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欠陥能力と断罪された俺が、管理社会の“例外”だった話  作者: うまれつきウタマロ


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スタビリティ・ゾーン


 移送は、驚くほどあっさりしていた。


 簡単な手続き。

 最低限の荷物。

 能力抑制用の簡易デバイスを手首に装着され、それで終わりだ。


「質問はありますか」


 管理会社の職員は、事務的にそう聞いた。


 ——いくらでもある。

 でも、答えが返ってこない質問だということも、もう分かっている。


「……ありません」


 そう答えると、職員は小さく頷いた。


「では、こちらがあなたの新しい居住区です」


 視界の先に、無機質なゲートが開く。


《STABILITY ZONE》


 その文字は、やけに整って見えた。


「ここは社会適合が困難な能力保持者のための、調整居住区です」


 職員は歩きながら説明を続ける。


「能力の使用は原則禁止。

 ただし日常生活に支障が出る場合は、申請の上で限定的な使用が認められます」


「監視は?」


「最低限です。

 過度な干渉は、かえって不安定化を招きますから」


 言葉だけ聞けば、配慮されているようにも思えた。


「あなたを罰する場所ではありません」


 職員は、そう付け加える。


「ここは——保護と安定のための場所です」


 僕は何も言わなかった。


 この人は嘘をついていない。

 ただ、言っていないことが多すぎるだけだ。


 ゲートをくぐった瞬間、空気が変わった。


 音が少ない。

 人の気配はあるのに、生活音が薄い。


 建物は古くはないが、新しくもない。

 無駄に広い通路。

 用途不明の空間。


 壁には、何度も見た文言が掲示されている。


《能力の使用は禁止されています》

《互いの安全を最優先してください》

《問題が発生した場合は、自己解決を推奨します》


 最後の一文だけが、少しおかしかった。


 ——自己解決。


 つまり、管理会社は手を出さない。


 居住区には、思ったより人がいた。


 年齢も性別もばらばら。

 ただ一つ共通しているのは、誰もがどこか“慎重”だということ。


 視線を合わせない。

 距離を詰めすぎない。

 必要以上に会話しない。


 能力者同士が集まっているのに、

 能力の話題だけが、徹底的に避けられている。


 それが、この場所のルールだった。


 割り当てられた居室は、最低限だった。


 寝台。

 机。

 端末。


 窓はあるが、外は見えない。

 表示されているのは、空の映像だ。


 ——安心してください。

 閉塞感を軽減するための処置です。


 説明を思い出して、思わず笑いそうになった。


 閉塞していることは、ちゃんと分かっているらしい。


 数日が過ぎた。


 何も起きない。

 それが、逆に不気味だった。


 小さな衝突はある。

 言葉の行き違い。

 生活音への苛立ち。


 でも、誰も一線を越えない。


 越えた瞬間、何が起きるか分からないからだ。


 トラブルが起きたのは、共有スペースだった。


「——だから、そこをどけって言ってるだろ」


 低い声。

 苛立ちが、はっきりと滲んでいる。


「ここは共有だ。お前の場所じゃない」


「分かってる。

 でも、今は——」


 言葉が途切れた。


 空気が、わずかに歪む。


 能力の兆候だった。


 周囲の人間が、無言で距離を取る。

 誰も止めない。

 止められない。


「使うな」


 誰かが、短く言った。


「禁止されてる」


「分かってる……!」


 感情が先に出る。

 抑制が追いつかない。


 ——まずい。


 そう思った瞬間、

 衝突は起きた。


 能力が、発動しかけた。


 視界が揺れ、何かが“繋がる”感覚が走る。


 その瞬間——

 僕の中で、反射的に何かが動いた。


 考える前に、

 身体が先に反応していた。


 触れたわけじゃない。

 視線を向けただけだ。


 なのに——


 確かに、線が見えた。


 人と人を結んでいた、

 能力の接続。


 ——切れる。


 そう、直感した。


 次の瞬間、

 空気が、元に戻った。


 能力の兆候は消え、

 発動しかけていた力は、途中で霧散する。


「……あ?」


 声を上げたのは、能力を使いかけた本人だった。


 自分の手を見つめ、

 何度か力を込める。


 何も起きない。


 周囲が、ざわつく。


 僕は、その場から動けなかった。


 指先に残る、

 嫌な感触。


 繋いで——

 切った。


 間違いない。


 その時、

 誰かの視線を感じた。


 恐怖。

 疑念。

 そして、微かな期待。


 この場所が、

 何を待っていたのか。


 ようやく、分かってしまった気がした。



スタビリティ・ゾーン。


それは、安定のための場所なんかじゃない。


不安定なものを、

自然に淘汰するための箱庭だ。


 そう理解した瞬間、

 背筋が、静かに冷えた。


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