闇の外であり内
The Sky of Parts[11]
■■■■■■■■■■■■■■■
この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「おーい。メシだぞー。
今日は、ポテトサラダとエビフライと、カレーライス。おまけにリンゴのデザート付きだ。
ひとりで部屋で食べてもおいしいと思うけど、食堂に来て、みんなでワイワイやると、もっとおいしいと思うけどな。あたしは。
……入るぞ」
「……机に置いておいて……あとで食べる」
「お前さ。いつもそれしか言わないな。
うん、でも、ちゃんと食べてるから偉い!
エルリーン姉さんとしては、残さずちゃんと食べる子に、悪い子はいないと思っている。
だから、早く元気になれよっ。
よし。
今日は、勝手にカーテン開けるぞ。窓も開ける。
……おいっ!
日差しが、少しばかり入り込んだからって、さらに深く毛布をかぶるなよっ。長い赤毛の先っぽ、ちょっと出てるぞ。
しっかりと日を浴びないと、大きくなれないぞ。
男なんだろ。
もっと、もっと背が高くて、腕にも、脚にも、肩にも、筋肉ついてる感じにならないとダメさ。
アイドルやってる時に、あんな女と見分けがつかない格好してたのは、軍が芝居しろって言ってたって。そこは分かったけどさ。
おいっ!
毛布で頭を丸ごと隠したから、今度は足が出てきたぞ。
肌白っ!
やっぱりジーン叔父さんぐらいに日焼けしてこそ、男だよっ。
あたし、知ってるんだぞ!
お前が、トイレに行く為に、部屋を出る事があるって!」
「……どういう事?」
「ふふふ。
ついに喋りかけてきたな!
あたしは、なんでも知ってるぞ!
毎日じゃないけど、人が少なさそうな時を狙って、風呂に入りに行ってるのも!
そして、リリンのポテトサラダは残さないっ!
リンゴだって好きだ。
エビフライとカレーライスは、子供はみんな好きなんだっ!」
「えっと……何?」
「毛布から顔だけチラッと出してないで、ベッドの上でもいいから座れよ……あ、正座じゃなくてもいいぞ。
あたしは、お説教したい訳じゃないんだからな。
そうそう。
足を投げ出して、普通に座ってればいいんだよ。
大丈夫だって。
ここじゃ、お前にアレコレしろって、何かを押しつけてくるヤツはいないから。
何回も言ってるけど、ここは安全だからさ。
……お前……そういう表情をいぶかしげ? って言うらしい。ダノンが、この前言ってた。
あたしが、何を伝えたいかって言うとだな、お前は、今、生きてるのが楽しいんだろ?
誰かに断る事なく、部屋から出ていけばいいし、好きな時に風呂にも行ける。
その上、メシだってうまい!
あそこで……。
軍で。いや、お前が嫌な思いばかりして生きてきたって……ダノンやジーン叔父さんがなるべく、その話には触れないでやってくれって言うから……あたしなりに気をつかって、言葉選ぶつもりだけどさ、とにかく、ここでは怖がる事なんてないよ。
それが、お前にとって、安心できる事なのかは分からないけど――お前も大好きなポテトサラダ。あれを作ってくれるリリンだって、軍の施設にいたところ、ダノンの母さんに助けられたんだ。
でも、リリンは、息子のノアとすごく幸せそうに過ごしてる。
みんなの為に、おいしいポテトサラダを、心を込めて用意してくれてる。そして、みんなが明るい気分で食卓を囲めるように、笑っていてくれるんだ。
えっとな、だから、今は、まだ軍にいた頃の記憶が強すぎて、おっかないって思い出して、震えてくる事もあるだけで、もう、自由になったんだから、そのうち笑って過ごすのが普通になるって――」
「……でも、母上は、今も……。
オレ、母上を助け出す事ができなかったっ!」
「泣くなって……と言っても、あたしも軍師殿……お前の母ちゃんの事は、本当の母親のように思っていたから……あたしだって、助け出せなくて泣けてくるよ。
……お前がこの前、名前を聞いただけで、すごく怯えていたから……ちょっと遠慮しながら言っておくけど、あいつにまだ捕まっているなんて……」
「エリオット・ジールゲン……」
「無理しなくていいって。
ダノンが聞いてやるなって言ってたし、あたしも、お前があいつに酷い事されたんだっていうのは、なんとなく分かるからさ。
何があったかなんて聞かないよ。
ただ、軍師殿の事があるから……ムカっとした気持ちになって、急にあいつの悪口言っちゃうかもしれないけどさ。
軍にいた事は――まあ、赤ん坊の頃からじゃ気づかなくて当然だよ。
お前は、騙されていただけだから、気にする事ない。
無関係だよ」
「……エルリーン。
あのさ……オレと、エリオット・ジールゲンの事って……」
「ん?」
「ああ、ルイーナ起きていたんだ。
ちょうど良かった。
ドアが開いていたんで、エルリーンがいるかなとは思ったんだけど」
「ダノンさん……」
「あっ。そうだ。
まだお前に、あだ名つけていなかった。
あたしのルールでさ、最初は落ち込んで、この基地にやってきたけど、馴染んできた子供には、ここに来る前の事は忘れて、楽しく生きていこうぜって意味で、ニックネームをプレゼントしてるんだ。
ん~まあ、まんまと言えば、そこまでだけど『ルイ』でどうだ?」
「えっ」
「ルイか。
俺は、悪くはないと思うけど。
エルリーンが付けたあだ名にしては。
――靴下だけで逃げてきた子に、それを履いてたから逃げ切れたんだ、よし『クツシタ』ってあだ名にしようって言ってた時は、いろんな意味で止めたけど……。
呼ばれる側のルイーナはどうだい?
前の事は忘れて、新しい自分になれそうかい?
ルイって、呼ばれたら」
「うん……『Lui』か……『I』が――オレがちゃんといるから、それならいいかな……この基地に来る前は、自分の名前……好きだったけど……呼ばれていた事とか思い出すと……嫌になってたから」
「おっしっ!
じゃあ、決まり!
ついでに、お掃除・皿洗い班にいれてやるから、今日からあたしの事は、班長って呼べよ」
「では、俺も、ルイって呼ばせてもらう。
他のみんなには、今からエルリーンが言って回ってくれると思うから、ものの一時間もしない間に周知されると思う。
ルイ。
断ってくれても構わないけど――俺の部屋に来てもらえないか?」




