母子は偽り自由の中
The Sky of Parts[09]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「……母上、大丈夫?
仕事が忙しいからって、ちゃんと食べてる?
ここ二、三日。食事は、後で仕事しながら部屋で食べるって言って……オレと父上が食べてる間も、ずっと仕事してるじゃない」
「ルイーナ。心配してくれていたのね。
大丈夫。母さん、ちゃーんとご飯食べてる。あなたの小さい頃の動画とか観ながらね。
頭も十分にリフレッシュしたいから。
ふふ。
可愛いあなたを見ていると、目からも栄養補給できるわ」
「そっかー。
良かった。父上のご機嫌なおったし。
オレ、言い過ぎてたところあったから、父上もちょっと懲らしめてやろうと思ったんだろうな。
調理は、子供のオレには危ないからって、ずっとダメって言われていたけど、前からパンケーキって焼いてみたくて――材料を混ぜるところから手伝って良いって言ってくれて。
楽しかった!
母上は見てるだけだったけど……あ、お仕事してたんだったね」
「……そうね」
「やっぱり優しいな、父上。
今日も夕食後は、ボードゲームか、トランプで遊ぼうね。三人で、ああいう『敵対』って面白いよね。
あ、絶対にオレが勝つから楽しいわけじゃないよ!
だって、父上と母上は、どうやってオレを勝たせるか、いろいろ考えてくれていて、それ、分かっていたんだ。
毎回、二人がオレの勝利の為に、協力してくれてるって。オレは、二人に愛されてるんだなって。
へへっ。
また良い歌詞や曲が作れそう。
プロデューサーATも、主君エリオット・ジールゲンも、びっくりするようなLunaの新曲――最初に発表するのは、二人の前だから!
リビングのソファに並んで座って、二人で一緒に聴いてね」
「……私が、エリオットを倒そうとして、そして、エリオットも私を倒そうとする……結果として、ルイーナが勝っているだけ。
私たちは、終戦なんてしてはいない。今も『敵対』している」
「母上は、何かあるとすぐに父上と『敵対』してるって言うよね。
今回、父上とちょっと仲悪くなっちゃったかな……って思ったけど、その後は、前よりも父上の事を好きになった。
オッケー。
オレの大好きな父上と母上が、『敵対』が終わって、仲直りして、前よりもずっと深く愛し合えるように――」
「……嬉しいね、ルイーナ。
そんな風に考えてくれているって――やはり、僕の大事な愛し子だ」
「エリオット……」
「父上っ!」
「おいで、ルイーナ。
この胸の中に。
小さい頃のように、母上の温もりを感じさせてあげられなかった頃のように。お前の心が穏やかになるように、この父が抱きしめてやろう。
……おや、アリス。
もっと妬いてくれるかと思ったのに。
目に宿すものからは、強い意志を感じるが、冷静にしている。
ああっ。
許してくれ!
仕事から、そのままの足で来たんだ。
だが、今日はちゃんとマントを羽織ってきた。
この前、軍服姿で君の部屋に現れた時、ルイーナが少し身が竦んでいるんじゃないかと、アリス。君が指摘してくれたので、気をつけてはいるよ。仕草や、顔つきはね。
優し気な声を出せるようにも、努力している。
仕事は忙しいが、僕だって、急に大切な――家族の顔を見たくなる事はあるんだ」
「父上の軍服姿、見た事は何度もあったけど、この前は、たしかにちょっと怖いなって思った。
でも、オレが、Lunaの時に違う顔を見せるように、父上も、お仕事の最中は違う顔を見せてもいいと思う。
今日は、もうお仕事終わったの?」
「いや。すまない。
今からルイーナ――お前のプロデューサーと話がある。
後で、Lunaにも大事な事を伝えなくてはならない。さあ、お部屋に戻って待っていて。必要な段階になったら、呼ぶから。
ね?
アリスは、僕と一緒に来てくれるね」
「……ルイーナの子供の頃の動画……今から見ようと思っていた。
戻ってきたら、見てもいいか?
エリオット。
お前の用事が、長い時間を取らせないという意味で、確約がほしい」
「ふふ……別に構わないよ。
どうしたの?
気をつけるよ、軍服姿で君の前に現れる時は。そんなに神経質にならないでほしい。すぐに帰って来れるさ。
――でも、僕の仕事は、知っているはず。
アリス。
慣れていってほしいな。この姿の僕と、一緒に過ごす事に」
* * * * *
「さて、アリス。
久々に視力に加えて、聴力を奪い、腕を自由に動かす事も制限させてもらった上で、僕の執務室に来てもらった。
そして、今も腕は動かせない……気づいているみたいだな。
今日、なぜ呼ばれたのか。
視力を奪わせてもらっているのは、このフロアの配置を、完全に把握されない為。VRゴーグル……と君が命名していたね。廊下移動が必要な際は、今でもあれをつけさせてもらっていた。
でも、お願いしてくれれば、あれも外して、自由にさせてあげられたんだよ。
だって、アリス。君は、この僕に忠誠を誓ってくれて、功績も十分あげている。
正直、タケへの示しをつけるぐらいのつもりだったんだ。
――僕の部下になってくれた日から、処遇の変更はちゃんと行っていた。
どうしてだろうね。
今日の君は、僕の部下として来てもらったのかな? いや、部下だからこそ、動きを制限されて、主の前に立ってもらう事もあるんじゃないのか?」
「エリオット。
私の書いていた物語を読んで、その感想を伝えたいと?」
「うん。さすがはアリス。
だが、もっと責め苛ませてくれて、僕の口から言わせてほしかったな。
いや、いい。
今から、たっぷり小突きまわさせてもらうから。
ひどいなぁ。
アリス。
こんな重大な発見をしたのに、黙っていたなんて……上司としても、ルイーナの父としても、それなりに怒れてきているんだ。
いいよね?
ちょっとぐらい、君を虐めても。
君も確信をもったのは、この前、僕の元『仕事場』でのライブの後みたいだが、逐次報告は必要だったんじゃないか?
それにしてもすごい。
データとしての記録は、暗号化して残すが、それを使っての科学技術計算処理は、君自身が行っていたんだろう?
心の中にあるソフトウェア……そんなものは、いくら『sagacity』だって見つけられない。いくら戦略関連の情報だっていってもな。
苦労したよ。
記録データにしても、あんな物語の中に隠すなんて――。
ふふ、嘘。
楽しかった。
天王寺アリスの謀計を暴いて、打ち砕けたら……君を、あんな風に扱って良くて、そして君も、僕の望む通りになってくれるのかと思うと。
そうさせようと強く渇求したから、少しでも早くその未来に到達したくなった!
……アリス。
今日は、近づくなとは言わないんだな。
いつもなら、僕に抱きしめられたら、すぐに罵り始めて、暴言を撒き散らしてきて、タケの口汚い言葉が吐かれる展開になるのに。今回は、本当に観念しているのか?
もう万策尽きたって」




