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母子は、独裁者が手の中か――

The Sky of Parts[08]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「ルイーナ、歌って。

 はい、この時計持って――撮るね。

 ……ありがとう。

 今日もよく撮れてると思うわ。確認は、タケがスキャンデータを用意してくれてからだけど」


「母上が、そう言うなら大丈夫だよっ。

 今までの写真……いつだって母上の撮ってくれたのは、最高のオレだと思うから!

 あ。これ、時計返すね。

 母上、好きだよね。

 歌ってるオレと、この時計の組み合わせ。ファンにも大好評のショットみたいだけど。

 あと、母上の部屋の窓際で撮るスタイル……あ。窓際以外は、資料が散乱していて撮影無理か……。

 父上にお願いしたら、もうちょっと広い部屋を用意してもらえるんじゃないの? 今月も、プロデューサーATとLunaのおかげで、父上のグンのシジリツは上昇したらしいし。

 オレの部屋、ここよりもずーと広いよ」


「……広くたって一緒だから。

 『部屋』である事に変わりがないのなら、母さんは、狭い方がいいわ」


「母上?」


「もっと、広い部屋を用意しようか?

 何度も言っているが、断っているのは、アリス。君だ」


「エリオットっ! なぜ、ここにっ」


「父上」


「ふふ。

 アリス。そんなに大きく目を見開かなくてもいいじゃないか。

 ついさっき、僕の作った夕食を、一緒に食べた仲だろ――家族じゃないか。

 ルイーナが、君の部屋のドアを閉め忘れていたみたいだから、のぞき込んだだけだ。

 ――強く抱き寄せられて、ルイーナが目を丸くしている。

 怖い顔しないでくれ、アリス!

 忘れ物を取りに来ただけさ。ここは僕の家でもあるからね。

 僕が、軍服でここに来たので、驚いているのかな? 取り急ぐ程ではなかったのだが――思い出した時に、来た方が良いと思って。

 そうだ!

 マントを羽織ってくるのを忘れてしまったなっ」


「エリオット。

 用が済んだのなら……早く帰れ」


「アリス、右の薬指……力が入っているよ。

 あれかな?

 明日、僕の元『仕事場』で、Luna……ルイーナのライブの予定だから、心配になってしまったのかな。

 プロデューサーとしてか――母親としてかは……どちらだろうね?

 いやだなっ。

 今の僕は『無職』なんだから、そんな忌まわしさを込めた目でこちらを見ないでほしい!

 あの場所でのライブ開催を希望したのは、プロデューサーATだったと記憶しているが?

 僕は、それを了承して、明日は、Lunaの主君として、そして、ルイーナの父親として、立ち会ってくるだけじゃないかな。

 ふふふ。

 なあ、ルイーナ」


「え……あ。はい……父上」


「ルイーナ。

 明日は、なるべく心の底から真っすぐで、そういう心持ちを大切にした方がいい。

 男子の口が、いつも真誠しんせいである必要はないが、お前の誣言ふげんで、プロデューサーの方が失脚する可能性があるのは、念のため気に留めておいてくれ」


「えっと……父上。

 はい……」


「エリオット!

 これ以上、ルイーナに身がすくむ思いをさせるなっ」


「はいはい。

 母子でお楽しみのところに、急に来て悪かった。

 でも、僕だって、君たちと仲良くしたいと思ってもいいはずだよね?

 『敵対』は、条約締結で終戦のはず。

 君たち母子は、エリオット・ジールゲンの配下に加わったのではないのかね?

 アリス。

 そこは認識してくれていると思っているのだが――もう一度、念の為に言っておこうか。

 軍は、集団でもあるから、示しがつかないなんて事があっては困る。

 それは、ヒエラルキーであり、権力構造であり、主従関係となる。これがあってこそ、指揮が成り立ち、命令が伝達される。その為に階級が必要だと考える。

 世の習いで言ったら、君たちは、僕にとって眷属けんぞく――つまり家族であるのだが、どう扱われたいかね?

 僕が統率する側であると考えて、問題はないかという意味だ。

 もしも、それに不都合があるのであれば、ゆかりの者としての待遇にする事もできるので言ってほしい。

 それだけだ」


「エリオット、早く出ていけ。ルイーナが……不安がっている」


「――了解。

 ルイーナ、また明日な。

 父上が、ちゃんと迎えに来るから、たじろぐ必要はない。

 ふふ。

 帰って来れるさ……いつも通りの――ままね」


「黙れっ。エリオット、もう行けっ!」


「明日の仕事は、僕ら三人で手掛けているものじゃないか。

 アリス、怖い顔するなって。

 そのうち、家族三人で『仕事』をする事もあるかもしれない!

 ……ね?」


「出ていけっ!」


「ルイーナに、軍服を着せたら似合うかを想像しただけじゃないか!

 あははっ。

 二人とも、おやすみ」


「……大丈夫? ルイーナ……震えているわね。

 大丈夫よ……母さん、一緒にいるから……」


「……うん。オレも大丈夫……。

 父上……怒ってるのかな……?」


「……そうね。きっとそう。

 私たちが、意地悪し過ぎちゃったのかもね。

 明日になったら許してくれるわ。ひどい事されたりしないから――安心して、今夜は寝なさい」


「うん……おやすみ、母上。

 明日、父上に謝っておく」


「おやすみ。ルイーナ」



* * * * *



「閣下。

 反論の余地がないように、通告されていましたね。

 威光お示しの上で、戒告かいこくのみのご処置。閣下の寛大な御心おこころに、お二人も、畏怖いふの念を抱きつつも、今後は、軍の一員としても、眷属けんぞくとしても、崇敬すうけいしていくと――」


「どうかな。

 アリス、仕事を始めたな」


「え」


「さっき僕が読んでいたもの。また書いてる。

 『待ちわび過ぎた、私は、こよみの中に埋もれていた。この気持ちの作られた時を確認し……』。

 ――安っぽいゴシップ記事程度の三文芝居の始まりだ。

 『心ひとつだと思っていたが、私は、ようするが少し早かったようだ』。

 へぇ。

 アリス。

 今回は、僕とどういう関係を望む嘆願書たんがんしょを書いてくれるのだろう。

 『私は、今は中にはない。それは物語で伝承されたえにし。私は、ないまま、みあげる』」


「閣下。

 その天王寺アリスの文章は、意味があるのですか?

 ……竹内イチロウには、まったくをもって理解できません」


「まだ書いている途中みたいだから、確証はないが、他の作文の法則を参考にすると、今回は『私は』という部分がキー作りの基――冒頭は、キーの作成に使っている。

 このキーを使って、本題を読むと、アリスが記録として残している対空ノイズのデータが浮かびあがって……本題を勝手に読むなよ!

 あれはタケにも見せたくないっ。

 僕だけ、いや、僕とアリスと『sagacity』のものだ!

 いいなっ。

 しかし、これらを解読する事自体が、罠である可能性がある。

 できたらフィクションの夢物語ではなく、彼女の真意のこもった冀望きぼうのエッセイであってほしい。

 ファイル数も多いし、読まれる可能性があると思っていたのだろう。ご丁寧にも『はじめにお読みください』というファイルが用意されている。

 ……ファイルの中身は――これは、アスキーアートというのだったかな?

 形は、若干いびつだが、よくも、こんな顔文字だけを並べて、『これバレたらどうしよう』という文字を表示させたものだ……。

 続くのが、僕に対するぼやきというか、完全に怨言えんげんだと思われる。はしたない文章の数々を、ネットスラングを並べて表現している。

 気づかず見過ごすのも罠。

 気づいてただ読むのも罠。

 深読みするのも罠。

 だが何もしないのも罠。

 面倒だが、アリスからの挑戦状だと思って、彼女の上前うわまえねるようなやり方を考えついて、対処しなくてはいけなさそうだ。

 実に、面白そうじゃないか」


「閣下。

 コンピュータ自体が、一切操作されなくなりました。

 大画面、監視モニタの映像に切り替えます。

 ……天王寺アリス……窓際に移動して……窓をあけに行ったのか。

 コンピュータの操作に戻り……。

 これは、ルイーナ様が子供の頃? 閣下の前で歌ってみえた時の録画を再生したようです。

 ……また窓際に移動か。

 ベッドの上の書類を手に取って……自分がベッドに座り込む為に、邪魔だと思って書類を動かしただけか」


「おやおや。

 うら悲しげな表情を見せてくれる。

 アリスの独房からは、窓の外がはっきりと見えないようにしてあるが、今夜のきれいな月明かりが入り込んでいるせいかな。

 胸間きょうかんに秘めた負の想いが、ひしと伝わってくるようで――胸が締めつけられるような、アリスが心に伏せていそうな気持を分かちあいたくなる。

 今すぐそばに呼びつけて、その記憶からか、あるいは予知からか、浮かびあがってきている苦痛を、僕がなじってやりたいものだ。

 とても、美しいものを見せてもらったが……今日は、もう本題を書く、仕事はしてくれないつもりかな。

 残念だ。いろいろな意味で」



* * * * *



「Lunaの今日のライブ映像を使ったプロモーションビデオ、もう配信されてるんだ。

 ……早めでありがたいけど、また、アレを聴く事になるのか……はぁ」


「エルリーン。

 最近、ダノンとジーンさんと三人で、ずっとLunaのプロモ動画観てるわね。

 何か気になるところがあるの?」


「……何って……ぐんし……いや、このLunaってヤツのおかげで、エリオット・ジールゲンの野郎の暴挙が止まってるじゃないか!

 だから、何でかなって……ダノンとジーン叔父さんと調べてる。

 手伝って、うまくいったら、あたしも一人前って事で、武器とか持たせてもらえるかなぁ……って。

 リリンも……こいつ、Lunaが好きなんだろう!」


「うん。

 でも、エルリーンは、やっぱり戦いたいのね……私たちと台所を手伝ったりは、嫌?」


「得意じゃないけど、嫌じゃないよ。

 だけど、あたしは、父さんの仇エリオット・ジールゲンが許せない」


「そうね。

 私も、エリオット・ジールゲンは、世界の敵だと思う……」


「あれだね……ノアの父ちゃんが言ってたやつ。

 リリンは、そこが心が痛いって、板挟みになるって」


「うん。私は、人の命を平気で奪うエリオット・ジールゲンが憎い。

 ただ、夫は……結婚はしていないけど、ノアの父は、軍の兵士になったのは、エリオット・ジールゲンが戦争を終わらせようと、本気で考えているからだ――と、言っていたの。

 それには、戦争が必要なんだって……意味は、分からないわ。

 だけど、あの人が言ったから、今でも気になるの」


「犠牲の上に成り立つなんて、あり得ない……ってダノンは言ってた。

 でも、あたし、リリンが心苦しいのは分かってあげたい……意味は分かってあげられないけど、会った事もないけど、ノアの父ちゃんが言うならね」


「エルリーン、ありがとう。

 でも、きっと、あの人も敵なのよ……私も、ノアも、ここにすっかり受け入れられていて、話しているのが、エルリーンだから、こんな本当の気持ちを言えるのかもしれないけど。

 夫のように、自分からエリオット・ジールゲンのそばにいて、仕えたいと思う人もいるんだなって……でも、私には、優しかった。

 そんなに長く一緒にいたわけじゃないし、彼を愛しているのが、軍の施設で過ごす、唯一の心の支えだったからかもしれないけど」


「いいじゃん。リリン、ノアの父ちゃんを好きでいなよ。

 あたし、エリオット・ジールゲンは嫌いだけど、ノアの父ちゃんは、嫌いじゃない。

 会った事もないけど、子供のノアも良い子だし、リリンの大事な人だっていうなら」


「……もしも、再会できたとしても、あの人が、私にまた、優しくしてくれるかは分からない。不安なの。

 でも、会いたい。

 Lunaの歌声を使った政策で――戦争以外で、戦争が終わってくれれば……今回のLunaライブは、ほら……元々は公開処刑を行っていた広場で開催されたみたいじゃない。

 本当の事を言って、プロモ動画を見る前、少し怖かった。

 だって、過去の凄惨せいさんな光景を知っているから。

 でも、Lunaが歌ってくれるならって思って、意を決したの。

 いつもよりも、きれいで、心のこもったLunaの歌声を聴く事ができたわ。

 Luna自身も、弔いの気持ちを持っていたのかしら?

 いつになく、真剣な表情をしていた。

 そのLunaと、元は恐怖政治の象徴であった場所を見つめる、エリオット・ジールゲンの目が、いつも以上に険しく感じたけど……それが、平和への決意をしてくれているというのなら、私は、ちょっとそれを願いたくなったの」


「リリン。うん、そうだね。

 たしかに、エリオット・ジールゲンを倒す未来はほしい。そして、もちろん、平和な未来はほしい。それは、あたしの願いでもあるよ!」



* * * * *



「ジーンさん。

 これで、軍師殿――天王寺アリスさんからのメッセージはすべてだと思っていいようだ。

 ……俺が解読した内容が間違っていなければだけど」


「ダノン。

 手配できるかだな。必ず手に入れてくれって、言われているもの」


「決して安いものではないが……このご時世、意外と需要がない。他の反乱組織との交渉を、俺がしてみる」


「ダノン。若いお前に任せてばかりで、すまんな。

 ……おれにも、お前のような人を導く力があればと思ってばかりだ。さすがは、ミューリーさんの息子だよ。

 濃い金色の髪も、目じりが整っているのも……それだけじゃない、ミューリーさんは、女でありながら、皆の士気を高め、一緒に行動するだけで希望を与えてくれそうな、気迫に満ちた――お前の中身が、まさにそのミューリーさんだ。

 まだ不精ぶしょうひげすらも似合いそうもない、やっと二十になったばかりの、お前なのにな!」


「誉めてくれてありがとう。ジーンさん。

 威厳つけようと思って、母さんと同じような青い軍服もどき着て、形見になってしまったレイピアを携帯してるけど、中身が追いついて来てるなら……嬉しい限りだ。

 髪、もうちょっと切った方がいいかな?」


「いや、いいんじゃないか。

 むかし、うちのエルリーンにも言われてた気がするが、ダノンは、ちょっと髪伸ばしてるぐらいの方が、お前の顔立ちなら、かえって大人びて見える」


「ジーンさんは、その短く保った黄色い髪が、いいと思う。

 あんたの兄さん、エルリーンの父さんもだったけど、頼りになるカッコいい大人像は、ジーンさんたち兄弟なんだよ」


「……照れるじゃないか、ダノン。よし、せっかく軍師殿がくれた機会だ。

 絶対に成功させよう。

 しかし、少し気になるな……」


「ジーンさん。小鳥の事か……?

 たしかに、軍師殿がプロデューサーATだとすると――まったく考えなかったわけじゃない。

 だけど、今回のメッセージからすると、小鳥……つまりLunaが、軍師殿が軍の施設に残してきたという……年齢的にも一致する。

 困ったものだ。

 嫌な予感しかしない。青い瞳の小鳥か」


「しかし、そういう事だと……おれとダノンの二人でやるしかないな。

 事情が事情だ。

 それに、今回は、大人数で動けるものでもない。

 いちおう聞いておく。

 いいのか?

 相当、エリオット・ジールゲンに睨まれる事になるぞ?

 顔は隠すとしても、おそらく、おれらの組織だって事はバレる。

 耳にタコができる程、『返却要請』を聞かされ、ご執心しゅうしんされるが――。

 まあ、この話が――軍師殿の推測が本当なら、小鳥の扱いについては、独裁者と、そして隠れたもう一つの顔を持つ、エリオット・ジールゲンにとっては、火中の栗を拾うような……いや、非常に矛盾むじゅんした物騒な問題になるだろうな。

 そういう意味で、軍師殿には悪いが……返礼の機なのかもしれない」


「そうだな。

 エリオット・ジールゲンにあだなしたいと思う俺たちに、これならば、引き受けてもらえるのではないか――そういう策が用意できたので、連絡してきたという事だ。

 でなければ、あの人は『スカイ・オブ・パーツ』で人柱になって、償いを続けるつもりだったのかもな。

 俺が、あらかじめ受け取っている賞味期限のある作戦が、小鳥がいれば、たしかに実現できるかもしれない。

 ……軍師殿がくれたチャンスだ。

 世界で、できるのが俺らだけなら……。

 考え方によっては、軍師殿が『お守り』をくれると言っている事になる。

 小鳥を、どう使うかは、俺らに任せてくれるらしい……交渉や駆け引きに使ってもいいなんて――こんな暗号文からじゃ、書いてる人の表情は読み取れないが、身を切るような思いなんだろう……。

 あの時、俺は、軍師殿のそんな気持ちを分かってやれなかった」


「ダノン。そんな辛い顔して、無理に喋らなくていい。

 やろう。

 難しい事は――小鳥がどうさえずるか、聞いてから考えよう」


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