be repatriated
The Sky of Parts[35]
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この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
『おはよう……うわっ!
け、今朝も、うちの両親の全身から『敵対』していますが放たれている……はぁ……朝のさわやかな日差しも、パンの香ばしい匂いも台無しだ。
うーん。
今日は、どうするかな……。
仲良くしろって言うと――あれ、なんだっけ?
アンビバレンスだったか、両価性だったか……母上が、反対になるからどうとか言っていたな。
母上の話の内容、イマイチ意味が分からなかったけど……いや、愛と憎しみが同時に存在するとかだった気がする……ん~?
って事は、父上と母上は、ちゃんと愛し合っているって事かな?
よーし。
う……うわぁああ!
二人の可愛い息子のルイーナくんが、クッションたちに捕まった!
た、助けて!
助けてっ。父上と母上で、力を合わせて……助けにきてください! お、お願いします……や、やられるっ! うわっ。
がくっ……は、早く!
……へへっ。
父上も、母上もきてくれたね!
ふふーん。これは、オレの罠です! 残念っ。
はい。ダマされたんだから――オレの指示に従ってもらいます。食卓についたら、オレが昨晩寝る前に読んだ本の感想を、延々と聞きます。二人でね。
それで、ちゃんと反応する事!
相槌だけ禁止。
一人三つ以上の意見を出します!
ディスカッション。つまり、情報を交換し共有する場。話し合いなんで、よろしく!
あはは。
父上も、母上も、目が点になってる!
でも、許さない!
オレを愛してるっていうなら、オレの言う通りにしてよね! ずっと、ずっとね。あはは』
* * * * *
「あ……ルイ、歌っているのか……ごめん。
最初の最初から、そばで聴けなくて……でも、今行くからな。
おいっ。
整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎っ! 急げって! このヘリ、もっと早く飛べないのかっ!」
「コイツは、軍の試作機だ。竹内イチロウが知る限り、世界最速だ!
私だって、早くルイーナ様のところへ行きたい……あの山からは――ルイーナ様の目には、タワー『スカイ・オブ・パーツ』が、とてもよく見えているはずだからな……」
* * * * *
『ルイーナ、新しいお家だ。今日から、父上とお前は、ここに住むんだ。
おや。
頬をぷくっと膨らませたな。非常に可愛らしいので、何が不服か、特別に聞いてやろう』
『ちちうえ、どこかいっちゃうんでしょ……ボク、おいていかれる』
『仕方がないんだ、ルイーナ。
父上は、今から、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』完成の観兵式に出席しなければならない。
お手伝いロボットさんたちと、いい子でお留守番していてくれ。
ルイーナは、もう、三歳のお兄ちゃんじゃないか。
ほら、ご覧。
このリビングの窓からは、お外がよく見えるだろ? こういうのを、景色がよいと言うのだよ。
これが、父上の支配する世界。
ルイーナ。
お前には、僕の――エリオット・ジールゲンの子として、最高の暮らしを与えてやる。必ず、幸せにする。だから、いい子で待っていてくれないか?』
『ボク、ちちうえといきたい……さいこうのくらしいらない。しあわせいらない。いい子じゃないもん。
ついてく。つれていって。
お外、こんなにきれい。だから、あぶなくない。つれていって……』
『ルイーナ。
お外は、今、本当に危険なんだ。
僕は、少し怖いんだ。巷で見受ける……あの戦術……お前と同じ赤髪の……いや、何でもない。
とにかく、駄目だ。
待っていなさい。いい子でないと言うのなら、なおさらだ』
『やだやだ!
だっこ、だっこして! 外まで、だっこ。ボクもいく! だっこ、だっこ!
……う~。
うん……。
このまま、ずっと、ずっと、だっこ。ちちうえといっしょ。ちちうえだけいればいい』
『抱きしめてやるのは、タケが呼びに来るまでだ。
お前がどれほど可愛らしい声で叫んでも、父上の答えを変える事はできない。分かってくれ。本当に愛しているから、お前を護りたいから、外には出せない。
だが、約束しよう。
お前を安全に外で過ごさせてやれるようになったら、必ずそうすると。外の方が、安全だという状況になれば、もう、このタワー『スカイ・オブ・パーツ』はいらない。
そして、僕のそばにいない事が、お前を護ってやるのと同義であるというのなら――そうしなくてはな。
おや。
すまない!
泣くな、泣くな!
そんな日がきては、父上だって悲しいよ。ルイーナは、僕のそばにずっといるんだ。ずっと、ずっとな』
* * * * *
「ダイナマイト……そんな量が、一気に爆発したら!
ふざけるな!
エリオット・ジールゲン!
そこには……そこには、ルイの歌が届いていないのか……俺の端末を通して、聴こえているんだろ……呼んでいるんだよ! 親鳥をっ!
小鳥は、もう親鳥から引き離されなくなり、隔たるものもないって……親の胸の中に、腕の中に……それを許してくれた世界の人々に、神の歌を捧げるそうだっ!
許されるはずもない、お前を許してもらえたから……親鳥のそばにいられるようになったから、皆が平和しか願えない世界を作るって。
ルイーナが、その心身を捧げて、戦争がある時代を閉じ込める為の扉が二度と開かないように鎹を打ち込むって……創世神話の神が、唯一望むものが、親の愛なんだよっ!」
『統治者の人。
小鳥は、この僕ではなく、世界の皆を選んだ。
僕よりも価値が高いなどという事を認めるつもりはない。僕が、唯一の存在でないと言うのなら――もう、小鳥のそばにいるはずがないだろ。
ルイーナが創造神となる、創世神話だと言ったな。
では、まったくの新しい世界に、皆の存在が移しかえられる事になる。今は、天地創造以前――まだ、何も起こっていないんだ』
「何が言いたいんだ、エリオット・ジールゲン。お前の言っている事は、俺には分からんっ!
だが、ルイの心の内は、分かってやってほしい。
……頼む」
『ルイーナの心の内だと?
あははは……あいつは、この僕に隠されていたのが、それほどまでに憎いのか? タワー『スカイ・オブ・パーツ』に閉じ込められていた事、怨みがましく思っているっ。
それ故、戦争の象徴であるこの僕を、閉じ込めると言うのか?
扉を閉め、鎹を打ち込んで……ふざけているにもほどがある!
小僧の手に握り潰されるつもりはない!
新世界に渡った後に、降伏を強いられるのなら、僕は、この戦争ある世界に留まるまでだっ!
そう。
新世界は、まだ創造されていない。
このエリオット・ジールゲンと、僕のコピーでしかない『sagacity』! そして、タワー『スカイ・オブ・パーツ』は、悪魔の歌が完成する前に、姿をくらます!
投降などせん!』
「……あんたの妻、俺の組織の軍師だった頃の天王寺アリスは、あんたに投降するつもりだったんだぞ……」
『ふん。
子供の頃の統治者の人と、ひと揉めした時の話か?
アリスの足取りが久々につかめたので、僕も嬉しくなり、面白半分に三文芝居にも劣る会話を聞かせてもらったが』
「違う。
未遂に終わった、タワー『スカイ・オブ・パーツ』への総攻撃の時の話だ。
あの女、俺宛てに、ろくでもないぐらいに正直を言ったメッセージを送りつけてきたんだ……!
『sagacity』本体の乗っ取りは……外部操作可能だが、軍の施設に行くって。それで、わざと捕まる気だと!
小鳥――息子のルイーナだけは、なんとか助けてくれって!
……天王寺アリスは、あんたのそばにいる者として、心の底から愛しているあんたと一緒に最期を迎えたいって、言ってきやがったんだ!」
『――アリス……?
アリス! アリス! アリスっ! どうして! どうして! アリス……アリス……どうして……』
* * * * *
「ルイ! ルイ!
おいっ! 着陸! 整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎! ルイのそばに、ヘリを着陸させろって!
下手くそっ」
「バ、バカを言うな!
小娘。
ルイーナ様が、歌っている舞台周辺には、どう考えても着陸できんだろっ! あんなにたくさんの聴衆がいるんだぞっ。
お前っ!
こ、小娘!
シートベルトを外すな! 危ないっ。
ん?
……その手にしたハシゴ、どうするつもりだ? おい……まさかっ」
「竹内イチロウは、やればできる子か? あたしは――やればできる子だ!
高度を下げろ。
ルイのいる舞台の上に、飛びおりる!」
「は?
ちょ、ちょっと待て……や、やめておけ! こ、小娘っ!」
「これさぁ、ヘリから舞台に飛びおり成功したら、軍の奴らって、あたしを尊敬してくれるんじゃないか?
コイツなら、最前線にでもマジで出てくる上官になる――って思われる為にも、ついでに度胸試しはどうだ?
はい!
未来の上官に向かって、ルイくんの必殺技反転版を使ってみよう!」
「断固……拒否しません……」
「よくできました!
ついでに、逆らえない気分を盛りあげる為に、敬礼してもらうか。
竹内イチロウ。
操縦中だから、もちろん、言葉だけでいいぞ!
はいっ!」
「い……YESっ。
Your Excellencyっ!
……くっ!
小娘ぇ! 必ず、私が毎日、敬礼したくなるような上官になれよっ。いいなっ! いくぞっ!」
* * * * *
『父上! 父上! ねえねえ、遊んで……ボクと遊んでってば、父上っ』
『……ルイーナ。
父上は、お仕事が忙しいから、あっちにいっていなさい。新しいおもちゃを与えてやっただろ? 五歳なんだ、もう少し、一人で遊ぶ事をおぼえなさい』
『やだー!
父上が一緒に遊んでくれなきゃ……やだ、やだやだ、やだやだやだやだっ!』
『分かった……タケを呼んでやるので、少し待ちなさい。
僕の雑用を押しつけてばかりなので、タケも、それほど時間がとれない。あまり無理を言うなよ。
『sagacity』さえ完成すれば、ルイーナ。お前を、自由に外に出してやれるのだがな。
あの人が、力を貸してくれれば、とても近道ができるというのに。だが、あの人は、今や完全に敵だ。
――『sagacity』の餌となりそうな戦闘データを、どんどん提供してくれる相手でもあるが。
弊害が伴っているとしたら、僕と『sagacity』からしても、完全に未知の作戦ばかりが実行されるので、ルイーナをまったく外に出してやれない状況が続いている事だ』
『外って、父上が行くところでしょ。
ボクも行きたいよー。
連れて行って! 外、連れて行ってっ。ねえねえ、父上!』
『……ルイーナ。
父上のお膝においで。
おやおや。
にっこりお顔を見せてくれたな。よしよし、僕の愛し子。ルイーナは、本当に可愛らしい。
それにしても、重くなったな。
そうだ、後で体重をはかろう! 一日で三十グラムずつ増えていた頃は、父親になった新鮮味もあって、何度も何度もはかっていたが、五歳にもなると、測定をついつい怠っていた。
そうか……五歳なんだな。
すでに、五年も隠し育てているのか。もう、この箱庭世界は狭過ぎて当然か』
『せまい。
外ってところが、広いのか分からないけど、お家の中はせまい。
あのね、タケがこの前言ってた。
父上のお仕事を手伝うと、外ってところへ行けるよって。父上とずっと一緒にいられるよって』
『……タケ、余計な事をルイーナに吹き込んでくれたものだ。
ルイーナ。
いずれは、お前にも軍務に携わってほしいと思っている。
だが、それは『sagacity』が完成するか、あるいは――僕以外に、護ってくれる人を、お前のそばにおけるようになってからだ。
父上のお仕事を手伝ってもらう時がきたら、力を貸してくれるか?』
『うん!
ボク、いっぱい、いっぱい、にっこりお顔してあげる。
それで、父上と一緒にいてあげる!』
『はは。分かった、分かった!
それならば、最初は尉官クラスだとしても、父上が皆を言い丸めて、早急に佐官まで特進させないとな。
父上は、お仕事ではとても偉い。
そばにいるのなら、然るべき階級が必要なんだ。しかし、ルイーナがそばにいたいと望んでくれているのなら、願いをかなえてやらねばならない』
『うん! ボク、父上のそばにいるね。ずっと、ずっと――』
* * * * *
「アリス! ……ど、どうして……ここに!」
「どうしてかしら……ね?」
『軍師殿……なんでアンタまで、そんなところに! どうにかしてくれ……頼む。このままじゃ、ルイが独りになってしまうだろ。
ダイナマイトに向かっている火を消してくれ……手遅れになる前に……早く。
アンタたちは、また作るつもりなのか……親を失った子供をなっ! 俺みたいな子供を……やめてくれ……やめてくれよ……頼む』
『おれからも頼む!
軍師殿……バカな真似はやめて、エリオット・ジールゲンと逃げてくれ。
そいつ、ルイのそばにいられないって言いたいんだろ? だったら、遠くにでも行けばいいじゃないか! この世で、一番遠いところにな……だからさ』
「ダノン。ジーンさん。勘違いしないで。これは、復讐なの。
ふふ。
さーてと、エリオット。
あなたは、また、この天王寺アリスに出し抜かれました。私が、常に世界一なの。もう、諦めなさい。
エリオットの一世一代の晴れの舞台――この私が、邪魔してやるわ。
ね?」
「に……逃げてくれ……アリス! 頼む!
……逃げて、お願いだ……どうして、こんな事をするんだ……ひどいよ。
ルイーナが……ルイーナが独りになってしまう……お願いだ! 逃げて……アリス姉さん。
あの時だって……子供の頃に、アリス姉さんが助けたりしなければ、僕は――」
「頬、痛かった? やれやれ、私の手形が残ったまま、新天地に行く事になりそうね。
エリオット。
アリス姉さんも、エリオットの事が好きよ――私が、どこかに行ってしまう訳じゃないでしょ?
でも、世界で一番、私を護ってくれる人にならなかったから、お嫁さんにはなってあげない。
そんな約束でよければ、いくらでも破ってあげる。
だから、これからも、未来だけを見て、生きていってね。たとえ、残された時間が、限りないとしても――。
アリス姉さんは、絶対に、エリオットの事を嫌いになったりしないから。誓ってあげるわ」
「ア……アリス……あいし……」
アリスが正直を言った『どうでもいいメッセージ(ダノン談)』を送ったという描写は、20章「黒暗で見る夢」、21章「煙幕 ~『小鳥の数え上げ歌』~【過去】Prison」にあります。
さらに言うと、1章「反乱組織の人々」の『いくつか、預かっていたもの』に含まれます。
以前も書きましたが「Yes, Your Excellency」は物語用。
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最終回までの投稿スケジュールを活動報告に書いておきます。