私は、エリオットの協力者? そして、幼き青い瞳
The Sky of Parts[06]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
『対話体小説』をやめた訳ではなく、アリスの心の中。一人称小説ではないです。
アリスの記憶か、思いか、妄想です。
ルイーナを傷つけたくなくて、後手に回るしかないが、それが大きな弱みとして、確かに握られている。
私が思ったよりもしぶといので、エリオットは、そろそろ限界で、痺れを切らして、多少強引でも行動を起こそうとしていたのだろう。
そんな時に、私が『協力者』を名乗り出た――。
『え?
ルイーナを、アイドルにしたいのかい?
アイドルって、歌って……踊れる……やつ?』
エリオットも、そのそばに控える極悪軍医も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
是認の意味を込めて、無言で何度も頷く私も、自身の口から出た言葉に、同じような表情をしてしまっていたような気がする。
現状、一番良いと思う方法として、頭の中を整理して、出した結論を、言葉として現世に降臨させたら、ルイーナをアイドルにしたいだった。
『あの子……歌がうまいだろう。男子とは思えないほど、可愛いし……うん。
世の中に、広めたいと……思わないか?
動画や写真……撮るチャンス……です、よ?
ね?』
あの悪魔共にドン引きされたのは、初めてだったかもしれない……。
『……うん。そうだ、ね?
いやいや。整頓しよう……いきなり天王寺先輩の方から会いたいと言ってきてくれて、えっと……ちょっと待ってくれないか。
えっと。
うーん。いいのかい? ルイーナの顔を、外に出していいんだね?
君が、そう望んでくれていると考えて、受け止めるよ。後悔したから取り下げるとかは、認めない』
『構わない』
私が少しだけ冷静な声を出すと、エリオットは、軍医と目線をあわせていた。
軍医の方は、動揺を顔から消し切らないが、主に向かって一度だけ頷いた。
エリオットは、顔を少しだけあげてから、なるべく普段通りに近い表情に戻した。
『天王寺先輩。君の希望、聞き入れよう。ルイーナの父としてもね。
それで、僕たちの結婚式はいつにする?』
『は? エリオット! お前は何を言っている! 勘違いするなっ。
口元緩めおって! 気色悪くて、グロテスクで、不愉快で、吐き気がする!』
『き……貴様っ。
この女、黙っていれば閣下に向かって、何を……少しばかり寵を受けているだけの捕虜であると、自覚しているのか!
天王寺アリス!
手錠のみで拝顔を許されている事に、まずは感謝しろっ! 急にも関わらず、謁見が許されたのだ。閣下の御心の広さを受け入れろ!
だいたいな……』
『まあまあ、竹内イチロウ……落ち着いて。
って、私に言われたら、余計に怒れてくるよな。
タケの馬鹿さを見てたら、言いたいことがはっきりしてきたぞ』
『まあまあ、竹内イチロウ……落ち着いて。
って、僕からも言っておくから落ちつけ。
で、何? 何が目的?
僕のところに、天王寺先輩の方から来てくれると聞いて、本当に嬉しくて、つい、君に将来介護してもらう人生設計プランまで完全構築してしまっていたが、いや、それは諦めないつもりだ。
今回は、権謀術数にたけた天王寺アリスさんがご来訪して、このエリオット・ジールゲンを陥れようとしているという事でいいのかね?』
『YES回答すると、タケの鎮静剤注射が飛んできそうなので避けるが、まあ聞け。
介護の件は、良質な保険にでも入って、自分で備えろっ。
本気で外部との連絡を断たれているせいで、最新の情報での分析ではないのだけが不備だが、エリオット。お前の軍の支持率は頭打ちか、若干の下方修正ではないか?
あげたいと思わないか? ブワーっと!
ボーリング重機の無駄なぐらい雄大な、背の高さを想像しろ! それぐらいに高く高く、まるで天に向かって、そして届いてしまうかのような』
『ボーリング重機か……上がりきるとその後、地面に向かうのではなかったかね? 折れ線グラフとかを想像すると、相当不吉な形をしているような。
あれ……。
ひょっとして、窓の下に見えている、そこの建設現場のボーリング重機を見て、言っただけか……そういう事にしておこう。
それか、最終的に僕を嵌める、天王寺先輩の計画そのものの姿って事で……楽しそうだね。君だから、最後まで言わせてあげたんだ。
まあ、そうだな。
たしかに、お仕事は、支持率維持の為にやっている。悪徳の限りを尽くし、兇暴にして、極悪でないと、恐怖政治はできないのでね。
よく、さらっと言えるなコイツって表情してくれたね。
うんうん。
だからこそ、僕に物申すなら、それなりに根拠があって、筋道通った目論見を提出してもらわないと――僕の愛しい人としてではなく、繋囚の軍卒として話を聞いてほしいのならね。
このエリオット・ジールゲンを納得させられるような提言ができないのなら、控えめで、遠慮深く、奥ゆかしい戦利のお姫様であって頂きたい』
『――芸事のような娯楽で、本当に求心力が得られるか。試してみたい。
亡き父の血を繋ぐ、ルイーナが、それができるのか知りたい』
『天王寺将軍のご遺志ね……なるほど。
ルイーナの顔を世間に晒すというのは、君にとっても相当なリスクのはず。失敗すれば、あの子の存在と言ったらいいのか――そういったモノは、僕が完全に引き取るしかなくなる。
おやおや。
意志が固そうだね。
きっと怒られると思うが、最高に美しい軍人顔を見せてくれているよ。
それを仕掛けて、本当の結果を得るには、僕が暴虐の末になしたオーガナイズが必要だと?』
『そうだ。
エリオット。お前が、神への冒涜にも等しい、数多くの惨劇の果てに組み上げてしまった……それを使わせてくれ。
亡き父の為に、ルイーナの為に、私の為に――』
『……了解。すべて承諾しよう。
天王寺アリス。
ようこそ。我が軍は、君を受け入れよう。
ルイーナの――君が血を繋いだ子の父親となった、因縁を持つ者としても、歓迎しよう』
いやー。思い出してみると、カッコいい事言いまくりだな、私。
実は、まだまだ立案完成してるわけじゃなかったんだ。
エリオットにも、それは多分バレていて、私の行動は、現状に悲観しての事としか、受け止められていないのだろう。
人の命を弄ぶ事など惨たらしいとも思っていない、この悪魔は、宙に垂れ下がった美味な『絶念の果実』を発見し、思わぬ収穫ができるととらえている。早くもぎ取って、かじりたい。
『失敗したのは、誰のせいかな?』。
『こんな目に遭うのは、君がいけないんだ』。
エリオットの事だ。こんな台詞を毎日一回以上、私の心の傷に塗り込める時が来るのを、指折り数えて待っているのだろう――。
『アリス様。
この竹内イチロウは、貴女が、閣下と縁付かれる時を、心よりお待ちしております。
一日でも早く、お二人の睦まじい姿が見えます事を願っております。
喜ばしいですね。
お祝いを用意するつもりです。どれにしましょうか?』
なんだ。
どれにしましょうかは、お届け方法、経口か、注射か、点滴かって意味かっ。毒薬専門の極悪軍医。
エリオットと二人、影でコソコソと私の失脚を祈念しているな!
おどろおどろしい、そして底気味悪い、笑顔のタケと顔をあわせて鳥肌が立った。
勢いで言ってしまったが、さてどうする?
本職であれば、目の前の世界の支配者を欺けるぐらいの自信があるし、そもそも、必要であれば恐ろしいまでに意気込みが発揮できるが……いろいろ考えてみたら、私は、本職以外だと失敗しがちだ。
ブロガーとしては成功したが、あれは本職の延長であると考えられたから、動機づけできたところがある。同じぐらいのモチベーションが今回も保てるだろうか?
あれだ。
前からデータ入力という職種に興味があって、どうせやるなら人の百倍以上働ける、伝説のタイピングの達人になりたくて、練習がてらブログを書き始めた。
エリオットに見つからないように、逃亡中で顔出しNG。早くルイーナを取り戻したい。でも、とりあえず生き残る為の資金は必要だったので、人の何倍も働こうという意欲が後押しして頑張れた。
すごい! 私には、写真を撮る才能があったのか!
気づけばアクセス数がウナギノボリ。
コンピュータって毛嫌いしてて、それまで最低限しか、手を出してなかったんだ。
うん。
気づけばハッキングなんて当たり前に出来て、軍のシステムにクラッキングもできてしまったが、とりあえず目立つことはせずに、ひたすらブログを書いた。
そのうち、ダノンが引き継いだ反乱組織と連絡が取れるようになり、ブログ書きが、情報収集のための手段となった。
で、本気の軍転覆作戦を頑張って立てていたら、タケがやってきて、引っ立てられて、エリオットに差し出されて、現在に至ると……。
虫が好かない私に対して、タケがあんな態度をとるという事は、しくじると間違いなくハッピーなウェディングなど待っていなくて、性格、人柄、個性、人格……あらゆるパーソナリティが屠られる、『結婚は人生の墓場だ』なのだろう。
エリオットは、ルイーナの前でも本性を見せるつもりだ。
震えおののくルイーナを、恐怖で支配し、無垢に育てた事自体が失敗だったと言わんばかりに、あの子の今までの人生を、全壊させる。そうして、向き不向きなど関係なく、『息子であり部下』として、戦線で自分のそばに置くようになる。
亡き父母が血を繋いでくれた、私たち母子は、戦火をよりくべる為の、ただのツールにされてしまう。
考えろ。本気で真剣に考えるんだ、天王寺アリス。
今の状況として、どうにもしつこい絶対支配者さまと、どうにか協定を結ぶ事には成功した。
これは大きな成果だ。
そのおかげで、とりあえず、即時にどん底人生決定の輿入れとか強要されず、ルイーナの純然たる心も護る事ができた。
ルイーナに協力してもらうのは、リスクではあるが……あの子を外に出してやるチャンスを得たと考えた方がいい。
あとは亡き父母のご加護を信じるしかない。
まずは、軌道にのせるところまでもっていって、ブログの時のように、外部連絡のルートをなんとか作らなくては。
そして、エリオットにはバレずに発信ができれば――あの子を、密かに逃がせれれば。
やる事だらけだ。
エリオットのしでかした事は、許容する余地がない。
だが、エリオット本人にも言われた事があるが、ヤツを倒しただけでは、結局は、誰かが同じ事を繰り返すだけ。
あの悪魔も、理解しがたい概念で構築されたそれではあるが、戦争を終わらせようという気だけは――持ちあわせている。ただし、その手段が『戦争』だ。
私情を込めなくてはいけないというのは、エゴであり、利己であると認識していて、これは私の罪であると諾なうべきだ。しかし、どうにも、この諸悪の根源が、我が子でもあるルイーナとゆかりをもっている。
縁を切り、隠し通す事はできる可能性もあるが、それは、ある意味保障がない向後となる。あの子が負うものも大きい。
私はできるだろうか。
エリオットに応じてしまった己の過去を償い、ルイーナの行く末を確保し、軍旅を止め、そして亡き父が望んだような時代を世俗に受け渡す。
だけど、やるしかない。
できるはずだ、私は、おそらくエリオットすら知らない、真実をつかんでいる。
――きっとできる、天王寺アリスなら。
あれ?
ところで、idol……アイドルって何をするんだ?
どうやって、ルイーナをアイドルにするんだ?
* * * * *
【これは、天王寺アリスが、心の中で、協働するエリオット・ジールゲンに真意を秘匿し提案する為に、過去に起こった事象や、自らの想いを整頓し、そして到達すべき未知なる事の果てを予測して、結論を出したものである】
これは、戦争によって、父母を天に抛るしかなかった――父親からもらった青い瞳を持つ少年が、少し年上のお姉ちゃんに出会い、希望を持つための物語。
「……ありがとう、お姉ちゃん。
そう、僕の瞳の色は――青い目は、お父さんからもらったの。きれいって、言ってくれて、すごく嬉しい。後ろは短くても良いんだけど、前髪……少し伸ばしてるのは、これを隠したくなる時があるんだ。
よく分からないんだけど、僕の目が怖いって……言われる事がある。
うん。黒い髪もお父さんからだよ。
それでね、顔の輪郭は、お母さんがくれたの。
耳の形は、よくお父さんに似てるねって言われる。鼻は、どちらか分からないけど、会った事ない、お父さんのお父さんからもらったのかな?
眉毛は、お母さんのお母さんがくれたんだって。
うん……もう、お父さんも、お母さんも、いなくなっちゃったから、思い出しか残っていないから……どうやったら、戦争は終わるんだろう……お姉ちゃんにも分からないよね。
でも、お姉ちゃんのお父さん、将軍なんだよね。僕も強くなったら、いつか戦争を止められるのかな?
――抱きしめてくれて、ありがとう。
とても温かい……ずっと、お姉ちゃんに包まれていたら、僕は、幸せになれるのかな。包まれていたい。
ずっとそばに、一緒にいて。僕の……そばに……僕が、いなくなるその時まで――。
お母さんみたいに呼んで。エリオットって」
これは、戦争によって、父母を天に抛るしかなかった――父親からもらった青い瞳を持つ少年が、少し年上のお姉ちゃんに出会い、希望を持つ事を始められる御伽噺。
※単純な秒速からの計算ミス。
おまけ(あとがき)部分で、本編以外の場所ですが、チェックも調べも足りずに、申し訳ないです……。
※軍用ライフルの性能は、実のところ機密なので、そういった記事を読んでいた時に、混じった情報と勘違いしました。いずれにせよ、ミスがあり申し訳ありません。
(2018.8.28)