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菩提薩埵(ボダイサッタ) 只夫(タダオ)  作者: 鯨波人(ときと)
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只夫 日記なう

菩提薩埵 只夫の異世界冒険記

[今日この時より、このスマートフォンに日記を残そうと思う。私の名前は……]


「うん?何してるの、ボタちゃん? 」

 

「こら、エピナヒリア君。退きなさい、頭が邪魔でスマホの画面が見えないではないですか……」


 私とスマホの画面との間に、無理やり覗き込もうと頭を入れてくる。


「うん? う~ん。ねぇねぇ、何なのコレー?絵か何か? 」 


 不思議そうに彼女が頭を傾げる度に、金色の長い髪と長い耳が私の顔をでる。その度に、花の香りに似たとても良いにおいが鼻孔をくすぐっていく。

 そう、彼女はRPGゲームでお馴染みのエルフの女の子だ。


「いいから、エピナヒリア君。いい加減に頭を退けてくれたまえ」


「むぅー、わかった。けど、コレ何なのかは教えてよね、ボタちゃん」


 ようやくエピナヒリアが離れ、こそばゆい顔の感覚に解放される。

 

「はいはい、説明しますとも。それにしても、そのボタちゃんと呼ぶのを止めてくれませんかね? 」


「えぇー、だってボタちゃんは、ボタちゃんだよ。それにボタちゃんも、私のことをエピーって読んでくれたこと一度もないよね」


 エピナヒリアが不満そうな顔で、腕組みをして私を睨んでいる。その姿はまさに、ファンタジーゲームのワンシーンのように様になっていて、一言で言えば、とても美しい。

 もっとも、当の本人には、エルフ族特有のスタイルの良さや独特な絵になる天性の雰囲気を嫌っているところがあるらしい。 

 だから、もしも本人に「美しい、絵に描きたいくらいだ」と言ったならば、エピナヒリアは烈火のごとく怒りだして、しばらくは口一つ利いてくれなくなることだろう。くわばら、くわばら、口は災いの元だ。


「ボタちゃんが、エピーと呼んでくれるなら、私も他の呼び名を考えてあげるよ」


「あー、それはだね。なんと言うのか、呼び難いというか…………」


 このやり取りをするのは、何度目だろうか。

 多分、エピナヒリアは私がエピーと呼べない理由を、呼ぶことを恥ずかしがっているからだとでも思っているのだろう。

 しかし、私が彼女をエピーと呼べない理由は、全く違う方向性で明確に存在している。

 ただ、それを説明する手段が私には全くもってない。何故なら、私にとってエピーというは小学生の頃に実家で飼っていたヤマトウミウシの名前なのだ。

 現状この世界の海にウミウシのような生物が存在するのか、それとも全然存在しないのか。仮にいるとしても、似ている形状の生物の名前を導き出すヒントを、どのように言えば良いのか難題山積なんだいさんせきなのだ。

 以前に一度だけ、エピナヒリアの前でウミウシを地面に描いて「こんな生物に心当たりあるかい?」と聞いてみたことがあった。

 すると、その問いかけに対するエピナヒリアの反応は「ナニソレー? アハハハッ」と笑いながら地面を転がるばかりだった。それも、5分間ずっとだ。

 私の画力に問題があった可能性も少なからずあるのだろうが、それにしても絵という形式でさえも伝わらないのでは、今後もウミウシの説明は困難だと判断するしかない。

 もっとも、よくよく考えてみれば、私のいた世界でもウミウシは形容けいようがたい生き物だと気がついた。これは仕方のない事なのかもしれない。


「……そうだ、エピナヒリア君。いまは何年の何月ですかね? 」


「ん? 日付ぇ~? えーとね、たしか黒竜年4月15日だよ」


「そうですか、ありがとうございます……黒竜年ですね」


 この世界の年号は

 エピナヒリアと会話中にも気になっていた事だが、何やら外が騒がしいようだった。遠くで何かを叫んでいるような声と足早に駆け抜ける足音が、時折聞こえて来ていた。


「なんだろうね? ボタちゃん?」


「なんでしょうね?」

  

 二人で首をかしげながら、騒がしい音が聞こえる扉の方を見つめているとギルド待機所に一人の男が飛び込んできた。


「みんなー! た、大変だぁー! オ、オークの群れが、街の南西外門まで迫ってきているぞー!」

 

 ギルド待機所にいる皆は立ち上がり、各々(おのおの)戦闘の準備を始めた。


「ほら、ボタちゃんも準備しないと……んん? 何してるの?」


「これは壊れやすい物ですからね、持ったままで戦闘にはいけないのですよ。それと……」


 待機所の隅に置かれた私のアイテム箱にスマートフォンを入れ、代わりに戦闘で必要となるある物を取り出した。


「……よろしく頼みますよ【銭形平次】あなたの初陣です」


 私の手には十手型の双剣【銭形平次】が握られている。心なしか、双剣が己の出番を喜んでいるように感じ取れた。


「そっかぁー、ボタちゃん武器を変えるって言ってたよね。それって、フッチャンが作ってくれたのだっけ?」


「えぇ、そうですよ。さて、迎撃に向かいましょう」


 私はそう言って、双剣をベルトに挟んで装着した。ずっしりとした双剣の重さが、私の気を引き締めていく。

 私達はギルドの一団と共に、外門が見渡せる内門にある監視台へと登る。


「うーん、風が気持ち良いー。あ、あれだね。うわぁ~、すっごいなー。」   


 エピナヒリアの金色こんじきの髪が、ミイール平原の風に揺れる。どこにいても絵になる娘だと感心しつつ、エピナヒリアが指差す南西へと視線を向ける。


「……凄いと言いますか。あれは群れではなく、正しくは大群ですね…………」


 ここから南西外門まで7百メートルほどの距離だが、外門をこじ開けてウジャウジャとオークが向かって来ている様子が確認できる。同時に、風に乗ってオークの臭いも漂ってきていた。


「……これは、さすがに死にますかね?」


「大丈夫だよ。ボタちゃんには、私とアルちゃんが付いてるんだから。ねぇ、アルちゃん? 」


「え? アルフレッド君? ……お、おっと」


 いつの間にやら、私の背後にいたティーターン族のアルフレッドが左手の親指を立てて「まかせろ」と意思表示している。アルフレッドは、と言うよりもティーターン族は無口で会話は全てジェスチャーで行う。


「そうですね。では、みなさん行きましょうか」


「うん、頑張ろうね。ボタちゃん、アルちゃん」


 監視台から外へと降りるロープを使って、ミイーン平原へと降り立つ。地面に立つと、より強くオークの嫌な臭いと進軍の緊迫した気配を肌身に感じる。

 

 すでにギルドの数班が、オークの大群へと武器を構えて向かっていた。少し離れた先で、火炎魔法の火柱や氷雪魔法のブリザードが煌めいて見える。


「先に行くよ、ボタちゃん。アルちゃん、サポートよろしくね」


 エピナヒリアとアルフレッドもそれぞれの武器を構えて、戦場へと走って行く。

 その姿を確認して、私も腰に携えた銭形平次を構える。この双剣にとっては初陣のはずなのに、しっかりと手に馴染む感じがする。さすがは、鍛冶師フツヌシの作りし双剣だ。これから、死ぬかもしれない戦場に向かうというのに、武器を構えると心が弾むような高揚感が湧き上がってくる。


「では、舞うとしましょうか、この世界で生き抜くために。そうです、私には叶える夢がある、ここで朽ちている暇など無いのですよ」


 言葉にすることで、自らを鼓舞させる。そして、両手に双剣・銭形平次を構えたまま、火柱上がる戦場へ駆け出して行く。

 

「わたしはー! 生きて、生きて、生きて、生き抜いて、絶対にラーメン屋を開くのですよぉー」


[私の名前は菩提薩埵只夫ぼだいさった ただお34歳 牡羊座 B型 現在、異世界ラプラスにある街ミイーンで自警団ギルド【竈猫かまどねこ】に所属している。今はまだ、元の世界へと戻る手立ては見つかっていない。だけど、必ず戻ってみせる。ラーメン屋を開く夢のために]


                                                                  <つづく>


おまけ(きまぐれとも言う)


 只夫「はじめまして、菩提薩埵 只夫です。私の冒険を読んでいただきありがとうございます。なんと言いますか。正直、嬉し恥ずかしといった心境です。はい」


 エピ「ねぇねぇ、ボタちゃん。なんで、私の髪ばっかり見てたの? もしかして、髪フェチなの? 」


 只夫「ぐはぁっ……な、なんでエピナヒリア君が読んでいるのだね! か、返しなさい。読まなくていいものだから、ね」


 エピ「キャッ、ヤ~ダヨーだ。それに、わたしやアルちゃんの活躍がないじゃないの」


 只夫「ちょっ、取れない。うぅー。それは、次回ですよ。この作家は怠け者で筆重ふでおもだから、いつかは分かりませんが作品を書くと確約しているので、大丈夫でしょう」


 作者「悪かったねぇー、筆重ふでおもで」


 只夫「ちょっ、なに出てきてるんですか! 裏方に徹しなさいよ」


 エピ「わ~い、作者キター。ねぇねぇ、怠け者を否定しないダメダメな作者さん。わたしをもっっとセクシーダイナマイトな大人の女性に書いてよー」


 只夫「ないない。それは、世界が滅亡しても絶対にありえませんよ。エピナヒリア君に、そのような要素は……痛っぁ! け、蹴るとは何事ですか! エピナヒリア君」


 エピ「ボタちゃんは、黙っててよ。もう」


 作者「こらこら、そこ揉めないようにね。まだ、物語は始まったばかりですから。それと、私が出てきた理由はですが。おまけの内容を教えるためですよ」


 只夫「え? おまけの内容って? 自由に話しちゃいけないのですか? 」


 作者「駄目です。それをするなら続編を書けと、読者さんに私が怒られます。怒られるのは嫌なので駄目です。ただでさえ、子供の頃から病弱で色々と休みがちなのですから」


 エピ「それじゃあ、なにを話すのぉ? 」


 作者「主に、物語の補完することを目的に話し合って下さい」


 只夫「物語の補完ですか? 」


 作者「そうですよ。例えばですね、今回の場合には……」


【アルフレッド 巨人種ティーターン族 年齢その他不明 全身に黒曜晶石の鎧をまとい、同じく黒曜晶石の槍斧を得意武器とする。いかなる時も無口で会話の全てを身振り手振りのジェスチャーで行う】


 作者「今回はアルフレッドについて、話し合ってもらおうかな? どうぞ」


 エピ「うん? ……ないよぉ。だってもう、アルちゃんの全部出てるもん。ねー」


 只夫「そうですね。強いて付け加えるとするならば……以上、ですかねぇ」


 作者「以上…………。あ、じゃあ、終了ってことで」

 

 エピ「帰っていいの? じゃあ、作者さんおつかれさま。ねぇ、ボタちゃん。帰りにさぁ風来屋のバナナケーキ買って帰ろうよぉ」


 只夫「ま、またですか? エピナヒリア君、たまには違うケーキを……」


 二人は楽しそうに会話をしながら立ち去った。


 アル「…………」


 作者「……うん。今日は朝まで付き合うよ、アルフレッド」


 アルフレッドの親指を立てた左手は、悲しそうに震えていた。

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