独裁者の下……形勢逆転
The Sky of Parts[08]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「どうだい。
アリスとルイーナは、再会を喜んでいるのかね?
ふふ。
二人とも、もう二度と会えないとでも思っていたのか?
あんなに強く抱きしめあってしまって――大事なLunaのプロデュース資料が崩れて、床に転がってしまっている。
――まあ、もうすぐいらなくなるものだから、いいのか」
「閣下。
ライブ中、そして、その後の時間の天王寺アリスを収容している独房内の録画を、早送りで確認してみました。
Lunaのライブの間は、真下を見下ろすように、窓に張りついていますね。
窓の外が見える訳でもないし、ライブが行われていたのは、あの女が言う『違う方向』――閣下の元『仕事場』ですが。
ライブ会場が、タワーの真下――この『スカイ・オブ・パーツ』の足元だとは、天王寺アリスも知っていますからね。
後ろ姿になるので、天王寺アリスの表情がしっかり見えませんが、片手を窓に添えたりしています」
「タケ。
その後の録画、早送りでいいから、大画面モニタに流してくれるか。
……ほう。
すぐに転送した映像を使って、プロモーションビデオの作成とは、アリスは、敏腕なプロデューサーだな。
公開サーバへのアップロードは、出先から許可しておいた。だから、余計にすぐに帰ってくると思い込んでくれたのかな。
予定していた帰宅時間をだいぶ過ぎた頃まで、早送りしてくれ。
ふふ。
だんだん、焦っていってくれたようだな。
アリス、入口の扉や窓に、何度も手を置いたりしている。
狭い部屋で、それほどできる事もないのにな。
今日は、朝から少し電灯のレベルを下げていったから――不安に拍車がかかってくれたのかね。
――君のいる場所、あくまで独房なんだ。
その中を居場所と主張するのなら、順当な扱いをさせてもらう場合もある」
「閣下の主張が正しく、論を俟たない事です。
ルイーナ様……いえ、閣下にお仕えするLunaの取り回しも適切で、彼も、閣下の御意向に十分触れたようで……母上さまのところに帰れて良かったですね……何もなく。
ふふ。
――いつも通り」
「ふ。アリスとの約束だから、僕は、ルイーナには、何もしてないさ。
ひどい事なんて、何も。
ただ、帰りの車に乗せてから――しばらく降ろさなかっただけじゃないか。
いつも無駄なく、一刻でも早く、『スカイ・オブ・パーツ』上層の……あの子を閉じ込めている場所に戻していたが、たまには自由を謳歌させてあげようとしただけだ。
ルイーナも頑張ってくれているからね。
ふふ。
ドライブに連れて行ってあげたんだよ。
――まあ、一言も口を聞いてやらなかったけどな。
僕を呼ぼうが、『どこへ行くの?』、『母上が心配してるから早く帰りたい』。
そういった事に、一切反応しなかっただけ。
いつも一緒に過ごしてきた、赤ん坊の頃から育ててる、父親の僕といるのに。
ルイーナは、なぜ、あんなに不安げにしていたのだろう?
外の景色が見えない車内で、いつ終わるか分からない時間を過ごすのが――そんなに心騒ぐ事だったのだろうか?
あははっ。
タケ。
見ていたと思うが、僕は、怒った顔なんてしていなかった。ただ、ずっと笑みを浮かべていた。エリオット・ジールゲンとして――」
「閣下の御顔を、よく眺めていましたね。ルイーナ様。
表情がかたまってしまっていて、見つめているのに、見つめられて竦んでいるような。
ルイーナ様。
この竹内イチロウの方にも、声をかけて下さいましたが、閣下のご指示通りに、ルイーナ様への応対は、中止させて頂いておりました。
下知があったとはいえ、閣下の御子息であれば、無礼と心を痛めましたが――繋囚である天王寺アリスの子とお伺いしておりましたので。
……おや。
監視カメラのモニタ。
何か、二人で話していますね――」
『ごめん。ルイーナ……あの時計壊れてしまって……時を止める事になっちゃった』
「――そうか。
アリスは、まだ電子機器を持っていたのか。ずっと前に与えておいたデジタル時計……か。
彼女が手にしていいと許しているもの――今一度、すべて確認した方が良さそうだ。
……酷いな。
僕が授けたものを、無下に扱うなんて。だから、デジタルカメラはダメだと言ったんだ。
対空ノイズの研究は、続行できないようにする。
アリス。
すでに何か、実りを持っているなら、教えておくれ。
僕と『sagacity』は、君の胸臆にしかおさめられていないものがあるのなら、それを知りたい。
諸事万端。有象無象でも、君が思いつくというのなら、ありとあらゆるものを欲するよ。
さあ、渡してくれないか……アリス。君の手には、何が握られている。
こんな程度で終わりじゃないんだろう!」
「閣下。
天王寺アリスに直接、吟味立てしますか?」
「いや。
今日は、やめておく……リビングには顔を出さない。
二人が食べる夕食は、作りおきしておいたし、いつ僕が現れるのだろうと怯えながら、あの狭い独房で、母子で身体を寄せあうように、時間を過ごすといい。
僕から呈された、恵みを糧にな。
だが、明日の朝は、二人のところに、いつも通り行くよ。
何事もなかったように。
独裁者としてではなく、あの二人を飼い殺しているエリオット・ジールゲンとしてな。
普通に、ゆかりのある者として――万事は、夢だったんだ。
目覚めが近いだけ。
……楽しみだ。
アリスの企みを完全に砕いて、あの母子を、本当に僕の手の中に収める日が――その時は、もう、逃げ出す気も起きないように、しっかり言い聞かせをしないと。
ね?」




