miss you
The Sky of Parts[35]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
【作文】
ぼくには、本当は、お父さんとお母さんがいます。戦争によって、離れる事になっただけです。
辛いとは思いません。
戦争によって、お父さんとお母さんを奪われた子供たちが、そして逆に、子供を奪われた方も大勢いるはずです。
それをしたのは、ぼくのお父さんだからです。
ぼくのお父さんが行ったのは、いけない事です。許されるべきではないと思います。
ほしいです。
戦争を終わらせる事ができる力というものが、ほしいです。
心の底から、ほしいんです。
ですが、もしも、ぼくにその力があったとしても、ぼくのお父さんは許されるべきではないと思います。
なのに、クラスのみんなは、お父さんの子である……ぼくを許してくれました。
受け入れてくれました。
すべてを否定されるべき、お父さんの子であるぼくに、出会いもくれたんです。
将来、結婚したいなと思う人を、ぼくにくれました。
消えてしまった人たちを取り戻す事は、決してできません……少し大きくなったぼくには、もう分かるんです。もちろん、返してあげられるのなら、返してあげたい……なぜ、それができないのだろうと、悔しく思います。
もし、いまのぼくに、戦争を終わらせる事ができる力というものが、本当にあるとしたら、世界のみなさんの為に、未来を築いていきたいと思います。
だから、ぼくは、彼女をこれからも愛し、いつかは共に戦争のない時代を作りたいと考えるようになりました。同じように願う、みなさんと一緒に。
そうなったら、ぼくは、再び辿り着けるのかもしれません。戦争を知らずに生きてしまっていた、あの頃に――。
その日に向かって、ぼくは、これからも強く生きていきます。
* * * * *
『アリス。
君は、今、返事ができないかもしれないが――会えるよ。もうすぐ、赤ちゃんに。僕らの子供に会えるよ。
そばにいさせてくれて、ありがとう。
もうすぐ、三人になるよ。三人で一緒にいよう。ずっと、ずっと』
* * * * *
「ル……ルイっ!
きたぞ……遅れてごめん……今、目の前に行くから……大丈夫。
あたしは、絶対にルイのそばに……一緒にいるから。ずっと、ずっと」
* * * * *
『え……あの……閣下。
それは、全寮制の学校の事ですよね?
竹内イチロウなどが申し上げると差し出がましいと思いますが、ルイーナ様を、外に出すおつもりですか?』
『……ルイーナ。あの子は、次は六歳だ。
隠し育てるにしても、もうこのタワー『スカイ・オブ・パーツ』では限界だ。むしろ、よく五年以上も、漏洩する事がなかったと思っているぐらいだ。
ふふ。
タケが徹底的に、僕に協力してくれたおかげなのだが――感謝している』
『先日、遊び相手をしている時に、御父上から軍に入ったら少佐にしてもらえるような事を言われたと、ルイーナ様が仰っていました。
閣下。
先ほどに続き、配下である竹内イチロウが、無遠慮に申し上げますが、ルイーナ様を外に出すおつもりがあるのでしたら、いっそのこと軍務に携わらせては如何でしょうか?
幼いルイーナ様に、現場指揮官になれるほどの階級を与えてもお飾りになると思いますが、たしかに閣下のおそばに仕えるには必要だと考えます。
父親でもある閣下が、一から教育をする為だと皆に言って聞かせれば、その程度の階級では、異論は出ないはず。
我が軍は、閣下の私物も同然なのですから。
そして、幼いルイーナ様が、地位に見合った以上の能力を発揮できれば、閣下の御偉功をたたえ――』
『タケ。気づいていると思うが、無理だ。
ルイーナには、軍人になる才能が、まったくない。
……ルイーナの存在が露見するような事態になるのなら、軍属扱いでピアノ弾きにさせようかと考えた事はあるがな。
どうしてか――多くの著名な軍人を輩出してきた名門、天王寺家の直系で、その上、このエリオット・ジールゲンの息子であるはずなのに。
母親が、軍人思考を本気で捨てていた頃に宿り、生まれ落ちたからなのか……不思議なほど、あの子は、戦争から遠い考え方をしている。
臆病ではないと思うし、弱くもない。勉強もよくできるのだが、困ったものだ』
『しかし、閣下の御手を離れる方が、よほど危険かと思います。
戦線から遠いような辺境は、逆を言えば我が軍の影響が及びにくい場所。逆賊によるルイーナ様の略取などが懸念されます。
でしたら、都のどこかの学校に入学させるのは、如何でしょうか?
竹内イチロウといたしましては、閣下に御子息がいるのを公表すれば、軍の管理対象としてルイーナ様の身辺警護を務める親衛隊のようなものを組織する事も可能だと考えます。
ルイーナ様は、歌やピアノがとてもお上手です。
エンターテイメントが行える者として、閣下のおそばに置くのはよいのではないでしょうか? ルイーナ様はまだ幼いですし、その形で軍属にするのはとてもよいと思います。
無理に相応以上の地位を用意しなくても、将官クラスの前にも顔を出せます。
閣下の特別な寵を受ける軍属という事であれば、私も、公私でのルイーナ様への接し方を大幅に変更しなくてよいです。
『sagacity』が完成した後、ルイーナ様が、閣下の権威を引き継ぐ事になるのでしたら、そろそろ御披露目には、よい頃合いではないかと』
『――タケ。
その案は、このエリオット・ジールゲンが預かっておく。
お前を軽んじるつもりは、まったくないが、僕が命じた通りにしてくれるか』
『……御意のとおりに。
エリオット・ジールゲン閣下の御心のままになるように、取り計らっておきます――ですが……』
『竹内イチロウ。
これは、お前の上官からの絶対的な命令だと受け止めろ。
ルイーナという存在を隠し育てた、協力者としてではなくな』
『では、これは、あなたの大学の後輩である竹内イチロウから言わせていただきます。
無理ですよ。
ルイーナ様という存在は、恐怖政治の指導者の血縁じゃないですか。
はは……無理だよ……このタワー『スカイ・オブ・パーツ』という鳥カゴを失ったら生きていけない。母の胎内に宿った時から、あの子供には、一切の自由がないんだ……先輩だって、分かっているから、ずっと隠し通したんだろ。
私は、家族ではないが、義理の繋がりを感じる。だから、ずっと、ずっと、あなたに協力してきたんだ。
独裁者のあなたに言うこと自体が間違っているのかもしれないが、たまには、この竹内イチロウの気持ちも分かってくださいよ。先輩』
『そんな日が来ると望みたい』
『え?』
『あの子を護る為の鳥カゴ、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』がなくなったとしても、ルイーナが、自由に、笑いながら暮らせる日が来ると望みたい。
――ふ。
これは、悪政の独裁者エリオット・ジールゲンの言葉ではなく、竹内イチロウの大学の先輩である僕の言葉だ。
いや。
ルイーナという子供のただの父親の言葉であり、儚く、そして脆い、夢物語でしかない冀望だ――』
* * * * *
「――ダ、ダノン……『スカイ・オブ・パーツ』が……タワー『スカイ・オブ・パーツ』が……崩れていく……!」
「……っ。
どうして……どうして……こんな事を……俺は、何の為に……ちくしょー! どうしろって言うんだよっ!
……あいつらが!
あいつらが、最後に……二人で手を取りあう映像なんて……どうしろって言うんだぁぁああ!
ルイに……ルイに、なんて言ったら……ふざけるなっ!
ちくしょー! ちくしょー……ううっ」
* * * * *
「……竹内イチロウが、報告しておきます。
ルイーナ様は、歌い終わると同時に上空から舞いおりてきたご婚約者さまと、今は共にいます。
きっと、気づいていると思うんですよ、ルイーナ様。
ですが、崩れ落ち瓦礫と化していく、眼前のタワー『スカイ・オブ・パーツ』を見ても、涙を流していませんよ。
新世界の神になられたお方です。このまま、舞台をおりるまで、平静を保つおつもりではないかと思います。
強くなられましたね。
あなたが取り上げた嬰児は、泣いてばかりだったのに。
あなたの事です。
どこかで見ていて、知っている事ばかりなのかもしれませんが――また、報告しますね。
……それにしても。
なんだったのでしょう。
ヘリの座席の下にあった、空っぽの邪魔な荷物。
あ。
竹内イチロウは、星占いのようなものを、もう信じるつもりはありませんので、よろしくお願いします。当たっている訳ありませんよ。
――あの時だって、当たらなかったじゃないですか。
だから、こんな終わり方は、認めません。
ね?」
* * * * *
『エリオット……つき……月、出てるの……三日月……しんげつ……早く、この子にも、見せてあげたくて……うん、頑張ろう。
三人で……ずっと、ずっと……いっしょに、いるために』
* * * * *
「ルイ……っ!
あたしが、一緒にいるから……これからも、ずっと……ずっと……だから……な」
【※】
36章がラストです(今は35章)。バッドエンドにはなりませんので、ご安心ください(個人の好みはあると思いますが『ハッピーエンド』を用意しています)。
【!】
書きとしては「ENTERTAINMENT」=「(エンターテインメント)」ですが、対話体小説になりますので、口語の『エンターテイメント』を採用しました。