【過去】はなれる二人…
The Sky of Parts[19]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
『はぁ……はぁ。
……ここまで、逃げれば……。
ルイーナ、怖い思いさせて、ごめんね。
大丈夫。
母さんを、誰だと思ってるの? 天王寺アリスなのよ。
一緒に、外へ。
電気系統が落ちている間に、なんとか……。
えっ!
あああああああっ!
ル、ルイーナぁあああああああああああ!
ぐ、軍用ロボットの……拘束テープ……っ!
ダクトの隙間を使って……ルイーナぁあああああああああああ!
無事なの!
ルイーナぁあ』
『――もちろん、ルイーナは、無事だ』
『エ、エリオット……ジールゲン。
……くっ。
監視カメラのスピーカーね……返して! ルイーナを返してっ』
『ん?
へえ……父親の僕から、ルイーナを取りあげようとしていたのは、誰だったかね?
なあ、天王寺先輩』
『か、返して……ルイーナを……返して!』
『よしよし、ルイーナ。
もう泣く必要はないだろ。
父さんの腕の中にいるんだから、安心して、心が穏やかになる意味をおぼえていくといい。
これからも、ずっとな。
ずっと、ずっと。
――さて、天王寺先輩。
いや、アリス姉さん。
こちらからは、そちらの様子を見させてもらっているが、その表情は、悔しいのかな?
それとも悲しい?
僕は、ルイーナを抱いて、とても喜ばしい顔をしていると思うよ。
ふふ。
だって、二人の愛し子を、君が産み落としてくれたからっ。
おやおや。
アリス姉さんっ!
目に涙をためて、黙ってしまわないでほしい。
困るな。
君にはね、いろいろと言ってやりたい事があるんだ。
まずは、やっとエリオット・ジールゲンという、意味を理解してくれた事、嬉しく思っている。
軍人思考を捨てたいなんて、僕から言わせれば、根拠もなく、理論や現実を無視した妄言にとらわれている君に、なかなか伝わらなくて、正直言うと困惑していた。
身重のからだで、ずっと体調が悪かったので、無理をさせるのは止めておこうとも、もちろん優しく考えていたけどな。
ふふふふふふふ。
あははははっははっ!
僕の子の母親になってみて、どうだ?
あはは!
世界を制圧して、暴政を敷く、この独裁者エリオット・ジールゲンの妻になる気持ちを、君の言葉で教えてもらいたいな!』
『うるさいっ!
エリオット……いや、お前が、私に薬を飲ませて、ここに足止めして……』
『あの夜がなければ、良かったと?
……おや。
ルイーナっ!
悲しい顔をしないでおくれ。
お前の母さんは、今は、少し乱れているだけだから。
軍事施設を混乱に陥れるような、大規模作戦を、たった一人で実行して疲れているんだ。
大丈夫。
母さんは、しばらくゆっくり休むべきだが、これからも三人で一緒にいられる。
――ずっと、ずっと。
ほらほら、ルイーナ、いい子だ。
父さんの腕の中が、そんなに心地いいのかい?』
『か、返して……エリオット……ルイーナを返してっ!』
『よしよし。
今夜は、ゆっくりお休み。
ルイーナ。
母さんが、落ち着くまでは、父さんがずっとそばにいてやろう。
何も心配いらない。
そんな形がある事すら虚であるような、淡くて消えてしまいそうな小さい身体なのに、本当に力強く泣く事ができる。
僕の愛し子。
これから、この父の子、ルイーナ・ジールゲンとして生きていくのだから、それぐらい激しく叫べる方が、望ましい』
『か……返して……返せっ!
ルイーナを、返せっ』
『ふん。
エリオット・ジールゲンの実子を連れて、どこに行くのさ?
アリス姉さん!
聡明な君なら分かっているだろうっ。
理解しようとしていないだけで、君の産んだ息子は、普通になんて生きられはしない!
僕に、すべてを委ねて、これからを過ごしていくしかないんだ。
父親は――この僕だから。
そして、アリス姉さんも。
もうアリス・ジールゲンとして生きていく以外に、道があるとは思えない。
君が、いくら僕よりも優れた頭脳の持ち主だからと言っても、思いつくのかね?
――僕の影響下以外で、苛政の独裁者の血を引く、ルイーナの生を繋いでいってやる術を。
判断は、とっくについているんだろ。
俗世に放り込んだら、それがルイーナの命を脅かす行為になるって!
だから――』
『うっ……わ、私を……どうする気だ……っ』
『アリス姉さんっ。
長い間、軍人思考を休業していたから、少し油断してくれて、ありがとう。
どうするって……右手を拘束させてもらっただけじゃないかっ!
大人のアリス姉さんは、そのダクトは通れないが、どうかな?
赤子のルイーナの身体を、安全に包めるぐらいに柔らかい素材だろ?
――軍用拘束テープっ!
それを、知ってもらいたくて……くく。
なんてなっ!
タケが、もうそっちに向かっているんだ。
お医者さんの指示通りに、『薬を処方されて』、少し落ち着いてから、僕のところへ戻ってきてもらおうっ。
僕は、ルイーナの世話と、今日に限って入り込んだ反乱分子どもの相手で忙しいのでね。
アリス姉さんの迎えに、直接行けなくて申し訳ない』
『エリオットっ! お前のところに戻る気はな――』
『……ルイーナと二人で、待っている。
ああ。
そうだ。
今日、僕にした仕打ち。
許しをこう言葉とか、考えておいてくれ。
ルイーナを、一時でも早く抱きしめたいのなら、反省文をあらかじめ用意しておく事をおすすめしておこう。
プロポーズの言葉は、僕に用意させてくれ。
アリス姉さんは、単にそれを受け取って――これからは、エリオット・ジールゲンの横に立つ者としての自覚をもって行動してもらえれば、それだけでいい。
せっかくの先天的な能力だ。
子育てが落ち着いてきたら、君の戦略を立てる事ができる才能を、夫である僕の軍の為に使ってくれないか?
嫌だと言い張っても、そうさせるまでだっ。
アリス姉さん!
僕は、生まれ持った力を、使いたい。
抑えるつもりはないっ。
だから、常世ともにある為、君に心をあわせさせる! 必ず!』
『嫌だっ。
断固として……拒否する!』
『断固拒否するって――貴女には、そんな権利は与えられていませんよ。
天王寺アリスさん。
事実上の御夫君である閣下へのお言葉には、もう少し注意を払って頂きたい……そして、この私――竹内イチロウに対する態度も。
……おいっ。
アンタさぁ……。
よくも、この私を、計略に嵌めてくれたなっ……! アンタのせいで、閣下の御手を煩わす結果になった……!』
『おやおや、タケ……さん。
手にしているのは、この天王寺アリスを黙らせる為の鎮静剤入りの注射かな?
――お前を、嵌めただと!
何を言っているっ。
それは、こちらの台詞だっ!
私に、『毒』を盛り続けたのは、お前だろうっ』
『タケ、あとは任せた。
僕は、反乱分子排除の指揮に戻る。
こちらの通信は、切らせてもらう。
その女は、予定通りBブロックの反省室に閉じ込めておけ!
はは。
天王寺アリスは、まだ、僕の妻になる約束を取り付ける前だからなっ。
セキュリティエリア全土の電気系統を機能不全に陥れるなんて、大それた罪を犯した咎人として、引っ立ててやれっ。
くくっ。
アリス姉さん。
後で、自戒の念をたっぷり込めた、君の反省文を聞かせてくれ。
このエリオット・ジールゲンに対する、冒涜に等しい大罪行為であったのに、改悟の機会を与えられた事に感謝してもらおうか!
背かぬと絶念し、僕に付き従う妻になると誓うまで、ルイーナを抱きしめる事は許さないっ。
心にしっかりと刻んでおいてくれ!
――では、竹内イチロウ。
その罪人の身柄の拘束を頼んだぞ』
『御意のとおりに。
エリオット・ジールゲン閣下の御心のままになるように、取り計らっておきます――。
さて。
天王寺アリスさん。
行儀がいい訳でもない、馬鹿げた、どこにでもいる程度の女を演じ続けて……この竹内イチロウを騙して……ここまでよくやってくれたものだっ!
拳銃を自分の頭に突きつける、アンタの顔を見て、ああ、こいつはどこまでも戦いの中に居られる女なんだなと思った!
だから、容赦するつもりはないっ』
『私は、演じていたつもりはない。
必要のない自分だったので、出していなかっただけだ!
竹内イチロウ。
お前とて、演じているではないか――慎ましく、誰かの下に従っておさまっているような人間には見えないがなっ』
『ほう。
噂の名軍師、天王寺アリスの推し当てとやらを見せて頂くとは。
……あの方は、御自分の寝首をかくような、不埒な考えを抱いている者を好んで下さるのでね。
そういう図々しいまでの無遠慮をお許し頂いたので、私としても、忠誠を誓い、恩に報いたまで。
エリオット・ジールゲン閣下が、絶大な権力を築きあげて下さっている時世に従うのが、誂え向きだと思っているだけだ。
逸脱は、愚かでしかない。
まさに、おこの沙汰だ。
分かるだろ?
閣下の心髄。
戦に対して抱かれている念に、触れて感じているんだろう?
これが、天質を持った真の支配者なのだと。
怖気立つ事をせずに、向かっていったアンタだからこそ、気づいているはずだっ。
勝ち目などないって!
なあ。
ここで、降伏しろよ。
天王寺アリス。
アンタなんて、今すぐ消してやりたいぐらいに憎いが……そう思う事をしでかしてくれたからこそ、閣下の御前で跪かせてやりたくなる。
この竹内イチロウの為にも、アンタの力を閣下に捧げてくれないか?
権威不変維持の人柱になれよ』
『聞けぬなっ。
私が――天王寺アリスが、力を使うべきと考えるのは、愛しい我が子を護る為だけ――自身を放棄する事があるとしたら、それは、ルイーナの為だけだ!
お前やエリオットに……投げて出してやるものなど、断じてない!』
『あははははっ。
天王寺アリス!
アンタって存在を、見落としていたよ!
あの小僧……行きずりの過ちの末ぐらいにしか引っ掛けていなかったが、使い物になるんじゃないかっ?
閣下とアンタの子だって!
どれほどの利用価値があるのだろうかっ!
はは……あははははっ!
愉快な未来の展望ってヤツが見えてきたっ。
ふふふ。
――小僧。
使えると思ったら、使ってやるよ!
竹内イチロウが、仰ぎ崇めるような……絶対的権力を描きあげる道具としてなっ!』
『痴れ者が……黙れっ!
私は、どんな事をしてでも、ルイーナを護り抜く!
誰からも留め置かれる事のない、自由に羽ばたける世界に、あの子を導き出す。
それが、現を創り出すような――荒唐無稽だと罵られるような術であったとしても……必ず、あの子が、あの子であるという、そういった場所に辿り着かせる――』




