表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

12月25日

 メリークリスマス。

 昨日お母さんと近藤先生が来て、真っ白な背景のこの部屋をクリスマス仕様に飾りつけしてくれた。窓にサンタさんが飛んでて、ツリーも置いてある。ちょうど雪が降ってきたから、まさにホワイトクリスマスだ。

 勿忘草の植木鉢も、ふわふわとしたお飾りを巻いて、キレイに変身。いつもよりずっと可愛い。心なしか、葉っぱが照れてるみたいに見える。


 イベントごとって大好き。

 フンイキだけだけど、なんだかうきうきしちゃう。


 食堂では、入居者のみんなや先生たちが全員集まって、パーッと豪華にクリスマスパーティーが開かれた。その場にいる人は全員きらきらしたクリスマスカラーのとんがり帽子をかぶって、似あうだの似あわないだの言って周りでまずひと盛り上がり。

 そうそう、盛り上がったと言えばやっぱりお料理。

 サンタさんのコスプレをしたたまきさんと生田くんが、腕によりをかけたクリスマス料理をふるまってくれた。

 油っこいものは体に障るからあんまり食べられないけど、代わりにヘルシーな料理がズラリ。七面鳥の代わりに、油を抑えたローストチキンがメインディッシュ。あとはいつもより色味の多いポテトサラダ、ホウレンソウとベーコンのキッシュ、トマトたっぷりミネストローネ、そしてお料理を乗せて食べる用のクラッカー。

 健康のためにカロリーを抑えてるけど、ケーキだけはトクベツ。しかもまさかの手作り。すごい、プロのパティシエみたい!

 食事中には、先生たちがそれぞれ出し物を見せてくれた。ちょっとした演劇とか、マジックとか。

 近藤先生はトランプのマジックをやろうとして、知ってたらしい入居者さんに先にタネを言われちゃって……かわいそうだったけど、面白かったなぁ。

 あと白衣の端っこに、ミネストローネの染みがついてた。ちょっと、調子乗りすぎだよ。ホント可愛いなぁ、近藤先生。


 こんな感じでわたしたちは、クリスマスパーティーを大いに楽しんだ。隣の人と肩を組んで、クリスマスソングを歌ったり。別に誰かを祝うわけでもないのに、ムダにクラッカー鳴らしたり。

 たくさん、たくさん笑った。

 本当に楽しい、クリスマスだった。きっとわたし、この日のことは一生忘れないと思う。


 それから、わたしにとって忘れられないことがもう一つ。

 実はパーティーが終わった後、生田くんに呼び出されて、二人きりになる機会があった。

 そこで生田くんは、わたしのことが好きだと言った。結花さんさえ良ければ、付き合ってくれないかって。

 わたしは……つい、考えさせてほしいと言ってしまった。生田くんの、傷ついた悲しい顔は見たくない。生田くんにはいつも、朗らかに笑っていてほしいから。

 生田くんの告白は、すごく嬉しい。

 でも、本当はすでに答えは決まっていた。


 だって、生田くんも分かっているはずだ。

 わたしがどうして、ここにいるのか。どうしてわざわざ大学まで辞めて、この部屋で、一人で過ごさなければならないのか。

 わたしがイエスと言っても、ノーと言っても。

 結局、悲しむことになるのは生田くんなんだ。


 ずるいよね、ごめんね。

 でもこんなわたしなんかより、ずっといい子がいる。

 それに生田くんがわたしを好いてくれたのはきっと、自分と年が近い若い子が、ここにはわたししかいないから。

 もっと外には、若くてかわいい女の子がたくさんいる。

 わたしのことなんて、すぐに忘れてしまうから。


 悲しいけれど、それで、いいから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ