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叫び  作者: 沼池 うろち
2/7

叫び2

 その日はとても不快だった。

 とは、言え別に大したことじゃない。


 同期の同僚が書類の提出を出来ずにいる。

 それだけのことだ。


 所詮は社内の書類、ちょっとした不具合の報告書に過ぎない。

 口下手な同僚は上司に報告書を提出しても何のかんのと言われてはやり直しを求めれらる。


 いつもならその上司に不快感を持つはずだったが、その日はどうにも同僚の姿が苛立たしかった。


 自分は残業時間に次から次へと仕事を押し付けられているのに、同僚はただの社内用の報告書をまとめられない。


 自分と変わらぬ時間しか仕事をしてきてないはずなのに、何の生産性も無いことをだらだらと続ける。

 それで俺と変わらぬ給料を貰っていると思うとふつふつと湧き上がっては溜まっていく不満。


 いっそ家に帰ってしまえばよかったのだろう。

 だがその時は出来ない奴がいるんだから、俺がやらなきゃいけないんだ。

 とそんな風に言い聞かせて仕事をしてしまった。


 本当はただ、同僚に対して優越感を感じたかっただけなのだろう。

 同じ時期に入社した同僚を見下して自分の価値を上げようとする浅ましい行為でしかない。


 もっと広い視野で見れば、同僚も自分も何が変わると言うものではないだろうに。

 いや、むしろ人は自分と近い存在だから比べるのだろう、誰が気づくわけでもない微差を


 ようやっと仕事が終わり帰路につくと信号待ちの交差点で誰かが話している。


 「ったく、あいつまじで仕事できないよな。あんなので給料貰う価値があるのかよ?!」


 まさにその通りだ。良い事言ってる奴がいる。

 そして「明日なんて言ってやろうか」とつい小さな声で問うてしまう。


 するとまるでその問いを聞いていたかのように声が聞こえる。


 「ったく肩代わりしてやった仕事の分給料寄越せってんだよ。給料泥棒が!」


 その言葉を聞いて思わず体温が上がった。

 その通りだと本気で思った。

 身の内から湧き上がる怒りと興奮が不快でしょうがないが、

 同時に大きなエネルギーを感じて叫びそうになる衝動をこらえた。


 夜も夜中のこと最初から残業代など出ないわが社では残業し放題だ。

 一人点滅する青信号の下で叫びだしたい衝動を堪える。

 そして暗い喜びににやけるのを止められない。


 明日はさっきの言葉を言ってやろう。

 だが、唐突に言ってはいけない。

 難癖をつけてると他の同僚に思われれば立場が悪くなる。

 うまく逃げられないタイミングを使って言ってやるんだ。

 

 そしてまた、赤信号が変わるのを待つ。

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