対となるもの
月…
辺り一面の血溜まりに浮かぶ白い姿は、さながら地獄の蓮花の様相であった。
生暖かい空気に浮かぶような、そんなたわやかな心地の中で、少女は彷徨う意識を眺めていた。
ぼろ切れのようになった防具がガチャリと肩から外れ、
また暫くの静寂が訪れる。
「…ッ!!」
全身を走る激痛に、少女は目を見開き身体を強張らせた。
程なくして、天から紅い雨が降り注いだ。
ぱたぱたと粘りのある音を立てるその雨に打たれると、不思議と痛みが和らぎ心地の良さを感じる気がした。
魔界人界、双方の総力が投入された最終決戦。
それは血で血を洗う泥沼の闘いとなった。
目に焼きつく程だった死屍累々の惨状も、今となっては何処にもその痕跡を見付ける事すら出来ない。
無限に続くかに思えた闘いの最中何者かが放った強大な力は、彼女の半身を吹き飛ばしていた。
閃光、地割れ、爆風ーー。
…もう、いい。
少女は考える事を辞めた。
きっと何もかも、終わったんだ。
これでやっと…楽になれる。
全てが消し飛んだ「災厄」の後に於いて、
少女が最も憎み忌避したその「特異さ」が、奇しくも彼女の命を繋いだ。
身体の半分以上を消しとばされ、遠退く意識がもう助かる見込みは無い事を教えた。
後は消滅を待つだけと分かった今になって、
彼女は静かに微笑んでいた。
一筋の清らかな涙が音も無く血溜まりに落ち、
直ぐに血の雨に打たれて消える。
「私はーー」
立ち込めていた雷雲はいつの間にか消え、不気味な程に大きな紅い月が静かに佇むだけだった。
ドチャッ
そんな静寂を、重々しい足音が破る
ドチャ…ドチャ…
此方に近付いて来る様だ。
ああ…
まだ誰か残っていたのだな…
きっと術者に違いない。
私にトドメを刺しに来たのだろう。
ほんとうに、これで終わりなのだ。
クソッタレなこの世から、やっと…
バチャッ
大きな音がして、パッタリと音が止んだ。