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彼と軍医、そして反乱組織の過去

The Sky of Parts[05]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


「タケぇ……これは、どういう事だ?

 回答によっては、お前でも許さない。天王寺先輩のこの発言はなんだ?」


「……知りません。こちらが回答を頂きたいぐらいです!」


「『仕事』を終わらせて、捕虜同然の『敵対』者が独房でどうしているか確認してみれば――『おい。タケ! いるか! いなくても、聞け! すぐに手錠と目隠しと、いざという時に私を黙らせる注射を持って、こっちに来い!』。

 すべての生命が滅びを迎えるような終焉しゅうえんが来ても、お断わりだとはっきり言われているが、このエリオット・ジールゲンには、天王寺先輩の伴侶はんりょを名乗る資格は、いちおうあると思っている。

 竹内イチロウ。

 説明してくれるか。どういう事かね?」


「今すぐ、エリオッ……いえ、閣下に会わせろっていうのが続いてますよね?

 あの女の事だから、何か企んでいるのは確定だとしても、ほんの少し心躍るような気分を得られたからといって、この竹内イチロウにその悦びを定着させる手伝いをさせないで下さい!」


「天王寺先輩の方から、僕に会いたいなんて言ってくれるのは、ルイーナを妊娠していると伝えに来てくれた時以来じゃないか。

 渡しておいたメモの連絡先を頼りに、軍の施設を訪問してきてくれた。

 自分の足で、僕の手の中に堕ちに来てくれた以上、帰す気はなかったが、本当に帰したくなくなったよ。

 僕の子を宿したって、嬉しそうにしている彼女を見た時は」


「軍人の父を持たせたくないから、一人で育てる宣言をしに来ただけではありませんでしたか?」


「タケ。

 その発言――あの時、天王寺先輩に、僕の正体を悟られずに足止めできる薬を、即時調合してくれた礼として、忘れてやろう。

 子供ができた歓びを、僕と分かち合いたかったというのは、本当の事だったんだろう。

 ずっと好きだったし、『sagacity』の完成の為に彼女が必要だから、否応なく協力してもらうつもりはあったが、あの笑顔を純粋に守りたいと思わず心動かされた。可愛らしかったね」


「時とは、残酷なもので、いつしか愛らしさを捨て、女は変わってしまう、という格言が真実であるという意味で、受け止めさせて頂きます」


「タケ。本当に、天王寺先輩が嫌いなんだな。

 まあいい、とりあえず僕の執務室に連れて来い。逃げるつもりはないという意味なんだろうが。

 いつも通り、ご提案頂いたものを持参して、慎重に連行しろ」



* * * * *



『……もう、母さんと、一ヵ月も話をしていない』


『ダノン……』


『――そして、これからも話をする事はない』


『ミューリーさん、子供たちをかばって……立派な最期だった。

 おかげで、兄貴の大事なエルリーンの命だけは助かった』


『ジーンさん、すまない。

 あんたも兄さんを亡くしたのに……俺だけが辛いような顔をして』


『いや。せめて兄貴を、取り戻せただけ――良かった。

 エルリーンには、辛い思いをさせる結果になったが、都に連れていかれて、公開処刑にでもなったら、それすら取り戻す事ができない。

 墓を作ってやれたのは、きっといつか、心の区切りになる』


『……そうだね……』


『ダノン。話せる範囲でいい。教えてくれ。

 軍師殿――天王寺アリスさんと、何があった? 二人が出ていくところは、目撃されている。

 ……軍の連中が、いまだに血眼ちまなこになって捜索しているところを見ると、とりあえず、軍師殿は捕まってはいないようだ。

 兄貴の最期を、目撃した者がいるんだが、何かを飲まされた後に、エリオット・ジールゲン自身が手を下したそうだ。兄貴は、エルリーンの名前を叫びながら、息絶えたという話だ。

 正直、なぜ自分が冷静でいられるのか、おれにも分からない。

 兄貴が殺されたっていうのに――。

 今すぐ、エリオット・ジールゲンの命を奪ってやりたい気持ちは、もちろんある。

 だが、無謀にそれをする事はいけないと、ミューリーさんが教え、説いてくれた。

 彼女もいなくなった今だからこそ、おれは、何をすべきか、どうすべきか考えなくてはいけないと思っている』


『……俺のせいだ……俺が、すべて悪いんだ。

 俺のせいで、あんたの兄さんも、みんなも……母さんも……みんな……死んだ。

 ごめん……ごめん……。

 俺が、軍師殿を……いぶかしがる気持ちを持ったから……みんなを死なせる結果に繋がってしまった』


『軍師殿に対して、疑念を抱かない方がおかしいから、それは気にするな。

 ダノン。

 噂話だって思い込もうとしても、おれだって、どこか軍師殿は信頼できないと思っていた。

 おれらぐらいの組織を潰すのに、エリオット・ジールゲン自ら出てくるのは、それなりの理由があるはず。懇意こんいの相手でも、迎えに来たのではないか――そう考える方が普通だ』


『だけど、母さんは、嘘偽りなく、彼女――天王寺アリスさんを許していた。

 そうなんだ……きっと。

 ……仲直りを、永遠にできなくなったのに……こんなにつらい気持ちを味わったはずなのに……。

 母さんは、真相を知れば知るほど……軍師殿を許していった……どうして』


『ダノン、きっと今、お前の悩んでいる事は、おれには話せないと思っている。

 そして、おれにはお前の心を読むような力はない。だからこそ、お前にミューリーさんの言葉を手渡しておく。

 生きていれば、いつか辿たどり着きたい場所に到達できる』


『……ジーンさん』


『ダノン。おれは到達したい。

 だから、お前にミューリーさんの跡を継いで、リーダーになってほしい。

 おれの方が、ずっと年上だが、ダノン・イレンズの才能を高く買っている! 頼む』


『……俺は、それで、本当に辿たどり着けるのだろうか?』


『ああ、おれなんかで良ければ保証させてくれ。

 きっと。他にも、辿たどり着きたい人たちは、たくさんいる。立ち上がって、前を向いて、導いてやってくれ』


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