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純心な彼女と独裁者 ~ 純真な少女と独裁者

The Sky of Parts[16]

■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。



※ほぼ同時アップロードですが、16話は長文なので、中途半端なところで2つに分割します。


『……そう、私には、子供がいたはず……えっ?

 あなたが、私の子供?

 エリオット?

 あれ?

 そうだったのかな。

 本当に、思い出せないの――自分の名前が、天王寺アリスだった事はおぼえているけど。

 でも、たしかにエリオットは、私の大切な人に思えるわ。

 絶対に、嫌いになりたくない。

 その為には、何でもしなきゃって思うような……。

 じゃあ、やっぱり、エリオット。あなたが、私の子供なのね。

 良かった。

 私、さがしていた子供に会えたのね。

 もう会えないかと思っていた。

 あら。

 急に抱きついてきて、泣き出してしまうほど、エリオットも、私に会いたかったのね。

 うん。

 大丈夫よ。

 どこにも行ったりしないわ。だって、私は、母さんだもの。

 だから、もう僕を置いてどこかに行こうとしないでなんて、悲しそうな声で言わないで。

 母さん、ずっと一緒にいるから。

 私のいとし子は、エリオットだけだから。

 ――私の子は、いつか神話をつむぐ。

 世界を統べるの。

 エリオット、一緒に手を取りあって、これからも生きていきましょう』



* * * * *



「なんだよっ!

 離せ!

 朝食食器の回収かと思ったら、あたしもかよっ。離せって!」


「待てっ、エリオット・ジールゲン!

 エルリーンを、どこへ連れて行く気だ!」


「僕とタケで脅しながら、Lunaの歌声を採取するのは、非効率だと思わないか?

 面倒に感じてきた。

 僕ら二人には、他にも仕事があるんだ。

 結論として、この鳥カゴにいなければならないのは、Lunaただ一人で、お前が勝手に歌ってくれればいい。

 このお嬢さんに、無事帰ってきてほしいのなら、歌ってもらおう。

 歌声データを献じろっ」


「エルリーンを、どこへ連れて行く気だって聞いてるだろっ」


「ふん。

 Luna。

 何度も言うようだが、質問の回答を求めたり、要求を通したいのなら、僕の息子ルイーナに戻ったらどうだ?

 『エルリーンをどこへ連れて行くんですか? 連れて行かないで下さい。歌ならいくらでも差し出します。お願いします、父上』。

 ほら、どうだ!

 こんな簡単なフレーズを口にするだけで、すべてが解決するぞ」


「くっ」


「ルイ。

 唇噛んで、悔しさ満載の顔してるから大丈夫だと思うけど、絶対に、こいつの挑発に耳を傾けるなよ!

 分かったな! 副班長っ」


「タケ。

 歩くのに支障はないが、ドレスを着ていても発動可能だという、自慢の蹴りは繰り出せないように、しっかりとお嬢さんの手を拘束しておけよ。

 腕も含めて、全身のバランスがとれなければ、全力は出せない。

 班長のお嬢さん。

 はい。

 これ、VRゴーグル。

 天王寺アリスが、勝手に改名した品だ。聴力を奪うのはやめておく。

 僕とお話しながら行こう。

 では、鳥カゴに一人残されたLunaは、歌い始めろっ」


「待てって言ってるだろ! エリオット・ジールゲン!

 オレも、連れていけ!」


「Luna。

 彼女をほふる方法は、いくらでもあるんだぞ!

 くくっ。

 たとえば、タケの薬で、僕の部下になったと思い込ませて、刀持ちとして付き従わせるだけで、彼女はもう元の生活には戻れなくなる。

 気に入ったからこそ、逆に、どういう目にあわされるか分からないと思った方がいい。

 どうせ、いつかは、僕の『息子』と結婚させるつもりでいるんだ。

 彼女の方から先に、世間に周知して、顔を馴染ませておいても、僕としては構わないと考えている。

 分かったか?

 いろいろと勘違いするなっ」



* * * * *



「おいっ。

 本当に、あたしをどこへ連れて行く気だ?」


「ん?

 Lunaを脅してきた通りにしてやろうかと思っている。

 アリスと同じように、お嬢さんにもタケの薬を使うつもりだ。

 くくっ。

 そうしたら、お嬢さんは、もう家族とも、仲間とも一緒に過ごせなくなる。

 ――タケの薬は、すべてを忘れさせてしまう訳ではないから、仇でもある僕の拳銃を持つ役をさせられながら、戦場で昔の知り合いに出会って、とても辛い思いをするんだ!

 どうだい?

 愉快だろっ! ……ふふ」


「楽しくないって!

 あんたの感覚を押しつけてくるなって!

 武器なんて、あたしに持たせてみろっ!

 しかも、そばにいるんだろ。

 あたしを部下になんてしたら、至近距離から討ち取ってやるからな!」


「お嬢さん。

 居場所なら、僕が、いくらでも用意してあげると言っているんだ。

 しかも、絶大な権力付き。

 おびれられてしまえば良いのに。

 ――まあ、VRゴーグルをしているから、表情は分かりにくかったが、口元辺りを見る限り、ほんの少しは怯えてくれたようだ。

 あははは!

 今日は、Lunaとの約束を反故ほごにするのは、やめておいてやろうっ。

 それよりも。

 ほら。

 聴こえるだろ?

 お嬢さんは今、視力が封じられているから、端末の画面は見えないが、Lunaの歌声が聴こえないか。

 Lunaは、一人で、僕の言いつけを守って、真面目に歌っている。

 彼の班長としてどう思う?

 なあ。

 本人がいない今だから、素直に吐き出してみたい、苦情や不満のようなものはないのかね?

 ああ。

 お嬢さん。

 朝食で、目玉焼きに添えたローストチキンのカットを、おいしそうに食べていたね。

 微妙な味付けまで含めて、手間暇かけて作ったのは、もちろん僕だ。

 夕食は、パスタの予定で、お嬢さんの分だけ、あのチキンを多めに入れてあげられる準備がある。

 あと、ケーキを焼いたから、今からご馳走してあげるつもりだ」


「――まあ、あれだ。

 しっかり脅しをに受けて、すっかり屈して、完全にエリオット・ジールゲンの手先に戻ってるじゃないか、とルイには、本当は言ってやりたい。

 それを言うと、絶対にめそめそして、泣きながらもっと深みにはまって、『迷ってる迷ってる迷ってるんだ!』みたいな事を、散々言った挙句に、名実ともに、あんたの手に堕ちると思うので、本人には伝えるべきではないと、班長のあたしは判断してる。

 はあ……。

 遠回りして、方向修正してやろうと思ってるんだけど、ルイの性根を、よっぽど捻じ曲げないと、今のところ65%ぐらいの確率で、あんたにひざまずくルイの姿が、見られるんじゃないかと思う。

 ルイが、そんな事になると、あたしも巻き込まれるのが確定してるんで、なんとか回避したいんだが……35%ばかりの希望で、どうやって乗り切ろうか、頭が痛いところなんだよな」


「思わず拍手してしまったよ!

 お嬢さん、素晴らしい見解を明らかにしてくれて、ありがとう。

 お茶が好きだと言っていたね。

 おいしい紅茶も用意してるから、期待しておいてくれ。

 そうだ。

 最新情報を提供しておいてやろう。

 Lunaは、さっきの脅しで、焦って自分を見失ったのか、今までになく、真剣な顔つきで歌っている。

 僕のところへ、息子として帰ってきてくれる確率は、85%ぐらいまで上昇したと思われる。

 つまり、お嬢さんの切なる願いが叶うとしたら、15%あるかないかだ。

 悦ばしい事だ。

 くくっ。

 『sagacity』システム完璧再稼働後にはなるが、二人ともまだ幼いので、まずは、許婚いいなずけという事で、公表しようと考えている。

 Lunaの神の歌声を利用しつつ、お嬢さんには、前線に出てもらおう。

 嫌だと言っても無駄だ。

 名義は、貸してもらう。

 僕が、適当に采配さいはいを振るので、気楽に考えてほしい。

 ――手始めに、小さな反乱組織でも潰そう。

 ターゲットは、君の古巣ではない。

 お嬢さんの仲間たちには、君が裏切り者になったと、じっくり分からせてやりたいじゃないか。

 そういうショーは、見てみたいのでね。

 ふふ。

 天王寺アリスに育てられた君は、理想の部下であり、理想の我が家の嫁だ。

 必ず、うべなってもらう!」


「悪趣味に付き合う気はないって!

 ルイとも――あんたなんかに言われて、婚約も、結婚も、絶対にしない。

 だいたい、おかしいだろ。

 キモイ勘違い野郎って言われる事ないか?

 あんたのプランだとさ、いつもルイが外野だ。

 あたしは、これからもルイとは、班長と副班長の関係でやってくつもりさ。あんたなんかの言い分を、聞いてやる気がしないだけなんだ。

 だから、世間でも、ルイや軍師殿から見ても、リサイクルすら不可能な不用品って目で見られるんだって!」


「小娘……言わせておけば。

 反乱分子のお前なんぞを、エリオット・ジールゲン閣下、御自おんみずから、目に掛けて下さり、あまつさえ寵臣ちょうしんとして召し抱えると仰って下さっている意味を、ないがしろにすると言うのならば、今、ここで、この竹内イチロウが――」


「何度も、黙れって言わせるな! 整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎っ。

 あたしは、こいつと話してるんだっ。

 話に、横から割って入ってくるんじゃない!

 『あたしをお宅の嫁にして下さい』と言った瞬間に、あたしの方が上司なんだろっ。

 余計で、しかも的を射てもいないような事を言うなって!

 お前、発言で絶対に失敗するタイプだっ。

 今後は、やめとけと言っといてやる!

 お前がヘマして、クビになったら、あたしはこいつの寝首をかこうと思ってるからなっ」


「くっ……この竹内イチロウに対しての物言い。

 ――天王寺アリスと同じような態度をとりやがって!

 しつけた育ての親が、あの女のせいか……っ」


「整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎に、はっきり言っといてやるっ。

 自分の悪いとこ並べられて、『はい、そうです』って、素直に認められないヤツはな、どこもかしこも、ちっちぇえ言われて、後ろ指さされるんだ!」


「……ちっちゃ……小娘ぇええ! 貴様ぁっ!」


「まあまあ、お嬢さんも、竹内イチロウも、落ち着いてくれ。

 ……タケ。

 いったん下がってくれるか。

 アリスから、悪ノリを楽しむところを引き算したような、このお嬢さんと、タケを一緒にしておくと、僕は、外野にされがちだと悟った……。

 君もだ。

 お嬢さん。

 大人の階段をのぼっている最中さいちゅうだからこそ言っておく。

 君の尊敬する天王寺アリスという女性は、人生が終わろうとも絶対に馬が合わないと思っている相手でも、それなりにたらし込む、いや、もっと簡単な言葉で言おう。

 手懐けるというか、丸め込むすべを身につけていた。

 僕に言われたからではなく、将来は、彼女と同じような女性になりたいというのなら、もう少し、その辺りも勉強する事をおすすめしておく」


「うう……分かった。

 軍師殿は、たしかにそういう女性だった。

 こんな戦争ばっかりの世の中で、『女の子なんてやめてやるー』って思ってたけど……あたしなりに考えてみる」


「しかし、閣下っ。

 このこむすめ……いや、いくら、こちらから重用ちょうようを希望している人材だからといって……こいつと二人きりになるのは、竹内イチロウといたしましては、危険と判断します」


「タケ。では、これでどうだ?

 僕は、拳銃を手にして、お嬢さんと話し合いをするよ。

 うまく一発目を避けられたとしても、目をふさがれている。走って逃げようとすれば、転倒する事間違いなしだ。

 そこに、二発目が襲ってきたら、どうなるか」


「承知致しました。

 閣下、何かありましたら、すぐにお呼び下さい」


「早く、どっか行け!

 整髪料のにおいで、立ち去ってないのすぐに分かるぞっ。スーツにネクタイ野郎!」


「黙れっ!

 この竹内イチロウにも、拳銃の用意があるぞっ! いい気になって勢いづくなよ、小娘!」


「早く、どっか行け! タケ」


「……御意のとおりに」


「整髪料のにおいがしなくなったから、気づいていると思うが、竹内イチロウは立ち去ったよ。

 趣味悪く、監視カメラのモニタチェックとかしてるかもしれないが、まあ、面と向かっては、二人だけになった。

 ふふ。

 これで、ゆっくりお話できるね、お嬢さん」


「嫌だね。

 あんたなんかと、誰が話すもんか!

 ……あたしなんかよりも、ルイに、もうちょっと話しかけてやったらどうだいっ。

 ルイをあんたなんかの手に渡すつもりはないが、露骨な嫌がらせばかりしてるじゃないか!」


「それは、断らせてもらう。

 Lunaのやつは、裏切り者だ。

 手塩にかけて、たった一人ではかてにすらありつけなかった頃から、甲斐甲斐かいがいしく世話をして育ててやったのに――僕なしで生きられると図に乗った挙句に、ほんの少し威迫してやっただけで、臆病風に吹かれるさまを露呈するような小僧と、話す事などない。

 次に、Lunaとまともに話してやるのは、心の底からの恭順の意を表し、このエリオット・ジールゲンを父であると受け入れて、今後は、その境遇で生きていくと誓った時だ!

 ふふふ。

 それにしても、命の危険が迫っても、相変わらず余裕を見せてくれる。

 お嬢さん。

 僕とLunaの関係などを心配してくれて、ありがとう。

 だが、もうすぐ向こうから、とうの昔に降参していたと言ってくるから問題とも考えていない。

 そうなると、僕は、いよいよお嬢さんの義理の父親になる訳だが――なんて呼んでくれるつもりか、決めていたら知りたいな?

 あと、天国の本当のお父さんに、なんて言い訳するかも教えてもらいたい」


「あたしは、そうなるつもりがないから、どっちも考えていないよ!

 ふーん。

 あんたとルイを話させる機会とかいらないって事だな。

 じゃあ、そんなイベントもなく、軍師殿と三人で逃げる事にするよ」


「基本方針が決まっているのなら、どうやるつもりか聞かせてほしい。

 Lunaを逃がす件は、まんまとやられたが、僕を上回る頭脳の持ち主、天王寺アリスですら、自身は、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』に連れて来られてから、一度も脱出に成功していない。

 それどころか、今や、僕のそばで愛嬌を振りまいている。

 はは。

 『母さん』という設定さえ排除すれば、扱いとしては、完全に僕の寵姫ちょうき

 ――何度も言わせないでほしい。

 諦めた方がいい。

 お嬢さんと、僕の『息子』を、世間に御披露目おひろめする際に、アリスも、僕の正妻として横に立たせる。

 Lunaが、僕の子であるという出自しゅつじを明らかにする為にも、母親の存在は大きい。

 今のアリスなら、『母さん』設定は、口八丁くちはっちょうに説き伏せれば、さらけ出さずに乗り切れる。

 君も、不必要な考えは抱かず、家族四人で仲良くやっていく事を、ひたむきに考えてくれないか」


「そういう言い方で、ルイを含む、他人を言い丸めてきたんだろ!

 軍師殿には、相手にされなかったと思うけど、権力を手にすればするほど、タチが悪くなっていって。

 あたしは、あんたの言ってる言葉が難しすぎて、よく分からないけど、これでもかってプレッシャーかけられてるのは、さすがに感じる。

 ――戦争から遠い場所で、育った訳じゃないんだ。

 実戦に連れて行ってもらった事はないけど、逃げてる時とか、武器を持った軍の奴らに追われた事だってある。

 『女の子やめてやる』って思うぐらい、戦争を身近に感じるしかなかった、あたしが言ってやる!

 今みたいに、拳銃を向けられてるのって、所詮一時的。

 解放されれば、言うこと聞く気が、だんだんなくなっていく。

 けど、あんたの演説は、なんていうか、精神の奥に突き刺さるように訴えてくるやつ。

 たぶんそんな感じ」


「ふふ。ありがとう。

 独裁政治を行う者には、必要な能力なんでね。

 ああ。

 ちなみに、今のLunaよりも幼い頃から、施設に預けられて育ったんだが――そこが、初めての独裁政治を行った場所だ。

 いい練習だったよ。

 戦争は、両親を奪っていったが、いとしいアリスを与えてくれた。

 そして、『留め金』をなくしてくれた。

 両親の話だ。

 我が子の僕が、人並み外れた頭脳を持っているのに、気づいていたはず。

 だが、凡庸ぼんようである事が、幸福であると思い込んでいたらしい。

 あの人たちの恣意的しいてきな解釈に、圧迫されていたんだ。

 そんな主観的な考えを押しつけてくる者同士の間に誕生したのが、僕なのでね。お嬢さんに対して、何か押しつけがましい事を言っているとしたら、生まれつきだと考えてくれ。

 はは。

 懐かしいなぁ。

 施設の大人も、子供も、人心など操るのは、本当に容易たやすいと思うぐらいに、狙い通りに動いてくれた。

 口で言うほど、僕は、自分が優れているとは考えていない。

 アリスと出会えていなければ――彼女という、僕とまともな対話ができる人間と出会えていなければ、正直、大人になる前に、自身をほふっていたと思う。

 僕が話している事、考えている事を、本当に理解できる者など、どれほどいると言うんだ!

 ましてや、上回れる人間など、おそらく地上では、天王寺アリスしかいない。

 与えられた時間を、ただ生きていく事が、退屈なんだ。

 他人の人生でももてあそぶぐらいしか、僕には許されていない。

 普通に生きる?

 あはっはは。

 ――冗談じゃない!

 誰も、僕が、僕であると、認める事などしない!

 分からないのか!

 アリスも、そして、今は、間抜けだとののしらせてもらっているが……神託しんたくの歌を有するLuna、いや、ルイーナも、有り触れた生活などできやしないっ。

 僕は、アリスとルイーナを、必ず、苦悩あふれる、奈落でしかない現実から救い出さなくてはならないっ」


「と、突然さ、熱弁の講義されても、あたしには、よく分かんないけど……あの二人は、あんたの独り善がりなんていらないって思ってるだろ。

 まったく。

 ちゃんと相談せずに、自分一人で決めてるって事かよ!」


「アリスも、それに感化されたルイーナも、うわべだけの自由に惑わされている。

 きれいな包み紙にくるまれている人生――その中身は、徐々に心をむしばむ有害なものでしかないと気づいていない。

 いや!

 アリスは、気づいていたっ。

 だが、命など惜しくないと言わんばかりに、ルイーナを道連れに、毒の沼に飛び込もうとしていた。

 そうさせない為に、僕は、二人を、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』に閉じ込めておくしかないと判断した。

 正しい道を歩んでくれないと言うのなら、そばにいてもらうしかない。

 夫として、父として、二人を護るしかないだろっ」


「ちょ、ちょっと待て……だからっ!

 それが、独り善がりなんだよ! ルイや、軍師殿を護りたい気持ちはあるって事だろ!」


「二人だけじゃないっ!

 お嬢さん。

 君だって同じだ!

 気づいていないだけで、君は、十分に非凡な存在だ。

 このままだと、ただならぬものを持ってしまった定めに、飲まれていくだけだ!

 この僕が気づいてやって良かった。

 アリスや、ルイーナ同様、エリオット・ジールゲンの手の上で生きていけ。

 そうすれば、忍び寄る禍難かなんの未来には、到達しないで済む!」


「はぁ?

 まだ起こってもいない事で、助けてやってるから……感謝しろ、とか言いたい訳?

 あんたの表情とか、VRゴーグルだっけ? つけられてて見えないけど、そういうバカげた発想を真面目ヅラで叫んでる?」


「生まれや育ちでは、人を判断するつもりはない。

 アリスは、やんごとない軍人一家の出身だが、僕自身は、民間人の出だ。

 知っている限り、軍人である血縁者すらいない。

 僕と天王寺アリスの子として出生したが、ルイーナには、戦略を立てる才はない。

 勘違いされているといけないと思い、念の為に言っておく。

 軍人には向かないだろうが、ルイーナの事は、多大に評価しているよ。

 お嬢さんからも再三言われているし、僕自身も伝えたが、ルイーナに関しては、僕らとは全く違う、に差し響かせる能力がある。

 あの歌声の力を知るまでは、あくまでアリスとの間に誕生した子であると考えていたが、今は、この僕と同じ尺度にいる者として、世間で存在させてやらねばならないと考えている。

 その為にも、ルイーナには、性情せいじょうを捻じ曲げてもらわねば困るんだ。

 今まで生きてきた人生など捨て、世界のすべてを握る事だけを考えさせてやりたい。

 ルイーナが、次代の支配者になる為には、お嬢さんの存在が必要だ!」


「本人がやりたくもないって事を押しつけるなよ!

 そして、あたしだって協力なんてしないぞっ」


「ルイーナが、あそこまで心揺れて、気弱になっているのは、お嬢さん――君の存在があるからだ。

 実際に、君は、人質としての働きも十分にしてくれていると、僕は大きく評価している」


「はぁ?」


「おや。

 意外だったかい?

 表情が見えていたら、ポカーンとしたさまを見せてくれたのかな。

 ふふ。

 ルイーナをたった一人で連れ戻していたとしたら、あれは、どこまでも、この僕に抵抗の態度を見せていただろう。

 あの母親の姿を見ても、父親の僕に何を言われようとも、自分の意思では、陥落していたとは思えない。

 気づいているんだ。

 支配者になれる能力に。

 おのれの歌で、他人をあおぎ立て、きつける事ができるのを、深層心理では理解しているからだ!

 気づいてしまったが故に、強く否定したがっている。

 こんなのは、自分ではない!

 けがれ知らぬ心に戻りたい!

 この力で、他人を操りたいと思ってしまいたくない!

 せき止めてくれたのは――おのれに秘められた力に気づいた時、そばにいてくれたお嬢さんの存在。

 故に、お嬢さんを失うかもしれないと思うと、すべてを投げてでも阻止しようと必死になる。

 お嬢さんの存在は、ルイーナにとっておのが保身っ。

 言い訳でしかない!

 ――君は、ルイーナにとって、班長なんだろ?」



※ほぼ同時アップロードですが、16話は長文なので、中途半端なところで2つに分割します。


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