Marked for Death
The Sky of Parts[21]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
※ほぼ同時アップロードですが、21章(話)前半は長文なので、中途半端なところで2つに分割します。
「ルイーナ様。
我が主君として、この竹内イチロウがお迎えにあがりました。
――こちらへ。
ご自分の意思で、御父上の執務室へ向かって頂けますか?
無礼な真似は、できればしたくありません。
さあ、あなたが、エリオット・ジールゲン閣下の跡を継がれるのを待っている者の為にも――」
「おいっ、整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎。
あたしも連れていけ。ルイに、ついていく」
「エルリーン・インヴァリッドさん。
貴女に仕えさせて頂くのは、二日後からです。
――ただ、内々《ないない》といいましょうか。
程なく、貴女が、ルイーナ様と縁付く予定がありますので、本日より、そのように遇させて頂きます。
上に立つ者として、品のある行動を願えませんか?
ルイーナ様もですが、無思慮な振る舞い。
そういった真似をなさるのは、御身の為にも、控えて頂きたい」
「タケ。
逆らったりはしないよ。
だけど、オレとエルリーンは、手を握りあっているんだ。
――このまま二人で、エリオット・ジールゲンの前までは行きたい。
オレは、何も企んだりしていない。
あいつの前で、反抗する意志は、もう持っていない。
すべて従うよ」
『……タケ。
お嬢さんも、連れてきてやれ。
手は――しっかりと、ルイーナが握っていてくれるそうだ。
心配しなくとも、離したりはしないさ。そんな事をすれば、彼女の身に危険が及ぶと、理解しているから。
VRゴーグルも必要ない。
二日後には、お嬢さんは、世間の人々からも、ルイーナの婚約者として祝福される事になるのだから』
「御意のとおりに。
エリオット・ジールゲン閣下の御心のままになるように。
……ああ。
ルイーナ様、エルリーン・インヴァリッドさん。
お二人に、念の為と思い言っておきます。
私は――竹内イチロウは、拳銃を携帯しております。
その事を、お忘れなく」
『しかし、お嬢さん。いいのかね?
別に立ち会ってもらうのは、僕としては構わない。
だが、お嬢さんがそばにいたからといって、何かが変わる訳ではないのだよ?
定め事に従って、すべて滞りなく執行されていくだけだ』
「なんだよ。
恩着せがましいなぁ。あたしを心配してあげました……とでも言うつもりかよ!
あんたなんかに、そんな気をつかってもらう必要はない。あたしも、ルイもな」
『……いいだろう。
では、二人でおいで。このエリオット・ジールゲンの前に』
* * * * *
『――小鳥が……塔の上に、青い瞳の小鳥が囚われているはずです。
エリオット・ジールゲンの圧政に、苛まれている皆さん。
もしも小鳥が、あなたたちにとって、必要な存在になっていれば――助け出してあげて下さい――』
* * * * *
「やあ。
二人とも、よく来てくれた……自分たちの足で。
ふふふ。
物怖じする必要はない。
ここまで来て、どこにも逃げられる訳ではないのだから。
鳥カゴの中のように、二人で睦まじく、陽気な気分で笑いあったらどうだ?
なあ、母さん――いや、アリス。
ご覧。
君の大切な子供たちが来たよ。
アリス。
もう、この僕を、我が子だと思う必要はないと、君も理解したはずだ。
ルイーナの名を呟きながら『目をさました』君と、ルイーナを、すぐに会わせてあげられて、僕は嬉しいよ。
僕の胸に抱かれ、新生の時を迎えてくれたアリス。君への褒美としてな」
「……ルイーナ……かあさんは……エリオットと共にある……あなたの為にも……」
「……は、母上?」
「あはは!
そういう事だ、ルイーナっ。
母上は、父上の手の内にいる事を願ってくれているんだ!
こうして、父上の足もとで、淑やかに、慎み深く座っている。
身体を傾けて、父上に身を委ねてくれているんだ。
ほら。
こうして、父上が手を伸ばして、髪を撫でてやっても、さもそれが並みであったかのように、恭しい様を見せてくれている。
――母上は、ここにいるんだ。
あははっはははっ。
ルイーナぁあ。
お前も安心して、僕の下に戻って来いっ」
「天王寺アリスの願いは……エリオットと共にある事で、かなう……だから、私は……」
「ぐ、軍師殿……ど、どうしてっ!」
「母上……母上っ!」
「あはははっはははっ!
君たち、本当に可愛らしいねっ!
感じるよ。
二人の心が、絶望に揉まれ、悲観の粘りに絡まれ、厭世的な心地に捏ねられていく、その移ろいの通い路のすべてをな!
強く手を握りあえばあうほど、希望が失せて、未来が見いだせなくなっていっているんじゃないかっ!
くくっ。
だが、心配はいらない。
ほんの少し、別れてもらうが、これからも、一緒にいられるじゃないか――永遠になっ。
さあ。
こちらへ来い、ルイーナ。
このタワー『スカイ・オブ・パーツ』で、父と母と共にあった日に戻してやろう」
「……なんだよ……そんなもの用意して……そこに、ルイを行かせろっていうのかよっ」
「ん?
ああ、この柱か。
そうだ。
僅かな時間で終わらせる事もできるが、小鳥は、羽ばたきたくなるかもしれない。
せっかく、決断してくれたんだ。
僕の『息子』に戻る事を――。
ここに繋がれたら、途中で気が変わってしまったとしても、最初の想いを貫いてやれると思ってな……くく。
親としての優しさだよっ。
あははっは。
……おや!
お嬢さん。
悔しさに溺れたからといって、唇を噛み切るのは、今は、特にやめた方がいい。
美しい顔に、自ら傷をつけるな。
君は、ルイーナの婚約者として、大勢の民衆の目に晒されるのだから。
そうして、群衆に見守られながら、父親の仇であるエリオット・ジールゲンと続き柄を結ぶんだっ」
「うるさいっ……え……ちょっと、ルイっ!
何するんだ!
……えっ!」
「えへへ。
いきなり抱きしめて、エルリーンを油断させて、ほっぺをもらっちゃった!
ごめん。
コレ、本で見た事があって、知ってた。
性格悪いね。
オレって。
驚いて、呆れてしまったと思うけど、そんなに、目をぱちくりさせないで。
どうしても、最期にほしかったんだ。
エルリーン班長っ!
みんなのところに戻ったら、一人で廊下掃除するから、許して!
しかも、しかもぉ~十日間連続で頑張るっ。
あははは!」
「う……嘘つきぃいい!
……性格悪いよ。ルイ……本当に性格悪すぎだ……」
「あちゃ、また、泣かせちゃった……エルリーン――」
「言うな!
それ以上……言わないで」
「ううん。言わせて。エルリーン、さよなら。
ありがとう。
オレいくから――じゃあね!」
「おいで、僕の最愛の息子。
これからも、この父の胸に抱かれて生きていく為に――」
「……っ!
エリオット・ジールゲンっ!
彼女には、絶対に手を出すなよ! エルリーンは、オレについてきてくれただけだっ」
「もちろん。
何度も言うようだが、それは、僕の『息子』に任せようと思っている。
――さあ、ルイーナ。
お前がいるべき唯一の場所。
そう。
父たるエリオット・ジールゲンの手の内に戻って来るんだ!
逃げるつもりは、もうないんだろっ」
「ああ。オレの事は、好きにすればいい!」
「ルイーナ、いい心構えだ。
そして、態度も気に入った。
タケの薬を使っても心根を変える事はできない。
ふふ。
すっかり成長してくれたじゃないか。
そんなお前を、僕の手に取り戻せるのかと思うと、実に愉快だ!
あはははははっ。
……そうだ!
一つ謝っておこう。
アリス――母上は、まだ、はっきりと現を見つめていてはくれていない。
だが、心配するな。
目をさましたお前を、母上は、優しく抱きしめてくれるはずだ。
愛する僕との間に生まれた、可愛い我が子なのだから」
「母上にも、手を出すな!」
「無論。
至極当然で、返事をする必要もない。
お前が、以前から強く望んでくれた通り、やっと母上を、終生の伴侶として迎える事ができる。
二日後には、アリスにも夢からさめた顔をしてほしいと考えている。お前とお嬢さんの門出を、温かく見守ってくれている事を願っているよ。
さあ。
ルイーナ。
その柱の前に立ってくれるか」
「……ルイーナ?
エリオット……私は……我が子の為に……」
「アリス!
あの子の母として、僕と一緒においで!
この伸ばされた手を握るんだ。
立ち上がって、共に来いっ。
ルイーナのところへ――。
まだ幼い故に、絵空事のまじないを憑拠と心得違いしてしまっているんだ。
親である僕たちが手を取りあい、心を共にし、我が子を救い出してやろう」
「ルイ!
……くっ。
お前……っ!」
「おっと。
動かないで頂きたい。
単調で、芸がなくて、申し訳ありません。
エルリーン・インヴァリッドさん。
すべての事が終わるまで……この竹内イチロウが、貴女の頭に銃口を向けさせて頂きます。
先ほども言った通り、まだお仕えする前だという事を、ゆめゆめお忘れなきよう!
ふふ。
貴女は、大人しく、事の成り行きでも見つめていればいいんだっ。
他にできる事なんてないだろ!」
「くっ……ル、ルイ……軍師殿っ!」
「……母上。
もしも、本当の母上がまだいるのなら……オレの事は、気にせずに、エルリーンを連れて逃げてね……」
「ルイーナ……母さんが、あなたを救い出してあげる……その為に、エリオットと共にある」
「母上……目をさましてからでいい。
オレも、そいつの仲間――『敵対』相手だと思って、倒してね」
「――ルイーナが、頂点に君臨する世界を、母さんに見せて……それを叶える為に、あなたは、エリオットを継ぐの――」
「うんうん。
ルイーナの母として、アリス。君が、それを強く望んでくれていたと知って、喜ばしいと思ったよ。
僕と共にあり、我が子のルイーナが世界を手にする――それが、天王寺アリスの真の願い。
聡明な君なら、気づいてくれていると信じていた。
そうだっ!
それは、進むべき唯一の針路であり、現に与えられた入るべき道途。
アリス!
生まれ変わった君には、隔たりにしかならない世俗のしがらみなどない。
エリオット・ジールゲンの妻として、ルイーナ・ジールゲンの母として、そして君自身が、アリス・ジールゲンとして、現し世を統べる存在となるんだ。
すべては、この僕が描いた『物語』の通りとなる。
さあ。
君は、水先案内人。
アリスが、通るべき道の順を示す。
絵本の頁をめくるように、朗らかな気分で、僕らの愛しい小鳥の羽翼となるんだ。
生まれてすぐの雛を優しく抱きあげていた、君のその手で、ルイーナを柱の前へ――」
「……は、ははうえ……!」
「ルイーナ……わたしは、エリオットと共にある事で、あなたを、本来いるべき場所へ導く……」
「……そうだよ。
それで鍵を――ロックする事ができる……。
アリス。
ありがとう。
君の息子は、どこへも逃げ出さない。
後は、僕らの最愛の息子として、戻ってきてもらおう。
ルイーナ。
歌ってもらえるか?
もう、いいだろう。
今、歌わなくとも、どうせ、その歌声は奪われるんだ。
点滴を始めさせてもらったが、実際に使いたい薬は、お前の歌声が途絶えた瞬間に、効果が出るように、少し細工をしておいた。
ぜひ、聴きたい。
幼い頃、眠れない時に、必死に羊を一匹一匹数えていたように――数え上げる為の歌のようなものを。
僕の可愛い小鳥。
お前が、心地よく眠ってしまったのだと、この父に教えてほしいんだ。
あははっはははっ。
君の口からも、ルイーナに言ってやってくれないか。アリス!」
「……ルイーナ……歌って……エリオットに、歌を聴かせてあげて……母さんも、あなたの歌が聴きたい……。
絶える事なく。
ずっと、ずっと、これからも、あなたの歌を聴き続けたいの……だから、歌って」
「あははっはははっ!
ははっ。
ルイーナっ、母上の願いを、聞いてやらねばならないと思わないかっ!
歌え!
そうして、僕の『息子』として戻って来いっ!
ほうら。
父上も母上も、ルイーナ。お前の歌を聴いてやるぞ!
これからも、ずっと、ずっと。
ふふ。
独裁者のかたわらに立ち、歌い続ける向後を、僕は、お前の為に用意してやっているんだっ!」
「……汚い真似だ。
いい……歌ってやるっ。
オレの怒り、苦しみ、恨み……そういったものを込めて、聴かせてやる……っ!
エリオット・ジールゲン。
お前の何もかもが、壊れていくように。
台無しになるように。
破滅し、あとには何も残らない。
すべてが崩れていく……そんな気持ちを、今なら本気で込められる!
聴きたければ、聴けばいいさ。
聴いてしまって、お前も堕ちればいい――。
さあ……滅亡の叙事詩よ、現世に降り立つ時だっ!」
「……ルイ……?
……うわっ……なんだ……この歌……聴いてるだけで……。
ルイの苦悩のすべてが、込められてるって事か。
あいつを呪ってやりたい気持ちが……」
「ああ……とてもいい。ルイーナ。
お前には、こんな力があったんだな!
これが、『sagacity』に向けられていた、真の怨念!
父であるエリオット・ジールゲンのすべてを否定する――波旬の霊力。
他人の心をかき消して、従わせ、思い通りに操るような強大な力。
ルイーナ!
我が愛しの息子っ。
くくっ。
興奮するだろう!
己が持つ力を、ためらう事なく、外に出すのは!
遠慮はいらない。
僕は、お前に解き放ってほしかったんだっ。
あはははははっ。
これこそが、独裁政治を取り熟し、強圧体制を実現する為の推進力っ。
もう、無邪気を装ったり、悪気なさそうな態度を見せる必要はない。
ルイーナ・ジールゲンとして、世界を傅かせ、人々を従わせ、何もかもを献じさせる事を素直に悦び、その快楽に身を委ねるがいいっ。
そうだ!
それは、お前がなせるわざなのだから。お前が、お前である為に、歌えっ!
お前の傲慢で、横柄で、専断な――天性の気質を描き出すんだ!
すべての縛りを解いてしまえっ! ルイーナぁ!」
「ルイ……!」
「こ、これが……本当のルイーナ……さま?
私が、竹内イチロウが、よく知るはずの小さな子供ではなく、偽る事ない、正真正銘のルイーナ様なのか……」
「……止め処なく、ルイーナの歌声が、響き続ける。
それは、世界を統べる力となる。
現のすべてを、支配する。
その為に、私は、エリオットと共に……」
「さあ、アリスっ!
僕と、手を重ねるんだっ!
月明かりない、闇黒が支配する夜空に、君と僕がこれから成す一篇の詩を見せつけるように!
聖杯のようになっている部分――ここに、愛し子ルイーナを取り戻す為の穢れなき神聖にして、不吉で禍々しい、この小瓶の中身を、二人の手で注ごう。
アリス。
一緒に腕を振り上げるんだ。
この僕と、想いを一つに――」
「……や、やめて……軍師殿っ!
目をさましてっ! それを注いだら……ルイがっ!」
「くくっ。
お嬢さん、もう手遅れだっ。
僕とアリスの腕は、振り下ろされた後。
ルイーナが、この呪詛の歌を途切れさせた時――僕らは、『本当の息子』を手に入れる事ができる。
聞いてやろうじゃないか。
親に言えずに、独りで隠し秘めていた慨嘆を。
父である僕を蹂躙し、侵す――存在すらも抹消してやりたいほどに害心を抱いた挙句、ためた怨言をな!」




