闇の宣告
The Sky of Parts[20]
■■■■■■■■■■■■■■■
この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
『閣下。
天王寺アリスさんには、これを。
この茶葉、身ごもってみえる方の身体に、とても優しいものです。
妊娠すると、プロゲステロン分泌量が増加します。
――眠気を誘発しがちですね。
ええ。
この茶葉に配合してある薬を服用すると、その作用に、素直に従うようになります。
まあ、リラックスして頂くだけです。
竹内イチロウといたしましては、母子ともに、特に危険な事はないと考えます。
安静が一番の時期ですから、腹に宿る御子の為にも、天王寺アリスさんに飲ませてあげて下さい。
ぐっすり眠って頂きましょう。
当面の間、彼女に、滞在してもらう部屋――座敷牢とでも言いましょうか。
そちらの準備は、わたくしの方ですすめておきます』
* * * * *
「どうも。
ああ。
二人とも、とても力強く、手を握りあっている。
ふふ。
このタワー『スカイ・オブ・パーツ』に来てもらった時にも、そうやって二人一緒に存在していられているか、必死に確認していた。
あれは、とても、可愛らしかったよ。
どうしたんだ?
僕が、君たちを引き離しに来たとでも、思っているのか?」
「エリオット・ジールゲン。
何しに来たんだ!
オレたちに、何の用だっ! エルリーンには、指一本触れさせないぞ!」
「おや。
お嬢さん、立派なナイト様に仕立てあげたんだね。その様子は、監視カメラ越しで、全部見させてもらっていたが。
ルイーナ。
心配するな。
僕は、彼女には何もしない。
ははっ。
手出しなんてしないさ。
彼女を、僕の前に差し出すのは――ルイーナ、お前なのだから。
……ああ。
二人とも、黙ってしまったな。
冷や汗が、まもなく顎の下まで流れ落ちそうだ。
特に、ルイーナ。
そんなに身体を震わせながら、目を剥く必要はない。
分かっていたんだろ。
やがて、こういう日が来る事を。
待たせて済まなかったな。
これで愛しい彼女を、本当にお前のものにできる。
どうだ? 喜ばしいだろ」
「う、うるさい!
オレは、オレは……オレがオレ自身だから、エルリーンを好きなんだ!
お、お前に言われて……彼女を、自分のものになんてしたりしないっ!
絶対にするもんかっ」
「はは。
理解した上で、そういう発言か?
醜く、浅ましいっ!
悟っているんだろ!
覚悟ができているのに、それに従わないっ。
じらさずに、教えてやろうっ!
明日の夜、ルイーナ。お前の方を迎えに来る!」
「あしたのよる……オレを……」
「そう。
――明日の夜に。
お嬢さん。
悪いが彼氏とは、二日ほど会えなくなる。
夜空に、三日月が見える夜――最初に月が見える、『Luina』の名前の由来でもある、『本来の意味の新月』の日だ。
ルイーナ。
すべてが一度、虚無になる、朔の晩に戻っておいで。
元に戻るだけだ。
エリオット・ジールゲンを父だと思っていた、正常な時間に、縒りを戻す。
ただ、それだけじゃないかっ」
「あんたに、ルイは渡さない……あたしが、護る」
「ふふ。
お嬢さん、それを、どうやるつもりか聞かせてほしい。
はははっ!
僕は、ふざけているつもりはないんだ!
気づいているから、君たちは、そんなにしっかり手を握りあって、今、僕の前に立っているっ。
君も、ルイーナも、僕にされるがまま。
怖いなんて思わずに、受け入れればいいじゃないか!
二人が、逃げおおせる未来など、どこにもなかったのではないのかな。
変わりはしないんだ。
これからも、二人は共にいられるじゃないか。
このエリオット・ジールゲンが用意した舞台の上で、そうやって手を睦まじく握りあう事ができる。
何が違うというんだ?」
「あんた……あんたこそ、分かってるんだろ……それが、何もかも違うって!
ルイじゃなくなった、ルイが、あたしの前に現れる。
その意味を分からせる為に、あたしたち二人を脅しにきたんだろっ」
「その通りだ。
くくっ。
お嬢さん、素直に認めてくれて、嬉しいよ。
ああ。
ルイーナも、彼女と、今生の別れを十分にしておいてくれ。
そうだっ。
これは、裏切り者のお前への制裁!
自らの悪事を認める事もせず、そればかりか罪を重ね続けた! ルイーナ。お前は、処されるんだっ。
もう、贖罪の言葉など聞き入れてやるつもりはない。
明日の夜、お前は、命よりも大事なものを失う。
あははっはっ。
エリオット・ジールゲンの『息子』には戻りたくないという――そういう、強い意志をな!
月明かりのない、漆黒の空を目の前に、絶望しながら眠りにつき……目がさめても、やはり何もない。
『どうして、空は黒いのか?』。
寝起きに、そう自分に問おうとしていた事すら忘れてしまう。
そうして、贖いが始まる。
この父の『息子』であるという戯曲を演じる役者となり、群衆の前に担ぎ出されてきたエルリーン・インヴァリッドに、無邪気に手を差し伸べる。
愛しい彼女の手を引っ張るだけだ――独裁者に献じられる贄としての彼女の手をな。
何もかもが、変化していない彼女の手を、今、そうしているのと同じ気持ちで握ってやるといい。
そうなるんだっ!」
「エリオット・ジールゲン。
もういいだろ……判決の宣告は終わったんだ。オレとエルリーンの前から、立ち去ってくれないか」
「ルイーナ。
そんな切迫した顔をして、誅罰を加えられる時を、怯えて待つ必要はない――何もかもが、かき消されて失せても、また、月は満ちていくのだから」
* * * * *
『うわー。すごい!
これ全部、エリオットが作ったの?
鶏肉とか、豆とか、ほうれん草とか使ったメニューの数々!
そう、イチゴ!
イチゴは、葉酸がたくさん!
妊婦さんは、葉酸たくさんとった方がいいって、本に書いてあった。
レモン汁が用意されているのは、塩分とり過ぎはダメだからよね。
はは……。
天王寺先輩だろうと、アリス姉さんだろうと、天王寺アリスだろうと、ただのアリスちゃんだろうと……こんな風に料理を作る才能は、絶対にないわ。
どれだけ頭脳全開にしても、自分で料理戦略は立てられない……』
『アスパラガスやブロッコリーも、葉酸含有量が多い。
ああ。
天王寺先輩。
レモン水はいいが、ハーブティーなどで飲むレモングラスは、子宮を収縮させる作用があると言われている。
鉄分は、しっかり摂取した方がいい。
かなりの確率で、妊娠すると貧血になる。陥りやすい症状だと考えてほしい。
ビタミンAは、妊娠初期での摂取は避けた方がいいと言われているが、まあ、心配なのはサプリメントなどによる連続過剰摂取ぐらいだから、あまり気にしないでくれ。
……しかし。
今すぐにでも医者になれるぐらいに知識があると自負していたが……急にこんな事があると、この程度しかできないのかと、情けなくなる。
――君のおなかの中に、我が子がいるというのに』
『十分だと思うけど。
職場の人たちから、本とかもらって、私も戦略は練ってるんだけど……妊娠してから気づくと寝てしまっている事が多くて、頭が使い切れてないの。
お母さんになるのに、そんな言い訳がましいようじゃダメなんだけど。
ああ……。
でも、エリオット。
そっか、お医者さんにもなれたのね。料理も、プロ並みに作れるし……』
『僕が、軍人ではなくて、医者や料理人だったら良かった――そう、言いたいのかい?
天王寺先輩。
取り繕う必要はない。
あからさま過ぎるから、フォークを持つ手を休めないでくれ。
表情だけで伝わっている。
どうなんだ。
僕の職業が違っていたら、結婚してくれて、生まれてくる子と三人で暮らせていた。
そう言ってくれるつもりかい?』
『うーん。
よく、分からないの。
エリオットの事、嫌いではないのに……どうしてかな。
どうして、一緒にいちゃいけないって、こんなにも思うんだろう?
おなかの子の父親として、どうして、一緒にいてって言えないんだろう……』
『それは、軍人一家に生まれた、君の本能からわき起こるものなのか――』
『えっ?』
『いや、なんでもない。
列車に乗ったら、もう会えないのかな?
……天王寺先輩にも。
そして、顔も見ていない、我が子にも』
『わ、分からない……妊娠したせいなのかな。
どうしちゃったんだろ、私。
不安定になってしまう事が多くて、頭が回っていないみたいで……産んでしまったら、また考えが変わるのかな……もう、よく分からないわ!』
『そうか。
では、君の考えが変わるのを期待して、僕は、待たせてもらおう。
お茶飲む?
妊婦の身体に、最適な安らぎを与えてくれるような、いいお茶があるんだ――』
* * * * *
「ダノン。
これ……。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』襲撃を決行する話は、もちろん命を懸けるつもりだったが。
こんなものがあるなんてっ!」
「ジーンさん。
黙っていて、すまなかった。
ぎりぎりまで、俺も迷ったが……冷静に受け止めて、信じようと思う。
ルイとエルリーンの両方を切り札に使われると、本当に後がない。
世襲継承の成功と同時に、ルイ――Lunaの衆望を利用した、うわべだけの民主主義政治が成り立つ事になる。
事実上、エリオット・ジールゲン政権の完全な安定が約束される。
その上で、エルリーンを祭り上げるつもりだ。
彼女を、軍の高い地位に登用して、反乱組織の存在意味を否定する。
年若い彼女など、お飾りだが、盲目的な信者を集めるのが目的のLunaのいずれの……連れ合いであるというのなら十分な効果がある」
「……させねぇよ……!
父親代わりのおれが……そんな事は、許さない!
あんな男のところに嫁にやる気もねえし、戦争や政治の道具にさせる気もねえっ!
エルリーンは、必ず、返してもらう!」
「ジーンさん。
確証なさ過ぎる手段しか、用意できなくてすまないが……何もない暗闇に、光がさす奇跡を、信じさせてくれ!」
葉酸は、熱に弱いので、果物・野菜ジュースにするのがおすすめです。
ただし、生イチゴジュースとかばかりだと、糖分摂取過剰になるかもしれません。そして、おなかの調子的によくありません。
なんでも、過剰摂取がいけないだけです。
それは、サプリメントも、普通の食材も同じかと。
レモングラスは、香りだけでもリラックス効果が期待できます。
そして、妊娠中とかでなければレモングラスハーブティーは癒されます。
お好みの香りや味かは、特に妊娠中だとさらに好き嫌いが分かれると思いますが。
ファミレスなどでも、ハーブティーがおいてある時代になりましたが、妊活・妊娠中は気をつけた方がいいかもしれません(カフェインレスと書かれていると、つい飲みたくなってしまいますが)。
ハーブティーは『薬』としての効果が多少あると考えて、成分を確認の上『マタニティ・ハーブティー』などという商品を選んでみると良いかと。
一回飲んだぐらいじゃ心配はいらないと思います。
連続過剰摂取と『竹内一浪ブレンドティー』は、おすすめできませんが。




