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ままに畢生は過ぎ ~ 『絶える小鳥の歌』

The Sky of Parts[10]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「ルイーナ様を、拘束室にご案内して参りました……閣下?

 その女を、解放してやったのですか」


「……アリスの様子がおかしい――。

 彼女……本当に食事をとっていたのか? そして、水分も……」


「え?」


「ここ数日、ルイーナの歌声を恐れて、アリスの独房を含めて、居住エリアの監視カメラが停止していたので、調べる事ができないが……いや、僕が、ルイーナの秘密を知って、監視カメラが止められる事を見越していたのか。

 たしかに、仕事が忙しいと食べる量が減る傾向だったが……思い起こしてみても、アリスが水分をとっている姿すらも、何日も見ていないんだ。

 天王寺アリスという女の戦略……嫌な予感がする……」


「閣下……?」


「……アリス。

 今日、僕に呼ばれて……こんな仕打ちを受けるのが……分かっていたのか。

 僕の心が、痛むように……そういう風に仕向けたのか。

 彼女……ひどく衰弱している。

 ルイーナが部屋から出て行った後、急激に弱っていっている……。

 計画通りなんだな……言えよっ。

 何を企んでいるんだ……ぐったりしてないで、動いて……このエリオット・ジールゲンの質問に答えろ……アリス!

 命令しているだろ……。

 僕の心をかき乱して、いろいろ事を遅らせて。

 なあ……。

 そんな真似をしても、ルイーナを救うなんてできないんだっ。だから、目を開けてくれ……」


「……すぐに、天王寺アリスの救命措置を開始致します!

 どうぞ、お気を確かに」


「無駄だ……アリスは、自分で命の灯を消そうとしている。

 ずっと、脈を取っているが――弱っていく一方だ。

 僕の手から……どうしても逃げたいんだ……離れようとしていっている……」


「閣下、大丈夫です。

 この竹内イチロウがなんとか致します。

 ……たしかに、精神的なショックから、免疫が異常に衰えたりする事は、医学的にもありますが……くそっ……!

 おいっ。

 天王寺アリス! 起きろっ!

 まったく、なんて女だっ……閣下を最も惑わすような手段を使いやがって……!

 ……あ。

 閣下っ!

 ルイーナ様です……通信が」


『父上、オレ決めた……母上の望まれる通りにする』


「ルイーナ様、少々面倒な事になっておりますので、閣下や私の手をわずらわせるような真似はしないと、お約束下さい。

 理由は、お迎えに行った後に、竹内イチロウの方からお話します……」


『……さくが、何もないんだ!

 父上が、オレの事を、ずっと、どう思っていたのか……愛されていたのか……分かったから……』


「すぐに、ルイーナ様をお迎えに行ってきます。

 天王寺アリスの命も、ルイーナ様の御心おこころも、閣下の手の中です――」



* * * * *



【―これは、小鳥が心―】


 さあ、この呼び声に応えろ。


 可愛い小鳥。おいで、この父の下。


 世界のすべてとも言うべき、父の存在を知る時が来た。

 想い、一つになるんだ。


 転ずる事、怯える必要ない。父の天与てんよの力にひれ伏し、再び卵殻らんかくに包まれるだけ。


 お前は、ずっと、鳥カゴの中。

 嬉しい時も、悲しむ時も、恐れる時も、安らぐ時も、絶える事なく、父の胸にいだかれる。


 さあ、おいで、いとし子よ。


 お前は、歌を忘れてしまった。

 それは、神を裏切ってしまったから。


 お前は、歌を忘れてしまった。

 それは、うつつを嫌いになってしまったから。


 さあ、おいで、いとし子よ。


 お前は、傷ついてしまった。

 翼をもぎ取られた小鳥は、ただ、深淵へと堕ちていく。


 お前は、ずっと、目を閉じる。

 嬉しい事も、悲しむ事も、恐れる事も、安らぐ事も、絶えて、父の手の中。


 お前のあるべき正しい場所へ、たどり着け。この父の下へ、たどり着け。


 さあ、この呼び声に応えろ。



『オレは、オレのまま。嘘偽りない、オレのまま。

 歌を、聴いて。

 大切な貴方と同じ、青い目を持っている。

 たわむれる貴方も、情けある貴方も、知っている。

 伸ばされた手を握ると、どうなるの? 教えて。

 それは、通じてただ一つ。

 その温かな胸にいだかれ、果てて鳥カゴの中。

 それは、ただただ報いのり。

 その源たる手に握られ、絶えて深淵の底。

 オレは、オレのまま。ろうされる、オレのまま』



* * * * *



「おいっ。歌うたい!

 もう、地上に降りてるって! いつまで、歌ってるんだっ」


「そんな言い方もないだろう……エルリーン。

 はぁ……お前を連れて、無事に帰って来れて良かった。万が一があったら、あっちで兄貴に顔向けできないかと思った」


「……もういい。

 ヘリは、ずいぶん遠いところまで来た。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』から逃げ出せたよ。君が、歌うのをめても、大丈夫だ」


「……あ。

 オレ……ここは、どこ……?」


「髪は、長いなって思うけど、動画とかで見るよりも、女の真似してないな

 ……まあ、軟弱そうだけど!

 えっと、ここは、都の東の森を越えたところかな。あたしもよく分かってないけど」


「……あの。誰?」


「なんだよ。助けられておいて!

 こっちの髪が金色のがダノン。黄色っぽい短い髪のが、あたしの叔父さん。ジーン叔父さん。

 で、あたしがエルリーンだ!」


「いや、エルリーン。

 ……そういう意味で、彼は、聞いた訳じゃないと思うよ。

 まあ、ちょうどいい機会だ……俺は、ダノン。

 ダノン・イレンズ。

 君の名前は? Lunaでいいのかな?」


「……ルイーナ……」


「あれ? Lunaは、芸名なんだ。

 それよりも、あたしの軍師殿はどうしたんだよ!

 一緒に逃げ出すんじゃなかったのかよ……あの人――天王寺アリスって人は、どうしたんだよ!」


「……母上?

 母上を知っているのか!」


「へっ? ど、どういう事……?」


「あ……まあ、ヘリに勝手に乗り込んで来ていた段階で、隠せないとは思ったが。

 エルリーン。

 この事は、おれとダノンと、お前とこの子だけの秘密にしておいてくれるか……」


「母上は、どうなったの……っ。

 捕まってて……すごく苦しそうで……どうなったの……教えてくれっ!」


「ちょ……やめろって、あたしにしがみついて来るな!

 ……あ。

 ごめん……突き飛ばしたりして。

 ……あたしも、いろいろ分かってないけど……落ち着けって」


「……母上は……一緒にいないの……母上っ。

 ははうえ!」


「……俺に、身体を預けろ。

 ちょっと落ち着けるか?

 ルイーナだったな……。

 まだ十歳か。

 どう伝えていいか……君のお母さんも、一緒に助け出すつもりだったが、約束の場所――屋上のヘリポートに現れたのは、君だけで。

 もしも、君しかいなかったら、歌ってもらったまま、即時に飛び去ってくれ。

 そういう風に頼まれていた。

 しっかりしろ、ルイーナ。

 ……俺が、身体が崩れ落ちないように、支えてやるから。

 大声で、泣いてもいい。

 とりあえず、俺らは、君に危害を加えるつもりはない。

 いいから……今は、しっかり泣け……」


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