てるてるエージェント
「やあ、本当に降ってきましたな!」
駅を出て、家路を歩き出した私のスーツを叩き始めたスコールに、思わず感嘆の声を上げると、
「いかがです? これが当社のサービスです!」
傍らを歩くエージェントのサニー氏が、得意満面で私にそう答えた。
明日は、屋敷のチャペルで上げる娘の結婚式。
この特別な日は絶対に晴天で迎えたい。
そう考えて私が頼ったのが、国内では唯一の「晴天保障サービス会社」だったのだ。
式の前日、わが市の上空。飛行機から雨雲にヨウソ銀を散布して、無理矢理雨に変えてしまうのだ。
こうすれば次の日は晴天確実。かかった費用は莫大だったが、かわいい娘の事を思えば安いものだ。
「素晴らしいサービスですなサニーさん。これで明日が晴れなら、早速お約束の金額を口座に……」
「ご満足いただけて、何よりです!」
いつもなら、会社から屋敷まで車を遣らせる所だが、今日はとても気分がいい。
素晴らしい挙式を保証する、この恵の雨を心行くまで味わおう。
そう決めた私が傘をさして、エージェント・サニーと肩を並べて屋敷への帰路を早足に歩いていると……
「ん?」
私は首を傾げた。
道の真ん中に、女性が一人。
白装束、首を垂れて表情は定かでない。
濡れた長い黒髪が貌を覆っている。年恰好は、丁度、娘と同じ頃だろうか?
「お嬢さん、どうしたんです、こんな所でズブ濡れで……?」
不審に思って私が声をかけると、
「いいよね……私たちの頃に、こういうものがあったなら、私もこんなコトしなくても……!」
ポツリ、そう呟いて私を見た。
「うっ!」
私は息を飲んだ。女の右目は、潰されていた。
残された目が、何か悲しげな羨望の眼差しで私を、いや、私の背後に広がる街並みを見据えているようだった。
次の瞬間、ゴソリ。唐突に、女の首が雨に叩かれた路面に転がり落ちた。
残された身体がバタリと路面に横たわった。
「おおおお!」
私は悲鳴を上げた。
「どうしたんです? 突然!?」
傍らのサニー氏が、不安げに私に声をかけて来た。
「いえ、その……」
私は呻く。パニックから我に帰れば、女の首も、身体も、全て煙の様に消えうせていた。
目の前には、辺りには、ただ水煙を立てドオドオと路面を叩いてゆく、雨、雨、雨。
全てを均一に塗り潰して行くような、スコールの雨音。
お題:
今回の設定!
季節は初夏! 突然、激しい雨が降ってきた! 不意を突かれた人々が一斉に走り出す! その中にはスーツを着た主人公も混ざっていた!
自宅の方向へ急ぐ中、路上に項垂れた姿で立っている若い女性を見つけた! 長い髪が顔に張り付いて表情はわからない!
主人公はどのような反応を示し、その女性に対応するのか! または関わらないで胸に去来する想いを綴るのか! 作者の考え方次第!
応募期間!
今から土曜日の日付が変わるまで! 上位の発表は投稿数に合わせて考える!
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