表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/106

あの時、私がエリオットに捕まっていたら――

The Sky of Parts[06]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


『対話体小説』をやめた訳ではなく、アリスの心の中。一人称小説ではないです。

アリスの記憶か、思いか、妄想です。


【これは、天王寺アリスが、心の中で、三文芝居以下と思って作った物語であり、随筆である。なお、この項は、フィクションから始まり、過去に起こった出来事を、その後の状況と照らしあわせて、構成してみた箇所もある】


「天王寺先輩。たったお一人にしてしまって、申し訳ない。

 ……そろそろ、心細くなってきていた?

 森の中を散々逃げ回って、兵士に取りかこまれたりして、身心ともにお疲れだと思ったんだ。

 まずは、身体を休めてもらおうと、医務室にお連れするように――指示しておいたが、どうかな?

 しっかり休んでほしかったから、ストレッチャーの上で、少しばかり身動きがとれないようにさせてもらったが、よく寝れたかい?

 点滴してみて、どうかな? 体調が良くなったかよりも、今の気分はどうかという質問だ。

 ねえ。

 この視界に入る位置に置いてある薬瓶。君なら何か知っているはず。

 これを、点滴にポタっとするだけで、ね?

 表情を変えなくても、バイタルで――血圧や心拍数、脳波で、なんとなく感じている事を判断できる。

 ちょっと、話をかえようか。

 天王寺先輩。

 君をさらって、囲い込んでいた、反乱分子の連中を壊滅させてやったよ。

 だから、君は、何の心配もなく、僕のところへ帰ってこればいい。

 ルイーナも待っている。

 これからずっと、君は、僕と一緒にいるんだから……もちろん多少強引でも、もう一度プロポーズさせてもらう。

 聡明そうめいな天王寺先輩なら、とっくに気づいていると思うが、今の状況が、君自身の立場であると理解して、今後は行動してほしい。

 分かってくれるね?」


 どうせ、あの男の事だ。

 ミューリーの反乱組織を半壊に追い込んだあの時、私を捕える事に成功していたら、このような行動をとっていただろう。


 だが、現実で起こった出来事としては、あの男の手には堕ちなかった。

 ただ実は、私はあの男のそばにいたのだ。


「出迎え、ご苦労」


 軍用車から降りてきた、あの男は、のちに本人が言うように、たしかに軍服姿の上にマントを羽織っていた。

 マントの留め具が、無駄なぐらいに豪華だ。古代人が使ってそうなフィブラを大きくしたような飾りからカーテンを束ねる組みひもがのびているような感じ。

 同居を強要された今では、高級カーテン着用男と、頭の中ではののしってやっている。


 その時、五年ぶりに姿を目撃する事になったが、私の前では隠していたと思われる、世間が言う、非道な行いを重ねる独裁者エリオット・ジールゲンの見てくれが、そこにあった。

 他人の生まれつきの事に触れるのは、何人なんびとであれ、許されないと思っていたが、黒髪の間からのぞく、エリオットの青色の瞳が、悪魔のそれにしか見えなかった。

 凶悪で残忍。慈悲など持ちあわせていない。そう形容しておけば十分な面持ちで、軍の連中をかしずかせていた。


 スキをつけば一人ぐらいなら相手ができると思って、頑張って倒した兵士から奪った衣装を身に着けていた私も、不快なぐらい不本意ではあったが、作戦の遂行の為に、いつかヤツの頭を一発ぶん殴ってやる日が来る事に希望を託し、こうべをたれた。


「状況は? 反乱分子の正確な位置は、把握しているのだろうな?

 あと、回収対象――ヤツらの軍師の女の行方は、手掛かりがあったか?」


 はい、ここにいます……いや、そんな悪ふざけはしてはいけないと、もちろんとどまった。

 すぐ横が、それなりの士官しかんだったらしい。エリオットの方から、足を向けて近づいてきた。

 私のルールで、半径四メートル以内に、今後はこの男を近づけさせないと決まっていたが、それがあっさり破られて、不愉快だった。


 あまりに急にこしらえた、戦線本拠だったらしく、頂点たるエリオット・ジールゲンが駐屯するにもかかわらず、警備は手薄だった。

 指名手配対象の顔を瞬時照合できるような監視カメラがなかったおかげで、私は、堂々と隠れる事ができていた。男モノ着用にしては少し背が低いが、まあ、それは個人差もあるので、妙な動きさえしなければ意外と気づかれない。

 後ろめたい事がないと振舞うことが肝心だ。

 戦場で、軍営ぐんえいに駐屯なんて時なので、当然のようにヘルメット着用なのも助かった。


 エリオットは、不測の事態を好む。

 それを自分の力で対処できた時に、愉悦ゆえつひたれるなどと抜かしていた事があった。だから、監視カメラを万全にするぐらいなら、自分でどうにかしてやろうと思ったのだろう。


 いや。

 『あ。きゅうり切るの忘れてた。また明日でいいよな』と日常生活では、意外と細かい性格ではないので……だからこそ『sagacity』のようなシステムを作りたがるのか!


 急に思ってゾッとしたが、『君と僕は、赤い糸で繋がっている。必ず出会える運命だから監視カメラなどには頼らない!』とか性根から腐ったストーカー的な理由だったら、通報してやりたい! 世界のいただきに立つ男をどこに通報するかは、考えつかないが。

 まあ、何にしても、ざまぁみろ。私は、完全にお前を出し抜いたぞっ。


「軍師の女の件は、些細な動きでも、進展があったら報告しろっ。

 必ず、生け捕りだ!

 確保した場合、すぐにこのエリオット・ジールゲンのところに連れて来いっ。尋問の準備はできている」


 きっと口頭のみのお話し合いではなかったのだろう。

 私を一体どうするつもりだったのか。尋問自体が未遂になったので、今となっては分からないが、先ほど想像した通りでほぼ誤差はないだろうと、当時から思っていた。

 しかし、エリオットのヤツは、大学にいた頃から、私にこだわり過ぎだ。

 軍服姿をなるべく隠すとか、そんなの配慮でも何でもない。私は、軍人という存在が嫌いなんだ。

 ヤツは勘違いしているが、私は、両親の事がなくても、軍大学を卒業した後に軍人になるつもりはなかった――。


『そうだな。

 さわやかな印象を与える笑顔が致命的に足りないと、親にすら言われるので、スーパーマーケットに就職して、レジ打ち係になって、真心込めた対応ができて、お客からも同僚からも慕われる店員になりたい。

 商品の補充中に、声をかけられても、すぐに笑顔で対応できるようになるのが目標だ。

 暇を持て余すのが好きではないので、休みは少ない方がいい。

 正社員で、ハンバーガーショップの店員もいいかと思う。

 さっき、エリオットが、もっと頭脳を活かした仕事をした方がいいと言ってくれたので、考えてみた。

 客の頼もうとしているメニューを、気配や表情、経験や勘、今日の天気などの気象データまで含めて分析して、瞬時に当てるような、そういう対応のできる、スマイルが褒められる働き方が真剣にしたい』


『天王寺先輩。

 あはは。

 本当に面白い方だ!

 ますます、ずっと一緒に、軍事作戦を立てて、働いていきたくなった! そんなお立場になって頂くように、この僕が導いていくつもりだ』


 あれは、本気の発言だったのだが……大学を辞めて、故郷の里に帰った後も、毎日、飲食店の奥、一人で皿洗いを続けていた。

 食べカスで汚れた皿が、我が手によって洗われ、再び白く輝く。タオルですべての水滴をふき取り、棚に返す時に、小さくカチャという。その音の一つずつすら、生きている実感を心に染み渡らせてくれているようで、とても幸せな労働体験だったと思うが……エリオットのヤツに、向かないと否定された事があった。

 妊娠中で、体調が悪くなければ、言い返してやりたかった出来事だ!

 だが、その後に知った、ヤツの本性。この時、目の前にいた、そして今も同居状態のエリオット・ジールゲンを見る限り、私が何をしたいかなどはどうでも良くて、自分の考えを押しつけたいだけだったという事だ。


「閣下!

 例の男の方は、捕らえたと連絡が入りました。

 御自おんみずから対処されると伺っております。薬は、こちらに――。

 ただ森の少し奥の方で身柄を拘束したらしく、こちらに連れてきますか?」


 軍医め。

 竹内イチロウは、やはり生きていた。軍の施設の一件の時に、取り逃がしたので、おそらく生存しているとは思っていたんだが。

 今思うと『タケさん』などと、フレンドリーに呼んでいた事が腹立たしい!

 こいつは、基地内の裏方医療担当の時だけではなく、戦場に出てくる時でも、スーツにネクタイ姿なんだなと思った。整髪料で、前髪二つ分けセットするのも忘れていなかった。


「いや。

 こちらから足を運んでやろう。ヤツらの基地に近い場所の方が良い。数名連れていく。

 あと、軍師の女の手掛かりがないか、直接調べたい」


 エリオットに選ばれないように、願いつつ……いや、この件は、後で分かって、なぜ阻止できなかったのかと、激しく後悔した。

 ……それは、今でも継続している。

 しかし、何年か経った今でも、惨劇のない未来を手にできていた手立ては思いつかない……。


 エリオットの関心が、たかが兵士Aに向いていないと確認した上で、私は、ほんの少し目線を動かして、あたりの様子を確認した。

 軍医は、エリオットの腰ぎんちゃくぶりを見せていた。同じように、エリオットのそばに寄る者がいないかを探った。

 ……あの子と思われる人影はなかった。

 エリオット・ジールゲンに息子がいるという情報を、軍は発表していない上に、噂すらなかった。ルイーナが、どうしているか、まったく分からなかった。

 軍の新拠点、タワー型要塞『スカイ・オブ・パーツ』の上層に、エリオットの居住スペースがあるらしいという情報は得ていた。おそらく、そこに密かに閉じ込められていると予想はしていたが……。


「閣下、ご指示通りに小鳥には、三度ほど花を送っておきました。

 しかし、やはり、さえずりを聞いてほしいそうです……如何いかがいたしましょうか?」


 私は、腰ぎんちゃく軍医が、エリオットに小声で言った事が何か……非常に興味を持った。隠語を並べているが、小鳥とは、おそらくはあの子、ルイーナの事!


「そうか……分かった、時間の都合がついた時に対処する。

 暫定的対応にしかならないが、小鳥には、もう一度、花を送っておけ」


 エリオットのところから逃げ出して初めて、ルイーナの無事に関する情報をつかめたのがこの時だ。

 逃げ場がなく、思い切って軍に紛れて、嵐が去るのを待つべきだと判断したのだが、思わぬ収穫だった。

 この男の手から、今すぐにでもルイーナを取り戻したい気持ちが強かったが、とりあえず無下むげの限りを尽くされるような待遇はされていないようだと思った。

 必ず助け出すと、改めて誓い、その未来につなげる為に、その場を乗り切る事に集中した。


 一旦、森の奥に行ったエリオットが再び戻ってきたが、軍医と何か話した後に、足早に去っていった。

 これ以上ここに滞在しても、私に関する有益な情報が得られないと判断したのだろう。


「小鳥が、鳥カゴが狭いと、羽ばたいているようです」


 軍医のこの一言の後に、エリオットは人払いをしていた。

 ルイーナの情報は、とても得たかったが、私自身がここから逃れるので、精いっぱいだった。

 私の捜索網が縮小される過程で、まんまと軍の目をあざむいて、行方をくらます事に成功した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ