「僕が手を離したくない」彼女との別れ
江戸川乱歩や室生犀星など文豪の作品も発表されている『対話体小説』。文芸の心を忘れず、それでいてラノベとしての気軽さ表現を目指しています。
【!】対話体小説(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BE%E8%A9%B1%E4%BD%93%E5%B0%8F%E8%AA%AC
(※SSではありません)
■The Sky of Parts
第1部分は、独白体、通信機の向こうに話しかけるシーン、メイン物語展開上の会話になっており、「地の文」の代わりになる対話体小説の書き方【エッセイ】URLは『あとがき』にて案内しています。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
「どうして、アリス姉さん。
僕は、姉さんのそばにいたかったのに……どうして、僕を、施設に預けたりしたの?
天王寺家の下働きでも良いって、お願いしたのに――ねえ、どうして?
お父さんも、お母さんも、いなくなってしまった今、僕には、もう姉さんしかいないのに。
……ね?
待ってて。
そばに行くから。
アリス姉さんを、お嫁さんにする為に。
ああ。
そういえば、姉さん。
軍人を目指して、忙しい日々を送っているみたいだね。
僕、全部知っているよ。
姉さんの好物が、チーズだって事とか、ふふ。
あのね。
僕、この施設の人間を、掌握してしまったんだ。
みんな手駒さ。
よく働いてくれるよ。
楽しいよ。
独裁者ごっこっ!
ははっ。
アリス姉さん、最近、図書館や本屋さんによく行くみたいだね。
どんな本が好き?
知りたいな――。
あと三人ほど、必要だ。
施設長さま。
姉さんの見張りに使えそうな人材、すぐに見繕って。
……あははっ。
ねえ!
どうして、僕を、施設に預けたりしたの!
おかげで、気づいてしまったんだ。僕は、人の心を操る事ができるって。
この力を使って、どうしたいか、教えてあげようか?
天王寺アリスという女性を、僕の手から絶対に逃げられないようにしたいんだ。
それが、アリス姉さんが、命を助けてしまった、エリオット・ジールゲンの唯一の望み。
いつか、世界を統べるような絶対的な権力を、手に入れようと考えているよ。
簡単な事さ。
僕にとってはね。
さあ、その未来に向かって、歩みを進めよう」
* * * * *
「――こちら、エリオット・ジールゲンだ。
どうした……ああ。
タケか。
報告、ご苦労。
天王寺先輩の身柄を確保できたのか。拘束したのちに……え?
バカなっ!
どういう事だ!
急に、大学を辞めただと……故郷に帰ったっ!
竹内イチロウっ!
どういう事だと聞いているだろっ!
答えろっ。
……すまん。
タケを相手に、今、いきり立つ事に意味はない。
そうだな。
僕も、そうとしか考えられない。
可能性があるとしたら、御両親の件が影響したのだろう。
ああ。
分かっている。
今は、クーデター成功の事だけを考えるつもりだ。
お前も、作戦を遂行する事に集中しろ。
世界を制圧した後に、天王寺アリスを手に入れればいい。
それだけの話だ」
* * * * *
「閣下……申し訳ありません、あの女……いえ、奥方たるアリス様を、取り逃がしてしまい、弁解の余地もございません。
すべては、この竹内イチロウの失態で……」
「タケ、もう少し、声を小さくしろ。
ルイーナが、やっと寝付いてくれたところだ。
今日は、母親と二人、軍事施設内を逃げ回った故に、疲れているはず。
まだ、現を目に映す事もかなわぬ、この小さな身体で、無理をしたんだ。
しっかりと眠らせてやりたい」
「御意のとおりに。
エリオット・ジールゲン閣下の御心のままになるように――。
えっと。
奥方様の足取りですが……あの……その……」
「つかめないのだろ?
今夜、入り込んだ反乱分子どもは、雑魚同然であったが、世界一の軍師と僕に崇められる天王寺アリスが、逃亡に力を貸したんだ。
行方をくらますなど、訳ないさ。
ああ。
竹内イチロウ。
お前を、咎めるつもりはない。
この意味、理解できるな。後の働きに期待しているぞ」
「『法』と等しい、世界の支配者たるエリオット・ジールゲン閣下の恩赦を頂き、感謝の言葉もございません。
今後は、すべてを閣下から賜わったものだと思い、事に当たらせて頂きます。
反乱分子どもに略取された、奥方たるアリス様の奪還成功という結実として、必ず報いるつもりでございます」
「――タケ。
天王寺先輩は、いや、天王寺アリスは、僕の妻ではない。
ルイーナの母ではあるが、婚姻関係を結んではいないんだ」
「……閣下」
「ふ。
僕は、それほど、深い意味もなく言っているだけだ。
タケ。
もういい、下がれ。
ルイーナと二人きりにしてくれ」
「分かりました。
閣下。
何かありましたら、お呼び下さい。
――あの」
「竹内イチロウ。
僕の大学の後輩として、何か言いたい事があると言うのなら、聞くつもりはない。
あくまで、軍事政権のトップである、このエリオット・ジールゲンに仕える身として、発言してもらえるか」
「……申し訳ありません。
閣下に対し、出過ぎた真似を、お許し下さい。
お言葉通りに、下がらせて頂きます……」
「――ルイーナ。
二人きりだな。
僕の愛し子。
そう、二人きりだ。
お前の母さんは――アリス姉さんは、どこへ行ってしまったのだろう……僕と、そして可愛い息子であるお前を置いて。
なあ、ルイーナ。
どうして、このような事になってしまったのだろうか。
アリス姉さんと僕が、互いに愛し合った末、お前が生まれたというのに、どうして、こんな事になってしまったのだろう。
なあ――」
【!】対話体小説(Wikipedia)
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(※SSではありません)
「幼少期、施設にいた頃のエリオット」、「大学時代、クーデター直前」、「軍事施設からアリスが逃亡した直後」を意識して執筆しました。
最新話まで読了の読者さまも、追加要素として、楽しんで頂ければ幸いです。
【!】対話体で長編小説を執筆しておりますので、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使い、Web上での読みやすさを優先する事を意識しています。
【※】ネタバレを気にする方を意識して、物語後半部分を使った対話体小説サンプル公開が難しかったので、エッセイ部分を独立させました。
↓ラノベにおける[長編]対話体小説の書き方【エッセイ】サンプル含む
https://ncode.syosetu.com/n7166fd/