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新天地

The Sky of Parts[36]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点(くてん)ルール」を使っています。


【※】35章ラスト回と『2話分、同日』投稿しています。


「あれ?」


「うわわっ! ど、どうしたんだよ、ルイ!

 急に自転車止めて……危ないよぉ」


「あ……ごめん、エルリーン……あれ?」


「まったく……ん?

 本当に、どうしたの? ぼーっとしちゃって……あ、分かった! おなかが減ったんだろ?

 ううっ。

 あたしも、おなかが減ってきた。ここ、早く抜けよう! 屋台通りっ。昼ご飯前の人間には(こく)な場所だよ!

 半日授業で嬉しい日だけど、弁当をすぐに食べられない日なんだよ~早く寮に帰って、食堂で昼ご飯食べよう!

 ……ううっ。

 ダノンにお小遣い握られていなければ、屋台で昼ご飯できるのに~! ああっ! もう! 軍のトップだの、閣下だの……だけど、学生の基準にしては少な過ぎるお小遣いしかもらえないなんてっ!

 将来貯蓄だからって、通帳の金額だけ見せられても、おなかいっぱいにならないよ!

 せめて、執務室でオヤツ三昧しようとしたら、うちの下っ端の竹内イチロウが、整髪料のにおい振りまきながら、無言で『十代から始める、食生活改善~長生きってイイね』って本をデスクの上に置いてきたんだっ!

 健康に口うるさいお前は、お医者さんかってツッコミ入れたかった!」


「いや、タケはお医者さんだよ……うーん……気のせいかな。

 ごめん。

 オレの勘違いだと思う。

 そうだね。おなか減ったし、早く寮に帰ろう」


「……ふふふ。行っちゃった。

 二人とも、毎日元気で、学校生活が楽しそう。

 さて、私もお家に帰って昼ご飯を食べよう。今日も商売繁盛。売り物のお花も、サンドイッチも、完売御礼――」



* * * * *



「ああ、おかえり。

 今日も、お疲れ様。昼ご飯、もう少し待ってくれ。匂いで分かると思うが、カレーライスだ。ジャガイモがおいしくなるように工夫していたら、思ったよりも時間がかかってしまった」


「……怒ってる」


「鍋をかき混ぜる手を止める事が許されない段階だったんだ。玄関への出迎えなしになってしまって、すまなかった。素直に謝っておくよ」


「違う。洗面所の電球が切れてた。

 それで怒ってる。

 『君に、世界が暗いなんて二度と感じさせない』なんて言うから、ビジネスパートナーとして、サンドイッチの屋台販売を請け負ってあげているのに、帰宅後の手洗いをしようと思った私は、世界が暗いな~ってほんの少し、少し、少し、少し思った」


「はいはい。

 では、昼食後すぐに電球交換しておくよ。電球交換作業を優先して、いただきますが遅れると、先日のように、さらに『怒ってる』するつもりなんだろ?

 想いがすれ違うなんて、仕方がない。

 『家族』ではないんだから。

 だから、君の事は『道具』ではなく、ただの(いと)しい存在だと思える。そうだろ、アリス」


「うん。そうよ、エリオット。

 私とエリオットは、『家族』じゃない。だから、私は、エリオットに好き勝手言ってやるつもり。細かい、細かい、細かい、細かい事まで話しかけてやるの。

 私の人生は私のもので、好きなように生きるの。エリオットの『道具』扱いなんて御免(ごめん)よ。

 あ~。

 でも、洗面所の明かりがなかったから、小窓から見える庭のお花がいつもより綺麗に見えたかな。大地から伸びて、力強く咲いているの。特に、黄色いお花が綺麗だった。お月様色だから」


「三日月――ルイーナは、今日も元気そうだったのかな。

 この前、本屋で立ち読みをしていたので横に立ってやったら気づいてくれなかった。まったく、ハイスクールに通うようになると、親の事などまるで無視だ。小さい頃は、僕の手にしがみついて離れなかったのに」


「デート中だったんでしょ? 彼女ができたら、男の子なんてそんなものよ。

 ふふ。

 いつか、誰かにルイーナをとられたら寂しいのかな~って考えた事あったけど、それが、いつか誰かにとられたら寂しいのかな~と思っていた、娘のようなエルリーンになるなんて――うん、今日も元気そうだったわよ。二人ともね」


「お嬢さんにルイーナをとられるのなら、僕も何も言うまいというやつだ。

 カレーライスできたよ。

 日当たりのよい、窓際のカウンターテーブルで食べるかい。庭を眺めながら、横並びに座って昼食を済ませるというのは、どうだろう?」


「エリオットの横に座るのがついでなら、付き合ってあげる。お庭を眺めるのがメインだからね。

 ランチョンマット用意しておくわ。エリオットが、私の事を『家族』と勘違いして『道具』だと思い込んで、準備を手伝えと命令してくる前に自分から動くの」


「ありがとう、アリス。助かるよ。僕は、まだサラダの仕上げがあるからね。

 『道具』として使うのは、チーズの上にかける黒胡椒を挽くミルにしておくよ。

 おや。

 スプーンとフォークまで用意してくれたのか!」


「ブラックベスト姿の上にエプロンをつけて、真剣にお料理してくれていたから、私も配慮しただけ。『家族』じゃないからこそ、気をつかっただけよ。いつも言っているけど、勘違いしないでね、エリオット。

 リビングとダイニングの(さかい)が分からない間取りの集合住宅の一階で、(あと)は寝室しかない。部屋が狭過ぎて、二人で一つのベッドを使うしかないなんて、小さなお家しか用意できないエリオットのお嫁さんに、私がなる訳ないじゃない」


「でも、庭付きだから一緒に住んでくれる――窓の外に『大空しかない』家なら、常軌(じょうき)(いっ)するような広さだろうが、最高級調度を並べようが、アリスは、僕の手に堕ちてくれなかった」


「ちょっと……サラダとカレーライスのお皿をカウンターテーブルに置きにきたついでに……私を抱きしめないで……早く食べましょう」


「早く夜がきて、君を食べたいな……ふふ。少し緊張したのかな? 顔が赤いようだ。冗談だよ、今はね。

 あはは。

 不満を表情に浮かべて、そんなに怒らなくてもいいじゃないか!

 プレゼントした黄色いワンピースを早速着てくれていたので、早めに抱きしめてやらないと失礼かと思っただけさ。朝出掛ける時は、荷物で君の両手と背中が(ふさ)がっていて、軽いキスで済ませてしまったじゃないか」


「う~。

 お昼ご飯……の時間だから……」


「はいはい。お昼ご飯――の時間だから。

 ほら、アリス。今の君は、心も身体も自由だよ。

 ああ。

 それにしても、今日は天気がいいね。

 世界が、明るく感じる。

 僕を――戦争の火種を否定したルイーナが生み出した世界。あの子が一人で発揮したカリスマが肯定された(うつつ)だ。

 エリオット・ジールゲンの威光を(のこ)す為の『sagacity』もなければ、()を隠す為のタワー『スカイ・オブ・パーツ』もない。そう、すべてルイーナの力がなした。あの子が自由に空を羽ばたける未来に辿(たど)り着いたので、親の僕は不用品になったんだ」


「エリオット。

 不用品になる為には、まず、存在する必要があるんじゃない? だから、ルイーナと世界からポイしてもらえたのよ」


「捨てられるのがゴミの価値か……あははっ。

 アリスっ!

 君は、本当に面白い事を言う。ますます一生手放したくなくなった。ふふ。逃げる事など考えるなよ。さあ、こちらに来るんだ! このエリオット・ジールゲンの胸の中へ。

 天王寺アリス。これは、命令だっ」


「お断りするわ。

 ――エリオットが、もう一度、私の胸の中にくればいいじゃない。これは、命令よ」


「ふふ。『家族』でないからこそ、そうやって大胆に言ってもらえるのなら嬉しいな。

 遠慮はいらないようだ。昔からそうであったように、僕の方がアリス姉さんの胸の中に飛び込ませてもらおう。

 そうだな。幼い頃に思い描いた、アリス姉さんとの生活の舞台は、こんな小さな家だった気がする。庭はほしかったが――地下室が用意できないほど、狭い土地でよかったんだ。

 ……ははっ。

 世界から捨てられた不用品の僕は、最高のリサイクル生活をしているのかね」


「あー。

 リサイクル可能になったって事は、『不用品』から『不要品』に格上げになったって事かしら?

 要る方。

 使う時だけ、要る方。まだ使えるものの方。ご飯も作ってくれるし、電球交換もしてくれるし、たしかに捨てなくてもいい。

 リサイクル品に格上げ。

 まだまだゴミ箱行きにはもったいない役に立つエリオットを、あの時、拾っておいてよかった」


「では、あの時の話をしながら昼食を済ませようか?

 話題がなければ、今度の旅行はどこに行こうという話か、新作のチーズカツサンドのレシピの話でもしようかと思っていたが――あの時の懐かしい話をしよう。

 天王寺アリスとエリオット・ジールゲンだけしか知らない、今は存在しないタワー『スカイ・オブ・パーツ』での出来事だ」


↓ ↓ ↓ ↓ ↓

 次回が最終話になります。


【※】

 35章ラスト回と『2話分、同日』投稿しています。


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