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アリスとエリオットは、敵対関係? 協力関係?

The Sky of Parts[05]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「おいっ! 天王寺アリス! 貴様、どういうつもりだ!」


「タケ、忠告しておく。

 どうせ廊下にも監視カメラがあるんだろ? エリオットに聞かれて問題のない程度の発言にとどめておけよ」


「うるさい! 黙れっ!

 今、こうして、手を自由にできて、この竹内イチロウと話ができているのは、閣下のご慈悲あってこそ。

 閣下に忠誠を誓った以上、すべての事を謹んでうけたまわれ!」


「私は、エリオットの手先になるのを許諾きょだくしたつもりはない。

 ――なのになんだっ!

 『ありがとう、アリス。嬉しいよ、僕の部下になってくれて。きっと君なら、僕が望む以上の仕事をしてくれるはず。先に褒美を渡しておこう。タケ、彼女の手錠を外してやれ。君よりも前から仕えてくれている部下への示しの為に、まだフロアの全容を教えてやる訳にはいかないが、音を奪うのはやめておこう。電子目隠しの耳のパーツも外してやれ』。

 ……くっ。

 この天王寺アリスの方が、亀の甲より尊い年上なのに、呼び捨てか!

 偉そうに物申す!

 あれだっ!

 購入先が、いかにもエリート御用達ごようたしという、あの机と椅子がまず気に食わないっ!

 前から言ってやろうと思っていたが、自分が制圧者だと言わしめんばかりの金を注ぎ込んだ執務室っ。

 威圧目的の傲慢顔で椅子にふんぞりかえったり、笑みの中に睨みを利かせて机にひじをつくような態度をとる。

 足元まである大きなL字窓の外には、『どうだ! これが僕の支配する世界だ』と見せつける為の景色を展開させる。

 ――あれを趣味が悪いとののしらずして、他に何があるというのだっ!

 私は、『お前の戦局に、この天王寺アリス自らがテコ入れしてやろう。最新のデータは知らんが、頭打ちのお前の軍の支持率を大きく上昇させる事に協力してやろう』と言っただけだ。

 おのれっ。

 やはり日頃から、エリオットのヤツが食事の用意をしている時に手伝いもせずに、ゴロゴロしているのを根に持っていたに違いない!

 己が保身の為、私に調理器具を持たせないくせにっ。

 たしかに、『あー。お腹減った。ご飯まだかな。できたら食後にルイーナと遊びたいから、今日は毒入りじゃないといいな』とか、ソファでクッション抱えながら、迂闊うかつにものんびり考えてしまった事はあったが、『高給を狙えるのに、一銭も稼ぎたがらないニート女め』と見下していたというのなら許せん!

 私の作戦が成功して、『体たらくと呼ばれ、後ろ指さされる男』という言葉の意味を、その身に刻ませてやる!」


「ふん。その方法があれか?

 親バカにもほどがあるだろう! ルイーナ様の名を出せば、同じく親バ……いとおしく思われている閣下の御心おこころを動かせると思っての駆け引きか!

 何がしたいっ! 企みをすべて吐けっ」


「うーん。

 本当の事を言うと、私としても、未知なんだ。

 この発言が真実か、タケがお得意の薬を使って、この天王寺アリスを尋問してみてもいいぞ。

 それぐらいに確証はない」


「き……貴様ぁっ。

 閣下からちょうを頂いているのを良い事に、ありもしない策ではやし立てる行為……許さんぞっ! この竹内イチロウが、この場でころ――」


「あ。

 『エリオット、私を妻にして下さい』といった瞬間に、私の方が上司なので、失言止まりでも、そういう軽率な言動は避けた方が良いのではないかと、タケにご進言しておく。

 身心すらも、我が手駒として生きて行こうと決めた私は――何をしでかすか分からんぞ?

 いじらしいと思わせる動き見せつけて、しおらしい事を言って、健気な行動で、エリオットの寝首をかこうと企んでいる」


「こ……っ!

 ……え?

 ル、ルイーナ様! なぜ、なぜここにっ!」


「あれ? タケと母上だ。ここで何やってるの?」


「……ルイーナっ?」


「母上、顔に何をつけてるの?」


「……VRゴーグル。

 を、つけているので、見えないけど、タケは、『この女、瞬時にうまい事を言った』という表情をしているかしら?」


「そういう表情してるよ、タケ。

 いいな。ボクにも貸して」


「ダメ。これは大人用!

 ルイーナ。

 タケが、お小遣いで子供用を用意してくれると言っていたから、楽しみに待つといいよ」


「な……っ。

 というかルイーナ様っ。どうしてお一人で……居住エリアの外に……いらっしゃるのですか!

 どこへ行かれるおつもりだったと……?」


「母上の部屋に行こうとしたら、玄関のドアが開いていたから、お庭に行こうとしたんだけど、道が分からなくて」


「あっ!

 タケ。急いでエリオットのヤツの執務室に行ったから、閉め忘れたんじゃないか?

 さっき」


「きびきび歩けと言ったら、手錠をつけたまま、突然、走り出した女がいたのでな……一秒でも早く、閣下のいつくしみをお受けしたいのだと思っておりました!

 アリス様っ」


「そうか。あの扉は、エリオットが出入りする為に用意されているので、オートロックではなかったのだな……すぐに対策を講じられるだろうから、おぼえておいても意味がないので、忘れよう。

 そして、タケ。

 お前の事もすぐに忘れると思う。

 今日が、竹内イチロウの最期の日となったか――喜ばしい!

 ……取り返しのつかないミスに繋がる失態を犯してしまったなっ。

 さようなら!

 エリオットをこき使って、豪華な食事を作らせて、盛大に祝おう」


「なっ……アリス……さま……ど、どうせ、このフロアからは出られない」


「タケ。

 声は焦っているな。心拍数と血圧の上昇を数値化して見てみたいものだ。

 ルイーナ。タケは、焦った顔してるかしら?」


「そういう表情してるよ。

 ねえ、何の話か分からないけど、ボク、お庭に行きたいんだ。タケ、連れて行ってくれない?

 あ、母上も一緒に行こうよ!」


「お庭が何かよく分からないけど、ルイーナに誘われたら、母さんには断る理由はないわ」


「まて……いや、お待ち下さい! アリス様っ。

 駄目です。

 ルイーナ様、さあ、お部屋に戻りましょう。今から、母上さまもお連れするところでしたので――」


「えー」


「えー」


「お前……いや、アリス様まで、おふざけになるのはおめ下さい。さあ、閣下に命ぜられた通り、お戻り下さい」


『タケ。二人を、空中回廊に連れて行ってやれ』


「閣下!」


「監視カメラは、やはりスピーカー付きか。おぼえておく」


『情報収集も結構だが、ルイーナに、さっきの提案の話をしてやったらどうだ?

 いちおう理解したつもりだが、本当に込められた想いは、提案者の君にしか伝えられないと思って、しっかり語ってやってくれ。

 空中回廊までの経路で、そのVRゴーグルを外されると困るが――タケ、到着したら解放してやれ』


「……しかし、閣下」


『竹内イチロウ、失態は見逃してやる』


「申し訳ありません……閣下の広い御心おこころによる恩赦おんしゃ、感謝致します! 承知いたしました」


「タケ、はやく」


「タケ、はやく」


「くっ……こっちです」


『アリス。

 今夜、三人でむつまじく過ごしてほしい。そして、これからも』


「『仕事』を辞めて、私たち二人と、過ごす事ができるというのなら考えてやろう」


『……あはは。

 おっと……失礼!

 即時に断わられると思い込んでいたので、少し驚いた。

 協力してくれると、君が言い出し、それを僕が認めるという出来事があったからかい?

 今、君から思わぬ提案を出してもらったが、曖昧あいまいにはせずに、ノーという回答をはっきりしておこう。

 アリス。

 君と、ルイーナの事は、愛している。

 それは誓ってもいい。

 でも僕は、愛を注ぐというのは、上手じょうずごかしだけでは、成り立たないと思っているんだ。

 世界を席巻せっけんするような強大な力を手に入れ、そして、それを末世まっせまで維持していくようなすべが必要だと考える』


「私たちのために、『仕事』を辞める気は、絶対にないと?」


『アリス。

 僕が望むのは、愛する君たちと、手を取りあい、想いを一致させて生きていく事。

 だから、共に一つの目指すべき場所の方を向いて、歩んで行ってほしい』


「ああ。

 想いが一つというところには、大きく共感してやろう。そうなったとしたら、私は、エリオット。お前を受け入れてもいい。

 ルイーナの為に。

 だが、違う道しるべを正しいと思っている間は、同じ道に進めない。

 そういう事だ」


『――向かうべき先を、君は、間違えている。

 あるべき姿に、転ずるように、これからも君を導いていく。

 まあいい。

 では、空の世界で、久々の自由闊達じゆうかったつした時を過ごしておいで』



* * * * *



「タケ。

 もうちょっと手際よく、VRゴーグルを外せないのか」


「黙れっ!

 今は、ルイーナ様が近くにいないからな……誰かのご進言通りに、『いざという時に私を黙らせる注射』は、持っているぞ!」


「早く、ルイーナを追いかけたいんだ。

 黙らせた場合、この天王寺アリスが『差し許す』から、私の身体を肩車して、ルイーナのそばに――」


「うるさい!

 私は――この竹内イチロウは、認めないからなっ。

 お前が、閣下の寵姫ちょうきとして、ぎょする力を振るうなんて事を!」


「何度言えば分かる。私は、エリオットに統べられるつもりはない。

 『敵対』も相変わらずだ。

 ただ、協力者になったのは事実。それは、天王寺アリスの作戦の舵取りを良好にする為であって、ビジネスパートナーとして選んだ相手が、たまたまエリオットだったというだけだ」


「ふんっ。物は言いようだな! ほら、外れたぞ」


「VRゴーグル……これは、どうせ帰りはつけて行けという事になるんだろう?

 私が預かっていてやろう。

 これを紛失しないように必死に管理していて、大事な事を見落とし、新たな失態をした場合……タケは、今度こそ――」


「いいから行け! 角を曲がったところから、外が見える」



* * * * *



「ルイーナ。きれい。

 あなたの歌声も、も、メロディも……そして、あなたの瞳の色と同じ、青い空も――」


「母上。まだVRゴーグルしてるの?」


「やっぱり……。

 ううん、顔にあててるだけ。

 ルイーナのそばに来てから、初めて空を見上げたかったから。

 ――やっぱり。目隠しで、あなたの顔が見えなかったり、耳をふさがれて、その声が聞けなかったり、手錠があって、抱きしめたい時に抱きしめられないのも、薬で、あなたに自由に会えなくなるのも……すべて、間違ってるわ。

 ……ここ『違う方向』だけは見えないのね。戦略用に作った、いわゆる火の見やぐらなんでしょうけど」


「母上は、いつも面白いよね。

 そういえば、父上とは仲直りしたの?

 だってさ、ずっと父上は、『天王寺先輩』って呼んでたのに、さっき『アリス』って母上の事を名前で呼んでたから。前から気になってたけど、『天王寺先輩』って何だったの? 『敵対』してたから?」


「『敵対』は、今もしているわ。エリオットは、私にとって倒すべき最大の敵。

 天王寺……は、母さんの姓よ。

 ルイーナ。

 姓というのは、氏や名字とも言って、まあ、社会の便宜上、血縁集団が分かりやすいように用意された概念であると理解してもらえるといいかな。

 一族というか、家族のくくりというか、そんなものよ」


「父上も『テンノウジ』?」


「あんなのは、三下さんしたの御用人扱いでいいと、見栄えのいい履歴書持参で来られても、絶対に入れたくないわ。

 考えただけで、ゾッとしてきた……。

 ハリケーン巻き起こるぐらいに、塩をまき散らしてやりたいっ!

 現在の天王寺家のあるじたる、この天王寺アリスが、うとましく思っている以上、またいだだけで高圧電流が流れるように、敷居に加工しておきたいぐらいに、お断り!」


「――ジールゲンです。

 ルイーナ様。

 あなたは、エリオット・ジールゲン閣下の御子息なのですから」


「そうなの? タケ」


「はい。今まで、姓を名乗る機会がなかったと思いますが、ちょうど良い機会です。

 ルイーナ様。

 今後は、ジールゲンの姓をお名乗りになっては如何いかがでしょうか? 御父上は、ルイーナ様の行く末を案じておられるみたいですし。

 母上さまも、今後は、閣下の眷属けんぞくであるという自覚をもってお仕えするそうなので。

 おや。

 こんな事を言われても、思ったより、嫌な顔しませんね。アリス様!」


「うーん。それはないな、と思ったから、確実に」


「いろいろ不要な思想は捨て、ご自分のお考えなど持たず、閣下にお力添えする事だけを心がけて、今後は過ごしていかれますように――アリス様……」


「ルイーナは、天王寺ルイーナしかない。

 確実に。

 だって、ルイーナが生まれた時、私は、書類上いない人間だったんだから、そもそも、変更手続きなんてものができない」


「……なっ。待て、お前……」


「天王寺ルイーナって、なんかカッコいい! ボク、気にいっちゃった!」


「よく考えたら、エリオットとは、たかだか同居し、共同生活を営んでいるという関係から、発展不可能じゃない!

 かなり昔から。

 書類がないって、家借りる時に苦労したり、就職難に弱くて、くじけそうになる事も多かったけど――一生、独身を貫けると裏付けられて、せいせいしたわっ。

 でも、子供と養育費だけはほしい、なんていう女のワガママが叶っている状態だとしたら、完璧じゃない!

 天王寺アリスの人生は、この無駄に広い床面積に、いかにも金を積みましたと言わんばかりの高さ十五メートルを優に超えている防弾と思われるガラスに囲まれ、視界が無駄にひらけた屋上空間のように、心の解放を約束されているようだわ。

 きっと、あれはヘリポートと思われる邪魔な人工物が、若干目障りできょうざめだけど、ずっとタワー内に閉じ込められていただけに、天井が存在しない、天然の空気も感じられて、ひろがりを感じるスペースにいられる事に、トキメキすらおぼえる。

 とてもいい気分。

 だから――ルイーナ。もう一度歌って」


「あれ?

 母上。また、VRゴーグルをつけちゃうの?」


「ルイーナの歌声が聴こえてる時に、また空が目に飛び込んできてほしいなって。

 だから、澄んだ青空が、あなたの旋律で埋まるぐらいに、いっぱい歌ってほしいな。これからもずっと、ルイーナは歌っていいの。

 ああ、ルイーナに抱きついたら、VRゴーグル落ちちゃった……ふふ」


「うん。ボクもたくさん歌いたい」


「ルイーナは、そう言ってくれると思った。

 だから、母さん決めたの、あなたを『アイドル』にするって」


「……母上、なにそれ?」


「ルイーナが、ずっと大好きな歌を作って、それを歌っていける――それが『アイドル』」


「よく分かってないけど……母上の顔が楽しそうだから、ボク、その『アイドル』っていうのやってみる」


「うん。

 お願い……あなたの為にも。

 母さんが、今、切ない顔してるとしたら、それは、ずっとあなたが歌っていられる未来を……望み過ぎているだけだから、気にしないで。

 じゃあ……VRゴーグルをつけるから、歌ってみて。

 ――あなたに秘められた力を、これからの私の希望にさせて」


「母上が喜んでくれるなら。じゃあ、歌うね」


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