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独裁者の下……形勢逆転

The Sky of Parts[08]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「どうだい。

 アリスとルイーナは、再会を喜んでいるのかね?

 ふふ。

 二人とも、もう二度と会えないとでも思っていたのか?

 あんなに強く抱きしめあってしまって――大事なLunaのプロデュース資料が崩れて、床に転がってしまっている。

 ――まあ、もうすぐいらなくなるものだから、いいのか」


「閣下。

 ライブ中、そして、その後の時間の天王寺アリスを収容している独房内の録画を、早送りで確認してみました。

 Lunaのライブの間は、真下を見下ろすように、窓に張りついていますね。

 窓の外が見える訳でもないし、ライブが行われていたのは、あの女が言う『違う方向』――閣下の元『仕事場』ですが。

 ライブ会場が、タワーの真下――この『スカイ・オブ・パーツ』の足元だとは、天王寺アリスも知っていますからね。

 後ろ姿になるので、天王寺アリスの表情がしっかり見えませんが、片手を窓に添えたりしています」


「タケ。

 その後の録画、早送りでいいから、大画面モニタに流してくれるか。

 ……ほう。

 すぐに転送した映像を使って、プロモーションビデオの作成とは、アリスは、敏腕なプロデューサーだな。

 公開サーバへのアップロードは、出先から許可しておいた。だから、余計にすぐに帰ってくると思い込んでくれたのかな。

 予定していた帰宅時間をだいぶ過ぎた頃まで、早送りしてくれ。

 ふふ。

 だんだん、焦っていってくれたようだな。

 アリス、入口の扉や窓に、何度も手を置いたりしている。

 狭い部屋で、それほどできる事もないのにな。

 今日は、朝から少し電灯のレベルを下げていったから――不安に拍車がかかってくれたのかね。

 ――君のいる場所、あくまで独房なんだ。

 その中を居場所と主張するのなら、順当な扱いをさせてもらう場合もある」


「閣下の主張が正しく、ろんたない事です。

 ルイーナ様……いえ、閣下にお仕えするLunaの取り回しも適切で、彼も、閣下の御意向に十分触れたようで……母上さまのところに帰れて良かったですね……何もなく。

 ふふ。

 ――いつも通り」


「ふ。アリスとの約束だから、僕は、ルイーナには、何もしてないさ。

 ひどい事なんて、何も。

 ただ、帰りの車に乗せてから――しばらく降ろさなかっただけじゃないか。

 いつも無駄なく、一刻でも早く、『スカイ・オブ・パーツ』上層の……あの子を閉じ込めている場所に戻していたが、たまには自由を謳歌おうかさせてあげようとしただけだ。

 ルイーナも頑張ってくれているからね。

 ふふ。

 ドライブに連れて行ってあげたんだよ。

 ――まあ、一言も口を聞いてやらなかったけどな。

 僕を呼ぼうが、『どこへ行くの?』、『母上が心配してるから早く帰りたい』。

 そういった事に、一切反応しなかっただけ。

 いつも一緒に過ごしてきた、赤ん坊の頃から育ててる、父親の僕といるのに。

 ルイーナは、なぜ、あんなに不安げにしていたのだろう?

 外の景色が見えない車内で、いつ終わるか分からない時間を過ごすのが――そんなに心騒ぐ事だったのだろうか?

 あははっ。

 タケ。

 見ていたと思うが、僕は、怒った顔なんてしていなかった。ただ、ずっと笑みを浮かべていた。エリオット・ジールゲンとして――」


「閣下の御顔おかおを、よく眺めていましたね。ルイーナ様。

 表情がかたまってしまっていて、見つめているのに、見つめられてすくんでいるような。

 ルイーナ様。

 この竹内イチロウの方にも、声をかけて下さいましたが、閣下のご指示通りに、ルイーナ様への応対は、中止させて頂いておりました。

 下知げちがあったとはいえ、閣下の御子息であれば、無礼と心を痛めましたが――繋囚けいしゅうである天王寺アリスの子とお伺いしておりましたので。

 ……おや。

 監視カメラのモニタ。

 何か、二人で話していますね――」


『ごめん。ルイーナ……あの時計壊れてしまって……時を止める事になっちゃった』


「――そうか。

 アリスは、まだ電子機器を持っていたのか。ずっと前に与えておいたデジタル時計……か。

 彼女が手にしていいと許しているもの――今一度、すべて確認した方が良さそうだ。

 ……酷いな。

 僕が授けたものを、無下むげに扱うなんて。だから、デジタルカメラはダメだと言ったんだ。

 対空ノイズの研究は、続行できないようにする。

 アリス。

 すでに何か、実りを持っているなら、教えておくれ。

 僕と『sagacity』は、君の胸臆きょうおくにしかおさめられていないものがあるのなら、それを知りたい。

 諸事万端しょじばんたん有象無象うぞうむぞうでも、君が思いつくというのなら、ありとあらゆるものをほっするよ。

 さあ、渡してくれないか……アリス。君の手には、何が握られている。

 こんな程度で終わりじゃないんだろう!」


「閣下。

 天王寺アリスに直接、吟味立ぎんみだてしますか?」


「いや。

 今日は、やめておく……リビングには顔を出さない。

 二人が食べる夕食は、作りおきしておいたし、いつ僕が現れるのだろうと怯えながら、あの狭い独房で、母子で身体を寄せあうように、時間を過ごすといい。

 僕からていされた、めぐみをかてにな。

 だが、明日の朝は、二人のところに、いつも通り行くよ。

 何事もなかったように。

 独裁者としてではなく、あの二人を飼い殺しているエリオット・ジールゲンとしてな。

 普通に、ゆかりのある者として――万事は、夢だったんだ。

 目覚めが近いだけ。

 ……楽しみだ。

 アリスの企みを完全に砕いて、あの母子を、本当に僕の手の中に収める日が――その時は、もう、逃げ出す気も起きないように、しっかり言い聞かせをしないと。

 ね?」


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