会議
「整理しよう」
年配の男が、淡々と言った。
「被観察個体は、
測定中に能力を使ったか?」
「いいえ」
即答だった。
「施設内では一切、
能力反応は確認されていません」
「当然だな」
別の声が重なる。
「所詮能力者は管理しやすい豚だ。
檻の中でしか暴れられない」
誰も咎めない。
「測定時、ブレスモニターは?」
「規定通り一時解除」
「その時点で異常は?」
「ありません」
「では、なぜゲート通過時に外れた?」
「接続できなかったんです」
「説明しろ」
「測定室には、
能力反応源が存在しません」
「……ああ」
誰かが鼻で笑う。
「我々は未能力者だからな」
「はい」
「能力者は病原体だ」
低い声。
「では、能力覚醒は?」
「測定中に起きています」
「だが、発動は?」
「していません」
「反応対象がいなかったからか...」
「ゲートの外には?」
「能力者がいます」
「——なるほど」
「つまり」
年配の男が言葉を継ぐ。
「覚醒は内側で起き、
発動は外で起きた」
「はい」
「その瞬間、
ブレスモニターとの接続が遮断された…と。」
「故障ではない?」
「ありません」
「再装着は?」
「不可能です」
「なぜ?」
「彼の能力が、
管理そのものを拒絶します」
一瞬、沈黙。
だが、誰も動揺しない。
「実験体としては?」
「非常に優秀です」
「危険性は?」
「低い」
「被害は?」
「ゼロ」
「なら問題ない」
誰かが笑った。
「我々無能力者からしてみたら、
ただの実験体ですから。」
「居住区送りか」
「ええ」
「ブレスモニター無しとは異例だな。」
「管理とは、
安全を作ることではない」
年配の男が結論を出す。
「平和を維持することだ」
「そうやって平和を作ってるんだ」
誰かが言った。
「感謝してもらいたいね。」
「では次の議題...
追放後の彼と周りの影響について」
端末に映し出されたのは、
スタビリティ・ゾーン内部のモニタリング映像だった。
能力者たちは、互いに距離を取り、
無駄な衝突を避けるように生活している。
静かすぎるほどに。
「……見事だな」
誰かが、感心したように言った。
「暴発件数、ゼロ」
「争い、ゼロ」
「管理コスト、想定以下」
「理由は?」
年配の男が聞く。
「被観察個体の存在です」
「彼自身は、何かしたか?」
「いいえ」
「命令は?」
「出していません」
短い沈黙のあと、
一人が笑った。
「まるでロボット掃除機みたいだな!
何もしなくても綺麗になる。」
会議室に、軽い笑いが漏れる。
「能力を奪ったわけでもない」
「壊したわけでもない」
「ただ、
“使えなくなるかもしれない”
と思わせただけだ」
「能力者は単純だ」
別の声。
「あいつら、能力が全てだと思い込んでる。
滑稽だ。」
「能力があるから価値がある」
「能力があるから生きていい」
「能力があるから——」
「——だから、
失う可能性を恐れる」
年配の男が静かに続ける。
「操りやすいマリオネットとは知らずに…」
その言葉に、
誰も否定しなかった。
「彼らは、自分で抑制しているつもりだ」
「実際は?」
「抑制されている」
「誰に?」
「状況にです」
「被観察個体は?」
「おそらく自覚はありません」
「なら理想的だ」
「恐怖は、
見えない方がよく効く」
画面の中で、
能力者の一人が、
無意識に主人公から距離を取った。
それだけで、
周囲の数値が安定する。
「……本当に」
誰かが、ぽつりと言った。
「人間を管理するのは簡単だな」
年配の男が、端末を閉じる。
「スタビリティ・ゾーンは、
成功している」
「理由は?」
一拍。
「彼らが、自分たちを
“自由だ”と思っているからだ」
会議は、
それ以上の言葉を必要としなかった。




