アリスとダノンの過去
The Sky of Parts[05]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。
『顔文字、盛りあがらなければ数日で消えそうな品のない話題のゴシップ記事、ネットスラングを羅列しただけ。
軍師殿。
この文章に何の意味があると?』
『ダノン。この資料と照らしあわせてみて。
――そう三文字目は、こっちの言語と置き換えて、顔文字でよく使用されている記号は、二つずつ右にずらしてから置き換えた後に、この記号表と整合。
意味のない話題は、発表された時刻を、この数式に当てはめてから計算していく』
『軍師殿……これ。どういうつもり?』
『来てくれるか分からなかったけど……ありがとう、ダノン』
『お母さんと仲直りして。
そんな事を言うために、俺を呼び出したと――そういうつもり?』
『ダノンが、前から暗号とかおぼえたいって言っていたから』
『この森。基地の見張りの範囲を、さらに一歩越えた先。
誰かに聞かれるのが、そんなに嫌だった? アリス・ジールゲンっ。
ふん。
書類上だけじゃない!
天王寺アリスなんて人間は、いなくなっていて、ここにいるのは悪魔に魂を売ったヤツだって事だろ!』
『ダノン……。
私の事は、どう思ってもらっても構わない。みんなの前で、その話をする事も、止めるつもりはないわ。
そう呼ぶ人がいるのを、私は、知っていた。
当たり前だわ。
ミューリーの好意で、ここに留めてもらったけど、どれだけ恩返ししたって、取り返しがつく事でないのは理解していた。
みんなが、私の命を奪いたいというのなら――逃げる事なく受けるつもり。
だけど、ダノン。お母さんとは、なかなお……』
『うるさい! 黙れ! 母さんの事を口にするなっ!
アリス・ジールゲン……みんながこう呼ぶのは、同情と憐みも込めている。
子供の俺だって、力尽くで……あのエリオット・ジールゲンの前に突き出されたのかと思うと、アンタの息子を含めて、助けてやりたい気持ち……確かに持った。
でも、違ったっ。
アンタは、自ら望んで、あの男の血を繋いだ!』
『違う! 聞いて、ダノン!』
『俺らを騙しながら、手の込んだ作戦を作る努力なんて、必要ないんじゃないか?
すぐにでも会えるんだろっ。
この足で、軍の施設にでも顔を出せばいい! 息子を抱きしめるなんて、簡単な事じゃないか。
でっちあげられた罪で……消されていく。
腕を振り下ろす……あの悪魔の横で、ただ黙って立っている。それだけで、ずっと、息子と一緒にいられるんだろっ!』
『……ダノン』
『そんな、人の良さそうな演技をしたって、今、アンタが辛そうな顔をしているのは、自分の事ではなく、俺を心配しているとでも言いたいのかっ。
子供を二度と抱きしめられなくなった親だって、いくらでもいるんだぞ!
なのに、あの悪魔には……エリオット・ジールゲンには、アンタが与えた存在があるって……血に染まったその手なのに――人々の怨念のまとわりつくような、その身体が、今この時も、自分だけは、愛情を受けとめているなんて!
あの人は、もう……俺が、愛しているという気持ちをどれだけ送っても……受け取る事ができないのに……っ!』
『ダノン! 落ち着いて! 唇切れてる……血が』
『母さんと仲直り……できなかったんだよ……あの人は。
返せよ……父さんを返せっ!
エリオット・ジールゲンの腕が振り下ろされた瞬間――母さんと……父さんは……俺は……。
はは……。
悪魔に魂を売ったヤツでも、そんな血の気が引いた顔ができるんだな。
口を両手で覆っているのは、ほくそ笑むのを隠すためか?
そうだよ!
今、言った通りさっ。
父さんが、金を持って逃げたのは本当の事。
でも、もう一度、やり直そうって連絡があって……母さんと都に行ったら、よく意味の分からない事で軍に連れていかれたって……。
次に父さんを見たのは――最後に見たのは、父さんの最期だった。
母さんは、みんなにあんな風に言って回ってるけど、本当は、父さんとやり直したかった結婚式で着れなかったから、青い服を着てるんだ!
着たいんだよっ。
父さんがいなくなった瞬間……俺と手をつなぐ母さんの手に、どれほど力が入ったか、アンタにだけは、理解されたくない!
……やめろ。
やめろって!
アンタなんかに……泣き顔の俺を心配したフリして――心の底では、虫けらが喚いているとでも思ってるんだろ!』
『いいえ。
だったら、お願い。ミューリーと仲直りして。
ダノン。
そんな事で気が済むのなら、あなたが持ってきたもので――私の命を終わらせなさい。ここなら、誰も見ていない』
『やめろって言ってるだろ!
……憐みを受ける……惨めな俺が、そんなに見たいのか。
エルリーンたちにも、基地のみんなにも、母さんにも……もう近づくな。
騙して楽しいのか?
エルリーンは、父親共々、アンタの事を好いてる。アンタとエリオット・ジールゲンが、手を握りあっている事を知らないから。
あの人からも離れろ!
父さんとは違うけど、俺の稽古に付き合ってくれたり、男親にしかできないような遊びを教えてくれたり……父親のように振舞ってくれて、俺も、愛してるって気持ちを送りたいんだよ!
入ってこないでくれっ。
俺たちの間に……母さんも、返せよ……どうして、どうして!
どうして、母さんは、アンタを許したんだよ!
俺は、父さんが死んだ日、絶対に、あの悪魔を同じ目にあわせてやるって決めたのに……母さんの為にっ。
やめろーっ!
俺に、汚れたアンタの命を奪わせる気か! 両手を横に広げて、無防備になるなよ……やめろって!
やめろって!
母さんっ! どうしてっ……うっ!』
『ダノンっ! 頬から……血が出てる!
くっ。
軍の……無人機……っ!
狙撃用だわ!
……ダノン逃げて!
こいつに狙われているのは、あなた!
小型で、上部の三角の部品が特徴的の飛行マシン。
――このタイプは、木が密集しているエリアに入れば、センサーの性能が七十四%まで低下するから、北の方角に逃げなさい。
水辺があったら飛び込みなさい!
水中に対して狙撃の焦点をあわせる機能を省いて、量産体制とコストパフォーマンスを実現している。無駄撃ちしないように、プログラムされているわ。三分間ターゲットを見失うと、再びサーチモードに入る。違う角度を探し始めた時がチャンス。
……全部、見られてた。
暗号の読み方の事は忘れて……それはもう使えない……ミューリーにもそう伝えて。
さっきの会話……当の本人に聞かれていたみたい!』
『……本人……っ!』
『こんな安物無人機……殺傷能力こそあるけど、所詮はおもちゃ。
民間人の心情制圧、もしくは、生かして回収する対象がいる場合に、威嚇程度に使うぐらいしか価値がない。
こいつは、同時に複数の人間をターゲットに指定できない。
あなたを狙ったって事は、私には、他の何かを向けてくるつもり!
ダノンなら、逃げ切れるわ。
連続で攻撃してこないし、こいつは脅し。ただ、あの悪魔は、この一帯を……火の海にする気じゃないかしら。
だから、みんなと逃げて!』
『軍師殿……アンタは、どうするんだ?』
『ごめんなさい。私が、ここにあなたを呼び出してしまったから。
うかつだったわ……なるべく、長い時間、鬼ごっこを続けるから。
おそらく、私を回収するまでは、無差別な一掃攻撃は仕掛けてこないはず』
『……違うだろ……。
アンタは、俺の考えに気づいて、ここに呼んだ……呼んでくれた……俺が、つまらない事を思ったから!
ちっぽけな感情を、アンタにぶつけようとしたから……みんなも、アンタも、危険に……!』
『大丈夫よ。
私は、息子に会えるんじゃないかしら。そうして、あの子の母親として、大事にされるだけ――。
ダノン。
あなたが負い目を感じる事なんて、一つもないはず』
『でも……アンタの意思なんて、まるで無視して……ただ黙って、横に立たされるかもしれないんだぞ!』
『そうしたら、あなたの今夜の行動は、間違いじゃなかったって確信を持てるでしょ。何か、問題でもあるの?
ダノン・イレンズ。
……早く行け。
この状況、私が手引きしたのかもしれないんだぞ?
そういう事にしておけ。
ダノン。
お前を利用して、暗号の読み方を流出させた上、基地の大まかな場所を売り渡したんだ。
ほら、どうした、早く逃げろ……私は、敵なんだ!
だけど、もしも、逃げきれたら、また作戦書が届く事があるかもしれない。それが、敵地の真っ只中から発信できたとしたら、大いに役に立つとは思わないか?
早く行ってくれ!
あの悪魔に聞かれ、眺められて、嘲笑されているのかと思うと……虫唾が走る!
私も、早く自分の戦いを始めたいんだ!
……そうだ、ダノン。
それでいい!
走って、必ず逃げ切って!
お願い。
……さて。
盗み聞きしていた……お前っ。
この天王寺アリスが、身を投げれば、みなを助けてくれる――そんなつもりは、まったくなさそうだな!
面白いっ。こちらも本気を出すかいがあるというものだっ!』