darling child
The Sky of Parts[35]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
【※】36章前半を続けて投稿します。
「ルイ、今日も迫力ある演説してたな。
あたしも、張りのある通る声とか……演説技術を勉強してるんだけど、ルイには勝てない気がする」
「う~ん。
ずるい事に、演説内容を考えたり、それをひけらかすように喋る才能は、父上からもらったし、土壇場だろうと勇気を振り絞って突き進める根性は、母上からもらったから――努力していないかも。
エルリーンにだから言うけど、実は、そんなゴメンな感じ……」
「ま。いいんじゃないか。
それは、ルイは、ルイだからって事で。
あー。
あれ、やっぱりよかったな。ファーストキスのルイの演説!
……お、思い出しただけでドキドキしてきた……キ、キスしたし……」
「……エルリーンに、そう言ってもらえると、あの日があってよかったって思えてくる。
顔が一気に真っ赤になるほど、嬉しかったの?
オレとのファーストキス」
「うん。
大事で、嬉しい思い出。
あたしにとって、人生で、最高の日だったよ。
――戦争が終わる事で父さんの仇が討てて、世界のすべてが解き放たれて、本当に自由を得られたんだって。
あたし、女の子として生きてもいいんだって思った」
「相変わらずオレは、エルリーンにゴチンされまくりだけど、エルリーンがエルリーンだからいいや。それが、エルリーンが望んだ、女の子としての生き方って事だからね。
エルリーンは、オレの最高の彼女で、愛しい人。あの日――オレの十三歳の誕生日に強く強く実感できた。
鳥カゴの外の世界に放たれたからこそ得られた幸せ。タワー『スカイ・オブ・パーツ』の日常を失わないと、到達できなかった未来なんだ」
「ルイ……。
あのさ、この前も同じような事を言っていた時に、タワー『スカイ・オブ・パーツ』での暮らしは、偽りの日常だったって言ってたけど、違うと思う」
「え?」
「外では独裁者やってた父親だろうが、『敵対』同士の両親だろうが、ルイにとっては、真実の日常だったんだって。
それは、それで、受け止めておけばいいんだ。
その上で、あたしとのこれからの日常――幸せだって思って築いていってくれたら、あたしは、すごく嬉しいな」
「エルリーン……本当に、ありがとう。
うん。そうするね。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』は、オレを閉じ込めて、苦しめていた場所じゃない。あそこは、オレを護り、慈しみ育ててくれた人たちと過ごした場所の一つ――そう思う事を許してくれて、ありがとう。
生まれてしまって、育てられてしまった事、エルリーンを愛する為に必要だったと思わせてくれて、ありがとう」
「う……て、照れるから……合法にして適当にして特権発動のお茶濁しする。
うちの下っ端の竹内イチロウが、整髪料のにおい振りまきながら言ってきたよ。
軍の監視カメラを強化したいって。
いろいろとやらかしてくれて、軍の資金繰りを悪化させた大学の先輩夫婦を指名手配する目的だと聞いたから、あたし、即座にハンコ押して承認しておいた。
まあ、本気になられると監視カメラとか映らない人たちだから、効果ないかもだけど……逆を言えば、小鳥のところに親鳥が舞い戻る事があるかもしれないって話さ」
「――そうだね。
戻ってきたら、世界の代表として、イタズラしてやろうかな」
「はは。いいなっ! してやろう!
あたし、あいつを、まだ一発殴っていないんだ! だから、イタズラぐらい、どうって事ないって!
結婚――させちゃえばよいんじゃないか? 戻ってきても、まだしてないって言うだろ、あの二人」
「あはは。面白そう!
あの手この手で、母上は阻止してくると思う!
あー。
でも、意外とね、父上も、オレから結婚しろなんて言われたら、どぎまぎして、のらりくらりと話をそらすと思うよ!」
「あいつが嫌がるなら、あたしは全面協力する! ルイと連合を組んで、婚姻届けにサインさせてやる!」
「二人を見つけ出したら、やってやろうっ。
あははは……あ、でも、エルリーン、今は――」
「うわ……ルイ!
めちゃくちゃ真面目な顔してる……キ、キスですよね……キスの要求ですよね……」
「うん。エルリーン。
唇を重ねて、オレと一緒に、ファーストキスの時の事を思い出してほしいな」
「うん。いいよ。ルイ、愛してる」
「うん、オレもだよ。
エルリーン、愛してる」
* * * * *
『ルイ、演説みたいなのって……あ、手を握ってほしいって事? 手を伸ばしてきて……分かった。
あたしなんかでよければ、横に立っていてやるよ。ただ黙っている事ぐらいしかできないかもしれないけど』
『十分だよ、エルリーン。今のオレには、それが必要。頑張ってみる』
『心の中で応援するしかできないけど、それが、握った手から伝わるといいな。
そう、思ってるよ。
あたしの想いが伝わったのなら、一度だけ、無言で頷いて。
……ありがとう。
頷いてくれて。
じゃあ、聞かせてほしい。
天王寺ルイーナの演説っていうのを――』
『……うろたえる事など何もない。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』は、旧なる閉ざされた世界――鳥籠だ。
我が父、エリオット・ジールゲンが、暴虐の末に組み上げてしまった果てそのもの。けれども、世界は結びを迎えなかった。
悉皆、取り除かれて然るべきだったという事だ。
心胆を寒からしめるような偽りの信拠にすがる時代は、終わりを告げた。巣立ちを阻む鳥籠の崩壊は、その証であり、次の時代の始まりにすぎない。
あれは、虚無の塔。
初めから何もなかったのだ。
数奇に引き込まれる事を避けたく、慶福を呼び込みたいと考えるのが人の常。
矛盾の影響下にある事は、並みたるが故。
だからこそ、人は、無限に転生を繰り返すように、描かれ続ける己が心を、外なる世界に放ち続ける。
互いを絡めあう為に、伝えあうのではない。
現と魂の境界線が、曖昧であるが故に、互いを求め惹かれあう。
他が放つ異彩に辿り着こうと、堪え忍ぶ覚悟をもって、まだ見ぬ向後の大地に向かって、羽ばたき飛び立つ。
生を求める心が、終焉の地にゆき着く事はない。
覆う幕がなくなったこの空のように、今より築かれていく新世界は、自由であり、多くの歓びに満ちている。
皆が望む間は、ずっと、ずっと』
『ルイ。あのさ……うん。
あたし、望むよ……これから、幸せになれるって! ルイが、幸せになれるって!
だから……生きて……タワー『スカイ・オブ・パーツ』が、なくなっても……生きて……一緒に……あたしと、ずっと、ずっと、一緒にいて……あ!』
『うん。
エルリーン、一緒にいて。
……もう少し、強く抱いていい?
断らないで……エルリーンの顔を、しっかりと見せて。
オレの顔も見て。
鳥カゴ……なくなってしまったから。エルリーン、そばにいて。手を握っていてくれるだけでもいいから……ただ黙って、横に立っているだけでもいいから……一緒にいて……ずっと……ずっと……』
『ルイ……本当に、あたしでいいなら……キスして……それから、また、強く抱きしめてほしい』
『うん……ありがとう。
エルリーン、愛してるよ……今までも、これからも』
『あたしも、ルイを心の底から愛してるよ。
新しい時代を、一緒に生きていこう。今、あたしたちを祝福してくれている世界のみんなと共に』
『YES、エルリーン。もう一度、言わせて。
――愛してる』
* * * * *
【天王寺アリスが、何かを書き始めようとしたが、その後、続きが書かれる事がなかった文章である】
これは、戦争によって、父母を天に抛るしかなかった――父親からもらった青い瞳を持つ少年が、少し年上のお姉ちゃんに出会い、希望を持って生きていく事を願う、祈祷の書。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
【※】
最後の一文そのままの意味で、まだ続きます。
【※】
36章前半を続けて投稿します。