妾じゃない、奥さん
「そういえば、ラッテ君、って、平民の娘と恋仲だ、って聞いたんだけど」
いきなり話題が変わったこともだけど、彼女の口からコイバナが出たことに若干驚いた。
ツィトローネは恥ずかしがり屋だと思っていたけれど、女子だしこういう話題はやっぱり好きなんだろうか?
でも他の女子は、出会ったころのアプフェルも含めて平民のキルシェと恋仲だという噂を聞いて、不潔だっていう視線を向けてくるはずだけどツィトローネからはそんな感情を感じなかった。
「体育魔法祭で、パンの売り子だった、赤みがかったポニーテールの子。あの子?」
ツィトローネは淡々としゃべるから、感情が掴みにくい。
この表情で内申侮蔑されていたらと考えると、少し怖い。
それに誤解されっぱなしなのも苦しい。
ツィトローネは大っぴらに話しまわるようなタイプじゃないと思うし、本当のところを言っても大丈夫だろうか?
僕が迷っていると、ツィトローネが答えを自得したかのように軽く首を縦に振った。
「私は、気にしてない、から。男の子だもん、奥さんをいっぱいほしいよね」
いやいや、勝手に誤解して話をまとめないでくれるかな? 平民を侍らせてるクズ、って思われるのは結構きついんだよ。
傍で聞いていたアプフェルは難しい表情をしている。アプフェルのお父さんは一夫多妻が普通の貴族には珍しく愛妻家でお母さん一筋らしいから、余計に気にかかるのだろう。
だが僕たちの葛藤などどこ吹く風といった感じで、ツィトローネは話を続ける。
「平民でも、飽きたら捨てるとか、駄目。大切にして。ちゃんと、男の責任、とる。みんな、幸せに、する。私も、お母さんは三人いる、けど、みんな仲いいから」
ツィトローネの家って一夫多妻なのか。しかもそれを好意的に捉えているらしい。ポーレンはヴァイエルンなどの旧ローム聖国と少し慣習が違うと聞くからそのためか、もしくはツィトローネの家が特別なのか。
アプフェルはツィトローネの家のことは既に知っていたらしく、今度は驚いた顔もしていない。
「妾がいっぱいいるとか…… 女子なのに、不潔って思わないの?」
思わず僕が聞き返した台詞に、ツィトローネは細い眉を逆立てて、アッシュブロンドの下の銀色の瞳で僕を睨んだ。
さっきまでとは違う、明らかな怒りの表情とそこから伝わってくる感情。
「妾じゃない、奥さん。お父さん、お母さんたちを、馬鹿に、するのは許さない」
「ご、ごめん」
確かに今の聞き返し方は不味かった。賛否が分かれる一夫多妻でも、彼女にしてみれば自分の親の関係なのだから。
「お父さんは、大好き。優しいし、格好いいし。お母さんたちみんなとデートに行くときとか、ほんとにエスコートが上手くて、楽しそうで、私も将来あんな家庭を築きたいな、って思う」
そう家族について語るツィトローネは、本当に幸せそうだった。
羨ましいと、嫉妬せずにそう思える。アプフェルも、さっきまでの難しい表情が消えていた。
家族の形は人それぞれだけど、ツィトローネの家族は本当にいい家族なんだろうなって思えた。




