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違う、宿願…… ~ 番う、宿敵……

The Sky of Parts[12]

■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「はい、閣下。

 すでに、Dポイントを通過したらしく、明日の午前中には、閣下の御前ごぜん進上しんじょうできると思います。

 ――それにしても、同じような行動をとるのですね。

 男女で、ふらふらと森になんて行ってはいけない――母親から、ちゃんと教育を受ける機会があったら、結果は、ほんの少し違ったかもしれません。

 ああ、でも、どちらかと言うと、今回は、悪いのは女の方でしたね」


「報告ご苦労、タケ。

 そして、一連の雑務の取り仕切りも、さすがだ。手際がいい。

 ああ。

 昔、母さんが言っていたな――タケは、仕事ができてもできなくても、ただの粗大ごみだって」


「……閣下。

 いくらなんでも、この竹内イチロウに対してとはいえ、不躾ぶしつけです、と言わせて下さい!

 閣下ではなく、それを言った、母御ははごにそう言わせて下さい!

 まあ、もういないから……そうですね。許しはしませんが、怒りは残しますが、激しくムカついておきます」


「ふふ。

 面白過ぎて、いろいろ滑稽こっけいじゃないか。

 僕の機嫌がこんなにいいのは、久々に見ただろ?

 タケ。

 もう一度、録画を再生してもらってもいいか? 大画面に頼む。小鳥の羽を押さえつけてやった時の映像――」


「これですか」


『おかえり。

 薬、手に入った?

 オレの方は、キノコたくさん手に入ったよ。

 夕飯にぎりぎり間にあうと思うけど、フライに調理してもらうのが間にあうかが心配。遅い時間になると、大人のお酒のさかなの材料になっちゃうから。

 せっかく、すごい旨そうなの見つけたのにさ。

 ……なんの音……?

 えっ。

 バイクって何っ?』


『……逃げろっ。

 悪い!

 ずっと大丈夫だと思ってたけど、いつの間にか、あたしの顔も、監視カメラに登録されていたみたいだ……お前だけでも……というか、お前が逃げないと意味がない!』


『……こっちへ! 大丈夫っ! 自転車乗って!』


『無理だって……あたしを捨てて逃げ……きゃあっ』


『……っ。

 いてて……あっ! は……離せっ! やめ……っ』


「愚かだな。

 自転車に乗って、足場が悪い森の中を逃げ切れる訳がないのに。あっという間に、車輪がぬかるみにはまって。

 くくっ。

 まあ、この段階で走って逃げても、今の映像みたいに、取り押さえられているシーンがカットされる事はないのだが――。

 地上部隊は、機動力があっていい。

 三十人ぐらいのバイクに乗った兵士に囲まれたら、自転車に乗った、丸腰の子供二人が逃げられるはずないじゃないか。

 戦車だと、圧迫感を与える意味ではいい。だが、急襲で、相手の心情制圧したのちにからめ取るには、こっちだ。

 ――エンジン音の重なりの生演奏が、彼らの心を、じっくりとむしばんだんじゃないか?

 あははっ!

 攻略対象たちが、安楽のうつつを失いたくなくて、むなしく無意味にあがくさまが、実に良かった!

 どこに引っかかる事もなく、するっと敗北の境遇に漬からせてやるのは、降伏を余儀なくされる者たちのこの後の事を考えてやると、慈悲を与えてやる行為でもあるんだっ。

 日記に書いてあったんだったか?

 母親と、自転車に二人乗りして楽しかったって。

 二人乗りは、人生で最高の思い出とか……だから、自転車に二人乗りさせて、逃げているところを追い詰める――かなり面白かった。これで、人生で最高の思い出は、塗り替えられたんじゃないか?

 それにしても……ホームビデオとして残しておこうか?

 なあ、ルイーナっ!」



* * * * *



「ダノン!

 エルリーンが……帰って来ないって……」


「ジーンさん! まだ熱があるんだから、横になっていないと」


「エルリーンはっ! エルリーンは、どこにっ!

 ダノン、どうなっているんだ! もう、日付が変わる頃なんだぞっ」


「……薬を買いに行ってもらった。

 エルリーンには、軍の監視カメラを、すり抜けられる非戦闘要員として、街に向かってもらったんだけど……森の入り口で、軍の襲撃を受けたらしい……」


「ルイが……一緒だったと聞いたが……っ」


「リリンから聞いた話だと、早めに薬を買って帰る為に、二人で自転車で出かけたらしい。

 森の出入り口まで、ルイが送り迎えするというつもりで……ルイも戻ってきていない。

 ……ジーンさん。

 そこの長椅子に座ってくれ。

 できたら、身体を傾けて、楽な姿勢になってほしい。

 今の辛そうな表情は、熱があるってだけじゃないと思うが。

 ジーンさん。

 街で得られた情報や、森の警備をしていた者の話を聞き取る限り、発砲音のようなものは、一切しなかったそうだ。

 ただ……」


「……いなくなった……連れ去られたと……ダノン、そう言いたいのか?」


「軍の地上部隊が、かなりの数、バイク移動していたそうだ。

 目的地は、今回の現場。

 わざと目立たせるようにだと思うが、二人が乗っていた自転車が、木から吊るされていたそうだ。

 ……誰も、手を出せるような感じじゃなかったらしいが、街の住人が、ぐったりした子供が二人、軍の連中が立ち去る際に運ばれて行くのを目撃している……。

 ルイだけじゃなく、もう一人……特徴を聞く限り……エルリーンだ」


「くっ。どうして、うちのエルリーンまで……!

 どうなるんだよっ!

 ダノン、教えてくれっ!

 ……どこへ!

 エルリーンは、どこへ! どういうつもりでっ! 今どうしているっていうんだっ! エルリーンっ! 誰か……誰かっ! 教えてくれ……っ」


『――僕で良ければ、説明してやろうか?』


「な……っ!

 ダノン……この声……まさかっ」


「俺のコンピュータからだ……モニタ画面が……」


『映像も繋がったかな。

 責任者の人、見てるかい?

 くく。

 まあ、見ていなくてもいい。それならば、一方的に話させてもらおう』


「エリオット・ジールゲンっ!

 ……どうして、ここの通信が……ジーンさん! 無理しないでくれっ」


「エルリーンを! エルリーンをどこへやったんだっ! ちくしょー!」


『ああ。

 双方向で繋がっているみたいだ。良かった。

 ふふ。

 モニタ画面を叩き割らない方がいい。

 後悔する事になる――せっかく、今から良い情報を提供してやろうと思っているんだから。

 今日の僕は、機嫌がいいから、温和な態度に徹すると決めているんだ。

 君らの間じゃ、よこしままとった人でなしだの、鬼畜な極悪人と呼ばれているらしいが、僕にだって、ちゃーんと、心のこもった対話はできるんだ。

 自分の胸に手を置きながら、言っておこう。

 ……くくっ。

 どんな心がこもっているかは……お見せできなくて、残念だってな!

 あははっ。

 二人とも、眉をひそめてくれたな! 僕を見る目が実に不愉快そうだっ。

 うんうん。

 それでいい。

 正しい反応だよ。

 拍手させて頂こう。

 ――さて、若い方の君が、ここの責任者で良かったかね?

 できたら、責任者の君と話ができるといいと思っている。後ろの男がそばにいるのは、構わないが、受け答えの窓口は、責任者の君にお願いしたい。

 そうでなければ、こちらから話しかけさせてもらったが、通信を切らせてもらう――』


「貴様っ! エリオット・ジールゲンっ!

 エルリーンを返せっ! エルリーンを……」


「ジーンさんっ!

 落ち着いてくれ!

 たしかに、相手の思うつぼかもしれないが、このままでは何の手掛かりもなくなるかもしれない……やつの提案にのろう……悔しいが、仕方がない」


『うんうん。

 若いのに聡明そうめいだ。

 いい返事をありがとう。

 では、さっそく一番欲しそうな情報をお渡ししよう。話を始める前に、お近づきのしるしにね。

 映像だけ切り替えるから、じっくり見てやってほしい。

 音声は提供できないが、仕草しぐさや感じる気配からも、可愛らしいと思えるはずだ。今すぐ、天の方から召しに来たくなるぐらいに――』


「エルリーン! エルリーンっ!」


「……やはり、ルイも一緒か……」


『ふふ。

 こんなに愛くるしい子供たちの様子、一枚絵にして、額縁がくぶちにでも入れて飾って、後世まで残しておきたくならないか?

 視力も、聴力も、腕力も奪われて――ああ、そうだった。

 片方が、自分こそは、神にもまさる歌声を持つ者だと吹聴ふいちょうして歩いているらしいので、それがとうときを汚す行為だと分からせてやる為に、言葉も奪ってやったんだった。

 せっかくだからと、二人ともなっ!

 何も見えなくて、何も聞こえなくて、何も発せられなくて、どこにも自由に行けなくて……互いに、どちらかがいなくなってしまわないか、つがいで存在できているか、確認しあうように、震えあがりながらも、身体を強く寄せあっているんだ。

 片割れがいなくなってしまう事よりも、二人が共に失せて、無かった事になってしまうのを、恐れた方がいいのに。

 ね?

 ……なあ。

 後ろの人、もう下がらせた方がいいんじゃないか?

 話を聞いているだけで、そのまま息の根が止まってしまいそうだ。

 困るなぁ。

 今日は、もう、そういった仕事はしないつもりなんだが』


「うるさいっ!

 エルリーンを、うちのエルリーンを返せっ。

 ……帰してやってくれ……その子は、関係ないだろ……!」


『ふーん。

 人間というものは、本当に薄情だな。

 皆、このエリオット・ジールゲンの事を、厄災がまやかしである事をめ、形をとるようになった魔物だと例えてくれるが、人なんてものは、同じなんだ。

 他人の痛みなど、分かるはずもない。

 刀のさびになった他者を見て、憐れんでなどいない。

 自分の中に形成してしまった、情に異常が生じたと、騒ぎ立てているだけだ。辛かっただろうと、己が感じた訳でもないのに、すでに実在する根拠を失った相手に、想いや言葉を送る。

 意味があるのだろうか?

 ましてや、繋がりもない、御先棒おさきぼうの事など、どうでも良いようだ。

 はは。

 奪い取った小鳥を、散々利用しておいて――お前たちと、僕に、何の違いがあるというのだろうか?

 ふん。

 ……やれやれ。

 もうちょっと、表情を変えてくれよ、責任者の人。

 後ろの人なんて、そんな汗まみれの満身創痍まんしんそういな状態でなければ、今すぐ、僕のいる『スカイ・オブ・パーツ』に踏み込んできて、必ず討ち取ってやるという顔をしているのに。

 ああ。

 そういえば、責任者の人は、さっき小鳥の事も口にしてくれていたな。

 まあ、その話は、後でしよう。

 責任者の人に、言っておく。

 必ず、受け答えは、君が行ってくれ。

 悪いが、僕は、もうその後ろの人とは無関係と思いたい。

 ……このエルリーン・インヴァリッドって女、無罪で見逃してやる訳にはいかないんだ。だから、軍としては、正式に罪状を突き付ける形で、検挙させてもらったまで』


「なぜ、俺に反応させたいか、理解してやるつもりはない。だが、今言った件は、どういう事だ?」


『映像を切り替えさせてもらう。

 これ数ヵ月前、タワー『スカイ・オブ・パーツ』の上空に突如ヘリが出現し、軍で召し抱えていたLunaが強奪された時の映像だ。

 画質が少々悪いが、確認してもらうには十分だと思う。

 軍務用に用意していた、『sagacity』に繋がるような監視カメラの映像ではないのでね。

 Lunaが、この場所で――ヘリポートで、歌の練習をする事を許可していたんだ。

 念の為にと設置していたものだ。

 このヘリからハシゴで降りてきて、Lunaを誘拐していくのが――このエルリーン・インヴァリッドという人物で間違いないと、軍としては断定している。

 きっと、ヘリを操縦したりしていた協力者はいたのだろうが、残念ながら、この女しか、映像では確認できていないんだ。

 ……あれ。

 責任者の人。

 拳を握りしめたりして、どうしたんだい?

 Lunaが、姿を見せていない理由は、軍としては正式に発表していない。

 しかし、このヘリが飛び去る姿は目撃されている。

 軍の内部でも、そして民間人の間でも、Lunaが、一日でも早く軍属ぐんぞくとして、姿を見せてくれる事を願う声は大きいんだ。

 上層部としても、もちろん捜索を怠っていた訳ではない。

 連れ去ったのは、反乱分子ではないかという情報を、密かにつかんでいたが、連中は、Lunaを半ば人質に取っている。

 しかも、心理的圧力を加えて、自分たちの為に歌わせている。そんな、耳を疑うような報告を受けて、彼をひいきにしていた僕としても、とても心を痛めていた。

 そうして、ついに今日という日、エルリーン・インヴァリッドが、Lunaを囲い込んでいたという事実を突き止める事ができたっ!

 あはははは!

 そういう話だ。

 ……なあ。

 その後ろの人、部屋の外へ出してもらえるか?

 さっきから同じ事を繰り返して叫んでいるだけ――ああ、この女の名か。

 責任者の人、この要求を飲んでもらえないなら、通信を切らせてもらう。

 どうする?

 ……ふふ。

 それでいい。ありがとう。

 ドアを叩く音が、少々耳障りだが……まあ、いい。

 あの様子じゃ、そのうち扉の前で倒れてくれて、静かになるだろう。

 では、責任者の人だけになったから、もっと具体的な話をさせてもらおう。

 軍のトップとして、僕は、Lunaが姿を見せる軍事イベントが中止されていた裏付けの説明というか、皆が納得してもらえるような証拠立てを用意し、責任の所在を明らかにしなくてはならない』


「エルリーンとルイ……いや、ルイーナに何をさせるつもりだっ! エリオット・ジールゲンっ!」


『冷静に気づいてくれて嬉しいな。

 そして、ついに僕に対して、感情をむき出しにしてくれて、ありがとう。

 後ろの人というか、他の人間がいると、君は平静を保ったフリをしてしまう癖があるようだ。

 やめてくれないか。

 そういう態度は、嫌いなんだ。

 まあ、これからは本当の君を、この僕に、包み隠さず見せてくれると期待させてもらおう。

 そう僕は、この二人の両方に用事がある。

 Lunaに復帰してもらうなら、これからも安心して歌ってほしい。再び歌ってくれるのを、心細く待ってくれていた、彼を支持する人々に示しをつける必要があると思う。

 ……ああ、

 責任者の人!

 その悔しさと怒りを込めた表情。伝わってくるよ。理解してくれた事に、感謝させてくれっ。

 くく。

 Lunaには、以前に野外ライブを行ってもらった場所で、戻ってきてくれてから最初の仕事をしてもらおうと考えている。

 その前座というか、僕の名で余興を催そうと思う。

 彼女に出演してもらって。

 ――僕は、腕をただ振り下ろすだけだっ!』


「エリオット・ジールゲンっ、貴様ぁっ!」


『あはは!

 思ったよりも熱くなってくれたじゃないかっ。

 そんな一瞬で顔を、いや、目の中まで真っ赤にしてくれるなんて。

 くく。

 これ、実は、僕の提案じゃないんだ。

 軍に復帰したLunaが、この先、どこまで僕に協力的になってくれるかの根拠にもなるんだが――母さん、前の契約先の責任者の人に、説明してあげてくれるかい。

 はは!

 責任者の人――母さんの前の雇用主、急に力が抜けてしまったのかな?

 身体がワナワナと震えているようだ。

 僕は、しばらく後ろに下がるから、モニタ画面の前に立って、母さんからしっかり話してあげてくれ』


『YES、エリオット』


「……あ、貴女が……提案したって……っ」


『そう、私よ。

 ダノン、久しぶりね。

 今回のLunaを奪還する一連の作戦を立てたのは、この天王寺アリス。

 どうしたの?

 六年ぐらい経ったのかしら?

 あまりに久々過ぎて、私の顔など忘れていた?

 エリオットは、まだ子供だから、母親の私が、なんとかしなくてはいけないの。

 私の可愛い子供、エリオットの夢を叶えてあげたいから、私が考えた』


「……軍師殿?

 何を、言って。

 ……くっ!

 エリオット・ジールゲンっ、この人に――天王寺アリスに何をしたっ!」


『おいおい。

 責任者の人、画面外の僕に話しかけるのは、反則じゃないか?

 この僕の色に染まった――漆黒のドレスをまとう……天王寺アリスと話してくれ……あはは』


『私の子、エリオットが言うの。

 Lunaの歌声の事をもっと知りたいって。

 彼の歌声は、特殊で、声としての認識がとても難しい。本物を手に入れて、歌ってもらわないと。

 そう、歌ってもらわないと困るの。

 ――いとし子、エリオットが欲しいって言うものは、すべて与えてあげたいから。

 だから、エルリーンなら協力してくれると思って。

 あの無邪気ななら、役に立ってくれるはず。

 エルリーンの存在を、大切だと思えば、Lunaは、歌うのをめる事はできない』


「エルリーンを人質にとって、Lunaに歌わせるつもりなのか?

 Lunaを、歌声データを収集する為のサンプルとして、回収したとでも言うつもりかっ!」


『そうよ、ダノン。

 ――じっくりと待ったの。

 Lunaにとって、離れたくない、消えてしまったら嫌だと、心から思えるような存在ができるのを。

 それは、Lunaの働きが悪かった場合に、私の可愛い子供、エリオットにとっては、関心を持つ必要のない人間でなくてはいけない』


『世界中の人々が求めるような偶像――Lunaに、気持ちのたかぶりを抑える事ができなくなったエルリーン・インヴァリッドが、彼を独り占めしようとして拉致。

 連れ去った先で、床の雑巾がけをさせたり、浴槽の掃除を命じたり……時には、髪型や服装にまで口を出して、Lunaを、自分の理想の人間にしつけようとしていた。

 ……あれ?

 なんで、この僕が、そんな事を知っているんだろう?

 大丈夫かね?

 おたくの基地に、責任者の人も把握していない、監視カメラとか増えていないかっ。

 ああ!

 すまない、画面外から発言してしまった……ははははっ』


「……いつでも、俺らぐらいの組織など潰す事ができた……見逃してやっていたんだぞ。

 エリオット・ジールゲン……そういうつもりかっ!」


『まあ、そういう恩着せがましい言い方もあると思うがね。

 たわむれてみただけさ。

 責任者の人だって、悪ふざけを思いつく事があるだろ?

 たまには、『sagacity』を使わず、人間だけで作戦を考えてみると面白いものだ――僕の耳元で、優しくささやかれた助言が、あまりにも美し過ぎる、暴虐の挿し絵が思い浮かぶようなものだったのでね!

 一時ひとときも、愛しい僕を離したくないと言ってくれる母さん――天王寺アリスが、与えてくれた計略を実行しない訳にはいかないじゃないか。

 はは。

 すまない、また余計な発言をしてしまって!』


『ダノン。

 あなたと話しているのは、私――天王寺アリスよ。

 その殺意を込めた、論意ろんいむき出しにした顔つきは、エリオットに向けているつもりかしら?

 落ち着いてもらえない、ダノン。

 私と、話しましょう』


「俺なんかのいらない心配してもらって、ありがとう。

 だけど、必要ない。

 大丈夫だよっ! 軍師殿っ」


『ダノン。あなたは、天王寺アリスの話を聞くべき。

 せっかく、私は、あなたに重要な事を伝えようとしているんだから』


「もう、きっと今の貴女には、何を言っても通じないんだろうけど……。

 アンタの意思なんて、まるで無視して……ただ黙って、横に立たされる事になる前に、助け出せなくて、すまないとは伝えておく。

 軍師殿。

 いや。

 天王寺アリス!

 悪いが、こんな事になってしまった以上、戦場で出会う時は、エリオット・ジールゲンのそばにいる人間として、敵として見させてもらうっ!」


『……ねえ、ダノン。

 後悔してくれている?

 あの時、私の命を終わらせなかった事を――それとも、嬉しく思ってくれているかしら?

 ただ、黙って横に立ってるだけじゃないの。

 この天王寺アリスの立てる作戦が、これからの世を動かしていくんだから。

 ……あら、小さくビクッと、身体を動かしてくれるなんて――。

 ダノン。

 意外と冷静に受け止めていてくれているの?

 衝撃に心が壊されそうなの?

 私が、いとし子、エリオットのもとで、力を振るう事に期待の気持ちでも持ってくれたの?

 ――どんな風でもいい。

 これが今の私なの。

 あなたが思い込んでいる、私というのが、私には分からない。

 我が子を、世界のすべてを照らす、人々が光明こうみょうを見いだせるような、絶対的で輝かしい存在にしてあげたいだけ――うつつを真に支配する為。

 私の可愛い子供、エリオットは、世を統べ、光輝こうきを放つ。

 ダノン。

 あなたは、聞いた事を理解してくれるだけでいいの。

 私は、伝えるだけの役だから』


『母さん。忘れず、あの事も伝えてくれるかね』


『YES、エリオット。

 ダノン。あなたたちが捕らえていた小鳥は、返してもらって当然なの。

 ――だって、エリオットの物なのだから。エリオットがいなければ、誕生すらしなかった命だから』


『はい、よく言えました。ありがとう、母さん。

 あ。

 このやり取り、責任者の人の基地内のネットワークに繋がっているすべての端末、そして、連絡を取りあっている他の組織の端末に――流させてもらっていたから……みんな、画面に釘付けになっていて、君に報告に来ないほどの高視聴率を獲得させてもらっているよ!

 はは。

 不吉な小鳥を飼って、その禍々《まがまが》しい歌声を聴かせて、兵たちを誘い寄せてしまっていたんじゃないか?

 士気が急に下がらない事を祈っておこう!

 くくっ。

 咎人とがびとだと毒突くような、そんな存在から与えられた心身を持っているなんて――あの歌声が出せる体、あの清いが書ける意思。

 青い瞳の小鳥は、誰のおかげで、そんなものが得られたのか。

 ……ね?

 知らないといけないと思って、この機会に教えておいてやろう!』


「エリオット・ジールゲン、貴様っ!」


『母さん、遅い時間だ。今日はもう休もう』


『……YES、エリオット』


『さあ、手を握って。母さん、僕の胸の中に、おいで。

 母さんは、僕だけのものなんだから――。

 ふふ。

 ……ああ。

 そうだっ。

 責任者の人、あの後ろの人に伝えてやってくれ!

 刀のさび以上の働きができるなら――利用価値があるものとして、扱ってやってもいいと。

 とりあえず良かったんじゃないか。エルリーン・インヴァリッドの姿を見える、最後の機会には立ち会えて。

 ――あはは!

 最期の機会に、立ち会う必要がないといいね!

 くくっ。

 これからも、タワー『スカイ・オブ・パーツ』を見上げてもらう分には、特に遠慮してもらう必要はない。

 ただし、何の連絡もなく、そのさらに上を見上げてもらう事になるかもしれないから――そこのところはよろしく。

 では、責任者の人も、何かの機会があったら――また。

 ふ。

 この通信が消えた後に、画面に向かって罵声ばせいを浴びせるぐらいなら、引っ越しの準備をした方がいいと思うがね!

 お友達とのやり取りも増えて、楽しい日常が始まるんじゃないかっ。

 いろいろ、ありがとう。道化師役、お疲れ様』


 ヒトという生き物の天然の髪の色は、赤毛、黒髪、金髪、栗毛(茶色)になります。

 フィクションでよく見かける、銀髪やら、白髪は天然ではなく、老化や、色素・メラニンの欠落で生じます。


 キャラクターの身体の特徴を正しく描写するのは、物語を作る上で大事ですが――現実世界の問題などを調べた上で使わないと、プロだろうがアマチュアだろうが、激しく叩きの対象になる場合があります……。


 この作品では、閣下とルイ君に「青い瞳」という設定を入れていますが、これは実の父子であるという事を強調する為。

 閣下の瞳は、怖いなどと表現する事がある反面、ルイ君の方は、優しそうなどとして、『瞳の色が悪いのではなく、キャラクターに負わせた設定』というポイントだと、なるべく気をつけて描写しています。

 瞳の色は、髪の色以上にいろいろな描写問題があったりするので、他のキャラクターの瞳の色は設定自体していません。


 フィクションのすべてのキャラクターが、ショッキングピンク地毛の世界か。まあ、それはそれで使いきれたら面白そうですが……ちなみに、宝石のようなエメラルドの瞳という方々は実在します。


 『対話体小説』書こうと思ったきっかけの一つが、身体的特徴の描写を、故意に曖昧にする事ができると思っただったりします。

 日本人でほぼ構成されている小説とかなら、目の色、地毛の色の表現はほぼ表現いらないのですけどね。ファンタジー要素が入った瞬間に、ついつい、カラフルに使いたくなる、というか、カラフルが一つの表現として求められる。


 ちなみに、

 赤毛……アリス、ルイーナ。

 黒髪……エリオット。

 濃い金髪……ダノン、ミューリー。

 薄い金髪……ジーン。

 栗毛(茶色)……エルリーン、タケ、リリン。


 赤毛は、それなりにいろいろ歴史的要素がありまして、だからこそ、主人公格のアリスとルイーナに使いました。

 まあ、日本人ばかりという設定でも、『染めた茶髪』は、描く対象の時代背景によってはいろいろありますけど……。


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