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仕事はすぐに終わった。イスタニア皇帝がうっかり逃がしてしまった愛玩ワニを捕まえて檻に入れるという、なんとも簡単なものである。しかもこの依頼は十回目である。数秒でワニの居場所をつきとめ、数分でそこへたどり着き、檻に入れるのは一瞬で終わった。ヴェルデとシセルはただ見ているだけだった(ただしシセルはワニに触ろうとして、皇帝の侍従に叱られた)。
城から徒歩一分のイスタニア支部に戻り、支部長ダグラスに報告して、アジェスは自分の部屋へ帰った。手紙を取り出して、また読む。
「なるほどなるほど」
いつの間にかシセルが一緒になって手紙をのぞきこんでいた。
「さっきの話は本当に本当なんだな」
「だから言ったじゃないか」
「でも、あんたはそのフォルミカってやつのこと好きなんだろ?」
「ただの幼なじみだよ。俺とカロンの師匠の娘だ」
「ほんとにそれだけか?」
シセルがにやりと笑う。
「あんたがそいつのことばかり考えてるって、リーシェンは言ってるぞ」
「そこにいるのか?」
リーシェンというのは、シセルを拾って育てたという精霊の名前だと聞いている。シセルがうなずく。
「俺の隣で手紙読んでる。ちなみに声に出して」
見えないし聞こえないのだが、知らない人間――精霊だが――に読まれるのは恥ずかしい。そそくさと手紙をポケットにしまう。
「いいところだったのに、だってさ」
「音読されてたまるか」
精霊はなんと人間の心が読めるらしい。リーシェンとやらが言うことは本当だ。アジェスはフォルミカのことばかり考えている。ずいぶん前から、少なくとも破門にされた日からずっとそうだ。
「なあ、俺がどうしたらいいか、精霊さんに聞いてくれよ」
「そんなことぼくには関係ない、って言ってる。どうでもいいってさ。リーシェンはこんな感じだから、聞いてもどうしようもないと思うぜ? あれならイーズかラティカを呼んで聞く?」
「いや、いいよ」
アジェスは別の精霊の名を出したシセルの申し出を断った。
やるべきことはわかっているのだ。
約束を果たす。
――上級魔法使いになって、迎えに行く。
ずっと待っているとフォルミカは言った。いくつになっても、会えなくてもずっと待っているから、と。
「会いたいんだろ、そいつに」
会いたいに決まっている。会って真実を本人の口から聞きたい。だが次に会うときは上級魔法使いになったときだと約束したのだ。
「アジェスが行かないなら、俺が会いに行くぜ」
「……好きにすれば。俺には関係ない。結婚おめでとう、とでも伝えておいてくれ」
素直じゃねえなあ、とシセルがつぶやいた。




