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エコキャップ運動

作者: 山中幸盛

 幸盛がエコキャップなるものを初めて知ったのは勤務先だった。同僚の子どもが通う学童が始めたので、「パパが職場で呼び掛けてみるワ」と大見得を切ったらしい。

 その日、休憩所のドアの横の壁にペットボトルのキャップを入れるためのコンビニ袋が吊ってあることに気づいた。その横に新聞の切り抜きが貼ってあるので目を通すと、キャップ800個でポリオワクチン一人分(20円)と書いてある。その時は「800個かよ」と気の遠くなる数に笑ってしまったが、これが不思議、これまでポイポイ捨てていたものに価値があるというのだから若者中心にホイホイ入れていくので集まる集まる、コンビニ袋がパンパンにふくらむのに一週間もかからなかった。

 その後もしばしば新聞などで取り上げられるのでインターネットで調べてみた。キャップを引き取ってくれるのは「NPO法人エコキャップ推進協会」というところで、ここから「NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会」に寄附されるというが、なるほど、その金額はバカにならない。

 平成19年12月に236,060円だったのが、平成20年6月には654,542円、10月には2,235,300円、そして平成21年5月には5,378,000円、11月には10,000,000円もの寄附ができたらしい。(ユニセフによる一人分のワクチン単価の概算は、はしか95円、BCG7円、MMR114円、DPT9円)

 今後の課題の一つに「キャップ運送費の軽減」をあげているこの運動は、ますます勢いを増す気配をみせているから、先達の一翼を担った「イオン株式会社環境社会貢献部」のように、各種ワクチンに限らず「栄養給食」や「文房具」の方面へも拡大していくかもしれない。いやはやまったく、「塵も積もれば山となる」とはまさにこのことだ。


 幸盛の初孫が小学生になって徒歩で二十分しか離れていない市営住宅に住んでいるが、日曜日の朝に電話してきて、学校でエコキャップ運動を始めたからといって幸盛にも集めるように依頼してきた。

「ねえおじいちゃん、エコキャップって知ってる?」

「ペットボトルのキャップ800個で一人分のポリオワクチンが買えるってやつだろ。おじいちゃんの会社で集めている人がいるよ」

「だめだめ、ぼくにちょうだい」

「わかった、袋にいっぱいになったら持って行くよ」

「よろしくおねがいします」

 ところが、幸盛もいちいち沸かすのも面倒なのでペットボトルのお茶を飲んでいるが、2リットルサイズしか買わないのでキャップはなかなか溜まらない。半月ほど過ぎた頃に孫から請求の電話がかかってきた。

「ねえおじいちゃん、まだ集まらない?」

「ごめんごめん、前よりは頑張って飲んでいるんだけど、おじいちゃん一人だからなかなかたまらないよ」

「そっかー」

 と、いかにも落胆した様子なので、つい口を滑らせてしまった。

「インターネットを見てたら収納ボックスとかがあって、誰でも買えるみたいだからこれを買って、近所のコンビニに置かせてもらえるように頼んでみようか?」

「ほんと?」

 と一転して弾んだ声に幸盛は後に引けなくなった。

「ああ、任せとけ」

 その『ペットボトルキャップ専用透明収納ボックス』は60リットル、45リットル、35リットルの三種類があって、販売価格はそれぞれ6,250円、5,400円、5,300円とある。60リットルボックスは大きすぎるので、キャップを約2,700個収納できるという45リットルボックスを100円高いだけだから買うことに決めた。送料は800円だから6,200円の出費になるが、パチンコや競馬で負けたと思えば大した金額ではないし、何より孫の喜ぶ顔が見られる上に地球のためになるというのだから安い買い物だ。注文したら一週間足らずでドカンと送られてきた。

 ところが、近所のコンビニに行ってみると、入り口から遠く離れた場所になんと5基もの大中小のキャップ専用収納ボックスが並んでいる。いずれの収納ボックスも底の方にパラパラとキャップが散乱している程度だ。ここはあきらめて次に近いコンビニまで車を十分ほど走らせた。

 しかし、そこにも先客があって60リットルの収納ボックスがでんと置かれている。あきらめかけたが、あまり遠いとガソリン代もばかにならないし、5基よりはましかと考え直し、店内に入ってレジにいる店員に聞いてみると、ご希望ならその隣に並べてもかまわないと店長から許可が出ているというので置かせてもらうことにした。

 家に帰ってから電卓で計算してみた。収納ボックスの代金6,200円があれば310人分のポリオワクチンが買えるわけで、これをキャップに換算すれば248,000個だから満タンになった収納ボックスを92回も回収に行かなければならないことになる。なんじゃらほい。



* 文芸同人誌「北斗」第565号(平成22年3月号)に掲載

*「妻は宇宙人」/ウェブリブログ  http://12393912.at.webry.info/ 



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