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ジョーカー
静かだ
風のそよぐ音も、生物の鼓動も、鬩ぎ合う闘いの喧騒も無い。
右か、左か…
上か、下か…
濁々とした空気にまどろむ青年の意識は、微かに残る篝火の様な最後の記憶を辿った。
迫り来る魔界の兵、奇声、爆音、断末魔ー。
『壊せ…奪え…殺せ…』
「やめろ…」
『壊セ…奪エ…コロセ…』
「やめてくれ…」
「『全てを。』」
その声が、自分の声と重なった。
何があったのか、何をしたのか、何が、どうなって、どうして俺は、ここに居るのか。
それを伺い知るに足る手掛かりは、この惨状からはどうやっても得る事など不可能だった。
そして今、目を覚ました彼の目の前にあったものは?
…否、「何もなかった」