彼と軍医 ~ 【過去】アリスとエリオットの故郷での再会
The Sky of Parts[15]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「……喉が痛い。
最後は、まともに歌えなくなって、喉に負担かけるとか……おかしな事になっていたし。
明らかに歌声じゃなくなってるのに、なかなか、エルリーンが解放されなくて……大丈夫?
ごめん。
エルリーンに怖い思いさせてしまって……」
「あたしは、大丈夫だって。ウザイ長話に付き合ってやっただけだから。
ほらさ。
小さい頃から、反乱組織に籍があると、いろいろあるんだよ。
人質っぽい体験含むなら、今回が初めてじゃない。
――戦争なんて、見慣れてるんだ。
『女の子』なんてやってても、まったく意味がないと思うぐらいにな」
「エルリーン……」
「ルイの方こそ、大丈夫なのか?
午前中っていうか、昼過ぎまで歌い続けさせられたもんな。練習してる時だって、さすがに飲み物休憩ぐらいあるのに。
あ。
このハーブティー、喉に良いらしいぞ」
「エルリーン……それって、あいつが言っていた情報だろ。
遅めの昼食だって、いろいろ置きに来たついでに」
「うん。そう。
いい香りだな。
茶葉、すごく高そうだ。
あたし、お茶はかなり好きなんだ。こんなに飲む前からおいしそうに感じる事はない。冷え切らないうちに飲もう。
ルイ。
何だ?
その顔。
そういうのを、疑惑を込めた表情? っていうんだっけ?
あれか。
なんとなく、ルイの言いたい事は分かるぞ。
あたしは、別にあいつの――エリオット・ジールゲンの話なんて、まともに聞いてない。
難しい単語ばかりで、意味が半分ぐらいしか分からないし。
ああいう、自分中心に世界が回ってるヤツに対しては、この前も言ったけど、無視するのが一番。
……はあ。
本当に、胸糞が悪いぐらいに、ウザイ言い方で、圧迫された。
こっちの言ってやりたい事は、確実に通すけど、どっちつかずな態度は見せないようにする。
誘いにのる気はないし、脅しに屈するつもりもない。
性格悪いのに、実権握って踏ん反り返ってるって、タチが悪い事この上ない。
まともに相手してたら、時間の無駄さ。
適当に、あしらっておいた方が、こっちへの被害も少ないと思うんだ」
「エルリーン。
そんな風に言えちゃうと、あいつに、余計にとりつかれるよ。
思い起こすと、母上が、そういう態度がとれる人だった。
タケも、どこかそういうところがある。
あいつに、付き従ってるけど、言いたい事を通す時はある。だから、側近として長く仕えているんだと思う。
……あの……その……」
「ルイ。なんだよ。
あたしが、あいつに、とられてしまいそうで、怖いとか言いたいのか?
返事は、副班長」
「……はい。エルリーン班長」
「ないない!
あはは。
心配し過ぎだって!
だって、あいつは父さんの仇なんだから。
――どうやったらスキをついて、先手を打てるか……それを狙ってるけど、おちゃらけたようで、まったくその機会をつかませてくれない。
ルイと違って、肉弾戦バッチ来いだろ。
前線には滅多に出てこないくせに、体力づくりは、絶対に怠っていない。
おつむの良さは、悔しいが認めてやる。
長話を聞かされながら、様子をうかがっているけど、下手な動きをすると返り討ちにあって――ルイもろとも、そこでゲームオーバーな気がする。
勝手なイメージ含むだけど、軍師殿が、時間をかけて回りくどい作戦をいくつも立てて、ルイを逃がしたって訳が分かるんだ。
たしかに、世界に君臨できるような独裁者になれるヤツだわ。
ま、あたしが倒すけどね」
「エルリーンは、班長に向いていると思う」
「言っとくけど、ルイ。
お前とは、結婚しない。
あいつの思い通りになりたくないんじゃなくて、ルイが弱っちいから!
あーっ。
それにしても、あいつ、態度でかい!
軍を丸ごとやるから、仲間になれって。
もらってすぐに、ぶっ潰してやろうかとも思ったけど、だいたいああいうヤツは、後ろで糸を引きたがるんだ。
広告代わりに利用されるのは、まっぴらごめん。
な。
だから言ったろ。
ルイ。
あいつに頭下げたって、何にも変わらないどころか、言う事を無条件で聞かされるだけのマイナスにしかならないって。
だから、絶対に、あいつの手先に戻るのはやめておけよ」
「それは、もう止めておく。
心配しないで、エルリーン。
……ここから逃げ出せなければ、いずれ無理やり、そういう事にはなっちゃうかもしれないけど……自分の意思では、エリオット・ジールゲン側の人間にはならない」
「おっし。
さすがは副班長! よく言った。
お腹減ったし、ご飯食べよう! 食べながら、逃げ出す作戦会議だ。
あ。
監視カメラで聞かれてると思うから、めちゃくちゃ良い名案出てきたら、耳打ちな」
* * * * *
「エリオット。
風邪とか引いてない?
母さん、いろいろ心配してるの。
大丈夫?
あと、お小遣いは足りてる? 今すぐ、欲しいものはないのかしら?」
「大丈夫だよ、母さん。
僕は、特に満たされていないものはない。
歌声データが、もう少しほしいところだが、それも、母さんが授けてくれた作戦のおかげで、もう手が届くところまで来ていると思うんだ。
――Luna自身、僕の手の中。
弄んでやるのに飽きたら、心ごと、このエリオット・ジールゲンの支配下に戻してやるつもりだ。
ほら。
母さんが心配する事などないだろ。
それよりも、僕の膝の上に、顔をうずめてくれないか」
「YES、エリオット。
……そうだわ。
屋上のヘリポートなんだけど、そんな事があったらと考えたくはないのだけど、私の可愛い子供のエリオットが、万が一病気になった時に、階段しかないのは――やはり、心配なの。
空中回廊へ行くまでにも階段があるし。
やっぱり、念の為、エレベータのせっち……あっ」
「ああ、すまない。
少し痛かったかい? 背中は、それなりに注射針が刺さりにくいから。
だが、僕に身体を預けてくれていたから、大丈夫だね。母さん。ずり落ちないように、しっかり支えさせてくれ。
はいはい。
『子供』の僕の心配ばかり、いつもありがとう。
血圧計をそろそろ買った方が良いという件は、とりあえず、年に一回の健康診断で何か言われてからで大丈夫だと思う。
あと、軍資金は十分に足りているから問題ない」
「閣下。
如何でしょうか。今回のアリス様の微調整は?」
「竹内イチロウ。
見ていた通りだ。
――もう、タケの薬を使っての微調整で、元のアリスに近づけるのは、諦めた方がいいのかもしれん。
知能指数が下がっている訳ではないのだがな。
童女のようになってしまうか、母親気取りになり過ぎてしまうか……躾けるのが面倒なものだ。
まあ、会話をうまくつないでやると、一時的に、僕の傀儡に仕立てる事はできるので、その状態を長く維持できるように、『母さん』を調教してやるさ」
「あの薬。
これほど、しっかり調整したのは、竹内イチロウといたしましても、初めてでして。
今までは、せいぜい、極秘任務の際の記憶操作程度でした。
――元々、違和感がない程度に、忘れてもらうのが主目的で作った薬なので。
先入観などを持続的に発生させる事はできるので、例えばですが、ルイーナ様に、閣下の『息子』である事に違和感を感じさせないようにさせる……など、という使い方には向いていると思いますが」
「タケの言いたい事は、理解できているから安心しろ。
僕が、かなり無理を言って、アリスの調整をさせているのは知った上だ。
自らを衰弱させて、消えようとしていたアリスを止める事ができたのは、タケの薬のおかげだと、高く評価している。
そして、伽相手の寵姫として、天王寺アリスの身体は、僕の手の中に堕ちてくれている。
僕が望むような、完全な姿ではないだけ。
――しかし、ここにいるのは、間違いなくアリスなんだろう。
はは。
してやられた気がするんだ」
「閣下、何がでしょうか?」
「ルイーナを連れ戻す一件。全般的に。
すぐに、あの反乱分子の基地など突きとめる事ができたが――アリスは、良質な人質を仕立てる提案をしてきた。
これで昔の仲間への総攻撃を回避させた。
そして、ルイーナが僕の子であると、情報を広めさせる為と吹き込み、追撃のチャンスもそれとなく潰す。
さらに、人質だと連れてこさせた、あの小娘だ。
ふん。
深層心理では、気づいていたんじゃないか?
この僕が、あの小娘を気に入ると。
アリス自身が育てあげた秘蔵っ娘。
正直、アリスの次に欲しいと思う、理想の手駒だ。勉強ができなさそうに感じるが、頭が悪い訳じゃない。
教育の機会を与えられなかっただけだ。
反乱分子どもとの隠匿生活のせいで、学校に通学できていない事が、調査結果で明らかになっている。
しかしだ。
実戦経験はないと聞いていたが、前線においても、十分に通用する逸材だ。
――銃口を向けられた程度で怯えるような奴は、末端兵士でも、僕の軍にはいらないと考えている。
完全に合格だ。
我が家に息子がいて良かったよ。
縁付かせれば、あの小娘を、正統な形でも迎える事ができる。
タケだって、それとなく気づいているだろ?
あの小娘が持つ、奇妙な――他を引き寄せる力に。
ははは。
タケ個人的には、小娘の事を恨みまくりだろうがな!
それは、天王寺アリスという女も一緒かっ」
「……もちろん、とてつもなく、あの小娘は嫌いです。
閣下には、申し訳ありませんが、アリス様も大っ嫌いでした! 今みたいな状態になってしまっても、恨みが消えないぐらいに。
――ただ、それは、身近で接しているので、軋轢が生じている為だと考えます。
いわゆるパーソナルを知らずに、自分よりも上層の人間として演説台にでも立って頂いたり、この竹内イチロウが、御命令を受ける立場であるという認識がスタート地点であれば、十分にカリスマ性を見せつけられていたと思います。
このような回答で、よろしかったでしょうか?」
「タケ。
百点やろう。満点だ。
ルイーナが持っていない、軍人になる条件を、あの小娘はすべて持っている。
実の娘であったのなら、間違いなく戦線で御披露目しているよ。
さっきも言ったが、男子なら用意できるので、いずれは、ルイーナと番える格好で、正式に手に入れるつもりだ。
このエリオット・ジールゲンが望んでいるんだ。
竹内イチロウ、異存はないな?」
「唾棄すべき相手であると、この竹内イチロウが思っているのを認めて下さるのでしたら、閣下の望まれる事に、同意しない理由はないと考えます。
恐れ多いと思いながらも、申し上げます。
閣下の御意見とも一致すると考えておりますが、ルイーナ様だけでは、完成した『sagacity』ありきでも、閣下の世継ぎが務まるとは思えません。
閣下とアリス様の関係は、一勝一敗を繰り返す、そういったものであったと表現しておきます。
ですが、ルイーナ様と小娘だと、間違いなく妻、夫の順位が確立されるのではないかと。
まあ。
一人が支えられないルイーナ様では、支えるべきものが増えたら、まず潰れてしまうでしょう。
恐妻家という設定で良いのではないでしょうか。
輔翼が必要です」
「だろうな。
苛立たしいと思う気持ちもなくはない。
対アリスの切り札として、ルイーナを、ああいう自己主張しない性格に育てたのは、僕自身だが――この状況になっても、自分の要求を貫く事ができない。
母親といた頃は、僕に向かってくる事もあったが、それはどこまでいっても、天王寺アリスの手先としてなんだ。
たった一人で、この僕と『敵対』できていない。
あははは!
しばらく鳥カゴにでも入れて反省させておけば、父親の僕の温かみを思い出すだろう。
親鳥がエサを持ち帰った時に、喜ぶ雛鳥のように、可愛らしい顔で見上げてきて、また、僕に飼われるように生きていきたいと、自ら願い出てくるはずだ。
愛しいアリスとの間に生まれた小鳥――ルイーナ、これからも大切に扱ってやるよ。
ふふふ。
歌う以外に、あの子には能がないがな。誰かに言われるがままに歌うだけ。人の上に立つ器量がない。
――ああ。
そうだ。
タケ。
今回のアリスの狙いはなんだと思う?」
「は?
……閣下、何を仰っておられるのですか?」
「見ろよ。
今の天王寺アリスは、自ら、この僕に身体を預けているじゃないか。
片時も、そばを離れたくないと願ってくれている。
タケ。
分かるだろ。
アリスが、従順である時は、僕に合わせてくる時は、すなわち、何かを企んでいる時だ。
――さっきも言ったじゃないか。
してやられた気がするんだ。
ずっと、昔から。
『sagacity』の怨敵、ルイーナという存在を、僕の愛しい息子として誕生させた。
ふ。
本来なら、僕の管轄内ですべて完結するはずだった、秘匿して育てたルイーナの歌声を、アイドル活動だとカモフラージュして、軍の総力をもってしても回収できないほどの範囲に拡散させた。
これで、『sagacity』の機能を不完全にされた。
効果が劣化するものの、録音で意味がある以上、ルイーナから声を奪って、閉じ込めても意味がないと思い知らしてきた!
万が一、僕が把握していない、ルイーナの歌声データがあったとしたら……ははっ!
息子を護る為に、アイドル話を持ち掛けてきたんだっ!
一見すると、愚かそうな言動でなっ。
ルイーナと二人で、僕の部下になるなどという事を含めて、陽動だ。
『敵対』する僕に対しての欺騙だったんだ!
アリスが、僕と一緒にいる事を望んでくれる時は、だいたい何か大きな計略を仕掛けてくる!
人質だって?
あはは!
冗談じゃないっ!
あの小娘は、アリスが僕を陥れる為に仕向けてきた!
そして、ルイーナを護らせる干城!
もちろん、僕の知略をもって、あの小娘は、こちら側の人間として取り込ませてもらうつもりだ。だが、その手段を少しでも誤ると、天王寺アリスが過去に仕掛けた戦術的展開に嵌まるかもしれん。
リスクは大きいが、あの小娘――エルリーン・インヴァリッドに、軍門に降ると言わせる事に成功すれば、確実にこちらの取り分が大きい。
ルイーナも、自らの意思で、僕のところへ帰ってくるだろう。
『娘』ね。
そんな手駒を隠していたとは。
くくっ。
アリス!
魅惑的で、実に美味を想像させる香り放つ、とてつもなく物騒なものを使って、僕と『敵対』かっ。
駆け引きが、そんなに楽しいかっ!
なあ。
こんな風に、髪や顔を、好き勝手に撫でられている君じゃないんだろ?
いいのかい?
『敵対』する僕の目の前で、こんなに美しい寝顔を見せてしまって。
眠っていて、抵抗できないまま、そのか細い身体が、このエリオット・ジールゲンによって処されてしまうかもしれないんだぞっ。
どうせ、討ち取ったぐらいでは、君が仕掛けた、僕を倒す為の数々の罠の発動は止められないんだろ!」
「……あの。
閣下。一つ、お聞かせ頂けませんでしょうか」
「なんだ、タケ」
「『sagacity』は、今でも、アリス様を消せと言っているのですか?」
「タケ。
どうして、そんな事を知りたい?」
「いえ。
竹内イチロウといたしましては、記憶操作の薬の成果といいましょうか――御望みのアリス様にする事はできませんでしたが、閣下の敵でなくす事はできたのか、それが気になっております。
閣下が、アリス様はいまだに『敵対』相手だと仰るので、どうなったのかと、ふと考えた次第です」
「――アリスは、消えた。
端末画面の表示を見た時は、思わず、今みたいに僕の膝の上でぐったりとしているアリスの身体を抱き寄せて喜んだものだ」
「そういった、確実な根拠があったとしても、アリス様は、まだ閣下に手向かってくると、お考えなのですか?」
「さあ。
ふ。これは、もう勘。第六感というやつだ。
あの小娘を仕掛けてきた一件以外に、何か企んではいないか――楽しみにしているんだ。
できれば、過去などではなく、今現在のアリスから何かがほしい。
そして、そうなったとしたら、アリスが、本当はいなくなったりしていないという事になる。
淡い期待というやつだ。
ははっ。
馬鹿らしいと自分でも思うが!」
「閣下。
アリス様が、敵ではなくなった件。
まずは、慶賀に堪えませんと申し上げます。
そして、この竹内イチロウが用意した薬で、それが結実となったとしたら、これほど喜ばしい事はありません」
「そうだ、タケ。
僕も、知りたい事があるんだ。
ルイーナのやつに言われたので気にしている訳ではないが、念の為、もう一度、お前の――竹内イチロウの言葉として確認させてくれ。
アリスに使っている薬は、大丈夫なのだろうな?」
「どういった意味でしょうか?
閣下。
アリス様を、元のアリス様に戻す事は、今の段階では、難しいと考えておりますが……それは、大変申し訳ありません」
「予後という話だ。
竹内イチロウ。
お前も医者なら、それなりの見解を持っているのだろう。
無理な注文をつけて、アリスの状態を調整してもらったが――その後の見込みに問題がないという事は、念頭においてくれていると信じさせてもらっている。
どんな目にあわせてやっても、元の『天王寺アリス』には、全力で断固拒否されて、百万回生まれ変わっても、結婚しないと言われていたが、彼女は、僕の事実上の伴侶だ。
傀儡に仕立てている状態なら、今すぐにでもこのエリオット・ジールゲンの正妻として、世間に出せる存在だろ。
アリスは、世継ぎまで産み落としているのだから。
そういった立場の女性であると認識して、正しい取り回しをしてくれているという事で、相違ないな?」
「もちろんです」
「では、この薬を使った、すべての人間の名簿と、その後の経過の記録を提出してもらいたい。
断るという選択肢はないぞ、竹内イチロウ」
「少しお時間を頂ければ、お渡しできます。
閣下だけではなく、他人に見せる目的で、体裁を整えておりませんので。今からすぐに作業に入ります」
「構わない。
医学用語なら、実力不足の医者には負ける気がしないぐらいに知っている。
そして、他人の行動パターンを推測して、回答を導き出す事など容易い。
――僕を、誰だと思っているんだ?
お前だから許すが、このエリオット・ジールゲンも安く見られたものだ。
竹内イチロウ、生データを渡してもらおうか」
「御意のとおりに。
エリオット・ジールゲン閣下の御心のままになるように――」
* * * * *
『あれ?
ひょっとして、エリオット?
ぷっ。
何!
マスクに、帽子に、サングラスって……あー。
分かった!
私に見つかると、この天王寺アリスの家の玄関の前になぜいるんだっ。
出ていけー。
敵のお前なんぞ、敷居のそばにも寄るなっ!
って、言われると思ったからでしょ!
……へっ?
ニュース見てないのかって?
ん~。
ずいぶん長い間みてないな。
新聞も読んでない。
職場の食堂で、仙人生活いつまで続けるのかって、心配されてるぐらいに興味ないの。
のんびりした田舎の食堂だけど、外から来たお客さんは、やっぱり戦争の話とかしたりする……それが嫌で、厨房の奥にこもって、ずっと一人でお皿洗ってるから。
それよりも、へへん。
見てみて! エリオット!
私、天王寺アリスは、待望の完全民間人になったのよっ。
もう、軍人喋りとか、強要されなくていいの。
嬉しい!
――ふふ。
……本当は、父と母も民間人になる予定だったのに。この集合住宅もね、その為に買ったのにね。
ううん。
やめよう。
暗い話。
あのね。
ここ、家庭菜園付き!
しかも、前の住人の方が、いろいろ栽培してくれていて、いきなり畑仕事が始められたの。
今日は食堂の仕事お休みだから、今、耕してきたところ。
似合う?
Tシャツに、ジーンズに、首からタオルに、そして、そして、麦わら帽子。
農民ルックっ。
……結局、この生活をスタートできたのは、娘の私だけ。
まあ、私は、軍で働いた事はなかったけど……天王寺家の唯一の跡取りだったから、父の後継者として、小さい頃から育てられていたから。
母だって、軍人だったしね。
父が、私の為に、軍人を辞めてくれると言い出した時は、本当に驚いた――でも、それは母ともよく話しあった結果であり、父の意志であり、強い希望だったみたい。
真意は聞き損なってしまったわ。
あ、エリオット。
父と母とのお別れの――段取りの準備とか……あと、みんなの前で読みあげる原稿書くとか、いろいろ代行してくれて、ありがとう。
実の娘の私が、取り仕切らないといけないのに……何もできなくなってしまって……。
まだ、父と母の両方が軍に所属していたから、終わってからも、あんなにやる事があるとは思わなかった。
エリオット。
手伝ってくれて、本当にありがとう。
……ごめん。
ああ……。
駄目だわ。
エリオットの顔見たら、思い出して泣けてきてしまって……ちょっと待ってね……うん。
もう、泣かないって決めたのに……。
いけないな。
アリス姉さん、泣いてばかりだ!
強い、強い、天王寺先輩であったはずなのにね。
ああっ。
ここで、私を抱きしめるのはナシね!
それは、反則。
だってぇ、エリオットは、私の敵だもの。ぷっ……ふふふ。
大丈夫。大丈夫。
私は、エリオットを嫌いになんてなったりしないから。
子供の時の約束は、ちゃーんとおぼえているわ。
だから、ちょっとばかり弱っている私に、何かするのはナシ。
やめておきなさい!
安心して。たとえ世界中が、エリオットを敵だって言っても、嫌いになったりしないから――』
成人男性が、高音域を歌う事を『カウンターテナー』と言います。これは、女声に相当する声種。
日本人で有名な方では、ジブリアニメ映画『もののけ姫』テーマ曲を歌う、米良美一氏が、カウンターテナー歌手になります。
男性には、第二次性徴期に声変わりがあるのですが(顕著でないだけで、実際には女性にも起こっている)、裏声や頭声を使って、女性が担当するようなパートを歌います。
女声の最も高い音域を歌える男性歌手は、『ソプラニスタ』、『ソプラニスト』などと呼ばれる場合もあります。
女の方のそれとはまた違い、なんとも神秘的な感じがします。
idolという単語ですが、ラテン語のidola(哲学用語)が語源と言われています。
偶像という翻訳の仕方があるのを認識している方は多いと思います。
信仰の対象を象ったような、まあ神様の代理のようなモノを偶像といい、「どこからどう見ても邪神像じゃないか!」というのもidolです。
外国語を扱ったサイトでよく書かれている事ですが、「idol」という単語のみで使うのは、注意した方がいい場合もあります。
文章の中に含まれているのなら、問題になる事は少ないと思います。
単語のみの乱用の場合、変な意味で受け取られてしまうので注意というやつです。




