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黒暗で見る夢

The Sky of Parts[20]

■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


『お目ざめですか、天王寺アリスさん。

 ふふ。

 どこにいるか、お分かりではないみたいですね。

 いえ。

 お気になさらず。

 これ。

 検査の一つなんですが――はい、そうです。

 簡単な事です――ああ、ありがとう。

 後片付けは、私がやっておくので、貴女は、ゆっくり休んでいて下さい。

 一度、ぐっすりと眠りましょう。

 もうすぐ閣下が、お迎えに来て下さるので、そうしたらお部屋に戻れますからね』



* * * * *



「なぁ。

 あたしが、どっかり真ん中で胡坐あぐらをかいて、ベッドの上を占拠してるから――ルイは、床で、立てた両膝りょうひざを抱えて座ってるわけ?

 なんで、あたしに、背を向けて座ってるわけ?

 喋りかけてくる事もない。

 ルイ。

 ベッドの上に座って、適当にバカ話でもしないか?

 ……ごめん。

 そんな気分じゃないよな。

 好きなだけ、体育座りして、落ち込んでいていいと思う」


「オレ、落ち込んではいないよ。これからについて、考えていただけ――」


「……あんまり考えない方が、いいんじゃないか。

 あたしは、なんとかうまくやるよ。

 だから、できたら、ルイも、うまくやってほしい」


「無理だと思う。

 明日連れて行かれたら、オレ、もう戻ってくる事はない」


「そ、そんな事……言うなよ。

 ルイ。

 最後まで諦めないって、言ったじゃないか……わぁああああんっ」


「ごめん。

 泣かないで、エルリーン。

 ――あのさ。

 オレ、諦めてる訳じゃないんだ。

 あいつが、今回は本気だって分かって、じゃあ、どうしたらいいかなって考えていたんだ。

 そっちへ行ってもいい?

 ベッドの上に座ってもいい?

 エルリーン、横並びに座ろうよ」


「うん、座って。

 ……なんで。

 あたしじゃ、ルイを助け出せないのは、分かっていたけど……でも、どうして……奇跡なんて信じちゃダメって事なの!」


「エルリーンの方が、班長なんだから、しっかりしてよ。

 相談させてほしいんだ」


「……なんだよ、ルイ副班長」


「勇気を、オレには使わせてくれないよね?」


「……ダメだ……。

 ダメに決まってるだろっ!

 簡単な事じゃないんだぞっ。

 あたしだって、いざとなったら、たった一人でできる自信がないのに。

 ルイ。

 お前になんて、絶対に勇気は使わせられない!」


「うん。

 そういう返事が返ってくると思っていた。

 そして、勇気を使っても、オレじゃ絶対に一人でできないって。

 だからね、エルリーンが使ってほしい。

 エルリーンの勇気なんだから、エルリーン自身の為に使ってほしい。

 ――ただし、絶対に無理はしないで。

 結局、口だけになってしまって……エルリーンを逃がしてあげられなくて、ごめんね。

 エルリーンの命は繋ぐよ。

 きっと、何か道はあると思う。

 だから、必ず生きて」


「ルイ……やめろって!

 そんな澄んだ目して、優しそうな表情を作るなよっ!

 嫌だっ。

 敵になるから……敵なんだから、倒してくれって……そんな事を言わないで!

 独裁者の跡取りになったら、もう引き返せないなんて……おかしいよ。

 そんなのおかしいっ!

 だって、ルイはルイじゃないか!

 どうして。

 誰も、ルイを見ないんだ……ルイが何したっていうんだ……悪いのは、あいつなのに……あいつだけなのに。

 ……誰か!

 ちゃんとルイを見てあげてっ!」


「エルリーンが、見てくれてるよ。

 今の本当のオレがいいって言ってくれたから、オレ、安心して自分を送り出そうと思う。

 へへっ。エルリーンの前でも、もちろんあいつの前でも、ジタバタするような、みっともない真似はしたくない。

 エルリーンも大好きだって言ってくれる、母上の子なんだから――最期の最後まで、『天王寺ルイーナ』でいるんだ。

 えへへ。

 カッコいいって言ってくれる?」


「……違う……性格悪いよっ!

 性格悪い!

 性格悪すぎるよっ!」


「うん。

 カッコイイが、YESって意味で受け取っておくね!

 じゃあ、そろそろオレ寝るから。

 また、明日の朝、一緒にご飯食べよう。

 エルリーン。

 歯みがきも横並びでして、またお喋りして、お昼ご飯も一緒に食べよう。

 で、また歯みがき!」


「歯みがきが、最後の思い出って……寝る前に、あたしの手を一度だけ握っていけよ。

 ナイト様っ」


「ありがとう。

 エルリーンの方から、そう言ってもらって、とても嬉しいよ。

 明日も良かったら、握っていいよって言って下さい。

 怖い夢とか見ないでね。

 おやすみ」


「……おやすみ。

 ルイこそ、怖い夢とか見ないでね……」



* * * * *



『ああ。

 ルイーナ様、起きてしまわれたんですね。

 これが、何か分かりますよね?

 そう、点滴です。

 ……もう手遅れですけどね。

 ポタっとしてしまったあとなので――意味は、分からなくても大丈夫です。

 私としては、この注射まで使いたくありません。

 嫌でしょ?

 チクっとされるの。

 では、もう一度、眠りましょう。

 深く、深く、深く。

 すべて忘れてしまうぐらいに、深く……。

 大丈夫。

 何も変わりません。

 ご心配になる事などないのです。

 これからも、ずっと、いつもと変わらない日々が続くのですから――』



* * * * *



「アリス。

 どうして、そんなに眠っているんだい?

 いいのか。

 僕の前で、ぐっすり眠ってしまったりして。

 帰りの列車に、乗れないんだぞ。

 次の日に目ざめて、帰ろうとしても、また、眠くなってしまう。

 そうしているうちに、僕との間に宿した子が、あらゆるところを繋ぎとめるかすがいとなって、君を締めあげる。

 僕のもとから、どこにも行けなくなる。

 ――本当に、いいのかい?

 頭を預けているのは、『敵対』する僕のひざの上。

 されるがまま、いじられているんだよ?

 君がなりたかった、君など否定されて、このエリオット・ジールゲンの望む通りの君に仕立てあげられても、いいのかい?

 ご覧。

 窓の前に用意されている柱を。

 ルイーナが、僕の『息子』として戻って来るんだ。明日の夜、あの柱のところで動く事もできないまま――。

 明日の晩は、さく

 月明かりがまったくない冥闇めいあん

 『ruina(ルイーナ)』は、廃墟。

 『ruina(ルイーナ)』は、混沌。

 『ruina(ルイーナ)』は、破壊。

 だが、『Luina(ルイーナ)』。あの子は、『Luna(ルナ)』――月だ。

 そこに、『(アイ)』――自分がいなくなるが、輝く事はできる。

 月は、みずから光を放っている訳ではない。

 ふふ。

 大丈夫。

 僕は、ルイーナに、光を与える準備をした。

 エルリーン・インヴァリッドが、光を放つ為の太陽になってくれる。

 二人は、世界の支配者として、共に輝ける者になるんだ。

 なあ。

 本当に、いいのかい?

 あの二人を、君の大切な子供たちを、僕の手に渡してしまって。

 アリス。

 君が何もしないのなら、僕は、遠慮なく二人をもらい受ける……いいんだね。君を含めて、二度と返さないから――」



* * * * *



『ダノン。私を――天王寺アリスを、再び信頼してくれてありがとう。

 私のメッセージを受け取ってくれて、また、作戦を立てさせてくれて、ありがとう。

 だけど、きっとあまり時間がない。

 あなたと連絡を取る為に、少し無理をしてしまったから……ダノン。あなたたちの準備の方が、間に合わなかった場合、これを使ってほしいの。

 今のうちに、渡しておくわ。

 あと、正直に、言っておきたい事。

 これも利用価値があると判断したら、どう使ってもらってもいいから――』



* * * * *



「あはははっ。

 やっぱり、エビフライとカレーライスは、子供はみんな好きだよね。

 おいしかったっ。

 あれれれれ?

 エルリーン。

 リンゴ残すなら、オレがもらっちゃうよ。リンゴは、小さい頃から好きなんだ!」


「……だったら、食えよ。

 ほら。

 笑顔をやめるなよっ!

 そのまま、バカ笑いしてろよ……ルイ副班長っ」


「えへへっ。

 ありがとう。じゃあ、遠慮なく。

 でも、せっかく二つ残ってるから、一個ずつ食べよ。

 はい、オレの分は、フォークにさしたから、もう一個はどうぞ。

 あれ~?

 エルリーン。

 受け取ってくれないなら、オレが手づかみして、エルリーン班長の口の前にもっていっちゃおうかな?」


「……ば……バカっ。

 食べる食べる! フォークで食べるっ!

 ちっ。

 ルイ……。

 朝の挨拶から、ずっとニタニタしやがって!

 ほ、本当は、あたしが、今日はずっと笑顔のつもりだったのに……拍子抜けさせられて、機嫌が悪い!」


「ふふーん。先手必勝っ。

 そういえば、エルリーンは、怖い夢は見なかった?

 大丈夫?」


「……ある意味、怖かった……。

 今の昼食みたいに、エビフライがいっぱい出てきて、おいしそうに、何も考えずに、幸せそうに食べる夢をみたと思う。

 あははは……。

 朝起きて、自分の鈍感力っていうか、なんていうか。

 情けなさを感じて、少しへこんだ……だから、元気がないんだ」


「そっか。

 オレもある意味、怖い夢みたな。

 あれが現実だったらどうしようって、怯えてる。

 震えあがってくるよ。

 これから、オレ……どうなっちゃうんだろうって……」


「ルイ……あ、あのさ。

 あたしに話して、楽になるなら、その夢の話をしろよ。

 班長のあたしに、遠慮なく言ってほしい」


「エルリーン。

 聞くと、エルリーンも、きっと辛い思いしちゃうよ?」


「いい。

 聞かない方が、きっと、後悔する。

 ……もう昼食も食べ終わってしまった……。

 整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎が、朝食も、昼食も運んできた。

 こっちが挑発してやっても、無言で、礼儀正しく頭を下げていくのが不気味で……今日は、まだあいつが姿を見せていない。

 なんか、嫌なんだ。

 確実にあたしらを追い込む作戦なんだろうけど、見事に罠にハマッてるんだろうけど」


「分かったよ、エルリーン。

 もっとお喋りしよう。

 うーん。

 夢の話なんだけど……怖いよ。

 いい?

 ……全力で、うんうんうなずいてくれたね。

 それは良いけど、そんな真剣な顔しなくていいよ……きっと、最後はオレがゴチンされるんだから。

 えっと。

 その……まあ、あいつの思い通りに事が運んでしまって、オレとエルリーンが、今とはちょっと違う感じで一緒にいなければならなくなるんだけど。

 あっ、と!

 エルリーン!

 そんな悲しそうな顔しないで!

 あくまで、オレが夢で見た話だから。

 大丈夫!

 ん~。

 この表現で伝わるかな。

 オレは、整った感じの格好をしていた。

 たぶん、今の牢が、そう呼ばれているせいだろうけど、『鳥カゴ』に入れられた、同じように整った格好をさせられたエルリーンが連れてこられて――」


「……あれか。

 『マスカルポーネ石焼きプロバンス風』事件の時の格好なのかな。

 ああ……。

 って、想像してないぞっ!

 想像してない!

 その図、想像してないぞっ!

 あたしの姿以上に、整った格好のルイなんて……いやいや、だって、それは、無理やりって話で、しかも夢の中だし。

 違うぞっ、これはっ」


「エルリーン、落ち着いて!

 話、やめようか?

 ……全力で、首を横に振ってくれたね。

 あの……。

 そんな真剣な顔しなくていいよ。

 きっと、最後はオレがゴチンされるんだから。

 続き話すね。

 自分の表情なんて、鏡とかでしか見ないから、あれは、他人の顔を思い浮かべてる。

 たぶん、あいつだと思う……。

 夢の中のオレが、少し怖い顔をしながら『鳥カゴ』を開けて、エルリーンを近くに引き寄せようとして、手を伸ばすんだけど――。

 ……エルリーン。

 全力で、ゴクンって唾を飲み込んだね。

 そんな真剣な顔しなくていいよ。

 きっと、最後はオレがゴチンされるんだから。

 続きますよ。

 『もう、逃げられないよ。さあ、こっちにおいで』的な、台詞全体で考えると、あいつに知的財産権侵害だとか、無実なのに、しつこく言われそうなので……そんな感じって事にしておく。

 オレの手が、エルリーンの身体に触れようとした時――」


「……どうなっちゃうんだよ……あたし……」


「蹴られたんだ」


「へっ?」


「蹴られた。

 思いっきりっ、エルリーンにっ。

 『ルイ、ふざけるなっ! この場で、成敗してやる!』って、怒鳴られながら……エルリーンの全力の蹴りが……オレに命中するんだ!

 い、痛いッ!

 マジいたたっ!

 夢なのに、リアルに痛すぎた!

 しかも、ここから執拗にオレに攻撃開始!

 馬乗りになられて、身動きがとれないところフルボッコ!

 フルパワーで、ボッコ、ボッコっ!

 痛すぎるっ!

 夢のくせにっ!

 タケが止めにくるんだけど、エルリーンに『整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎は、引っ込んでろっ!』って言われながら、殴り飛ばされて……それは、現実ではなく、本でしか見た事ない現象だけど、タケの身体が壁にめり込んでいた。

 オレは、無限に続くと思われるぐらいの往復ビンタ食らってる!

 夢じゃないぐらいに、痛いっ!

 な、なんで痛いんだッ!

 さすがに、苦痛にたえられなくて、『カッコ、父親の尊称、カッコ閉じる。助けて下さいっ! お願いしますっ』って、懇願こんがんするんだけど……あいつ、母上と和気あいあいで。

 『今日は、めでたい門出かどでだった。アリス、僕らの子育ては終わった』。

 『YES、エリオット!』。

 って、まったく無視されて、その間も、オレは、ひたすらエルリーンに殴られて……ぎゃっ!

 ……いてて。

 やっぱり、ゴチンされた……。

 あはははは……」


「ふんっ。

 ゴチンされたがって、話したんだろ!

 お望みどぉぉおおりにしてやったまでだ。

 そして、正夢まさゆめにしてくれって事だろっ」


「うん、そう。エルリーン」


「ルイ……あたし、勇気出していいか。

 もちろん、無理はしない。

 どうせ、ルイの見た夢が、少し捻じ曲がった事になるんだったら、勇気を使ってみようと思う」


「分かったよ。

 ぎりぎりまで、オレに護らせてくれるって、約束だったら。

 あとは、エルリーンの人生だから――好きにしてほしい」


「……いろいろ、負けちゃって、諦めるしかなくて、捻じ曲がった夢の方が、正夢まさゆめになってもいいか?」


「うーん。

 『他の奴』に、エルリーンをとられるのが悔しいけど、きっと母上ですら、ここからどうやって逆転するんだって事態だと思う。

 だから、それが、エルリーンにとって一番安全だったら、そこに逃げ込んで」


「『他の奴』って……ルイじゃない、ルイだからか?

 おぼえていてはくれるんだろ……あたしの事」


「……おぼえてると思う。

 だから、オレは、『そいつ』が嫌いだ。

 エルリーン。

 オレの振りをして、平然と現れると思うけど、それは完全に『エリオット・ジールゲンの息子』。

 だまされないで。

 さっきも言ったけど、『そいつ』のそばにいるのが、身を護る為に最善だと思ったら……そうして。

 でも――可能な状況ならでいい。

 敵として、倒してほしい」


「了解。ルイ副班長。

 班長さんとして、あたしは勇気出してみるわ。ありがとう。

 とりあえず、あれだ、歯みがきしよう」


「……うん! エルリーン班長」



* * * * *



『――私は、天王寺アリスと言います。

 エリオット・ジールゲンと、その軍を掃討そうとうする為の作戦が開始されます。

 戦闘とかかわりのない民間人の方、そして武力を放棄する者は、できる限り、都から離れ……避難を開始して下さい。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』への攻撃を決行します。

 ……繰り返します――』


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