歪んだ愛ゆえか~アリスの天翔ける叫び
The Sky of Parts[09]
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「アリス。
本当に心配しないでくれ。僕にとっても、ルイーナは愛しい存在。
……きまぐれに、『sagacity』に、占い程度の事をさせて遊んでいたんだ。
この僕を倒す可能性があるのは、誰かって。
戦略用の出力でもない、ただの空想に近い遊戯ぐらいの事さ。
――アリスと僕が表示されていたので、興味を持っていた。そうか……そうだったのか。それは、二人の……つまり、ルイーナだったという訳だ。
何度も言っているが、不安がらないでくれ。
今言った事は、信じる必要のない情報だ。
だが、念のため不吉な占い結果は、回避されて、ルイーナという意味ではなくなるようになんとかしたい。
アリス。力を貸してほしい。
さっきの君の想い、受け取らせてくれ。
部下ではなく、協力者として。
本当はなってほしいが……僕の妻でなくてもいい。ただ、ルイーナの母、天王寺アリスとして、僕の理解者にはなってほしい。そばにいてほしい」
「エリオット……ルイーナを閉じ込める気なの?
……今以上に」
「仕方がないだろ。
ルイーナの歌声を検閲させると……『sagacity』が、錯乱状態に陥るというのなら――。
それは、一部であるみたいだし、ルイーナの歌声が止めば、しばらくの後に回復すると分かっていてもな。
監視はできるが、検閲ができない。
アリスが、ルイーナと離れたくないと言うのなら、一緒にいる事は止めない。だが、そうなると、問題が解決するまで、君もまったく動く事ができなくなる。
僕は、それはおすすめはしない。
天王寺アリスの頭脳を使って、僕に協力してくれ。
『sagacity』の完成に、力を貸してくれないか?
常軌を逸する事がなくなれば、ルイーナを閉じ込めておく必要がなくなる。一日でも早く、その日が来てほしいと、僕だって願っている。
だから、アリス。
僕と共に、ルイーナの為に、戦争を終わらす戦争を――起こしてくれ!」
「エリオット……私には、そんな事できないわ」
「それが、やりたくないなんて意味じゃない事を前提にさせてもらう。
何を弱気になっているんだ!
アリスと僕なら、この世で最高の戦略を練れる――二人が手を取りあえば、すぐに『sagacity』が、ルイーナの歌声を恐れる事をやめる。
お願いだ、アリス!
僕は、僕なりにルイーナを愛している。だから、気掛かりがなくなるまで、あの子を閉じ込めてしまうと思う。
怖いんだっ!
僕自身が、あの子がいる……という事を、否定してしまうんじゃないかって! アリス! 気づいてくれているのかもしれないが、僕が、君を手に入れたい本当の理由は……嫌なんだよっ。
僕が……僕の手で、アリスのいない現実の時間を作ってしまうかもしれない事が……。
分かってくれているよな!
アリスは、僕の手からは逃れられない。ルイーナを逃がす事もできない!
愛しているんだっ。
本当に。
だから、君を閉じ込めておきたいと思った。僕の手に完全に堕ちたって、実感をくれないのなら、それしかなかった。他で、過ごしているなんて……考えただけでおぞましい!
僕が平静を失うような真似は、やめてほしかったんだっ。
だって、アリスは、僕の最大の敵だから……いつか、戦場で……。
ルイーナも、そうだと言うのなら……同じように扱うしかないっ」
「エリオット。
考えを……変えてはくれないって事かしら……?」
「僕だって、戦争は嫌いだ。
もう顔も思い出せないが、父さんと母さんを奪われた! だが、それと引き換えに、アリス。君を与えてくれた……僕にとって、戦争というのは、愛しいアリス姉さんをくれたものなんだっ。
どこにも行かないでほしい、アリス。
戦争がないと……きっと、アリスはどこかに行ってしまう!
僕の手の中にはいてくれないっ。
しかし、僕は、戦いは終わるべきだと思う。
アリスや……その間に生まれたルイーナを奪われたくないから。
……分かりたくはないと、君は、言うんだろうね。
いや、分かってはいてくれたんだね! 君の創作を見せてもらう限り――。
駄目なんだっ。
変わるとか、変わらないの問題ではなく――それが、僕だからっ。これが、僕だから!
止めないでほしい……これを聞いても、僕を愛する事を止めないでほしいっ!」
「……うん。
大丈夫よ、エリオット。
すべて知った上で、アリス姉さんは、あなたを愛しているから。
とても好き。
だから、嫌いになりたくないの……」
「アリス、もっと強く抱きしめてもいいかい?
本当は、初めて出会えた日のように、君の方からも抱きしめてほしいが……今は、無理だ。
この場で誓ってほしい。
僕と手を携え、これからは生きていってくれる事を。君の戒めを、すべて無くしてあげたい。君が思ってくれた時に、僕を抱きしめたいと思ってくれた時に、自由にそうできるように。
君が、YESと言ってくれるだけでいい。
愛しいルイーナを助けよう。
僕ら二人で、あの子を助ける為の戦火をくべ……世界の全てが跡形もなくなり、落日を迎えたとしても――僕らの愛し子、ルイーナだけは救い出そう!」
「分かったわ……。
エリオット、私は、あなたを嫌いになりたくないの」
「ありがとう、アリス。
唇重ねてもいい……?」
「だから、ルイーナを戒めようという――エリオット。あなたを止めますっ。
あの子の口を封じて……もう、あの愛らしい喋りの一つ一つを聞かないつもりでいる……あなたを嫌いになりたくないから……」
「……アリス。
沈痛な面持ちを浮かべているなんて言葉では、あらわせないね。その顔。そして、想いも。
痛いんだね、心が――。
君の辛い気持ち……それは、僕が、今持っているものと同じだ。
でも、僕は、どうにも君が望んでいる事を叶えてあげられないっ!
ね?
ルイーナを、早く助ける事だけを考えてくれないかっ。
腕が好きに使えたとしても、アリスは、僕を止める事はできないだろ! ルイーナから、言葉を発する自由をも奪おうとする、僕をね。
誰も、君の助けになってくれる人はいない。
ルイーナを、心任せにさえずる――翼をはためかせる小鳥のように、空高く逃がしてやるなんて……不可能なんだっ。
その気持ちは、捨ててくれ……アリス。
愛しいものを与えてくれる、その為の戦争を、ただ、強く望んでくれっ!」
「私は、ルイーナを大空の舞台に出すつもり……。
エリオット。
そして、私自身も――ここから、羽ばたいて去るつもり」
「はは……どうやってやるんだい……?
ルイーナを再び大地に向かわせた時みたいに――僕の慈悲にすがるつもりか?
無理だ。
もうそんな事は、二度としない。
翼を広げて見せるのは、構わない。だが、それは、僕が用意した鳥カゴの中だけだ。
諦めよう、アリス。
もうやめるんだっ。
さあ、こっちにおいで……君のすべてが、僕の物語と重なる事を約束してくれるまで、離すつもりはない!」
「もう、私は、辿り着きたい場所に到達してるの」
「……アリス?
はは……どういう事だい……?
僕の直感が……それは、疑問を感じる事ではなく、もうすでに深刻なリスクだと、警鐘を鳴らして止まない……っ。
アリス!
君が、背信行為を行ったという……事実を否定してくれ!
僕を裏切った事……違うと言ってほしい!」
「エリオット。
あの物語が、もう一つの意味があったのに気づいた?
……あなたが直接聞いていたから、同じものは、もう使わないと思っていた?
『sagacity』の検閲に引っかからなかった段階で……エリオットは見落としてくれたと、確信が持てて、希望につなげる事ができた。
念の為、『sagacity』を狂わせた状態で、検閲を通過させる事にしたけど――」
「……暗号か。
僕の興味が向くような、豊穣な収穫が約束された、香り放つ甘い蜜のような罠を、二重で用意して……嵌めたのか!
外部の者と連絡が取れるのか……試す為に! ルイーナの秘密を、僕に売り渡してでも……そちらを取ったのかっ!
答えろっ。アリスっ。
もう、天翔けさせたのか……っ。
ルイーナの歌声で、『sagacity』が正気を失うという事実をっ!」
「エリオット……今の私、どう見える?
勝利に酔いしれてる?
それとも、愛する人に背いた狂気の中にいる?
――お前が、いつも美しいと言ってくれる、最高の軍人顔をしているか?」
「アリス……っ。
汚穢にまみれた連中と気脈を通ずるなんて……分かった。
……そんなに、死刑台にあがりたいのか?」
* * * * *
『ルイーナ様。
急で、申し訳ないのですが、御父上の執務室まで来て頂けますか?
ご自分の足で――。
ロックは、お部屋も、居住スペースの入り口も、こちらで遠隔解除しますので』
「タケ。
父上の執務室に、母上もいる?
もう、そろそろ夕食の時間なのに……誰もリビングに誘い出してくれなくて……オレ、お腹減ったー」
『ええ。
母上さまもいらっしゃいます。
……閣下とご一緒です。
お話は、ルイーナ様が理解して頂ければ、すぐに終わるとの事です』
「はーい。
じゃ、オレが二人を迎えに行くよ。早く、三人で夜ごはん食べたい」




