだけ悔しい顔を見せてくれて、構わないさ。
それでも、拳銃を握る事に集中してくれているなんてな。
お嬢さんの精神力の強さ、賛称させてもらおう。
だが。
アリスには、少し言ってやらねばな――どうせ、お嬢さんも動けないんだ。
騒がず、大人しく、拳銃に手を添える事に、君は傾注したまえ。
――あははっ!
さて、アリスっ!
従順な様を見せ、侍する振りを散々して!
たまに出てこられる本当の自分を限界まで使ってっ。
はしたない真似をしてくれたようだなぁ!」
「エリオット。
あなたのお部屋で、夜を共にさせてくれてありがとう」
「アリス……っ。
困るなぁ。
母さんだろうと、妻だろうと、僕のクローゼットを勝手にあさるような真似をして……封じてあったロック解除までこなしてしまって、僕から与えられた拳銃を持ち出すなんてっ。
あはっははははは。
やはり、天王寺アリスは、消えてしまった訳ではなかった!
はは……あはっははっはっはっ。
主の僕がいる間は、監視カメラが止まっていて当然だ!
万が一、気づかれても、いつも通りにクローゼットをあさって遊んでいたと言い訳しながら、僕の寝所に戻ってくるだけだからな……はは……あはははっ!
まさに、寝首をかいてくれた訳だっ!」
「とても、うわずった気持ちの夜を過ごさせてくれてありがとう。
エリオット。
目の前には、あなたの穏やかそうな寝顔があったわ。
ぬいぐるみ達みたいに、強く抱きしめても、眠っていてくれた。
ふふ。
軍人が、お仕事のはずのあなたなのに――あれほどまでに、この天王寺アリスを信頼してくれていて、ありがとう」
「ああ。アリス。
本当に、君は、愛おしい存在だぁ。
そんな虚ろな瞳をしていないで……もっと、僕に、真を取り戻そうとしている君を、見せつけてほしい。
恐ろしいんだ。
僕の信頼通りに、裏切ってくれたね!
君に任せたプログラムが、『sagacity』から引き剥がせないっ。
まるで、鎹でも打ちこまれ、繋ぎとめられたかのように!
離す事ができないんだっ。
……あはは……アリスは、僕の希望をかなえてくれた!
一思いに、僕を倒す事も可能だったにも関わらず……崩壊の様を見せつけてくれるなどとはっ!
君の麗しい残忍さ、冷酷ぶりを称えたくなると共に、堕とされた事に酔い狂いたくなる!」
「エリオット、たくさん描かせてくれてありがとう。
お空の何もないところに、クレヨンで、落書きしたような『物語』を見せつけられていたら、嬉しいわ。
私と共にある事を願ってくれた、あなたの手の中で、描かせてもらった『物語』なんだから――」
「あはははははははっ。
よくこんな些細な……気づくとしたら0.01%の可能性しかないような、脆さを露呈するシステムの欠陥部分を使い――ルイーナの歌声を『sagacity』に流し込む……賊心の仕組みを思いついたものだっ。
録音でも一定の効果があるが、こんな風に、『sagacity』の全機能を心地よい眠りに誘っていく、ルイーナ自身から発せられる歌声が、君の狙い通りに手に入ると確信していたのかっ!
この歌は、僕の――エリオット・ジールゲンのすべてを、打ち消し、握り潰す為、呪的な意が込められ、唱えられている。
だからなのかっ!
僕のもう一人の子、いや、僕自身の思想コピーでもある『sagacity』を、昏絶させるなんて!
はは……。
不確かで、現実性を伴わない目途であったはずなのに、霊魂じみた人の心から生まれた君の願いが――0.01%の希望が、制勝の価値を与えたんだっ!」
「心地よい子守歌を、『sagacity』と、そのマスターであるエリオットに、たくさん聴かせてあげたくて。
どうかしら?
そして――我が子が、世界を手に入れる『物語』」
「はは……本当だよ。
アリスっ。
君は、母親失格なんかじゃない。
よく、そんなに我が子を信じられたものだ。
我が子の手に、現世を握らせようなどと画策できたものだ!
……見ろ。
そして聞けっ。
世界中の人間が、天王寺アリスの息子――ルイーナを求めている!」
「我が子は――ルイーナは、世界のすべてを照らす、人々が光明を見いだせるような、絶対的で輝かしい存在となる――現を真に支配する者となるのよ」
「馬鹿な事になぁ……このエリオット・ジールゲンの手から権威を奪い……それを、君の子であるルイーナに受け渡せと、世俗に言わしめる事に成功している!
――おめでとう、アリス。
君の作戦は、完全に僕を出し抜いた」
「エリオット……今の私、どう見える……勝利に酔いしれてる……それとも、愛する人に背いた狂気の中にいる?
お前が、いつも美しいと言ってくれる、最高の軍人顔をしてい……る……」
「……もっと、悦べよ……。
次代の支配者として、世界から求められるルイーナを産み落としたのは、アリス。君なのだから。
そう。
君は、我が子に『力』を握らせるように仕向けてしまったんだっ!
分かっているなっ。
この意味が……あははははっ。
エリオット・ジールゲンを討ち滅ぼす形で、二人の愛し子のルイーナが、皆乍ら統べるべきだと望まれる現を創ってしまったんだぞ!
ありがとう、本当に感謝するよ……ははっ!
こんなに、僕と想いを合わせてくれて、とても嬉しいよ……あはははっ!
母さん、いや、アリス姉さん。
この僕が望む『物語』を創り、読み聞かせてくれたんだな!
――なあ。
僕が、話しかけているんだ。
返事をしてくれないか……首に、手をかけられても、ぐったりして、されるがままじゃないか……なぁ。
アリスっ!」
「軍師殿っ! や、やめろ!」
「ルイーナ様を擁立する動きっ!
……まずい……まずいぞっ!」
「ふんっ。
あはっはっはは!
その通りだ。竹内イチロウ!
僕は、アリスを連れて、一旦この場を去らせてもらう。
お前は、どうする?
……ふふ。
無言でも伝わってくる。
このエリオット・ジールゲンに、ついて来るしかないのだろう!
刻下、それ以外に選択肢はないはずだっ。
そうだっ!
竹内イチロウ。お前にとっては、あまりいい状況ではないっ!」
「動くなって言ってるだろ!
……あたしは、たしかに誰かを撃った事は一度もない!
だけど、分かってるんだろっ。
あたしが、この両方の銃口で……あたしとルイの二人を、確実に人質に取ってるって!
ルイに何かしてみろ……あたしは、軍師殿から与えられた勇気を……必ず使うっ!」
「そうだな、お嬢さん。
もちろん理解しているよ。
しかし、何度も言わせないでくれ!
君の決意は、ルイーナを傷つける可能性があるなら、貫くというものだっ。
ははは。
僕が、天王寺アリスを連れて去ろうという事態に――君は、その勇気を使う事はない。
いや、できない!
そこで、世界を従える独裁演説の詩を高らかに読みあげているルイーナを、君は、本当に愛してしまっているから!
今、僕らを見逃すだけで、二人の未来が、二人の望んだ通りに繋がるのだから。
くくっ。
だけどな。
勘違いしない方がいい!
そのルイーナは、もう、君の知っているルイーナじゃないっ。
僕に強いられる事なく、『支配者』となってしまったんだ!
引き返す事ができない。
――そんな存在で良ければ、君に与えてやろう。
蝶番が壊れて、開放されているしかない扉を、君とルイーナは、どう閉じたままにしようというのだ?
どうやるつもりか聞かせてほしいっ」
「う、うるさい……あんたさえいなければ……あんたさえいなくなれば、ルイは、ルイでいられるんだ!」
「あははははっ。
では、ごきげんよう。
お嬢さん。
反乱分子の連中が、まもなくこの上層階に、君たちを迎えに来てくれる。
望み通りに、元の生活に戻るといい。
そこは、並行世界の日常だろうが――。
だが、偽りではない。
それが、実は真実であったと味わいながら、誕生以前から呪われていた、青い瞳の公子……いや、世界の若き長と、淡くて残酷な恋をするといい」
「ま……まて、エリオット・ジールゲン……大人しく、ダノンたちに――」
「ルイーナぁ。
お前が、その力をどう振るおうとも、勝手だが……ふふ。
それは、この父から奪ったものなのだ!
与えたのは、母であるアリスだっ!
あははっはっはっ!
実に、愉快だなぁ。どんな現を、お前は望むというのだっ。
くくっ。
お前は、どう生きるというのだ!
何もかもが、そのままで、何もかもが違う世界で、どう過ごすというんだ!
はは。
ではな、次代の支配者を望まれる者よ。
定めに飲み込まれて、果てて、それが結びにならぬ事を願っておいてやろう」




