冷たい風
戦闘が終わった後、溜まっていた疲労が溢れ出てきたのか、皆、土の地面だというのに座りこんでしまった。もっとも体力のあるローデリヒでさえ、そうだった。
「少し休憩しようか」
背負っていたザックから、支給されていた食料と水を取りだす。
栓をした二つの革袋に入っていた水を、男女に分かれて回し飲みした。
皆、言葉もなく喉を潤し、かってはラ―べだった黒塊に目を向けたり、頬を撫でる風の涼しさを感じたりしている。
食料である黒パンを軽くかじり、お腹が満たされるとローデリヒが冷笑しながら呟いた。
「騎士と言っても役に立たないものだね」
騎士を貶めるような台詞にローデリヒ以外の三人が目を剥くが、彼は構わず続けた。
「剣の腕にいかに自信があっても、空を飛ぶ敵にはガードするくらいしか役に立たなかった。攻撃を防いだり、火を防いだり、カペル君のゴーレムの方がよほど役に立っていたよ。それにカペル君、君は慣れてるね」
「私も、それ、思った。私も、ローデリヒでさえマリグネって思ったときは足が一瞬竦んだのに、ラッテ君はすぐに反応できた」
「一度だけマリグネを狩ったことがあるから…… そのせいかな」
だから、僕は凄くない。同じようにマリグネと戦ったことがあれば、ローデリヒは僕なんかよりももっと上手くやれているだろう。
だがアプフェルが僕の耳元にそっと顔を寄せ、小声で耳打ちした。
もぎりたての林檎のように、甘く品のある芳香が僕の鼻をくすぐる。
「カペル男爵、なにを考えていますの? どうせまたつまらない卑下を考えていたのでしょう? でも、条件は私も同じ。にもかかわらず、私は恐怖が先立ってしまった。あなたはなにをするべきか、咄嗟に判断し行動できたではありませんの」
甘い香りの中に、わずかにしょっぱいような匂いが混じっていることに気がつく。さっきも僅かに匂ったけど、これって……
アプフェルが顔をリンゴみたいに真っ赤にしたので、察しがついた。
「忘れなさい!」
ポケットから香水の瓶を取り出し、自分に振りかける。しょっぱい匂いが香水の匂いに混じって、わからなくなった。
急に香水をつけ始めたアプフェルを見て、ツィトローネは目をぱちくりさせる。
「アプフェル、急に、どうしたの?」
「淑女の嗜みですわ。ツィト、あなたもお使いなさい」
そう言ってツィトローネに香水の瓶を押し付けた。
軽食を取り、疲労がある程度抜けるまで腰を下ろしていたがまだ陽は高いところにあった。アプフェルはポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。
宝石のあしらわれた黄金製で、イェーガ―家の紋章が刻まれていた。
「まだ時間がありますわ。マリグネ・ケルンが一個だけというのもさみしいですし、もう少し、探してみましょう」
マリグネを苦戦の末とはいえ一頭狩ったので、気持ちに勢いが乗っている。反対意見は出なかった。
出発のため立ち上がった時。僕たちの頬を撫でる風がさっきより冷たくなっていた。




