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Zealgene

The Sky of Parts[13]

■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「なんだよ。ルイっ。

 身体丸めて座って。立てた両膝りょうひざを抱えて……そういうのを体育座りっていうらしいぞっ。

 そんなの弱っちく見えるから、立ち上がって、いつでも相手に殴りかかれるように身構えろよっ。

 せっかく、雑巾がけも、皿洗いの時も楽チンな普段着でもなく、もちろん女みたいなアイドル衣装でもなく、軍服着てるんだから……下は、半ズボンだけど。

 ルイだって、エリオット・ジールゲンには、いろいろ言ってやりたい事があるんだろっ。

 近づいてきたら一発ぶん殴って、母ちゃんを助けたいと思わないか!」


「エルリーン。

 よく、そんなドレス姿で、鉄格子を足で蹴り飛ばしたりできるね。

 赤いドレス姿のエルリーンなんて初めてみたけど、中身は完全にエルリーンだ。

 あ、ドレス、背中見えるデザインなんだ……な、何でもない!

 いや、きっと。

 鉄格子の外から、オレたち眺められるだけで……手出しなんてできないんだって。

 そうなんだ。

 オレ、やっぱり、この塔から――『スカイ・オブ・パーツ』からは逃げる事ができなかったんだ。

 エルリーンたちに助けられた時は、母上が苦しそうで……必死で、さっき来た男。『竹内イチロウ』、通称『タケ』っていうんだけど、閉じ込められていた部屋を開けられた瞬間に、拳銃奪い取って、自分自身を人質にした。

 こっそり後ろから見ておぼえていた扉のロック解除しながら、ヘリポートまで行って――自分でも、よくあそこまでできたなって。

 しっかりは、おぼえていないんだ。

 それに、あれは母上が、密かにやり方を教えてくれていたからできたのであって、オレ一人じゃ戦えないよ……」


「あたしがいるだろ。

 ルイ!

 二人で戦えば、勝てるって。

 お掃除・皿洗い班の班長と副班長なんだから、ここで負けたら、戻った時にチビどもの前で、大きな顔できなくなると思わないか。

 それに、軍師殿に今から会えるんだろう? 三人で、エリオット・ジールゲンのやつを倒そうっ。

 大丈夫!

 ドレス、ひざを隠すような丈だけど、足首はちゃんと出てる。

 揃い色の赤い靴は、簡単に脱げないようにストラップがついてる。十分に、蹴りは繰り出せるっ。

 袖のレースがちょっと邪魔だけど、それでパンチを仕掛ける時に都合が悪いわけじゃない。

 だから、問題ない。あたしは、戦える!」


「……エルリーン!」


「な、なんだよ。ルイ、急に真剣な顔して、立ち上がって……ん?」


「エルリーン。

 オレ、嫌な予感がするんだ……母上は、本当にどうしているのか――。

 無理やり連れてこられるって話なのかもしれないけど、母上自身の意思で、あいつと一緒に行動するとは思えない。

 おかしい。

 エルリーンは、必ず逃がしてもらえるように、オレが説得するよ。

 オレが、逃げ回るのをめて……素直に、あいつの言う事を聞けば、エルリーンは助けてもらえると思う。

 だから、安心して。

 あいつに命じられるままに生きていく。別にそれは、きっと、辛い事じゃないんだ。

 ずっと、ずっと。

 赤ん坊の時から、あいつに従って、あいつの思うがままにされてきたんだから――外の世界を知ってしまったから……ちょっと迷ってるだけで……だけど、エルリーンは必ず、外へ」


「ルイ……。

 っ……バカ! 何言ってるんだ!

 軍師殿も助けるチャンスだろ。

 三人で帰ろう。

 カッコいいコト言いながら、今だって目に涙をためてるじゃないかっ。

 軍に捕まっていた頃、あいつのところにいた頃を思い出して辛いんだろ!

 あたしたちの基地にいた時の方が、いいって少しでも思ってるなら、そんな諦めたような言い方するなよっ」


「ううん。ありがとう、エルリーン。

 でも、分かって。

 オレは、臆病になって言ってるんじゃないんだ。これが、今オレにできる、唯一の勇気ある行動だって思って決めたんだ。

 エルリーン班長が、いつも勇気をもって行動すべきだって言ってたじゃないか。

 だから――」


「ルイ! 班長の言う事を聞けって!

 行動する時は、いつもみんな一緒ってルールだろ。副班長のくせにっ」


「エリオット・ジールゲンが来たら……その場で、エルリーンを助けてもらえるように願い出るよ。

 さよなら。

 オレ、あいつのそばを離れて生きていけるなんて、きっと調子のいい事を考えすぎていたんだと思う。

 基地のみんなといて、楽しかったなんて、伝えるつもりはない。

 このまま、みんなの敵になるんだから――。

 こんな境遇、すごく嫌だと思うし、今、エルリーンが捕まっているのもオレのせいだと思う。

 けど、エルリーンを助ける為の力だっていうなら、せめて使わせてほしい。

 だって……エリオット・ジールゲンは、オレの――」


「エルリーン! エルリーンなのっ!」


「……軍師殿? 軍師殿なの!」


「そうよ、私。天王寺アリスよ。

 久しぶり、エルリーン。

 貴女の顔が見えて、嬉しくて、つい走り込んで来ちゃった!

 鉄格子が少し邪魔だけど、抱きついていいかしら、エルリーン!

 会えて良かった。

 その赤いドレスは、髪飾りを含めて、私が選んだの。可愛らしいわ!

 ほら、背中!

 背中見えるデザインは、私とおそろい!

 あ。髪の長さも、おそろいぐらいだわっ。

 肩の下まで伸ばしたのね!」


「軍師殿ぉ! 軍師殿のドレス姿なんて初めて見たけど、素敵だよっ!

 黒いドレス姿が、こんなにも似合うなんて思わなかった。

 基地じゃ、たまにスカート姿も見かけたけど、ほぼシャツにジーパンとかで過ごしていたし。

 あたしも会いたかったよ……あ、でも……あの……そこで、目を見開いて……動けなくなっちゃってる、ルイに……軍師殿の本当の息子のルイーナに。

 あたしの方に先に来てくれて、ありがとう。

 でも、あたしは不安な事はなかったよ。もうすぐ、軍師殿に会えるんだって思っていたから。

 ほら、ルイも!

 やっと会えた、お母さんなんだからさ」


「……はは、うえ?」


「え……?」


「どうしたの? 呆けた顔しちゃって。軍師殿?

 ルイーナだよ。

 あたしは、ルイって呼んでるけど。軍師殿の子供だろ」


「この子は、誰? 私の子供ではないわ」


「……え……へ……あ……ははう……え?」


「――その子供が、Lunaだよ。母さん」


「……エ……エリオット……ジールゲン……っ。

 母上に……母上に何をしたっ!」


「本物……エリオット・ジールゲン!」


「やあ、元気なお嬢さん。

 きっと、君は、僕の顔を知っているんだろうが、こちらとしては初めまして。

 ――Luna。

 おかえり。

 僕が、懐かしいこの部屋に入ってきてすぐなのに、歯を食いしばったりするなよ。

 可愛いお前の顔がしっかり見たくて、そばに来てやったんだ。

 お返事は、いつでもじゃなくて良いが、必ず笑顔で見上げてほしいと、小さい頃からお願いしてるじゃないか。

 ああ、そうか。

 すぐに、迎えにいかなかったので、ねているんだな。ふふ。実に、子供じみた行為で、僕の大切な小鳥は、相変わらず愛らしい」


「うるさいっ!

 母上を返せっ……くそ……ちくしょう……母上、母上っ!」


「おやおや。Luna。

 僕が来たらすぐに、そのお嬢さんの助命嘆願じょめいたんがんをしてくれるつもりだと聞いて――少し期待していたんだが。

 はは。

 お前の大事な人の今は、期待通りだったかい?」


「うるさい! うるさい! うるさいっ! どうして、母上を……」


「エリオット。

 Lunaは、何を騒いでいるの?

 鉄格子を握りしめて……時折、私の方に、悲しい目を向けてくるのだけど……Lunaは、エリオットの部下だって聞いていたのだけど、こんなに行儀の悪い態度を許していいの?」


「ああ。いいんだよ、母さん。

 神託しんたくかなでとを授かり、それを歌える神の子である、Lunaにだけ許可しているんだ。僕が、それで良いと言っているんだ。納得してくれるね――母さん。

 さあ、僕を優しく抱きしめて」


「YES、エリオット。

 私の可愛い子供であるエリオットが言うのだから、同意しない理由はないわ。

 母さんの胸に抱かれて、好きなだけ甘えていいのよ」


「軍師殿?

 ちょっと……おい、ルイ……これって……どうなって……」


「……っ。

 母上の姿をした……母上の姿だけど、母上じゃないって事だよ……たぶん、タケの薬か何かで……くそっ。

 ちくしょ……ううっ」


「軍師殿……うそっ。

 だって、あたしに会えて嬉しいって……今」


「ん~?

 嬉しいわよ、エルリーン。

 Lunaの歌声サンプルを採取する為の、最高の人質になってくれて。

 この私、天王寺アリスが、貴女を選んで、エリオットに、Lunaと一緒に捕らえる事を提案したの。

 あら。

 どうしたの?

 エルリーンも、Lunaも。

 そんなに驚いた顔して?

 さっきよりも、もっと嬉しくなってしまったのかしら?

 エルリーン。

 鉄格子を握りしめられないぐらいに、力が抜けてしまって……本当に、どうしちゃったの?

 基地で一緒にいた頃のエルリーンの元気そうな様子が忘れられなくて、今どうしてるかなって思っていたら、Lunaが強奪される時の映像に、貴女が映っていて、久しぶりに会いたいなって思ったの。

 連れ去った先で、Lunaを思うがままにしていたみたいだから――エルリーンがいれば、Lunaの歌声がたくさん、たくさん、たくさーん、エリオットに渡してあげられるかなっと思って。

 エリオットは、私の可愛い子供なの。エリオットに協力してあげて」


「で……できる……わけない!

 エリオット・ジールゲンなんかに、手を貸せるもんかっ! あたし、そんな事するぐらいなら――」


「できるわ。

 できなければ、貴女は、タワー『スカイ・オブ・パーツ』よりも遥かに高いところへ行く事になるんだから。

 そして、それはLunaが決して許さない。

 ほら。

 見て。

 Luna、この話を聞いただけで、青ざめた顔をしているわ。

 だから、Lunaは、歌い続けるしかない。

 エルリーンを護る為に、止め処なくLunaの歌声は、響き続ける――神話をつむぐまで、まない。

 それは、歴史に名を残す英雄の物語。

 いくさを終わらせる為のいくさ――戦争を終わらせた一つの伝承。

 ……見せて。

 私は、それが見たい……それをするのは、あなたたち二人。

 さあ、始めましょう。

 のちに言い伝えになる、その最初の一文字ひともじを今、ここで書き込みましょ……う……」


「――母さん。今は、ここまでにしておこう。

 僕が、肩を支えていても、身体が震えているようだ。顔色も悪い。

 先に戻って、休んでいて。

 悪いが、一人で戻ってくれ。僕は、まだこの二人と少し話がある」


「……うん。

 ごめん、エリオット。母さん、身体が弱くて。

 すぐに横になってばかりで」


「気にしていないさ。さあ、早く行って。

 あとで、お部屋で二人の時に、僕も、母さんをしっかりと、優しく抱きしめてあげるから。

 ね?」


「YES、エリオット……母さん、お部屋に戻っているわ」


「……さて、彼女は――天王寺アリスは、部屋から出て行ったようだが――二人とも、今度は、僕と話をしてくれるかな?」


「あたしは、話なんかするつもりはないっ。こっちに来い。拳で勝負しろ!」


「オレだって……お前なんかとっ」


「やれやれ、Luna。

 その腕っぷしに自信がありそうなお嬢さんを助ける為に、このエリオット・ジールゲンに絶対の忠誠を誓うのだと、しおらしい事を言っていたが、反故ほごにするという事か?

 裏切り者のくせに、さらに不義ふぎを見せ続けるとは、どういう了見か。

 主君の僕が理解できるように、伝えてもらえるか?

 返答によっては――そのお嬢さんが、ここからいなくなる事になる。

 元住んでいた場所に、帰れる訳ではない。理解していると思うが、この世から消えて、戻ってこないという事だ。

 慎重に回答する事をおすすめしておこう」


「……もう、逃げ出すつもりはない。

 さっき見た……母上みたいに……オレも、ああしてしまって、好きにすればいいだろ!

 手駒の一つとして、使えばいい。

 思い残す事なんてない。

 どうせ、オレの人生なんて、ずっと、お前の思い通りに組み立てられてきただけだったんだ!

 何もかも、なかった事にして……道具として、扱えばいいだろっ。

 ――ただ、エルリーンは関係ない。

 彼女は、逃がしてやってほしい」


「ルイ!」


「ふーん。

 覚悟を決めて、身を差し出す準備はあって、だから、お嬢さんを助けてくれという嘆願たんがんは通してほしいが、僕と話すつもりは、もうないという事か。

 なるほど。

 Luna。一番、気に入らない構図だ。面白みがまったくない」


「面白いかどうかなんて、どうでもいいだろっ。

 エルリーンは、逃がして……ください……彼女を、外へ出してくれたら……オレは……元通り、なんでもするから」


「バカっ。ルイ、こんなやつにびるなよっ!

 そんな事したって、この悪魔が、あたしをちゃんと逃がしてくれる保障なんてないんだ!

 だったら、お前が傷つきながら、これからも傷つくって分かってる事やるのやめとけよ!

 ルイっ。

 あたしの決意は変わらない!

 こいつを倒して、軍師殿も助けて、三人でみんなのところへ帰ろう!」


「……エルリーン」


「あはははっ。

 本当に、怖いもの知らずのお嬢さんだ。

 なんだい?

 僕が、君のお父さんの命を奪ったのが、今でも憎いのかっ。

 このエリオット・ジールゲンの痕跡を残したくないぐらいの憎悪を抱き――消し去って、なかった事にしたいぐらいにうとましいのか!」


「そうだ!

 お前は、父さんの仇だから……絶対に、あたしが倒す!」


「うんうん。

 君のお父さんには、この僕が、直接手を下して差しあげたからね――エルリーンという名前を聞いた時に、なるほどと思ったんだ。しかも、それがアリスの知り合いだと言うのだから。

 くくっ。

 懐かしいなぁ。

 思い出せるよ。引き金を引く時に、自分の口元が緩んだ感覚をっ!

 ははは。

 久々に、愉快な記憶がよみがえってきて、実に気分がいい!」


「うるさい! あたしは、絶対にお前を倒す!」


「なあ、お嬢さん。

 血が出るぐらいに、唇を噛んで悔しがるぐらいなら……Lunaの方を振り返ってもらってもいいかね?

 怒りで、顔が真っ赤の君とは対照的に――真っ青な顔をして、今にも倒れそうだ」


「え……?」


「……あ……あ……こ、こいつが……エルリーンのお父さんを……っ!」


「ルイ! どうしたんだ。

 血の気の引いた顔して、ビクビクして……うわっ!

 なにするんだよ!

 いきなり、あたしを突き飛ばすような事をして……ルイ?

 どうしたんだよ!」


「――Luna。

 よろめきながら、どこかへ行こうとしても、その鳥カゴからは――彼女の前からは逃げ出せない。

 なあ……」


「や……やめろ……言うなっ」


「なあ、ルイーナ・ジールゲン。僕の最愛の息子」


「……あ……ジールゲンって……息子?

 ルイが……お前の……えっ!」


「あーあ。

 口から声も出なくなって、その場で頭を抱えて、へたり込んでしまったか。

 ふ。

 ルイーナ。

 それでは、まるで自分だけが辛いみたいじゃないか。

 気の利いた言葉の一つでもかけてやったり、彼女を包み込むような態度を示す事もできないのかね? このエリオット・ジールゲンの血を引く者でありながら、情けない。

 あはははは。

 そうだ!

 僕を、父の仇と執念深く付け狙ってくれるお嬢さん。

 Luna――ルイーナは、僕と天王寺アリスとの間に生まれた子供。

 お嬢さんが、軍師殿と呼んで慕う彼女は、僕のちょうを一身に受ける伽相手とぎあいてだ。

 見ただろう?

 先ほどの彼女が、本心を偽らない彼女だ。

 この僕に、すべてを捧げるのが、彼女がなりたかった、本当の自分なんだ。

 お嬢さんが、存在のすべてを否定したいほどの怨嗟えんさの声をぶつける対象としているエリオット・ジールゲンと、手を取りあい、夜を共にし、子を宿し、そして産み落とした唯一の女性が、天王寺アリスなのだから。

 ――おやおや。

 誕生した命は、今そこで、君を申し訳なさそうに見上げて、あさましく、許しを受け入れてもらおうと必死に願っているようだ。

 ね?

 仲良くなるなら、お互いの事をもっと知った方がいいだろ。

 だから、教えてやろうと思ってね。

 お嬢さん。

 僕の血を繋いだ大罪人だいざいにんの天王寺アリスと、僕が与えたものをその身に編み込んで生まれてしまったルイーナの二人を外の世界に出す。

 はは!

 めておいた方が、良いのではないかな。

 心配しなくても、二人には、この僕が居場所を与えてやろうと考えているよ」


「……うるさいっ!

 だから、なんだっ!

 あたしは、父さんの仇を討って……二人と一緒に逃げるんだっ」


「へえ。貸してあげようか?

 ――拳銃。

 エルリーン・インヴァリッドという人物を調べてみた。

 実戦経験はないが、命中率が大人のそれを遥かに凌駕りょうがしている――素晴らしいっ! 僕は、避けないつもりだ! やってみる気があるかい?

 ふふ。

 お嬢さん。

 良い事を教えてあげよう。

 君のお父さんが消えた日……僕は、この『スカイ・オブ・パーツ』に、どうしても帰りたかった。

 だから、早くカタを付けた――通信機の向こうから、恋しそうな歌声を、聴かされたからだ。ぬぐっても、清めても決して落ちない、不浄を持ち帰り、優しい声をかけ、抱きあげてやったんだ――そこで、腰にまったく力が入らないように座り込んで、意気地なく黙ってしまっている小鳥をなっ」


「もういいだろっ!

 それ以上、無駄話したって、あたしの気は変わらないっ!

 やめろって……うちのルイを傷つけるなぁっ!」


「……エルリーン……?」


「あたしは、そんな過去の事を聞きたいんじゃないっ。

 お前が、父さんに詫びて、あたしに一発殴られる、未来しか……ないんだ……ないんだよ……ううっ」


「ついに泣いてくれたか。

 おっと、すまない! 思わず拍手してしまったよっ。

 あははははは!

 お嬢さん、やっと良いものを見せてもらえた。

 ありがとう。

 満足させてもらったから、君を、逆賊とみなすのはめようと思う。

 ――僕は、決めた。

 君たち二人を、将来結婚させるって――」


「な……なにを言って……」


「おっと。

 腑抜けの小僧の方が、先に反応してくれたようだ。

 うんうん。

 そうしよう。

 愉快じゃないか!

 せっかく同じ鳥カゴの中で、たった二人で過ごしていくんだっ。

 若いというよりも、まだ幼いから、そんな事は将来だと思っていたが――二人がそう思った時に、好きにできるように、僕が先に許可をやろう。

 世界を支配する僕が許すと言っているんだ。自由にするといいさ……あはは。

 では、また。

 今度は、Lunaの歌声をもらいにくる。

 僕に差し許された、その鳥カゴの中で、心置きなく時間を過ごすといい」



* * * * *



「母さん、ただいま。

 ああ。

 眠ってしまったのかい?

 水色と、黄色のクレヨンが、床に転がっているよ。

 僕に読み聞かせる為の稚拙な絵本を書いていたんだ。

 寝る前に、母さんの声で読んでもらえるのは、楽しませてもらっているが、毎度まったく意味は分からない。

 相槌を打つタイミングも難しくて、軽く困っている。

 我が子が――僕が、世界を手に入れる物語ばかりだと言うから、付き合ってあげているんだ。

 僕は、母さんの事を、優しく扱う子供になるという約束だから。

 やれやれ。

 母さんの方は、約束を反故ほごにする気かい?

 お部屋で二人の時に、僕も、母さんをしっかりと、優しく抱きしめてあげると、言っておいたじゃないか。

 本当に悪い子だな、母さんは――。

 ふふ。

 まあ、いい。

 抱きあげられても、力が抜けてしまっていて、ぐったりしているね。

 また、当分起きあがれなさそうだ――天王寺アリスの身体は。

 口の中に指をいれられても、反応できないぐらいに、よく眠っている。

 いいの?

 目をさまして、僕と『敵対』しなくても。

 アリス。

 君の息子、ルイーナがいるべき唯一の場所は、僕の手の内だろ。

 口をつぐむ行為を続けるのなら、是認ぜにんであると受け取らせてもらおう。

 ――今日は、久々にルイーナに会えて喜ばしかった。

 余計な事ばかり、並べ立てているが、ルイーナの心は、確実に、父親の僕を求めてくれていそうだ。

 反乱分子の連中に、これ以上、悪知恵を吹き込まれる事もない。

 少し揺すぶってやれば、僕の前で、ひざまずくようになるだろう。

 昔以上に、従順で、いい子になる。

 ルイーナは、もう父親の正体なんて知っているんだ。

 君が、僕と『敵対』して、ルイーナを取り返すつもりがないなら――僕の部下であり『息子』として迎えさせてもらおう。

 それが嫌なら、戻って来いよ。アリス。

 童女に戻ったようにおどけた様子を見せたり、母親になりきって、僕の世話を焼いたりしている場合ではないぞ。

 ましてや、心を操られて、僕の言う通りだけに動く傀儡かいらいにされているなんて、本当に君らしくない。

 いいのかい?

 このままだと、徐々に僕に心を差し出していく事になって、最後には、このエリオット・ジールゲンに支配されるだけのただのお人形になってしまうんだよ。

 何もかもが、『敵対』者の思うがまま。

 されるがまま。

 今みたいに。

 ……いいんだね。

 抵抗する気がないなら、こちらは遠慮するつもりがない。

 では、アリス。

 僕の為だけに、新しい君になるといい。

 君の可愛いお遊戯にも、しばらくは付き合ってあげるつもりだ。度が過ぎると感じる場合もあって、面食らう事もあるが……アリスを操るのに、都合が良いとも考えている。

 ルイーナを、宿してくれた時のように。

 あの子を、身ごもっていた時のように。

 僕のいとし子を、産み落としてくれた時のように。

 無邪気で、幼稚な様子を見せるアリスは、僕の為にすべてを捧げてくれていて、とても可愛らしい。

 なんだい。

 どんな愉快な童話を、思い浮かべているんだい?

 神話をつむぎたいなんて。

 歴史に名を残す英雄の物語。いくさを終わらせる為のいくさ――戦争を終わらせた一つの伝承。

 実に、面白い!

 望もう!

 手に入れようじゃないか!

 『sagacity』を完成させる為の神話をな!

 れながら、楽しくやっていこう。

 悪ふざけをしているアリスに、操り糸を取りつける方法は、もうつかませてもらった。そうして、演じる事を強いられながら、最後は、僕の傀儡かいらいである事が、本当のアリスになるといい。

 取り戻したいが、待つ気はない。

 こんなに命じているのに、本当のアリスが戻ってこない気なら、僕の色に染まっていくだけだっ。

 戻ってきた時に、何もかもから逃げられなくなっているなんて、面白いだろ?

 くくっ。

 共に歩もうか。

 君の物語を、僕の物語の中に取り込んでやろう!

 さあ、まずは――おいで、こっちへ」


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