雪は弔いと祝福の白
隊長と副隊長が同時に殉職したのは寒い冬の日のことだった。共に強大な魔物に立ち向かって息絶えたとも心中したともはたまた死んだように見せかけて亡命したのだと言う人も居るが誰も真相はしらない。隊長と同じ部隊だった僕たちでさえ。いや、隊長の原因は知ってるかな?
「なあ、隊長と副隊長、どう死んだと思う?」
「さあ?」
「だよなー、俺たちだって知らねぇよ」
乾いた笑い声を上げながら僕と一緒に隊長の執務室を整理していた隊員たちが笑う。その手には隊長が生前に纏めていたのか捨ててほしいや家族に届けてほしいという小さなメモ書きと荷物が抱えられていた。多分、みんなその通りにするのだろう。僕も隊長の執務室の中にある副隊長の机を片付けに回った。
机の上に置かれた涙の跡が付いている命令書を何度見返したか分からない。元から付いていた涙の跡には後から見た僕たちの涙の跡も増えているだろう。紛れもない隊長の殺害命令だ。僕たちはそれを知らなかった副隊長が隠していたのだと、二人とも居なくなった執務室でそれを見つけたとき隊員全員が不甲斐なさで泣き叫んだ。隊員全員が様子がおかしいのも何かの準備をしているのも察していた。聞かれたくないことなのかと思ってそれとなく気づかないふりをしたり手伝いをしていた。その時、もう少し踏み込んでいれば止めることは出来ずともその心に寄り添って負担を軽くできたかも知れない。それはもう叶わないifの話だけど。
副隊長の机を片付けようと引き出しを開けると中に纏められて必要なものと必要でないものが纏められている書類が入っていた。それどころか私物でさえ纏められている。
「ああ、そっか。一緒にいったのか」
「何が?」
綺麗に纏められた書類を見せると他の隊員も次々と事情を把握する。各々がそれとなく手伝っていた副隊長の計画の一部を照らし合わせて繋ぎ合わせて現れた全容にみんなで大声で笑った。これは僕たちしかしらない副隊長の死因だ。
雪が降り積もる庭に隊長と副隊長が生活するのに必要だと思われる家具やらなんやらを運び出す。当初は隊長のものだけだったが急遽予定を変更して副隊長のものも運び出しておいた。
この国の言い伝えに、死んだ人の死因と同じように物を壊すとそれが天へと上りその死んだ人のもとへたどり着くという逸話がある。その事から死人が出た場合は死因に応じて死人の大事にしていたものを壊す習慣がある。
みんなで使いなれない銃を構えた。
「もーえろよもえろーよー」
「すっごい燃えるなこれ」
「隊長たちの死んだ跡地もこんなんだったのかな?」
鉛玉で穴だらけになった隊長たちの私物にさらに攻撃魔法で火を付けた。さすがに戦略的攻撃魔法は無理だから僕たちのショボい火で勘弁してほしい。白い雪を溶かしながら黒い炭になって燃えるのを隊員みんなで見つめる。しばらくしてからそれぞれが思い思いに色んな物を投げ込み始めた。処理仕切れてない書類を投げ込んで「助けてください副隊長ぉぉぉぉ!」といつも書類で困っている隊員が叫んでいたり木製のペンダントを投げ込んで「恋愛成就のお守りですよ!もう恋愛成就してるかもしれませんけどねっ!ケッ!」と未だに恋人が一人もいない隊員が涙していた。他にも結婚式で使うような花束を投げ込んでいる人もいたし、泣きながら隊長と副隊長がどれだけ素晴らしかったか書いたスピーチの原稿を投げ込んでいたし、鮮やかな式場の飾りをせいやぁぁぁっと気合いを入れて焼いているのも見かけた。
僕は手紙を書いて投げ入れた。今のこのカオスな現状を何とかしてくださいと懇願する内容に今までの感謝にこれからの幸せを一言で綴った物だ。
「副隊長の持ってた貴重な本まで本棚と一緒に焼いたんですから見てくれないと怒りますよ!!!」
「お前の未練はそこかよ!」
そういいながら隣の隊員は隊長が見とれていた短剣を投げ込んだ。みんなでケーキを投げ入れてみんなで弔いの花を投げ入れて、みんなで笑ってみんなで泣いた。少々騒ぎすぎたのか建物から上官が降りてきて何をしているのか尋ねてきた。そしてみんなでこう答えた。
「葬式と結婚式を同時にやってます!」
上官は昇進の書類と祝いの品を投げ込んだ。(二階級特進の書類だった。)
雪が光を反射して光るのを騎士団みんなで眺めていた。
「うわっ!?なんだこれ!」
「本棚?ああ、下界で私たちの弔いをしているようですね」
「あ?あ、ほんとだ。おい、これ俺の欲しかった短剣!」
「処理前の書類なんて渡されてもどうしようもないのですが」
「花束まで送ってきてら」
「結婚式でもやるつもりですか」
『葬式と結婚式を同時にやってます!』
「ぶっ」
「あっはっはっは!気の効いた部隊員ですね!」
「俺の二階級特進の書類が届いた!」
「私もですよー」
「・・・ここで結婚式あげるか」
「部隊員全員待ってからにしません?」
「むぅ」