dearest wish
The Sky of Parts[35]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
『ダノンっ!
何があったか知らないけど、軍師殿にキツい態度じゃなかったかいっ』
『エルリーンも、その女から離れろっ。
そいつは、天王寺アリスなんて名前の人間じゃない――悪魔に魂を売って、自分も悪魔になったヤツだ!』
『いい加減にしろって……きゃっ! な、なにするんだよ!
ダノン……あたしに何か投げつけてきて……何、これ? 写真を紐で束ねたやつ? この一番上の写真……えっと、あれだ。軍の本拠地のタワー『スカイ・オブ・パーツ』。
これと軍師殿にヒドイ事を言うのと何が関係あるっていうんだいっ』
『ふん。
そこに行きたいんだろ? アンタの本当の目的地なんだろ? 会いたいんだろっ!
……後は、その女に聞けよ。
エルリーンは、俺の妹になる予定があるんだっ。分かっていると思うが、手を出したらタダじゃ済まないぞ!
なあ。
アリス……いや、やめておいてやるよ。それ以上先を、今言うのはな』
『謝れって! ダノン、何があったにしても、軍師殿に謝れってっ!
おいっ……ナゾナゾをいっぱい残して、どっか行くなよっ!
べーだっ!
ダノンが兄ちゃんになっても、軍師殿に謝るまで、口きいてやらないからなっ』
『……エルリーン、私は大丈夫。
私が悪いの。ダノンを怒らせるような事をしてしまっただけ。
だから、ダノンを許してあげて』
『うーん……軍師殿が許してあげてと言うなら……うん。
分かった、ダノンを許さないけど、許すよ。
っていうか、これ、何?
ダノンが投げつけてきた写真束。
……タワー『スカイ・オブ・パーツ』の写真ばかり……あれ、下の方、これ、エリオット・ジールゲンの写真ばかりじゃないか。
ああ。
なんだ、ダノンのやつ、ミューリーさんからのサクセン資料か何かを届けにきたのか。
最近、母ちゃんのミューリーさんにも冷たい態度みたいだし、ダノンは噂のハンコウキってやつなのかね……』
『エルリーン。
ダノンとミューリーの仲が悪くなってしまったのも、全部、私が悪いの……私が……』
『え……軍師殿、泣かないで。
あ、あたしは大丈夫だよ! ダノンの事、ちゃんと許すから! 言ってやりたい事を言ったら、ネニモツとかしないシュギ!
……は、話を変えようっ!
だからさ、泣かないで軍師殿。エルリーンからのお願い』
『ふふ……エルリーンは、本当に名軍師ね……私を泣き止ませるコツをよく知っている……うん。
まだ七歳なのに、すごいわ。
貴女なら、天王寺アリスなんかよりも、ずっと素敵な女性になれる。きっとね』
『本当っ。へへ、大好きな軍師殿にホメられると、すごく嬉しいな!
……あー。でも、やっぱりちょっとザンネン。
軍師殿の事、大好きなだけに……うちの父さんとは結婚できないって、はっきり言われちゃった事。
しょぼん。
でも、そうだよね……軍師殿にだって、大好きな人はいるんだよね。
聞いた時、すげぇムカつくって思ったし、今でもムカつくし、顔合わせる事があったら、ずっとムカついた顔してそうだけど、軍師殿は、前の旦那さんが今でも好きなんだよね?
しょぼん』
『……どうなのかしら。
息子を生んだ時は、そうだったのかもしれないけど……エルリーンに今聞かれて……よく分からなくなってきてしまった。本当は、彼の事をどう思っていたんだろうって。戦争がなかったとしても、どうしていたんだろう……』
『軍の人なんだよね。前の旦那さん。
その事を気にしているの? でも、リリンと同じだよ。あたし、リリンは大好きだ。ノアの事も、実の弟のように可愛いよ』
『大学の後輩……だと思っていた人よ。
息子の父親はね。
軍人を目指していたのは知っていたし、息子がおなかに宿った時、すでに軍人になっていたのは聞いていたの……でも――』
『軍師殿、悲しい顔をしないで……そんなヤツの写真なんか見てるからだよ……ごめん。
さっき、あたしが一枚渡しちゃったから。
エリオット・ジールゲン。
こいつが、世界を巻き込むような戦争を起こさなければ、軍師殿は、前の旦那さんとイヤな関係にならなかったんだよっ! あらためてムカつくっ!
まかせて!
あたしが、もうちょっと大きくなったら、とっ捕まえてやる!
それで、軍師殿にも、リリンにも、世界のみんなにも『ごめんなさい』って言わせてやるんだ!
だからさ、泣かないで、軍師殿。
……大丈夫だって。軍に捕まってる息子さん、あたしが、必ず助け出してあげるよ。
あー、そっか。
ここ、タワー『スカイ・オブ・パーツ』に、軍師殿の息子さんがいるかもって事か。軍の本拠地だから。
くそっ。
そう思うと、軍師殿の息子さんが、エリオット・ジールゲンのヤツにヒドイ目にあわされてるんじゃないかって……本当に、ムカつくっ! 絶対にあたしが、一発殴ってやる』
『あの子が……エリオット・ジールゲンに……』
『うわわわ……ああ! ごめん、ごめん! 本気で、大粒の涙……。
ぐ、軍師殿!
ごめん。言い方が悪かったよ! あたしが、悪かったよっ。
違う違う!
軍師殿が、息子さんと一緒にいられないのが、こいつ――エリオット・ジールゲンのせいだって意味っ。
ほら!
リリンだって、軍の施設にいたけど、ヒドイ事されてたって訳じゃない。自由に部屋の外には出れなかったらしいけど、ノアの父ちゃんが護ってくれていたって話だから……その……あの。
大丈夫だって!
軍人だっていう、軍師殿の前の旦那さんが、息子さんを護ってくれてるって。
いつだったか、軍師殿が言っていたじゃないか。
前の旦那さんは、料理がすごい上手だったって。あれ? お医者になれるぐらいの人だったんだっけ? じゃあ、息子さんは、ちゃんとおいしいもの食べてるだろうし、病気になっても大丈夫じゃないかな!
心配いらないよ。
エリオット・ジールゲンの軍を倒して、助け出せたら、元気な息子さんに会えるって事じゃないか!
ん……。
でも、軍人の父ちゃんと一緒にいるから……軍の人間になってしまうかもしれないのか……あっ!
ご、ごめん!
今のは忘れて! ごめん!』
『ううん。大丈夫よ、エルリーン。
私の方こそ、泣いたり、不安な顔を見せてしまって、ごめんなさい。
……そうね。でも、なぜか、そうはならなかった。それが今でも、唯一、あの子の父親を信じられる事』
『へ?
えっと……息子さんが、軍の人間になっていないって事?
あれ?
でも、軍師殿の息子さんって、あたしよりも二つ下。だから、まだ五歳だよね? いやぁ……エリオット・ジールゲンの軍が悪い事ばかりしていても、五歳の子供を戦争に連れて行かないだろ……そんな事あったら、軍のヤツら、完全に人間やめてるよ』
『……母親の私が、反乱組織に手を貸しているのは、おそらく気づかれているわ。
人質の用意があると強調する為に、パフォーマンスとして、息子を御披露目してくるのではないかと思っていたけど、何もないの。それが、起こっていないのが、とてもありがたいと思う反面、無事かどうかの確認がまったくできていない……』
『あれだ!
この前、基地の勉強部屋で教えてもらった!
タヨりのないのはよいタヨり……だっけ? えっと、あってる? 何も起こっていないんだから……うん!
軍師殿は、前の旦那さんを信じてやればいいじゃないか。息子さんの父親なんでしょ?』
『え?』
『きっと、前の旦那さんが、息子さんを護ってくれてるって!
再会できたら、三人で一緒に暮らせばいいじゃないか! リリンだって、ノアの父ちゃんにもう一度会いたいって言ってた。あたしも、リリンの夢は叶ったらいいなって思う』
『エルリーン……ありがとう。
貴女が、私を心配してくれている気持ち、伝わってきてるわ。
でも、そんな事になったら、私は、エルリーンたちの敵になってしまう。天王寺アリスでは、なくなってしまう――』
『戦争を終わらせればいいじゃないか!
そうしたら、軍師殿とリリンが敵になる事もなく、旦那とも、息子とも一緒にいられるって事でしょ?
うん。
あたし、絶対に戦争を終わらせるよ!
エルリーン・インヴァリッドは、もう七歳なんだっ! あたしが、ちょっと頑張れば戦争なんてポイってやって、ゴミ箱行きにできるさ!』
『……エルリーン』
『空から急に落ちてくるかもしれないじゃないか。これは、戦争を終わらせるチャンスだよ~っていうのが。
あたしの目の前に、ソレが落ちてきたら、絶対にひろうよ。
使って、絶対に戦争を終わらせてやるんだっ。あたしの大好きな人たちが、ずっと笑っていられる日が来るんだ。
ダノンだって……戦争さえ終われば、学校に行けるし、いつもあんなにキンチョーする必要なくなると思うんだよね。
母親のミューリーさんが、ここのリーダーだから。
あたしの父さんもだけど、軍事施設の襲撃とかしちゃって、軍からニラまれているから、子供のあたしたちも街の学校に行けない。父さん、軍のエライ奴をサシでぶっ倒した事もあるから、本気で命狙われてるし……。
あっ! 基地の勉強部屋で、ダノンやノアや、みんなとワイワイやってるのも楽しいよ。
だけど、街の学校ってやつには、憧れるんだ。
行ってみたいなって。
戦争が終われば、あたしのその夢も叶うよ。
ほら、軍師殿。
戦争が終わればいい事ばかりだよ。あたしが、戦争なんて二度と起こらないようにしてやるつもりさ!』
『エルリーンなら、そんな無茶としか思えないような夢を、物語の世界ではなく、現実にしてしまいそう。
本当に、不思議な子。
私も、ミューリーも、いつも言っているの。エルリーンは、いつか、天王寺アリスやミューリー・イレンズを超えるような輝く女性になるって。太陽のように力強い光を、みんなに与えてくれる気がする』
『おー! まかせておいて!
助け出したら、軍師殿の息子さんも、あたしの太陽パワーで照らしてあげるよ!
あっ、正式にリッコウホしておいていい?』
『え? エルリーン、何を?』
『あれ。
父さんと軍師殿が結婚っていうのが無理なら、あたしが、軍師殿の息子さんと結婚してやるーってやつ。
お嫁さんにエントリーしちゃうんだ!
あ。
でも、カンチガイしないで。もしも、軍師殿の息子さんが、あたしのタイプじゃなかったら、そもそも付き合うのもしない! あたしが、好きになってしまったら、結婚してもいい?』
『え……でも、あの子の父親……えっと……軍の人間なのよ……?』
『さっきから言ってるでしょ。かまうものかって。
あたしが、好きになるかが大事じゃない。
ふふーん。
息子さんと結婚しちゃったら、軍師殿は、あたしのおかあさんになるしかない! 絶対に、おかあさんになってよ!
大丈夫だって。
息子さんの父親、前の旦那さんの事はずっとムカつくと思うけど、きっと許せるよ。
軍の人間ってだけなんだ。
悪いのは、全部戦争なんだ。あたしが、戦争を紙クズみたいにグチャグチャにして、はい、さようなら~ってするから、問題ない。
だから軍師殿も、戦争が終わったら、前の旦那さんと一緒にいるのを楽しみなよ。
だってさ、息子さんを、あたしがもらってしまっているかもしれないんだよ? 母親の軍師殿の相手をしてくれないかもしれないんだよ?
じゃあ、軍師殿は、大好きだっていう前の旦那さんと仲良くするしかないじゃないか!』
『エルリーン。ありがとう。
……私、決めたわ……貴女のおかげで決心がついたわ。エリオット・ジールゲンという存在が――否定される世界を必ず作るって』
『うん。あたしも、いっぱい協力するから、戦争を終わらせようね』
『……エルリーン。
貴女や息子が、ずっと、ずっと、笑っていられる時代を、この天王寺アリスが、必ず作ってあげる――絶対に』
* * * * *
「うん。エルリーンが、そばにいてくれるなら……オレは、大丈夫。
だって、オレは、エリオット・ジールゲンと天王寺アリスの息子――ルイーナなんだから。
ねえ、オレ、勇気を使ってもいい?
父上と母上からもらったものを使ってみたい。歌じゃなくて、演説みたいなものをしてみてもいい? 作文を読み上げようと思っていたけど、演説にしてみる。
込められているのは、オレの想い。聞いて――」
* * * * *
『アリス、頑張って……僕らの赤ちゃんも、頑張っているから……頑張って……三人が一緒にいられる未来は、すぐそこだよ』