10月7日・12日
食に対してそんなに興味があるわけじゃないから、自分で作ったりはしないんだけど、それでも食べたいものってあるんだよね。
食堂で一番好きなのは、やっぱり肉じゃがかな。もう二十何年も同じところで食事を作っているっていう、ベテランのたまきさんが作ってくれる肉じゃがは具材の一つ一つにダシが染み込んでて、まさに家庭の味って感じ。昔、おばあさんがよく作ってくれた、懐かしいあの味を思い出す。
そうそう、野菜もお肉も大きく切ってあってね。食べごたえがあって、これを食べている時にも本当に、生きてるなぁって感じがするの。
本当はね、ちょっと煮崩れたくらいが一番好きだけど……たまきさんは上手だからそんなことしないんだよね。さっすがプロ。
勿忘草にお水をやったあと、お昼の少し前に食堂へ行った。
たまきさんや他の入居者さんたちとお話をしていたら、やっぱりわたしは人とお話をするのが好きだなぁって改めて感じる。
ここの人はみんなあったかくて、優しくて、入ったばかりのわたしのこともすぐに受け入れてくれた。結花ちゃんって気軽に呼んで、かわいがってくれるの。子供に戻ったみたいで、なんだかくすぐったいよ。
一人でいると、余計なこといっぱい考えちゃって、なんだか辛い。何にもしないでボーっとしてたら、特に。だから、寝るときと本を読むとき以外はあんまり部屋に一人でいないようにしてる。
……あ、そうそう。
たまきさんのところに最近、新しいお弟子さんが入ったんだって。
お弟子さんなんて言い方もちょっと大げさだけど、実際お料理を学ぶために来てるような人が多いから、そういう意味では修業っぽい。
ザ・好青年って感じで、名前は生田くん。彼はお料理の専門学校に行ってた頃、インターンシップで訪れたこの食堂で、たまきさんの味に一目ぼれしたんだって。それで卒業後、弟子入りすることになったみたい。
ゆくゆくは自分の店を持ちたいなんて言ってたけど、大好きなたまきさんのお弟子さんがもしプロの料理人になったなんてことになれば、わたしもちょっと鼻が高いな。
その時にはもうきっと、お別れなんだろうけど。
◆◆◆
最近は天気が不安定で、雨が降ったりやんだり。でも風はあんまり強くないから、ベランダにある勿忘草のプランターを部屋に入れるまでのことはないかな。逆に、お水やらないでいいし楽かも、なぁんて。
乙女心と秋の空っていうことわざがあるくらい、秋って天気が変わりやすいんだって。前に、近藤先生が教えてくれた。
時雨、っていうんだっけ。秋に降る雨。
梅雨って季節としてよく聞くけど、そういえば時雨って季節は聞いたことないんだよね。でも、春から夏にかけて降るのが梅雨で、秋から冬にかけて降るのが時雨って考えたら、時雨も季節に含めていいんじゃないの?
春、梅雨、夏、秋、時雨、冬。
……うーん。なんかちょっと違う?
変なこと考えてたら疲れた。
今日は咳が出る。薬飲んで、早く寝よう。




