新世界
The Sky of Parts[36]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
【!】対話体小説(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BE%E8%A9%B1%E4%BD%93%E5%B0%8F%E8%AA%AC
(※SSではありません)
「分かった……やはり、結婚しなくて正解だった。エリオット。これは、すべてが完璧な応じ方か?」
「ああ。ありがとう。
すべてが完璧な応じ方だよ。アリス」
「エリオット。
お前は、私と――天王寺アリスと結婚しなくてよかったと思うか?
選択肢は、『はい』と『いいえ』しかないと考えろ」
「……『はい』。
ああ、しなくてよかったよ。
アリスが、エリオット・ジールゲンの妻だったら――僕は、この決断をできなかったかもしれない。
ルイーナには、なんとか、向後の道を用意してやれた。
儚く、そして脆い、夢物語でしかない冀望だったはずなのに、現実に繋がったんだ。神を冒涜するような残虐行為を行い続けた僕なのに、その子であるルイーナが神自身だった事でな――。
ふ。
君にまで、そんな奇跡を用意しないといけないなんて無理だ。
この僕でも、白旗さ。
だから、アリスが、僕と書類上の繋がりがなくてよかった。書類上復帰した後も、君は、ただの天王寺アリスだ。
アリスの好きに生きればいい。
書類上の記載などなくても、ルイーナの母である事には変わりないのだから」
「エリオット。
ルイーナの書類上に、エリオット・ジールゲンの名はない。ただのエリオット・ジールゲンではいられないのか……」
「ふふ……。
そんなうら悲しげな表情を見せないでくれ。
分かっているだろ。
僕は、ただのエリオット・ジールゲンにはなれない。アリスと――大好きなアリス姉さんと心を合わせて子育てができただけで、もう十分だ」
「まだ、ルイーナの人生は、十三年足らず……残りの子育てを、私一人に押しつけるつもりか?」
「僕は、独裁者エリオット・ジールゲンだから――」
「……卑怯な手段を使うな。
人でなしで鬼畜で極悪人のエリオット・ジールゲンの口から、そのような言葉が出るなど、至極当然という事か……」
「そうだ。
人権を踏み潰し、極悪非道の限りを尽くす事を貫かせてもらう。そんなエリオット・ジールゲンに心を開いてくれた君には、感謝している。
――涙を流す事、堪えられない顔をしないでくれ。
戦争終結をもって鳥カゴいらぬ現を創り、ルイーナを自由に羽ばたける空に放ってやった上で、僕と共にあるのが、アリス姉さんがなりたかった『本当の自分』だと理解している。世界の理を壊してでも、それを実現したいと、本心を打ち明けてくれた時は、とても嬉しかったよ。
タケの薬で、その想いが極端に助長されたと聞いた上でもな」
「……タケの薬のせいにするつもりなのか……エリオット……お前の行動は、当然だと……ルイーナの為に命を捨てるという……っ」
「……君だって……ふふ……そんな話は、今は止めておくよ。
なあ、アリス姉さん。
戦争を、見なくてよくなったんだ。目をそむける為に、ずっと眠っている必要はなくなっただろ?
だから、これからも、未来だけを見て、生きていってね。
ふ。これは、この世に存在している事すら辛かった僕に、アリス姉さんが言ってくれた言葉だ」
「――エリオット」
「未来を、ただ目指して生きていってほしい。
幼い僕が、未来に向かおうとしたのは、君の存在があったからだ。僕は、もう未来に辿り着けたと考えてくれないか? 天寿をまっとうしたという事だろ。
アリス姉さんは、ただの命の恩人なんだ。エリオット・ジールゲンの妻ではない。負い目など感じないでくれ。
ほら、泣き止んで。
幼い僕相手に、君が口癖のように使っていた言葉だ」
「エリオット……分かったわ。
私は、あなたの事で責任を感じる事なく、好きに生きるわ」
「ああ。アリス姉さんの好きに生きてほしい。
誰にも、遠慮する必要はない。君は、自由なんだ。抑えつけるものなど、何もないんだ。
書類上の繋がりはないが、僕は――エリオット・ジールゲンは、家族だと思い込んでいるアリス姉さんとルイーナの為に『道具』となるだけだ。
……諦めてくれ。
タケの薬の効果を『悪用』させてもらう。
君らを愛せば愛すほど、薬の効果が強まった――それだけだろ!」
「私と、ルイーナの――家族の『道具』になりたい。それが、エリオットの願い。
分かったわ――」
* * * * *
「頬、痛かった? やれやれ、私の手形が残ったまま、新天地に行く事になりそうね。
エリオット。
アリス姉さんも、エリオットの事が好きよ――私が、どこかに行ってしまう訳じゃないでしょ?
でも、世界で一番、私を護ってくれる人にならなかったから、お嫁さんにはなってあげない。
そんな約束でよければ、いくらでも破ってあげる。
だから、これからも、未来だけを見て、生きていってね。たとえ、残された時間が、限りないとしても――。
アリス姉さんは、絶対に、エリオットの事を嫌いになったりしないから。誓ってあげるわ」
「ア……アリス……あいし……てる。
……?
ん?
あれ……?
あ。
……質問していいか、アリス……僕の身体は、今、雨に打たれたようになっている気がするが……これは、まさか……っ!」
「ええ。
消火設備のスプリンクラーが作動して、私とエリオットの現状を表現すると、まさにぬればっ!」
「……そ、その言葉は、軽々しく使ってはいけない……アリスの事だから、わざとだと思うが……ま、まあいい。
アリス。
どういうつもりだ?
『sagacity』格納区画のスプリンクラー設備は、すべて作動しないようにしておけと、指示を出したはずだ。
しかも、散水量がおかしくないか!
ダイナマイトに向かっていた火種が、すべて消火完了されてしまった。
もしやと思うが、アリス。
クラッキングにミスって、スプリンクラーが誤作動しまくっているだけ……などと、言い訳をするつもりではないだろうな?」
「あ~ちなみに、ダノンたちとの通信、爆発エフェクトを挿入して、回線切断済みよ。
アイドルプロモーション動画を手作りしていたし、クラッキングもできるんだから、それぐらい容易いわ。
あれよ。
エリオットのヘリの操縦が、あら過ぎたのよ! だから、乗り物酔いしてしまって……あ~アリス姉さんとした事が、大失敗。ご・め・ん・ね」
「せ、台詞と表情があっていないぞ……アリス。
その表情は、完全に軍人顔になっている! この僕が若干、威圧感をおぼえるぐらいだ。
なんだ。
言いたい事があるのなら、はっきり言えばいいぞ。
僕の計画は、天王寺アリスによって、失敗させられたという事だろ。だが、君を外に逃がして、また、実行するまでだ。
アリス。
このエリオット・ジールゲンの命令に従え。
女性の身の君が、大蛇とでも白兵戦を繰り広げられる僕を止める事などできやしないさ。
君が作った軍の『三十二等兵』などという地位に甘んじたのは、アリスが僕の愛する家族だったからだ。
分かるな。
アリスは、僕にとって家族なんだ。僕から見たら『道具』なんだ。
逆らう事は認めない。
僕は、必ず君をここから逃がす。そうして、僕自身が、家族の為に『道具』となる。それを覆す事は、差し許さない」
「じゃあ、私を逃がしてちょうだい。
もうすぐ、タワー『スカイ・オブ・パーツ』外壁に仕掛けられたダイナマイトが、順次爆発していくわ。
エリオットぉ~はやくぅ~。
私は、エリオットの『道具』なんだから、持ち上げて運び出してくれる? 大蛇と生身でタイマンして奇跡の生存ルートが可能なんだから、簡単よね?
あっ。
エリオットは、家族の為の『道具』なんだから、私の命令には逆らえないはずよね!」
「くっ……アリス! 後で、たっぷりお仕置きしてやる!
おぼえておけ!
まずは、この僕によって、お姫様抱っこされるがいいっ。
行くぞっ!」
「あれ~エリオットにさらわれる~と見せかけて、さらわれているのは、エリオットの方!
エリオット・ジールゲンをまんまと欺いた、天王寺アリスは、繋がり始まる意識で、そんな事を考えていた」
「……アリス。
この僕をさらって、どうするつもりだ……ルイーナの為に、僕は消えるべきだ。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』、『sagacity』と共に、このエリオット・ジールゲンは、ルイーナが築きこれから生きていく新世界から否定されるべきなんだ。
君だって、理解しているだろ!」
「うん。分かってる。
だから、私が、ふよ~ひんのエリオットをもらおうと思って」
「は?
えっと……アリス……?」
「私が、エリオットの書類上の妻だったら、責任を感じて、エリオットに罪を償わせないといけないわ。
考えてみて。
エリオット・ジールゲンは、天王寺アリスにとって、他人であるとも考えられる。だから、エリオットの『道具』扱いで、好きにされるつもりはない。
後、忘れないで。
私にだって、タケの薬の効果を『悪用』する権利があるの。薬の効果に従ったら、私の『好きに生きて』になっただけ――それが、エリオットと一緒にいたいだっただけじゃないかしら」
「僕といるのは、おすすめできない。
アリス。君も、ルイーナに会えなくなる。だから、僕の事は諦めてくれ。
……頼む。
ルイーナを、独りにしないでやってほしい」
「あの子は、一人じゃないわ。
エリオット。
あなたと違って、ルイーナは、独りじゃないの。ううん。エリオットも、一人じゃない。
アリス姉さんが、そばにいてあげる」
「……アリス……やめてくれっ!
僕の心をかき乱すな!
独りにしてくれ……ルイーナの為に……君の為に……僕を、独りに……」
「うーん。
アリス姉さんを独りにしたら――今日から書類があるらしいから、エリオットが鬼籍に入る前に、書類上の妻になってしまおうかしら?」
「僕を……脅迫する気か!」
「確認した限り、遺産も、保険金も手に入らない……おいしくない話だけど。
ね?」
「く……分かった……アリス姉さんが、僕の妻にならないように……見張る必要があるという事か……だが、矛盾した思いに僕は支配されるかもしれないっ。ある日、無理やり結婚式場に連行され、書類上、アリス・ジールゲンになってしまっても知らんぞ!
覚悟の上だなっ。アリス!」
「今後、書類上どうなっていても、二人がルイーナの親である事に変わりないのならいいわ」
「……さっきも聞いたが……いいのか?
ルイーナに、会えなくなるぞ……僕など捨てて、息子の為に生きてやろうとは思わないのか?」
「ん~。
あの子も、もう十三歳でしょ。うちの子だから飛び級ハイスクール入学だし。しかも、全寮制。
結婚を約束してくれる彼女もいる。
新たな支配者さまとして、世界の人々も見守っていてくれる。
親の私が、必要とは思えないわ。
あー。
エルリーンと、夫婦共働きになるかもしれないから、孫が生まれたら、イクバアしに行こうかしら……でも、私、他人に衣服を着せられないのよね……孫育て、誰かに助けてもらわないと。
ふふーん。
どうかしら?
家族の『道具』のエリオットは、孫の為にイクジイになるつもりがないなんて――そんな事は言わないわよね!
言えないわよねっ!
エリオットは、どうにかして、孫が生まれるまでにルイーナのところに帰らなくてはいけなくなった!
あはははは!
もっと、悔しい顔をするとよいわ!
この天王寺アリスに、屈するとよいわっ」
「アリスっ!
後で、絶対に僕の『道具』として可愛がってやる! おぼえておけ!
……孫か。
できたら、孫娘がいい。
子供が、息子だったからな。
と、考えたら、急に心配になってきたっ。
ルイーナのやつが、娘を可愛く感じ過ぎて……鳥カゴ型のベビーベッドを用意するのではないかと懸念したんだ!
やりかねないと思わないか!
お嬢さんは、ルイーナの伴侶だ。好きにすればいい。だが、孫娘は、僕のものだ!
我が家では、ストレッチャーや柱に縛りつけて、言葉でいたぶりながら小突き回すなどのコミュニケーションをとる事があると、可愛い孫娘にも教えてやらねばならん!
いいかっ!
家族を『道具』と思い込む、この僕を生かしておくという事は、そのような危険が伴うと理解の上だと考えさせてもらうからな!」
「かなり歪んでいると思うけど、まあ、いいわ。
不都合があったら、エリオットとは『敵対』関係になるだけよ。
そして、ルイーナには、もう鳥カゴは必要ないって心の底から思いなさいと言ってやりたくなったわ。
あら、あそこから、外に出られそう。
――本当に出口かどうかは、分からないけど」
「そうだな。出口ではないかもしれない。
もしも、あそこから外に出られたとしても――あの先は、ルイーナが作り出した新世界なんだ。つまり、入り口だ」
「――ルイーナは、どんな思いで、世界に降り立ったのかしらね。十三年前の今日、私たちの子供として、何を考えて、まだ見ぬ世界の入り口を通ったのかしら」
「……では今から、僕らが、あの『入り口』を通る時に考えてみないか? あの日、あの時――ルイーナが産まれた瞬間を思い出しながら」
「YES、エリオット。
これからも、一緒にいましょう。ずっと、ずっと。そして、二人の頭脳を使って、天寿をまっとうした上で、同時に召される方法を考え出すの……どう? とても難題で、やりがいのある企てじゃない?
占い、私は、信じていないけど」
「……ああ。
まずは、行こう。新しい世界に。あの子が繋いだ、そして繋がった未来へ」
「うん。行きましょう。
エリオットが存在した事で誕生した、戦争のない新世界に。私と繋がった事で築かれた新しい時代へ。
二人が一緒にいる事が許される現へ」
「YES、アリス。
――愛してる」
* * * * *
『……リス……アリス……アリス!
産まれたよ! 男の子だ! 聞こえるだろっ。元気な泣き声が……産まれたんだ……僕らの子が。
君に、頑張ったなどという単純な言葉をかけていいのか、分からないが……産まれたんだ……僕らは、親になったんだ!
あははは……産まれた。
さあ、顔を見てやってくれ。君の息子だよ』
『……男の子……じゃあ、ルイーナかな……赤ちゃんの名前……ルイーナでいいかしら……?』
『アリス。君が、そう望むなら、この子の名はルイーナにしよう』
『ありがとう……すごいわね。
さっきまで、私のおなかの中にいたのよ。呼吸だって、できるようになってすぐなのに……でも、力強く生きようとしている』
『ああ。
本当にすごい……こんなに儚く、そして脆く見えるのに、たしかに存在している。僕とアリスの息子は、現を構成する一つになったんだ。
ルイーナ。
そのように小さいのによく頑張った。お前は、とても激しい戦いを勝ち抜いたんだ。
終わったんだよ。
もう、心配はいらない。父さんと母さんのところに辿り着いたんだ。これからは、安心して護られていけばいい』
『ううん。
エリオット。この子の戦いは……始まったばかりよ。生きていくって、それだけでずっと戦場にいるようなものだわ。
……うん。
でも、これからは、私たちと一緒に戦う事ができるようになったの。
ルイーナは、護られているだけじゃない。護られるのは、私たちの方になるかもよ? くすっ』
『あはは。こんなに小さいのに、頼もしいな!
分かった。
だが、今は、安らごう。三人で一緒に』
『うん。エリオット、ルイーナ。
――愛してる』
― To be continued ―
(新しい世界の物語は続いていく)
* * * * *
【ラストのラスト】
「エルリーン……戻ってこないな。
もうすぐ始まっちゃうよ。
盆踊り。
誰かと手を取りあって踊るやつなのに。
やきそばと、フライドポテトと、リンゴ飴と、からあげと――あれ? 他に、何を買いに行くって言っていたっけ……というか、オレのところに早く帰ってきてよ!」
「――やあ。
お一人なんですか?
よかったら、僕らと、手を取りあって踊りませんか」
「私たちでよければ、一緒に。
手を取りあって、踊ってくれますか?」
「……いいよ。
その代わり、今、そこの屋台で買ってきたんじゃないかっていうような、鳥のキャラクターのお面を外して、顔を見せて。
後さ、二人は、手を取りあって、空いている方の手を、オレに――」
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
完結できました。
ありがとうございました。