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エリオット、逆襲開始

The Sky of Parts[08]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「エリオット、邪魔だ。

 苦虫にがむしみつぶしたような感覚が全身に走るから、いきなり抱きつくのはやめろ。

 早く私を部屋に戻して、鍵をかけたら、お前は帰れっ。仕事がたまっている!」


「ふーん。

 ルイーナを部屋に戻したから、僕が、何か話があるというのは気づいただろ。

 アリス。

 今夜、このまま一緒に、ついて来てくれないか?

 VRゴーグルの用意はさせてもらうが、たまには、僕と手を取りあって行かないか?」


「永久永続的に断るっ。仕事がある。

 あと、ルイーナを部屋から出してやってくれ。

 今から、私の部屋でファンサイトブログ用の写真撮影をする予定だ。

 撮影したら、タケに取りに来させて、印刷物からスキャンデータを作ってもらわないといけない。

 まったく……。

 エリオット。デジカメぐらいなら許可してくれないか?」


「ふふ。駄目だ。

 コンピュータは、『sagacity』に、すべての操作とデータを検閲させるという条件で与えたが、外部記憶機能のあるものは、デジカメとはいえ認めない。

 検閲には頼らず直接、僕やタケが確認させてもらっている時もあるが――最近、疲れると、幼いルイーナが歌っていた時の動画をよく見ているみたいだね。そのまま、うたた寝している事もある。

 もちろん、操作している君自身も監視させてもらっているから。

 アリス。

 君と共有できなかったルイーナの成長過程の記録を、君の方からほしいと言い出してくれて嬉しかったな。

 言い出しにくそうに、緊張した顔をしてくれていたのをおぼえている。

 欲しいものがルイーナのデータでなければ、きっと意地悪い感じで断わるか、少し悪意を込めた交換条件を出していたと思うよ。懇願してくれるアリスの顔が、いつもよりも見目麗しく感じたからね。

 幼いルイーナの――君が、反乱分子の連中に手を貸していた頃のあの子は、いとおしく、可愛いだろ? あの時、早く帰って来れば良かったのに――。

 まあ、今は、そんな話がしたい訳じゃない。

 読ませてもらったよ、あれ。

 よく僕の事を観察してるじゃないか――そして、理解していてくれてありがとう。

 ……少し、表情がかたくなったんじゃないか?

 アリス。

 だからね、一度、君に聞いてみようと思ったんだ。

 僕と一緒に来てくれるか。

 ――緊張してるのが分かる。伝わってくる。

 君は、心が過敏になると、右の薬指に力を入れる癖があるから」


「……なんだ。

 エリオット。何が言いたい?

 いつも言っているが、言いたい事が明確なら遠回しにするな」


「いいのかい?

 明日からこのリビングで食事をする機会も……魂胆も、智も、いや心意すらも、失くすかもしれない。

 ――まあ、いい。

 アリス、今日は仕事をするといい。

 ルイーナには、君の部屋に行くように伝えておく。

 僕は、今から、『君の仕事』を見させてもらう。

 おやおや。

 君こそ、言いたい事があるようだが、きっと遠回しにしたいと思うので、無理には聞き出さない。

 心配しないでほしいが、最後に言っておく。

 デジカメは、与える事ができない」



* * * * *



「くっ……天王寺アリス。

 私が見ていると知っていてわざとだな……っ。

 閣下っ。

 あの女、私――竹内イチロウを悪者にした物語を創作して、入力しています!

 そればっかり!

 しばらく前にも、こんな事があったので、直接会った時に問い詰めたら、『アクセスありがとうございます。そしてご愛読感謝』って……っ」


「ああ。あれか。

 面白い本がないからと、アリスが、勝手に物語を作ってルイーナに読ませているみたいだね。

 『タケヶ島』とか、『タケ捕り物語』とかだろ。

 タイトルにセンスを感じる。

 プロデューサーATの副業で手掛けたら、印税取れるんじゃないか?

 ――日刊発行してる、僕とタケが、自分たちと『敵対』する悪者という話の出版は認めない。

 この前、リビングで、堂々と『打倒エリオット・ジールゲン軍転覆』ごっことかやっていたから許さない事にした。

 だが、ルイーナが生まれた直後に、アリスを取り逃がすタケの不様ぶざまさの再現みたいなのは、思わずよくできた劇だなと思った」


「閣下ぁ!」


「冗談はさておき、さっき、宣戦布告してきてやったから、今日は、本当のお仕事はしないかもしれない。

 僕らが、コンピュータ操作をリアルタイムで検閲している可能性が高いから。

 残念だ。

 これを入力している時のアリスの表情、考えてからキータッチするまでの微妙な時間差。

 時として、画面から顔をあげたりする仕草しぐさ

 机にほおづえをついて、嘆息たんそくをもらす様子を見たかったのだが。

 ところで、タケ。

 アリスが物語を書いているのを、お前が見た事、本人に言ったという事か?

 それ、タケが監視している時間の確認だ。どんなに怒れてきても、今後は控えろ」


「も、申し訳ありません……くっ。

 天王寺アリス……あの女……どんどん入力していきやがって……おぼえてろ!

 閣下が、確信を持たれて、お前は、罪科ざいかに近々処され……くそっ。

 いい加減に入力をやめろ!

 ……そういえば、閣下。

 先ほどから、ほぼ無表情で、何を見ておられるのですか?

 手元の端末に目を落とし、あまり動かれないようなので……」


「『官能小説』」


「はっ?」


「作者は、天王寺アリスだ。

 コンピュータのデータから大量に発見された。

 これ、あれだ。

 操作時間を確認する限り、僕がリビングで食事の支度をしている時に、目の前で書いている事もあるな。仕事が忙しいからという事で、リビングにコンピュータを持ち込む事は許可していたが、堂々と仕事をしていたという事だ。

 登場人物は、僕とアリス」


「あ……あの女は、何を考えているのですか?

 えっと……実は、閣下の御心おこころ所望しょもうしているという事ですか……?

 それでしたら――」


「素晴らしい! よく分析している。

 僕が、アリスにかけてやりたい台詞。そして、彼女に望む言動が、僕の思惑と一致して表現されている。

 なるほど、たしかに秘め事だ。

 さすが、アリス!

 この作戦は、思いつかなかったし、僕とアリスの関係だからこそ成り立つ」


「閣下の希求ききゅうされる通りという事ですね。

 あの……おめでとうございます。

 今夜は……御自分で、御迎えにいって差し上げたらどうですか?

 そこまで聞いてしまうと……申し訳ありませんが、竹内イチロウとしては、今日の迎えは辞退させて頂きます!」


「まだ証拠が足りない。

 天王寺アリスを検挙するには、もう少し読むしかない。

 一定の法則をもって書かれている。

 こんなものの中に隠されたら、『sagacity』の検閲に引っかかるわけがない! 女は怖いね。いや、やられた」


「閣下。どういう……事でしょうか?」


「アリス。

 彼女、対空ノイズの研究をしている」



* * * * *



「ダノン、ジーン叔父さん……これ、頭痛いよ……もうやめない!

 ……あたし、無理っ!

 音程外れすぎだって!」


「手伝いたいんじゃないのか? エルリーン……頭痛ぁ。

 エルリーンが、ダノンに頼みこんで……無理だ……おれも、長時間たえられない……!」


「ここから、羅列されたネットスラングだけ聴き取って……ぐはっ!

 お、俺も……む……り……」


「でも、これが……軍師殿からのメッセージだって言うなら……あたしは……無理っ!」


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