エリオット、逆襲開始
The Sky of Parts[08]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
「エリオット、邪魔だ。
苦虫を噛みつぶしたような感覚が全身に走るから、いきなり抱きつくのはやめろ。
早く私を部屋に戻して、鍵をかけたら、お前は帰れっ。仕事がたまっている!」
「ふーん。
ルイーナを部屋に戻したから、僕が、何か話があるというのは気づいただろ。
アリス。
今夜、このまま一緒に、ついて来てくれないか?
VRゴーグルの用意はさせてもらうが、たまには、僕と手を取りあって行かないか?」
「永久永続的に断るっ。仕事がある。
あと、ルイーナを部屋から出してやってくれ。
今から、私の部屋でファンサイトブログ用の写真撮影をする予定だ。
撮影したら、タケに取りに来させて、印刷物からスキャンデータを作ってもらわないといけない。
まったく……。
エリオット。デジカメぐらいなら許可してくれないか?」
「ふふ。駄目だ。
コンピュータは、『sagacity』に、すべての操作とデータを検閲させるという条件で与えたが、外部記憶機能のあるものは、デジカメとはいえ認めない。
検閲には頼らず直接、僕やタケが確認させてもらっている時もあるが――最近、疲れると、幼いルイーナが歌っていた時の動画をよく見ているみたいだね。そのまま、うたた寝している事もある。
もちろん、操作している君自身も監視させてもらっているから。
アリス。
君と共有できなかったルイーナの成長過程の記録を、君の方からほしいと言い出してくれて嬉しかったな。
言い出しにくそうに、緊張した顔をしてくれていたのをおぼえている。
欲しいものがルイーナのデータでなければ、きっと意地悪い感じで断わるか、少し悪意を込めた交換条件を出していたと思うよ。懇願してくれるアリスの顔が、いつもよりも見目麗しく感じたからね。
幼いルイーナの――君が、反乱分子の連中に手を貸していた頃のあの子は、愛おしく、可愛いだろ? あの時、早く帰って来れば良かったのに――。
まあ、今は、そんな話がしたい訳じゃない。
読ませてもらったよ、あれ。
よく僕の事を観察してるじゃないか――そして、理解していてくれてありがとう。
……少し、表情がかたくなったんじゃないか?
アリス。
だからね、一度、君に聞いてみようと思ったんだ。
僕と一緒に来てくれるか。
――緊張してるのが分かる。伝わってくる。
君は、心が過敏になると、右の薬指に力を入れる癖があるから」
「……なんだ。
エリオット。何が言いたい?
いつも言っているが、言いたい事が明確なら遠回しにするな」
「いいのかい?
明日からこのリビングで食事をする機会も……魂胆も、智も、いや心意すらも、失くすかもしれない。
――まあ、いい。
アリス、今日は仕事をするといい。
ルイーナには、君の部屋に行くように伝えておく。
僕は、今から、『君の仕事』を見させてもらう。
おやおや。
君こそ、言いたい事があるようだが、きっと遠回しにしたいと思うので、無理には聞き出さない。
心配しないでほしいが、最後に言っておく。
デジカメは、与える事ができない」
* * * * *
「くっ……天王寺アリス。
私が見ていると知っていてわざとだな……っ。
閣下っ。
あの女、私――竹内イチロウを悪者にした物語を創作して、入力しています!
そればっかり!
しばらく前にも、こんな事があったので、直接会った時に問い詰めたら、『アクセスありがとうございます。そしてご愛読感謝』って……っ」
「ああ。あれか。
面白い本がないからと、アリスが、勝手に物語を作ってルイーナに読ませているみたいだね。
『タケヶ島』とか、『タケ捕り物語』とかだろ。
タイトルにセンスを感じる。
プロデューサーATの副業で手掛けたら、印税取れるんじゃないか?
――日刊発行してる、僕とタケが、自分たちと『敵対』する悪者という話の出版は認めない。
この前、リビングで、堂々と『打倒エリオット・ジールゲン軍転覆』ごっことかやっていたから許さない事にした。
だが、ルイーナが生まれた直後に、アリスを取り逃がすタケの不様さの再現みたいなのは、思わずよくできた劇だなと思った」
「閣下ぁ!」
「冗談はさておき、さっき、宣戦布告してきてやったから、今日は、本当のお仕事はしないかもしれない。
僕らが、コンピュータ操作をリアルタイムで検閲している可能性が高いから。
残念だ。
これを入力している時のアリスの表情、考えてからキータッチするまでの微妙な時間差。
時として、画面から顔をあげたりする仕草。
机にほおづえをついて、嘆息をもらす様子を見たかったのだが。
ところで、タケ。
アリスが物語を書いているのを、お前が見た事、本人に言ったという事か?
それ、タケが監視している時間の確認だ。どんなに怒れてきても、今後は控えろ」
「も、申し訳ありません……くっ。
天王寺アリス……あの女……どんどん入力していきやがって……おぼえてろ!
閣下が、確信を持たれて、お前は、罪科に近々処され……くそっ。
いい加減に入力をやめろ!
……そういえば、閣下。
先ほどから、ほぼ無表情で、何を見ておられるのですか?
手元の端末に目を落とし、あまり動かれないようなので……」
「『官能小説』」
「はっ?」
「作者は、天王寺アリスだ。
コンピュータのデータから大量に発見された。
これ、あれだ。
操作時間を確認する限り、僕がリビングで食事の支度をしている時に、目の前で書いている事もあるな。仕事が忙しいからという事で、リビングにコンピュータを持ち込む事は許可していたが、堂々と仕事をしていたという事だ。
登場人物は、僕とアリス」
「あ……あの女は、何を考えているのですか?
えっと……実は、閣下の御心を所望しているという事ですか……?
それでしたら――」
「素晴らしい! よく分析している。
僕が、アリスにかけてやりたい台詞。そして、彼女に望む言動が、僕の思惑と一致して表現されている。
なるほど、たしかに秘め事だ。
さすが、アリス!
この作戦は、思いつかなかったし、僕とアリスの関係だからこそ成り立つ」
「閣下の希求される通りという事ですね。
あの……おめでとうございます。
今夜は……御自分で、御迎えにいって差し上げたらどうですか?
そこまで聞いてしまうと……申し訳ありませんが、竹内イチロウとしては、今日の迎えは辞退させて頂きます!」
「まだ証拠が足りない。
天王寺アリスを検挙するには、もう少し読むしかない。
一定の法則をもって書かれている。
こんなものの中に隠されたら、『sagacity』の検閲に引っかかるわけがない! 女は怖いね。いや、やられた」
「閣下。どういう……事でしょうか?」
「アリス。
彼女、対空ノイズの研究をしている」
* * * * *
「ダノン、ジーン叔父さん……これ、頭痛いよ……もうやめない!
……あたし、無理っ!
音程外れすぎだって!」
「手伝いたいんじゃないのか? エルリーン……頭痛ぁ。
エルリーンが、ダノンに頼みこんで……無理だ……おれも、長時間たえられない……!」
「ここから、羅列されたネットスラングだけ聴き取って……ぐはっ!
お、俺も……む……り……」
「でも、これが……軍師殿からのメッセージだって言うなら……あたしは……無理っ!」




