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タワー『スカイ・オブ・パーツ』へ

The Sky of Parts[02]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「エレベータから、外の景色が見えるかと思って期待してたのに、残念だな。

 こんな高いタワーなのに――軍の本拠地なのに『スカイ・オブ・パーツ』のサービス精神は、ブログを続けていたら記事にしたかったぐらい劣悪だ。

 なんだ?

 タケさん。

 私を、あからさまに殴りたいような表情を見せるな。

 というか、もう拳に少し力入れてるだろ。

 ……このエレベータにのせられるまで、ずっと電子目隠しされて、聴力すらダメにされていたんだ。

 やっと見えるようになって、ちょっとぐらい楽しめると思っていたのに。

 記憶する限り、これで六つ目のエレベータだ。一度だけ、短い下りがあったが、残りはすべて上り」


「天王寺アリスさん。遠足気分で言ってるわけじゃないんですよね?

 きっと。

 ……はあ。

 悪態をつきたい気持ちが込められている程度の発言ならいいが、エレベータの配置などを、確認するおつもりがあるかもしれないので、そういった情報の提供はお断りします」


「食事も、点滴で我慢しろとか、あり得ない目にあったんだ!

 そろそろ気が狂ったような発言しても、問題はないだろう?

 私は、実際に世話になった事はないが、救急車で長距離移動させられるというのは、重篤な患者さんにとっては相当な負担だろうな――」


「食事は、ちゃんと用意してました。

 天王寺アリスさん。

 貴女が、軍用車の床を靴で打ちつけたりして、素材を確認するような仕草しぐさをしたり、わざと大声をあげて、車内に何人いるか、気配で確認しようとしたりするから――仕方なく、担架の上でずっと大人しくしてて下さいと言うしかなかっただけです。

 ……はあ。

 『sagacity』の立てた戦略計画を信じて、閣下が外出でお使いになる車で、連れてこれば良かった。

 さすがに、そんな細かい指示までは……と無視した、この竹内イチロウがバカでした!

 閣下が、細心の注意を払うべきと仰る理由がよく分かった。

 本当に『天王寺アリス』という女は、早く排除した方が良い。

 我々にとって恐ろしい敵だ。

 そんなヤツを、本拠地の中心部で飼いたいなんて……どうもこれだけは、閣下に不埒ふらちな念を抱かせて頂きたくなる。

 ……それにしても、冷静そうにされていますね?

 一昨日、潜伏先の村で最初にお会いした時――『竹内イチロウ』と私の名前を呼んで下さった時は、かなり怯えていて、こちらも嬉しくなりましたけど。

 すっかりツマラナイと感じるような軍人顔になった」


「大っ嫌いなヤツを護送するなら、車じゃなくて、早くて便利ですぐに私と縁が切れる、軍用ヘリを使えば良かったのではないか?

 あれ、タケさん?

 ムッとした顔になったんじゃないか?」


「天王寺アリスさん……唐突に何を?」


「タケさん。

 私を、ここの上層階に閉じ込めるって言っていたな。

 だったら、こんな面倒なエレベータのハシゴではなくて、ヘリで屋上につけた方が効率がいい。

 飛ばせない事はなかったけど、私を運ぶだけで飛ばすにはリスクが大きかった。

 エレベータの配置情報を多少だが与えても、それの方が良いという判断だったのかな?

 ……いちおうブログ作りで得た情報で、ヘリが自由に飛べないように、軍がタワーから空に向けてノイズを走らせているのではないか――という推測はしていた。

 それが割と明確になったかな。

 あれ?

 タケさん!

 毒薬専門の軍医だって言っても、もうちょっとポーカーフェイス身につけた方がいいと思う。

 二年前に籍を置いていた反乱組織との情報のやり取りも、ほとんどできていなかったんだ。都に来てもいなかった。こんな情報、タケさんに知られても問題ないから、教えてあげる!

 このタワーが見える山から、何度か見ただけだったけど、軍用ヘリが使われている様子がなかった。

 塔を本拠地にするなんて、あまりいい発想じゃない。

 空爆に対して弱すぎるからだ。

 なのに、わざわざ『スカイ・オブ・パーツ』を建造したのは、それなりに、強固な空の守りができると判断したから――。

 エリオットが開発した……なんて名前だったかな。

 『sagacity』……だった?

 軍師だと言われても、肉体も持たないシステムなどには興味がないんだ。

 常時、フツウの電子機器を狂わす程度のノイズは、放っているのだろうが、それに対応した空中戦を仕掛けられても、『sagacity』の計算能力を駆使して、簡単に対応して阻止できる。

 そんな仕上がりのブツを作ることができたから、世界を手に入れ、今日まで維持しているというのは、認めてやろう」


「それ、閣下御本人にお伝え下さい。

 きっと喜ばれますよ。

 でも、天王寺アリスさん。

 貴女のそれは、称賛しょうさんではなく、さげすみなんでしょうね。

 この女……内部から軍を転覆してやろうと思っている――ねっとりした嫌な予感が、この竹内イチロウの心に張りついてくる。

 口元、緩んでますよ――。

 本当にムカつく女だ!

 気持ち悪いから『さん』付けはやめてくれるか。

 私の事は、呼び捨てでいい」


「じゃあ、タケで。

 非常用のホットスタンバイの『sagacity』劣化バックアップは、遠隔地にいくつかあるのを発見しているが、これだけの演算が瞬時にできるシステムを動かすマシンの本体は、おそらくこの塔の内部にある。

 まだ完成している訳ではないという事は、エリオット自身がメンテナンスしやすい場所に置くのが正しい。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』外観上、中層階に窓が少ないので、その辺りかな?

 『sagacity』本体の場所を悟られるリスクよりも、ダミーに窓を増やして、建物の強度を弱める方が愚かだから。

 未完なのが唯一の弱点。

 本物になっていれば、どこかもっと安全な場所に隠せたものを。現状のインフラ技術では、システムの遠隔バックアップも、瞬時に同期とはいかない」


「天王寺アリス。

 アンタは、閣下の足元で、ピーピー泣いてればいいんだよ。

 前と違って、簡単に逃げられると思うな!

 絶望して、明日が来ない方が幸せだと感じながら、この塔で独り朽ち果てていけばいいっ」


「システム『sagacity』は、私を消せと言っているのだったな。

 本当にそうすべきだ。

 それを望まない、マスターでもあるエリオットの愚を、最大限に利用させてもらうまで。

 この天王寺アリスを飼ったら、どうなるか。

 生きている間は、あがかせてもらう。

 あれだ。

 空中と地上は、制圧されているにしても、ノイズの影響を受けない大深度にアトミック施設でも作って、爆破できれば、地表崩壊に巻き込めるとは思ったが、予算も人員も寿命も足りないのでパスした」


「――閣下の御前ごぜんに捧げるのが、アンタの首だったら良かったのに、と素直に思ったが、まあいい。

 おそらくアンタは今から、人生で一番の後悔を味わうことになる。

 扉が開く前に手錠を外す。

 どうせ、この竹内イチロウと二人きりで、このエレベータにのせられて、目隠しを外された段階で気づいていると思うが、もうすぐ目的の階に到着だ。

 閉じ込められて、家畜同様に扱われるのが嫌だという程度の理由で、子供を捨てて逃げまわった事を、神にでも懺悔するんだな。

 天王寺アリス。

 アンタがいない間に、小僧がどうやって育てられたか――。

 ふん。

 表情を変えないのが、逆に緊張してるって証拠になってるだけだ。

 ……さあ、どうぞ。

 しっかり坊やとの対面を楽しんで下さいまし」


「……あ」


「――う…え。母上!」


「着きましたよ。

 ほら、早く降りて下さい。ボーっとしてないで、先に。

 ルイーナ様の前では、いちおう貴女の方が目上であると振舞うように、閣下から命じられていますので。

 配下の私が、先に降りたらおかしいじゃないですか。

 さあ、早く。

 あの純粋な目、閣下と同じ青い瞳を――まっすぐに、逃げずに、近くでご覧になってあげたらどうですか?

 天王寺アリスさん。

 閣下は、ルイーナ様を、とても無垢に育てて下さいましたよ。

 ……自分を愛してくれている父親が、世人せじんの注目を集める独裁者エリオット・ジールゲン閣下、その人であるとは知らずに。

 本当に、何も知りません。ルイーナ様を産んだ頃の貴女のようにね」


「母上! ボクがルイーナです。

 あ、急に抱きついたりして、申し訳ありません。

 父上に、何年ぶりかの再会になるので、きっと母上は、大きくなったボクを見てビックリすると思うからと言われていたのに、嬉しくてつい。

 でも、本当に嬉しくて」


「ルイーナ様。

 母上さまは、長旅で、すぐにでも休みたいぐらい疲れていらっしゃるのです。

 本当は、ルイーナ様にお会いできて、心の底から嬉しいのに――お喋りできないぐらい。

 ねえ?

 アリス様?

 感動の再会過ぎて、うつむいたまま涙出てきました?

 唇を噛みしめて。

 ちゃーんと、七歳なりのイラズラ坊やですよ。フツウの子供らしいね!」


「えー、タケ。

 この前、ボクが、背中にヘビのおもちゃ入れたのを、まだ怒ってるの?」


「ルイーナ様。

 申し訳ありませんが、この竹内イチロウは、それなりに根に持つ性格なのです。生まれつき。

 アリス様なら、よーくご存知だと思いますが。

 ――それよりもアリス様。胸の中に飛び込んできたルイーナ様に、言葉ぐらいかけてあげたらどうなんですか?」


「……ち……ちがう」


「母上?

 え。痛い……そんなに強く抱きしめないで下さい!」


「ちが……いや、違わない!

 ごめん……ルイーナ……独りにして……ごめん。

 本当に、ごめん……ごめん」


「母上……ボクは、大丈夫だよ。

 一人じゃないよ?

 父上が、ずっとそばにいて下さったから。タケもいたし」


「ごめん、ルイーナ……あの時、一緒に逃げきれなくて……」


「なに?

 何、言ってるの? 母上。泣いてて、よく聞こえない……」


「良かったですね、アリス様ぁ。

 今、その感じているお気持ちを定着させてあげるためにも、ちょっと強調して言わせて頂きますけど、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』が崩壊させられなくて、良かったんじゃないですか!

 そうなっていたら、ルイーナ様もどうなっていたか、分からないっ。

 ルイーナ様が、悪い連中と見分けがつかないような、悪い子に育っていると思っていましたか?

 閣下も分かってみえて、お優しさを与えて下さったんです。

 突然、今まで住んでいた場所が失われるなんて、本当に怖いですよね――アリス様ぁ。

 ねえ?」


「タケ、何を言っているの?

 ……母上!

 どうしたの身体が震えてる。顔色も悪いよ!

 母上は、悪いやつらに捕まっていたんでしょ! タケが、怖い事を思い出させるから。ひどいよっ」


「……ち……がう。ルイーナ」


「申し訳ありません。

 ご存知の通り、この竹内イチロウは、口がうまい方ではないので。

 でも、大丈夫です。

 母上さまは、私の言っている事が、何か、すべて分かってみえると思いますので――ルイーナ様が心配されるような事は、一つもありません。

 ルイーナ様。

 それよりも、御父上はどうされました?」


「父上は、先ほどまで一緒にいて下さったんだけど、少し離れるからって。

 すぐに戻ってきて下さるって言ってたけど……母上っ!」


「違うっ!

 私は、決してルイーナを……ルイーナを……。

 ごめん、ルイーナ……今は、私から離れて。

 あなたを見ていると、どうしても落ち着けない。ごめん……本当にごめん。独りにして、ごめんなさい……」


「母上……?」


慚愧ざんきえないと言いましょうか――そういう感じですかね。

 アリス様ぁ」


「え。何?

 タケ、どういう意味? ……あ!」


「違うの……私は、ルイーナを助け出したくて。

 でも、保証がなかったのも事実……でも、それしかなくて……あっ」


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