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第18章 答え合わせ

「まさか神様直々に会いに来てくれるとは。あの時はお世話になりました、イシス様」


 俺は皮肉を込めてイシスに話しかけた。

 それに対し、イシスは嫌そうな顔を隠そうともしない。

 イシスの隣にいたゼウスがコホンと咳払いをし、口を開いた。


「さて、お前達二人をここに呼び出した理由だが。コリンは時空への干渉、アシュランは人の域を超えた魔法の発動。これらをなるべく控えてもらいたい」


「……一応何故か聞いてみても?」


「見逃せないからのう、またワシの『カミナリ』に撃たれたいか?」


 ゼウスは杖の先からバチバチと放電する。

 薄々勘づいてはいたが、やっぱりゼウスの天罰で俺は殺されていたのか。


「さて、お前達。色々疑問に思っている事もあるじゃろう。人智じんちを超えた力を人の身で手に入れた君達への褒美だ。知りたがっている情報を教えてやろう」


 そしてゼウスは長々と語り始める。


「まず、お前達にワシのカミナリが落ちた理由だが、お前達が人間界の均衡きんこうおびやかす存在だからじゃ。神の定めた輪廻転生の輪から外れ、自力で神界へ足を踏み入れた者。時空を自由に飛び回り、並行世界を生み出してしまう恐れがあった者。その様な者にワシの『カミナリ』を落とす。ワシの『カミナリ』には、人間の記憶を好きなだけ破壊できるという効果が備わっていてのう。危険な記憶を破壊し、その上で生きている間に再び同じ事を繰り返さないよう、イシスの運命を操作し、別の世界へと飛ばすのだ」


 記憶の喪失ではなく破壊。

 道理で思い出せないはずだ。

 ……あれ?


「……質問したい事があります」


 オベイが口を開いた。

 俺もいくつか質問が浮かんだが、ここはオベイにゆずるとしよう。


「何故、わざわざ別の世界に飛ばす必要があるんですか?」


「神界規定で人間を直接殺す事は禁じられておるからのう。お前達の様な人の枠に収まらない人間を元いた世界に戻すと、また別の要因で均衡を崩しかねない。よって、その者が最も力が発揮できないであろう世界に飛ばすのだ」


 確かに、オベイは放置されていたせいで、転生魔法だけでなく、なんでも消滅させる魔法まで使えるようになったからな。 


 この世界は魔法が蔓延はびこる世界。

 魔法に適正がない俺だからこの世界に飛ばされたのか。

 逆に科学が苦手なオベイは、魔力が存在せず、科学で発展した地球に飛ばされたということだ。


 だが今の話には辻褄つじつまが合わないことがある。


「だけど……俺は小規模ですが時間を止めれましたし、オベイに関しては元の世界に戻れた上、破壊された記憶も戻りましたよ?」


「それに関しては私から説明します」


 ずっと黙っていたイシスが口を開いた。


「まず、私の能力はさっきあなた達が聞いた通り、運命を操る力です。二人にはそれぞれ、二度と時空間への干渉ができなくなる運命と、二度と魔法が使えないという運命を定めました。でも、私の力は効かなかった。何故だか分かりますか?」


「……イシス様がまたやらかしたとか?」


「何よまたって! そんな何度もやらかさないわよ! まだ転移先間違えたの根に持ってるの?!」


「いや〜、あの時は本当に怖かったな。何度死を覚悟したことか」


うつろな目でヤバい花占いしてたよな」


 オベイが懐かしそうに笑う。

 そして、イシスに問い掛ける様に、しかしどこか確信を持ったかの様に力強く言った。


「俺のせいですか?」


「やっぱりあなたは気付いていたようね。隣のボンクラとは違うわ」


「確か神様って人間を直接殺せないんだよな。関係ないんだけど、俺転生してからずっとイシス様への仕返しを考えていたんですよ」


 俺は手をワキワキと動かしながらイシスに近づいていく。


 イシスはまるで苦手な虫でも見たかのように、俺から距離を取った。


 そして真面目な顔でオベイに説明する。


「あなたは転生魔法を使った時、輪廻の輪から外れ、神界に一瞬迷い込んでしまったの。その瞬間から神化が始まってしまい、あなたは今、半神半人のような存在になっています。だから私やゼウス様の能力が完璧には効かなかった」


「お主らが術式と呼んでいた物は、神の言語。アシュランがある程度その法則を理解できていたのはそれが原因だ」


「……やはり魔法とは神の御業みわざ。人間は魔力をコストにその力を一端を使っていたのですね」


 オベイは魔法の真髄しんずいを知れて嬉しそうにしているが、俺は心の中でそこはさほど重要じゃないだろとツッコミを入れた。


 どう考えてもオベイの神化が進んでいる事の方が重要だろう。

 もしかしたら人間界にはもう居られないと言われる可能性も……。

 そんな俺の不安はゼウスの言葉で完全に解消される。


「本来ならお主が生きている間、魔法自体の使用を禁じたいのだが、あの世界、その上先王である立場ではそれも難しいだろう。くれぐれもあまり派手な魔法は使わないよう心掛けてくれ」


「承知いたしました。きもめいじます」


 オベイは頭を下げると、安心した様に胸を撫で下ろした。


「そしてお前もだコリン」


「はい、時空間への干渉はもう二度としません」


「それだけじゃない、アシュランと長い間一緒にいたお主も、ワシの神化を止める能力が少しずつ解けている。だから少しずつ術式が読めるようになっているだろう。記憶も徐々に戻ってくるはずだ。くれぐれも何かやらかさないように」


「わ、分かりました……」


 あれ? 神化を止める能力? なんで俺に? というか、それが解けてきてるって……。


「コリンもあと百年したら私と同格になっちゃうのかぁ……嫌だなぁ」


 イシスがボソリとつぶやいた。

 ……え?????


「え? 俺も神になるんですか?!」


「え? 気づいてなかったの?」


「え? お前の事だから気付いているかと……」


「え? ワシの『カミナリ』の意味、まだ理解していなかったのかね?」


 ……え? あ、そういうことか!


「カミナリって『神鳴り』じゃなくて『神成り』って意味ですか?! でも俺全然神化してませんよ?」


「うむ。ワシの『神成り』の能力は主に三つある。一つ目が記憶の破壊。二つ目が生きている間の神化の抑制よくせい。三つ目が神界の転生部屋に飛ばす能力じゃ」


「あぁ、あそこは神界だったんですね……」


 『神成り』に打たれたら、神界の転生部屋に飛ばされる。

 さっきイシスが、神界に足を踏み入れた瞬間、神化が始まると言っていた。

 『神成り』の二つ目の能力で生きている間の神化を抑えているということは、死んだら神化が始まるのだろう。

 打たれた時点で神になる事は確定事項だという事だ。


「お前達のようなバランスブレイカーの魂を人間界においておくと、何が起こるかわからんからな。それならいっそのこと神にしてしまおうということじゃ。おっと、この空間もそろそろ崩れそうじゃのう。話はここまでにしよう。コリン、アシュラン。死んだらまた会おうぞ」


 空間全体が小刻みに揺れ始め、所々ヒビが入ったりポロポロと崩れ始めた。


「あ、最後にイシス様、少しお願いがあるのですがよろしいですか……」


 オベイがイシスに耳打ちをする。


「……分かったわ、任せて!」


 イシスはウィンクをしながら指でOKサインを作った。

 俺との対応が全然違うな……。


 ゼウスが杖の先で地面を叩くと、空間が崩れ去り、それと共に視界が眩い光におおわれた


 ◆


 気がつくと、俺は元いた場所に立っていた。


「あ! 戻ってきた! どこに行ってたの?!」


 向こうではアレシアがオベイに同じ様なことを聞いていた。


「ちょっと神様と話してました」


「……ふーん。後でちゃんと説明してくれるんだよね?」


「分かりました。……その代わり、後で一つ、お願いを聞いてもらえせんか?」


          ◇


「これで一件落着ですね! 結局、アポロン様の占いの件は杞憂きゆうでしたね」


「……そうじゃな」


(記憶の破壊の効果が忘却程度になるのは分かる。運命操作が効かなかったも分かる。だがそれにしても奴にとって都合がよすぎる……まさか……)


「そんなことよりほれ、数十年程度なんてあっという間じゃ。二人を迎えるための準備をするぞ! コリンへの褒美も用意しなくてはな……」


「はーい。あ、アシュラン君に頼まれた事もやらなくちゃ……手が空いた時でいっか」


「何を頼まれたんじゃ?」


「それはですね……」

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