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エリオットが、アリスの上司? 名目上ねっ!

The Sky of Parts[07]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


【※かなりコメディ展開の回です】


「おかえり、タケ。そして、お疲れ、タケ。

 プロデューサーATとLunaと自転車のお相手、ご苦労」


「閣下っ!

 申し訳ありませんっ。

 ……あのような暴言を……お聞かせする事態になりまして。

 すぐに、二人を拘束した上で、連行してきます。懲戒の際は、この竹内イチロウも、閣下の御力おちからに――」


「うん。

 タケが自転車を運んでいる間。タケよりも十分ぐらい前に、二人が話している時に、もう聞こえていた。

 だから、タケよりも、十分ぐらいの時が経っていて、その分は冷静になっている。

 え?

 最初に聞いた時かい?

 一個小隊を呼びつけて、あの母子を全面包囲した状態で、脅すというか、本気で震えあがらせて、説教というか、このエリオット・ジールゲンの本気の本性出して、懲らしめてやれたら、どんなに気持ち良くて、すっきりするだろうとは思ったよ」


「閣下っ。

 そうです! そうしましょう!

 軍務……めてます……あいつら……あ、いえ、御二人はっ」


「タケ。ああいうのは――首謀者と、実行犯は、どちらが重罪だと思う?」


「両方、軍法会議すっとばして、すっぱり制裁で良いのでは……そういう行いです!

 これはっ」


「分かった。

 ……今夜は、冷製パスタの予定だ。

 モッツァレラチーズが固まって入ってしまったと見せかけて――その中に鷹の爪をひそませておく。やわらかいものと信じて、噛まずに丸飲みするはず。

 首謀者の方は、食事の際、『毒』入りかもと疑っていそうな顔は、今でもする。それでもチーズだと欲望に負けて食べる事が多い。まあ、まず引っかかるだろう。

 数分後に、腹の底から効いてくる。

 水分補給を要求してきても、『お水の飲み過ぎは、差し許さない』と言って、しばらくは無視してやるつもりだ。

 『毒』以外ならいいんだろ?

 それに、本物の『毒』だと、直後は辛いが、結局は楽になってしまう。

 くくっ。

 アリス!

 数時間続く不快感、苦しみをプレゼントして、この僕が直接に処罰してやろう!」


「……とりあえず、閣下のお怒りは、この竹内イチロウにも伝わってきました。

 私邸内で対処されるという事で、私が手を出せないのは、残念ですが……ああ、いえ。

 それにしても、あの二人……少しばかり、いや、かなり付けあがって、自惚れていませんでしょうか?」


「プロデューサーATとLunaは、世間では、時の人というやつになっている。

 強気なんだろう。

 私邸内でも、おごり高ぶり、慢心一直線。アリスと、それにすっかり感化されたルイーナ。

 僕が、手間暇かけて可愛らしく育てあげたルイーナの一人称が、いつの間にか『オレ』に――。

 自分たちの結実けつじつを全面に主張してくる。

 たしかに眷属けんぞくではあるが、このエリオット・ジールゲンに対して、もう少し、じ恐れてほしいものだ。

 ……はあ。

 こんな話をして、そうやってうなずいてくれるのは、タケだけだ……本当に面倒な事になったものだ。

 天王寺アリス――分かってはいたが、本当に、恐ろしい女だ。

 なぜ、君は、アイドルのプロデュースまでやりのけてしまったんだいっ。

 しかも、大成功してるじゃないか!」


「本人たちの主張は別にして、御二人は今や、閣下の軍の一員です。

 御二人の方が、僚属りょうぞくである事を認識させ、今後は、そのように扱われては、如何いかがでしょうか?」


「そこなんだ。

 正直、最近あのリビングに顔を出して、食事の支度をさせられていると……明日から家に帰りたくない、と思う事がある。

 だが、結局のところ、僕が以前から望んでいた、構図にはなっているんだ。

 その通り!

 アリスも、ルイーナも、勝手に主張する位置づけを無視すると、僕の部下になってくれた。

 まさかそんな事で……と驚いたが、ルイーナは、今や十分に世間に影響力を持つ者になっている。

 少し慌てたぐらいだ。

 民間人はともかく、反乱分子の連中にまで、差し響かせるなんて。

 アリスの計画、『ルイーナをアイドルにする』が失敗したら、本当は、通常の軍務がこなせる僕の『息子』に、頑張って仕立ててもらうつもりだったが、自分の計画を成功させた上で、ルイーナを世間に浸透させた。

 そして、アリス自身も、僕の軍を維持する為の重要人物になってくれている。

 思い描いた図では、まったくないが、僕が欲しがった、あの二人が、僕の手の中にいるんだ」


「だから、このまま放置すると?」


「いや。

 『sagacity』は、いまだに天王寺アリスを敵だと言っている。

 これは、きっと彼女の企ての過程に過ぎない。何か、続きがあって、革命のようなものを起こすための第一歩。

 僕と『sagacity』は、そう考えている。

 あと、占いだ。

 このエリオット・ジールゲンを倒すのは、やはり、僕自身か、天王寺アリス。この二人らしい。

 アリスが、僕の部下になって終わり――なんて事はないと思う。ルイーナにしてもな。

 あの女、必ず何かをしでかす!

 まあ、今は、僕の便利な道具なんだが。だから、好きにさせている」


「道具……ですか。だからか……いえ、口のきき方がなっておりませんでした!

 問いただす事は、できないのですか?

 この竹内イチロウなどが差し出がましいとは思うのですが、あの、いちおう天王寺アリスは、いまだに『子持ちだけど生涯独身』と強く主張を続けておりますが、実際には、閣下のお手の届く存在であると認識しております。

 動向や言動。

 何か、企みの一端いったんのようなものを、感じる事はないのでしょうか?」


「タケ! カピバラって知っているか?」


「は?」


「最大の齧歯類げっしるい。大きなネズミを想像するといい。草食。

 温暖な水辺に住んでる。

 故に、温かいお湯に入ると、気持ち良さそうにする。

 目を閉じて、ああ、なんて入浴は幸せなんだと――私は、たった一人、何人なんびとにも邪魔されず、この世界、だた唯一の満足を得られる権利を持つ存在なんだ――湯船で。

 タケ。

 大丈夫か?

 何か、分かっているか?

 顔がポカーンとしている。話についてきてるかね?

 ……アリス、最近は、僕と二人きりで会う目的が、足が伸ばせる大きな浴槽をのんびり独り占めにしたいのと、広い寝床を全面占拠して横になりたいからなんだ。

 あとは、僕の部屋でのみ許可してる、飲酒。瓶ごと消すのを楽しみにしてる。

 プロデューサー業で、だいぶ疲れているらしくて。

 ――完全休暇のつもりで来るんだっ!」


「は……?

 いや……何も申しません!

 ……竹内イチロウといたしましては、何も言ってはいけないと判断しました……」


「『エリオット! カピバラって知っているか?』。

 謎のキーワードで僕の気を引いておいて、淡々と事典の読みあげを始める。

 どうしてか知らないが、妙に威圧される……。

 関連情報のあたりに、話が移行すると、精神的に追い詰められるような感じがしてくる。

 なんとか話を止めようとして、『将来、百科事典にでもなるつもりか?』と、ちょっとばかり怖そうな声を出して聞いたら、『どうして、私の五歳の頃の夢を知っているんだ』。

 ……はあ。

 前から、そういうところあったが、最近、輪をかけておかしいんだ……アリス。

 アイドルのプロデューサーを始めてから。

 ブログの時は、そこまで思わなかったが。いや、同じような調子で運営していたのかもしれない……。

 軍事上ではなくて、人間として怪しい動きが増えている。

 どうしたものやら」


「天王寺アリス。

 プロデューサーATとして、『Luna』のプロモーションビデオとかも作っていますよね。

 参考本数冊で作れるようになったとか、知らない才能があったとか、自慢げに物言って。

 コンピュータでの操作履歴と作業データは、すべて『sagacity』の検閲対象にしていますし、私もたまにじかに確認しておりますが……おまけ……としょうして、プロデューサーのメッセージを発信している部分が、いろいろ酷過ひどすぎて、閣下もご存知だと思いますが、たえられません!

 ああいったモノを作っているので、おかしくなったのではないのですか?」


「あれか……本当にひどいな。

 アリスに……『ああいう才能』があるのは、知っていたんだが。

 聞くに堪えない……。

 タケ。

 ショットゲームって知っているか?

 そうだ!

 酒を延々と飲んでいく遊び。在学中に、彼女と勝負した事があるんだ。

 アリス、酒を飲んだ事がないと言っていて、こちらには相当の自信があった。

 僕の内心かい? 

 彼女が、三杯ぐらい飲んだあたりで、『このゲーム、勝った方の言う事を、必ず一つ聞くルールだからね』と言い渡して、もちろんそんな感じ……だったのだが。

 ……負けたんだっ!

 アリスに酒の味を教えてしまっただけ……本当に、最悪の敵だっ。後からも大変で、大学の後輩とか、急いで呼びつけて――」


「それ、私です。

 閣下は、すでに学生組織で十分な権限を持たれていたので、もっと自覚を持って頂きたいと、少しばかり申し上げさせて頂いたおぼえがあります。

 ああ。

 あれ、あの女とやったんですか。

 さらに追加で、伝票に二つぐらいカクテルの注文が残っていたやつ」


「アリス、これは『勝負』。つまり、戦いだと思うと、異常な能力を発揮する事があるんだ。

 だから、疑似日常を作って、そこに閉じ込めて、思考や動きを封じてやったんだが、後がないとあおってやったせいで、彼女を本気にさせてしまったのかもしれない。

 失敗だったのか、成功だったのか――最低限、僕と『sagacity』にとっては成功なのだが」


「今回のは、軍事データにはなりませんけどね。

 しかし、よくあんなに上手に、ルイーナ様をトップアイドル『Luna』に仕立てあげましたよね。

 閣下も同じ事を思われたとお伺いしていますが、ルイーナ様の存在とご身分は、ずっと秘匿としてきました。普通に考えて、その両方をおおやけにした上で、その立ち処であるという前提で、明るみに出るべきだと思われます。

 なのに、あの女――」


『まずは、ラジオ放送を使う。こちらから能動的に流すのは、数日に一回だけ。

 リスナーからのリクエストによって、リピートさせるんだっ。

 ルイーナの歌声ならいける。絶対にいける!

 あと、どんな者が歌っているかは、最初は、開示しない』


「ああ。

 あれを聞いた時は、やはり、ルイーナの事を世間に出すつもりなどない。

 所詮は、僕に何かを強いられるのを遅らせようとしただけだと。その場で、それをさらして、文字通り、アリスからすべてを奪うつもりだったが――」


『お前たちは、アイドルが何か分かっているのか!

 育成していくんだっ。

 私は、そう認識した! だから、完成していてはダメだ。

 エリオット・ジールゲンの子息だとっ。そんなものが、一番邪魔になる!

 分からなくても、分かれっ! 理解しろっ! 飲み込め! 想いかみ砕くように、認識しろっ。

 一から育成する――これが最も重要だ!』


「この竹内イチロウも、思わず鎮静剤注射に手を添えておりました。

 閣下が、あの女の前に歩み寄られて――」


『アリス。君ほどの見解がある人間が、何かを見失っているのか?

 ふふ。

 分かっていたよ。理解していたよ。認識していたよ。しばらく前から、君が自意識というものを知る事ができなくなっているのを。

 もういい、アリス。君は、これまでよく頑張った。

 誰も君を責めたりしない。

 僕から逃げる事は――大丈夫、君がどんなに優れていてもできなかった。

 君の自己存在や主体性といったものは、これからは、このエリオット・ジールゲンに任せるといい。

 お疲れ様。

 あと、把握してほしいな。

 これから自分が報いという言葉の意味を考えさせられるって事を!』


「そうそう。

 抱きしめてやっても、逃げなかったし。怯えているのかと思ったのだが。

 アリスの口元に、僕の耳のあたりを、あからさまに擦りつけて、露骨に挑発してやったら――」


『エリオット! お前は、アイドルをやった事があるのかっ。

 ないのだろう!

 お前は、取るに足らない、不埒ふらちで不道徳な行い以外に、社会に認められるような事をしていないっ!

 いいかっ。

 これは、ルイーナの為だっ。流儀があり、いたし方が大切だ。

 デビューから、トップアイドルになるところまで、そして、あとに人気を維持する。

 それらのすべてが、プロシジャであり、メソッドを誤らず、そして、手続きを踏む必要があるっ。

 ルイーナに、世間から認められるような品行を身につけさせたいのなら――この天王寺アリスの言う通りにしろ!

 これは親心からの提案であり申し入れだ!』


「閣下。

 鼓膜がやぶれたかもしれないと、その後、しばらく仰っていましたね。

 天王寺アリスが、何を言っているのか……今、思い出しても不明なところがありますが。

 あれって、よく考えなくても、閣下に対しての非礼が含まれていますよね。

 で、本当にあの女の言う通りに、ルイーナ様の歌声に対してリクエストが増えた――」


『よし。天王寺アリスの計画通りに事が運んでいる。

 Luna……Luinaの名から『i』を除いた形。アイドルとしての名前だ。

 月の女神の事なのだが、あの子の歌声は、女のそれに近い。だから、そこに付け込む。

 誰に付け込むかだと? リスナーにだ!

 リスナー、つまり客だ。

 なぜ、そのような事がすぐに答えられないのだ。お前たちは……。

 業務に対する姿勢の改善をしろ!

 もう少し、真面目という言葉の意味を知った方がいい。

 あと、私の事は、プロデューサーATとする。

 世間にこの名を出すのは、もう少し後だが、思ったよりもLunaの人気が出ている。急激に進行が早まる可能性がある。だから、先に内部で情報を開示しておく』


「軍用車から音漏れる、あの歌声は何だと、民間人の間でも大きな話題になった。

 ついには、僕――エリオット・ジールゲン宛てに、軍の放送のLunaとは何者かという、文章が何通もきて――」


『まだ、何もしていないのかっ。

 エリオット!

 作業が、遅いっ。

 この段階になったら、お前の名で、記者会見の用意をしろと言っておいたではないか。

 忘れていたのか!

 書類には、定期的に目を通せっ。

 ここで、Lunaという謎の人物を、エリオット。お前の名で呼び出す。朝食をさっき一緒にとったところだとか、そういう考えは捨てろっ。

 今の段階は、あくまで、お前は、世間を騒がすLunaに興味を持ったという設定だ!

 そう、設定だ!

 軍の人間に対して、ずいぶん影響を与えているようじゃないか……ここ、ちょっと悪役風味に。Lunaに対して生意気だと思っているような感じが表現できる程度でいい。得意だろ? そういうのは。

 可愛い意味で、生意気とかじゃない!

 僕に対して不遜ふそんな態度をとったら――ね? という風にするんだっ。

 赤ん坊の時から見ている、ルイーナとは違うと思え。

 違うんだっ。

 自分をマインドコントロールしろ。

 お前とルイーナ……いや、エリオット・ジールゲンとLunaのおおやけでのやりとりの脚本は、書いてやる。

 多少のアドリブは許可するが、余計な事は言うな!

 いいなっ。

 これは、ルイーナを世間に出すという、一大プロジェクト。

 ……私は、今からすぐに脚本を書く。実務の方は、頼んだぞ。

 夕飯後には、リビングで稽古に入れるように間に合わす。幸いにも、役者二人と、脚本と演出を担当する、この天王寺アリスが同居の状態だ』


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