竹内イチロウの叫び
The Sky of Parts[18]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
※料理(『マスカルポーネ石焼きプロバンス風』)のネタかぶりがあったら申し訳ないです。Googleで調べる限りは見つけられませんでしたが。
「閣下。
お伺いしてもよろしいでしょうか?
……賜りまして感謝の言葉も……いえ、あの、その……ところで、これって、何ですか?」
「『マスカルポーネ石焼きプロバンス風』――と、天王寺アリスが名付けた、素のお好み焼きの上に、マスカルポーネチーズをただ単に塗りたくり、生ハムをのせればプロバンス風だと言い張った品だ。
ん?
竹内イチロウ!
なぜ、そんなにも、リアクションに困った顔をしているのだ?
腕を突き出したまま、動きが止まってしまっている。
せっかく僕とアリスで作ったんだ、食え。
いいかっ!
これは、僕が手を貸して作ったから、お好み焼き部分が、均等で平。
つまり、ならされている。
ルイーナが、最初にこの食品を見た時は、『うわー。坂がある。写真で見た事のあるスキー場みたいだ』と言ったぐらいだ!
お好み焼きの厚い箇所に、火がちゃんと通っているか、可愛いルイーナが口にするかと思うと、とても心配だった。
ふふ……。
アリスの料理力に圧倒されながらも、僕が、『マスカルポーネチーズだけでは、塩味が物足りない。何か、塩気のある具材を、せめてのせた方がいい』とアドバイスすると、冷蔵庫から生ハムを持ってきた。
しかも、うまく生ハムを一枚一枚引きはがす事ができずだ。
ドサっといった。
そう思うと、今、この目の前にある『マスカルポーネ石焼きプロバンス風』は、見た目も美しい芸術品と言っても過言ではない!」
「た、たしかに、竹内イチロウの記憶といたしましても、アリス様は、家庭菜園で育てた、ニンジンやきゅうりを丸かじりするつもりだったとか、カボチャが生で食べられると思っていたとか……そういう方でしたね」
「お嬢様育ちなんだ、アリス。
ご両親がいなくなって、一人暮らしをしている時に、そんな感じだったみたいだ。
味音痴ではない。
きゅうりやニンジンを、生でガブリといくのは問題ない。
ただし、バーニャ・カウダなどにすべきだ……。
生食用カボチャは、たしかに市販されている。
だが、アリスが手にしていたのは、煮るなり炊くなり焼くなり、いや、そもそも皮ごとかじり付く事が不可能な種類だった。
はあ……。
まだ、故郷の里にいた頃は、食堂で働いていたので、まかない料理で、なんとか栄養バランスを保てていたと思うんだ。
反乱分子どものところにいた頃は、食事は三食保証されていただろ。
あれだ。
ブログ書いていた頃。
ブラックコーヒー片手に、カップ麺、おにぎり、菓子パン……っ!
たまに、冷蔵庫の方に近づくと、そのまま食べられるチーズをぱくりと。
これで、たんぱく質の確保は十分だと。
……いや、たまに栄養補給と称して、生卵をそのまま。
くっ……。
やめてくれ、アリスっ!
僕に負けるのではなく、不健康で君の人生が終わるというのはっ。
絶対に認めない!」
「故郷の一件があったので、ブロガー時代は、あらかじめ食生活の調査を行えという御指示を頂いたぐらいでしたからね……」
「ああっ!
今すぐ僕のところへ連れ戻して、三食栄養バランス満点の生活をさせなくてはと、心に誓うぐらいに酷かった!
理想的な食生活。
そんなものは、この地上には存在せず、虚構であると分かっている!
『母さん』になってからも、僕の老後を気にして、高い保険に入る事をすすめてくる……そんな後の事は、何も考えなくていいっ。
のちの人生は、僕に管理されて、とりあえず難しい事を考えずに、一汁三菜食べて生きていけっ!
これは、僕じゃなくとも、言ってやって良かったと思うんだ!」
「閣下の仰る通りだと、この竹内イチロウも思います。
ブロガー時代のアリス様は、取材という形で、写真撮影に出かける時以外は、引きこもり生活……まあ、閣下の前で、恐れ多いとも思う発言ですが、軍転覆の作戦立案などもしていたのかもしれませんが、それにしても昼夜逆転生活。
多相睡眠と言いましょうか。
眠くなったら寝て、また起きて、コンピュータの前に向かう生活。
しかし、あれは、人工的な灯りが発明される以前のヒトが行っていた、分割睡眠ではなかったと思います。
食事の時間は、まったく安定せず。
カーテンを開けていないのは、予想外の監視カメラなどの設置を恐れてかと、当時は思っておりました。
ですが。
……あの生活だったので、面倒くさくて、開けていなかったという事かと。
閣下が、手元にお戻しにならなかったらと思うと――我々は、アリス様を救ってやったと言っても決して大げさではない。
いや。
命の恩人という表現が、寸分の狂いもないと言ってやりましょう!
そういうレベルでした!」
「まったくだ!
囚われ、このエリオット・ジールゲンの手から逃げ出せずにいるから、命が繋がっていると考えてもらいたいものだっ。
――ああ、タケ。
『マスカルポーネ石焼きプロバンス風』食べていけよ。
不味くはない。
だがな。
正直、お好み焼き部分と、マスカルポーネと生ハムは、独立させて食べても問題ない。
お好み焼きソースはかかっていないから、いろいろ勘違いしない方がいい。
ふん。
ルイーナのやつ。
赤子のミルクしか飲まなかった頃から、僕の手で作るもので満たしてきたつもりだったが、たった一度だけ作る事を許した、母親の味を、嬉しそうに食べていた。
プロデューサーATの――すっかり天王寺アリスの手先になっていた時だったが……ふんっ。
プロバンス風なんだろっ。
たしかに、生ハムはありだが、やはり、オリーブ・オイル!
そして、にんにくやトマトを使ってこそ、プロバンス風なんだっ」
「あの……閣下。
石焼きなんですよね?
この場合、『石焼き』とは、一体なにを示すのでしょうか?」
「おおっ。
タケ、良い疑問を呈してくれた!
『焼き』か?
それは、少し冷静になって考えてみろ。
――お好み焼きの『焼き』だ!
ん?
竹内イチロウっ。
全身が白くなったのではないかというぐらいに、驚くな。
落ち着きがなく、動きが怪しくなるぐらいの立ち居振る舞い。
やはり、この僕に、隠し事があるのかないのかは知らんが、すっかり挙動不審の様だ」
「……隠し事があろうが、なかろうが、竹内イチロウであろうが、なかろうが、驚きのあまりに動きが怪しくなると思いませんか?
む、むしろ、そうならない方が、普通ではないかと」
「そうか。
まあ、いい。
最後に残る『石』だが、タケは、書類上も、現実も、完全独身だ。
大学時代も一人暮らしだったので、自炊経験はあるんじゃないか。
一度ぐらいは、フライパンに触れた事があるだろ。
何か、気づく事はなかったか?
書いてあっただろう!
『なんとかストーンコーティング』とかとなっ。
あれだ!
あれなんだ!
つまり、お好み焼きをストーンコーティングされたフライパンで調理し、マスカルポーネチーズを塗り、生ハムをのせたのでプロバンス風と、天王寺アリスが主張したのが、『マスカルポーネ石焼きプロバンス風』だ!
アリスっ。
……もう少し、その叡智の使い方が適正で、順道であってほしいっ!
ん?
タケ?
大丈夫か?
ついてきているか? おいっ。おーい。タケーた~け~」
* * * * *
【これは、竹内イチロウが、心の中で、独り言を連続して吐き出す羽目になった、過去の出来事である】
おいおい。
これ、いつまで続くんだ……?
玄関に入れずに、天王寺アリスの身柄を拘束するって、閣下仰ってましたよね?
で、そのまま、この里を壊滅させるって。
『しばらく、全員待機』の『しばらく』って、どれぐらいなんだ……うわっ。
端末で辞書検索するんじゃなかった!
『長くもなく、すぐでもない』。
おい。
具体的じゃなさ過ぎる、下知は勘弁してくれよ!
……あの、閣下。
さっきから話しかけても、まったく反応がないという事は、そちらからの通信は、切りましたよね?
忘れていませんか?
この竹内イチロウには、あなたと天王寺アリスの会話が……ダダ漏れです!
切って下さいっ!
私の方から、許可なく通信を切るのは、重大な軍規違反になるんですからっ!
私の周りには、閣下からの御命令を待つ兵士がいましてね。
竹内イチロウだけが、あなたたちの仲良しこよしのお話を聞いているんです!
冷静。
冷静ってなんですか……?
私、堪えきれず、笑う事も許されず、ツッコミどころ満載なのに……反応もできず。
ただただ、黙っているんですよっ。
ええ、本来は軍医である私に、代行で指揮官の御任命、感謝致しますっ!
ですがね……終わりの見えぬ地獄だ。
ぶはっ!
待てよっ!
お茶菓子に、生のカボチャっておかしいだろっ!
『ふふ。
天王寺先輩は、やんごとないお生まれだったから、知らなくて当然だ。
ところで、カボチャの表面に土が残っているようだが――きゅうりやニンジンを、生でガブリといく時は、洗うつもりだったという事でいいかね?』
って、閣下!
気味が悪いぐらいに、冷静に丁寧に、紳士対応したけど、これ絶対に顔引きつってるだろっ!
明後日の方向見て言ってるだろっ!
ってか、もっとけなしてやれよっ。
この竹内イチロウが、許可する!
やれって!
さっきから、妙ちきりんな事しか言ってねぇぞ、この女。
……はあ。
しかし、天王寺アリスって、こんな女だったか?
大学に入る前にも、彼女の書いた論文を見る機会があった。
重鎮の軍人を両親に持つ、本人自身が、将来有望な若手って事で、軍医を目指していた私ですら、天王寺アリスの名前は知っていたぐらいだ。
大学に入って、閣下と出会ってからは、閣下のすすめもあり、彼女の立てた戦略をもとにした講義に参加した事もあった。
――天王寺アリス本人が、壇上に立つ機会は、一度もなかったが。
学内で見かけた事もある。
本人が意識して連れている感じではなかったが、取り巻き状態の女どもがわんさかいて、影では女閣下とか渾名されていたな。
存在感や、軍人としての威厳は、見た目からも感じられたが、世間でいう、凛とした女のイメージではなかった。
冷静で、自分の意見を確実に持っていそうなタイプだが、男を立てるような気がしなかったから。
頭は、天井知らずに良いのかもしれないが、そう、いつも自分が一番上だ。
閣下は、『軍門に降らせる』と仰っていたけど、あれだ……彼女に御執心だったからな。
奥方候補として、今回はお迎えなんだろうとは、思っていたが……おいっ!
おいおいっ。
冷蔵庫が、トマトジュース缶まみれって……頼るな!
料理に困ったら、トマトジュース入れればいいとか、貧乏な男子学生でも、もう少し頑張ってるヤツいくらでもいるぞ。
『職場の食堂のまかない料理があるから、大丈夫!』
いや、あのな。
……それは、いろいろアウトな場合もあるぞ。
お前、しかも女だろうっ!
たしかに、閣下の奥様になれば、炊事洗濯家事免除で、その上で、支配者階級の生活が約束されているが……おいっ!
包丁握った事ないって……ああ、良家の子女ね。
はいはい。あ、職場では、皿洗いしかしてないのね。はいはい。
『いつか、ハンバーガー屋さんで働きたいのだけど、克服する課題が山積みで、今、頭脳全開に活用して、戦略立案中』
はいはい。
どちらかというと、エリオット・ジールゲン閣下の真横に立って頂いて、申し分ない女性を目指して下さいね。
ってかさ。
閣下も、もう少し何か言ってやれよ!
『チーズカツサンドで良ければ、僕が、いくらでも作ろう』とか、戯れてないで……ってか、突撃まだですか?
もう、里の包囲は完了しているんですよ。
完璧です。
一人だって逃がしません。
どれだけ、泣き叫んで命乞いしようが、最後まで遂行しろという、御命令だけは頂いておりますが――閣下の号令だけがありません。
……忘れていませんよね?
ねえ?
『私、ハンバーガー屋さんにはなれないかも』って、喚いているその女と睦まじくし過ぎて、忘れていませんよね?
ねえ!
『大丈夫だ、天王寺先輩。
僕にだって、できない事がある。実は、お化け屋敷に入りたくないんだ』
ちょ!
おまっ。
説得……できない事があるって――。
はぁあああああああああ?
え、だってさ!
閣下さ。
最前線とかで、平気で戦ってますよね?
ってか、お仕事で……あの、その、世の中の基準で言えば、かなりのアクが強いの見る機会も多いですよね?
めっちゃ恐怖政治万歳の独裁者顔して、人の慈悲など持ちあわせていないとか評されるぐらいに、腕を振り下ろしていますよね?
『僕は、コンニャクが首筋にあてられるかと思うと、考えただけでも震えあがってしまう。
ほら。
包丁を握れないなんて、気にしていてはいけない。大丈夫だ』
コ、コンニャクかっ!
駄目なの?
コンニャクがっ……あははは。
大丈夫か……この人が、世界の制圧者で!
あー。独立するか、転職するか。
いや、でも、今のところ、この人について行くのが、一番権力のそばにいられるしな……あれ?
え?
あ?
ええっと……?
『天王寺先輩が、ハンバーガー屋になる夢、僕も応援しよう』
『エリオット、お化け屋敷怖いのに、こんな田舎の街外れで、夜まで引きとめちゃって、ごめんね』
『ううん、大丈夫だ。
上からコンニャクが吊るされている以外は、怖くないのでね』
『チーズカツサンドおいしかった。
今日は、家まで来てくれて、ありがとう。エリオット、嬉しかった』
『ああ。
天王寺先輩……あの、良かったらチーズカツサンド――その……朝食にも作ろうか?』
『え……あ……うん。
エリオット、ありがとう』
『あ、すまない……その』
『良かったら、泊っていく?』
『……えっ!』
『ほ、ほら……館の時ほどじゃないけど、それなりに広いから!
この家だって、3LDKだから……あはは。
……あっ。
寝るところ、私の部屋しかない――』
ちょ、ちょっと、ちょっとまてぇええええええええ!
この後の会話が続いてないぞ!
つ、通信機は、まだ一方的にON状態だ……待てよ、待てよ!
閣下の事を考えると、いい展開なのかもしれないが……まずいぞ!
切ってくれっ。
気づいて、通信を切ってくれ!
今後も、顔と顔を突き合わせる人のは、さすがに、聞きたくないぞ!
というか、聞かされて、規律を乱すなとか……この竹内イチロウを、どれほど責め苛むつもりだ!
おいっ。
頼む!
何かある前に……そっちからの通信を切ってくれぇええええっ。
『maman』は、フランス語で、子供が親しみを持って『お母さん』を呼ぶ時に使われます。
実際には、「マモン」や「マモー」みたいな発音だそうです。
ちなみに『お父さん』は、『Papa』。
義理の娘の事を、『belle fille』というのですが、『belle=美しい』『fille=(若い)娘』。
日本だと『嫁』とかも一般的に使われていますが、息子の妻を「美しい娘」と、フランスでは表現するのです!
逆に、義理の父親の事も、「美しいお父さん」。
どちらも、直訳ですけどね。
英語では『in law』を付けて、『法律上の家族』となります。
フランス語系のサイトでよく言われている事ですが、筆者も、フランス語の表現の方が好きかもしれません。
フランスと言えば、事実婚の国という印象ですが、正式には『PACS(民事連帯契約)』という制度になります。
大人同士の恋愛やら、結婚生活は、自由であるべきだと思いますが――まあ、子供からみたら複雑な場合もあるでしょうね。
それは、どのような形でもでしょうけど。
どのような形でも、親同士が同じキッチンに立って料理している様子をみれるのであれば、子供たちは、そこが居場所だと感じられるのかもしれません。




