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4月1日―四人の親友・その2―

 おずおずと、一人がノートを開く。

 みんなで顔を寄せ合い、覗き込むようにして、四人はしばらくの間それに目を通していた。


 普段おしゃべりをする時のように、軽快な文体で書かれた文章。ユーモアもたまに含まれていて、結花の人柄をよく表した日記の内容に、四人は思わず頬を緩めた。

 そうして、ようやく気付く。

 結花が何故、大学を辞めたのか。そして、突然連絡を絶った挙句、全ての友人の連絡先を着信拒否にしたのか。

 それは、結花の持つ元来の優しさ。友人を心から想い、案ずる心。

 そして、自身のことを忘れてほしいけれど忘れられたくない……そんな人知れない葛藤と、臆病さから来ていた。

 結花から友人たちに送られた、最後のメール。

 ずっとスクロールした一番下に、密かに残されたメッセージ。


『わたしを、忘れないで』


 その言葉に、全てが含まれていた。

 日記の最後にも書かれていた、結花の本当の気持ち。


「結花……どうして」

 今まで、何も知らなかった。気付けなかった。

 死の淵にいた結花に、せめて寄り添ってあげることすらできなかった。それさえ、許してはもらえなかった。

 絶対に、忘れないのに。

 わざわざ言われなくたって、自分から離れようとしなくたって。

 ずっと、あなたは一生、私たちの親友であり続けるのに。


「結花と、仲良くしてくれてありがとう」

 どうかこれからも、あの子を……結花のこと、忘れないであげてね。

 母親の語りかける言葉に、四人の女性たちは――日記にも名前が出た、結花の親友たちは、涙でぐちゃぐちゃになった顔で何度もうなずいた。


 あの後、四人には謝られた。

 あんなに酷いこと言ってごめんなさい、傷つきましたよね……と。

 医者をやっている以上、患者から、またその家族から、責められる立場に置かれることも多い。

「大丈夫、僕は医者だから。そういうこと言われるのはもう慣れてる」

 笑みを作り答える。

「僕こそ……あんなに結花さんの傍にいたのに、病気のことも分かっていたのに、終ぞ彼女に何もしてあげられなかった。ごめん」

 四人はやはり申し訳なさそうな表情をした後、

「いいえ。結花には、それで十分だったと思います」

 互いに顔を見合わせうなずき合い、柔らかく、笑った。

「家族と離れて暮らさなきゃいけなくて、心細かったと思うんです」

「でも優しいあなたが、施設の皆さんが、一緒にいてくれて……」

「結花の毎日に、ただ寄り添ってくれた。それだけで、」

 ――それだけで、結花は幸せだったと。


 そして、揃って深々と頭を下げた。

「「「「ありがとうございました」」」」

 結花の、傍にいてくれて。

 結花のことを、最後まで見守っていてくれて。

「わたしたちも、結花のこと絶対忘れません」

 そう力強く宣言してくれた四人にも、近藤は一人一株ずつ、結花が育てた勿忘草の花をあげた。

 押し花にして大切に保管します、と彼女たちは喜んでくれた。

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